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戦国異伝

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第八十九話 矢銭その十一


「だからじゃ。何も不安になることはない」
「自信があるか」
「あるから言えるのじゃ」
 まさにだ。そこから由来するとさえ話す彼であった。
「そういうことじゃ」
「そうか」
「では参ろう。松永殿も」
「うむ。どうやら御主とは仲良くやれそうじゃな」
「それがしどうも誰からも好かれまして」
 ここでもその猿面をだ。綻ばさせて言う羽柴だった。
「どの御仁やおなごにもそう言ってもらえます」
「少なくともわしは嫌いではない」
「左様でござるか」
「御主とは何時までも共にいたいな」
 そしてだ。松永はこうした言葉も漏らした。
「是非共な。しかし」
「しかし?」
「いや、何でもない」
 己の言葉はここでは打ち消した。そして悟らせなかった。
 そのうえでだ。彼は羽柴にあらためて述べた。
「では。堺の町衆と話し千利休とも会い」
「堺を織田に引き入れますか」
「さすれば和泉も落ちた」
 そうなるというのだ。この国もだ。
「三好は本州に足掛かりを完全に失う」
「では四国に引き篭もりますか」
「大きいぞ、堺を引き込むことは」
「ですな。では今より」
「向かおうぞ」
 松永が言いだ。羽柴が続く。
 ヨハネスはその二人を見ていた。しかしだ。
 やはり松永への疑念はそのままだった。それで共の足軽達に述べた。
「そなた達もだ。わかっているな」
「はい、我等も同じですじゃ」
「あの人は信用できませんわ」
 こうだ。彼等も言うのだった。
 織田家の軍勢は最早尾張や美濃の兵だけではない。近畿の兵達が集っている。それだけ織田家も大きくなったのである。だが、だった。
 どの国の者もだ。松永にはこう言うのだった。
「あんな物騒な人知りませんわ」
「何時寝首かかれるかわかったもんやありませんわ」
「そうだぎゃ。茶に毒なんて普通だぎゃ」
「信用できんわ」
「その通りだ。何かあればだ」
 もうだ。ヨハネスは剣に手をかけていた。堺の木の壁、町を護る為に覆っているそれやその上の櫓を見ながらだ。こう言うのだった。
「私もすぐに動く。いいな」
「そして殿様の為に」
「働きますで」
「そなた達も頼りだ。ではな」
 こうしてだ。背中から何時何をされるかわからない状況でだ。松永は堺に入った。そうしてそのうえでだ。堺の町衆との交渉に入るのだった。


第八十九話   完


                         2012・4・29 
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