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戦国異伝

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第九十話 堺衆その一


                     第九十話  堺衆
 松永と羽柴達は堺に入った。するとすぐにだ。
 堺の町衆達の寄り合い所に案内された。そこはというと。
 茶室だった、そこに三人は入れられた。まずは狭いその入り口を潜りだ。
 茶室の中に入る。するとそこにまずは二人の恰幅のいい商人の服を着た二人の男がいた。
 まずは青の服の男がだ。こう言ってきた。
「今井宗久でございます」
 そして次はだ。赤の服の男だった。
「津田宗及でございます」
「久しいのう」
 その二人にだ。松永は笑って述べた。
「元気そうで何よりじゃ」
「これは松永殿」
「織田家に入ったとは聞いていましたが」
 今井と津田は松永の言葉に応える形でだ。すぐにこう言ってきた。
「早速この堺に来られるとは」
「どういった御用でしょうか」
「うむ、堺は今三好に与しているがじゃ」
 単刀直入にだ。松永は二人に返した。今狭い茶室の中には彼等六人だけがいる。茶室の中は狭く六人が入ればそれだけで満杯になっていた。
 その中でだ。松永は言うのだった。
「それを代えぬか」
「織田家にですか」
「そう仰るのですな」
「そうじゃ。三好は最早落日じゃ」
 だからだというのだ。
「どうじゃ。三好を見限り織田家につかぬか」
「さてさて。おかしなことを仰る」
「全くですな」
 今井と津田はだ。松永のその言葉を聞いてだ。
 おかしいことを、といった感じで笑ってだ。そのうえでこう返したのだった。
「それがし達堺衆はかねてより三好様に色々と便宜を計って頂きました」
「恩があります」
「それでどうして三好様を見限れましょう」
「無理な相談ですな」
「いやいや、無理ではあるまい」
 松永は二人の言葉にだ。彼等と同じ笑みで返した。
 そしてそのうえでだ。こう彼等に言った。
「それはのう」
「無理ではないと」
「そう仰るのですか」
「そうじゃ。御主達は確かに三好と付き合ってきた」
 ここでだ。深くとは言わないのが松永だった。
「しかしそれは義理によるものではあるまい」
「いえいえ、義理です」
「義理がなければ商売はできませぬ」
「信用が命です」
「ですから」
「では御主達は三好を信じていたか」
 松永は今度は不敵な笑みになった。そのうえでだ。
 二人に対してだ。こう言ったのだった。
「どうなのじゃ。そこは」
「無論です。それは」
「三好様には徳がありました故」
「言うのう。しかしじゃ」
 彼等がそう言うことはわかっていた。それでだった。
 松永はすぐにだ。二人にこう言ったのだった。
「わしを信じておったか」
「松永様を」
「信じておったかどうかと」
「ははは、この世でわしを信じる者はおらんわ」
 この世で悪を極めてきただ。彼はだというのだ。
「一人ものう」
「それはその」
「何というか」
 今井も津田もだ。松永の今の言葉にはだった。
 まさに意表を衝かれた。実は彼等は松永は全く信用していなかった。実は彼等は三好家の者は信じていた。だが松永はというのだ。
 そのことは言うまでもなかった。それで言うのだった。
「まあそれは」
「何といいましょうか」
「言わずともよい。しかもじゃ」
 話の流れが変わった。松永のその言葉でだ。 
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