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戦国異伝

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第九十話 堺衆その二


 それに乗ってだ。彼は続いてこう言ったのだった。
「わしが三好の執権だったのじゃぞ」
「では、だというのですか」
「我等が」
「わしが執権で信じるのか。このわしがおって」
 その誰からも信じられていない松永をだ。彼等が信じていたかというのだ。そして彼が執権として仕切っていたその三好家をだ。
 ここまできては言い繕いはできなかった。それでだ。
 苦い顔になってだ。こう言う二人だった。
「言われましたな。実際にです」
「それがし達も。貴方様はです」
「どうにも。信じられませぬ」
「正直に申し上げます」
「そうじゃな。わしを信じる者はない」
 今度は得意げな顔で言う松永だった。
「一人としてじゃ」
「その通りです。実はです」
「この茶室でのお話とした理由ですが」
 今井と津田は同時にだ。松永達をこの茶室に呼んだ理由も話してきた。
「松永殿を信じられませぬ」
「必ず。騙され話を乱す者が出てきます」
「しかし我等なら騙されず話を進められます」
「それ故にここに御呼びしました」
「ははは、多いとかえって騙されるか」
「それまでがそうでしたから」
「ですから」
 それ故にだとだ。今井も津田も述べる。彼等にしても確かな考えがあってこの茶室に呼んだというのだ。そうした話をしたうえでだった。
 二人で松永にだ。あらためて言ったのだった。
「ですから。どうしてもです」
「我等は頷くことはできませぬ」
「そう言うか。しかしじゃ」
 だがそれでもだとだ。松永は落ち着いた声で返した。
 そしてだ。また言ったのだった。
「わしが信じられぬとも殿はどうじゃ」
「織田信長様ですか」
「あの方はどうかと」
「そうじゃ。殿についてはどう思うか」
 笑みを浮かべてだ。松永は二人に反撃に出たのだった。
 二人を見据えながらだ。彼は問う。
「織田信長公は」
「そうですな。実のところ」
「悪い印象はありませぬ」 
 彼等は素直にだ。松永に答えた。
「ご父君の死後即座に兵を挙げ尾張を統一されてです」
「桶狭間で勝ち伊勢、美濃を手中に収められました」
「そしてすぐにここまで迫っています」
「尾張統一から僅か数年で」
「そこまでできる方は聞いたことがありませぬ」
「しかもです」
 ただだ。急激に勢力を伸ばした訳ではないというのだ。信長は。
「その政も見事な様ですな」
「楽市楽座に開墾に堤や道を築かれる」
「民のことも大事にされています」
「そうしたものも見せてもらいますと」
「凄い方だというのじゃな」
 松永は確かな笑みを心の中で浮かべた。表情としては出していない。
 そのうえでだ。彼はさらに言うのだった。
「そうじゃな。殿は」
「はい。三好には全く無い新しさを感じます」
「そして広く大きいものも」
「殿は大器じゃ」
 また言う松永だった。
「この堺も入りそしてじゃ」
「栄えさせる」
「そうだと仰るのですか」
「そうじゃ。最早三好は四国に去った」
 三好のこともだ。松永はあえて話した。
「そして最早近畿に来てもすぐに撃退されるわ」
「織田家とはそこまで差が開いてしまった」
「左様だと」
「その通りじゃ。殿は以前のことは問われぬ」
 三好に与していた、そのことも不問に処すというのだ。 
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