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戦国異伝

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第八十七話 朝攻めその三


「一の人とはそうした意味なのじゃ」
「左様でしたか。では」
「それではですか」
「わしは帝の御前に天下を統べる」
「そこに堺や国友、京も入りますか」
「そうなる。だからこそ寺社の勢力も削ぐ」
 信長は僧兵を好まない。とりわけだ。
 そしてその僧兵達についてもだ。信長は話したのだった。
「寺の荘園は検地で潰していっておるがな」
「あの政ですが」
 竹中が言う。その検地についてだ。
「あれは天台宗がとりわけ反発しておりまする」
「興福寺や南都の寺社はどうじゃ」
「確かに反発していますが天台宗程ではありませぬ」
「そうか。では本願寺はどうじゃ」
 やはりだった。信長はこの寺の存在を忘れなかった。
 そしてその本願寺についてだ。信長は目を鋭くさせて述べた。
「摂津を掌握すれば和泉に入るがじゃ」
「その時にですか」
「あえて石山の横を通るつもりじゃ」
 言わずと知れた本願寺の本拠地だ。そこは寺というよりは城砦になっている。その巨大さと堅固さは下手な城なぞ比べものにならないまでだ。
 その石山の横をだ。あえて通ってみせるというのだ。
 このことを話してだ。信長は言うのだった。
「まずはこの城じゃ。久助が来ればじゃ」
「あの方が来られてからですか」
「攻める」 
 それからだというのだ。今彼等が囲んでいる城を攻めるのはだ。
 そのことについてだ。信長はまた言った。
「それからでよい」
「それからですか」
「思ったより堅固な城じゃ」
 それ故だというのだ。
「下手に攻めて犠牲を出すよりはよい」
「ではその時にですか」
「そうする。今は周りの支城に投降を呼び掛けよ」
 ただ囲むだけではなかった。信長はそのことも既に考えていた。
「そしてこの城を孤立させてじゃ」
「それから久助殿のお力で、ですか」
「攻めるとする」
 こう竹中に述べる信長だった。
「それからでよい」
「畏まりました。それでは」
 こうしてだった。信長はまずは支城を次々に投降させていった。そうしてだ。
 それからだ。彼はまた言った。
「これが他の城にも影響が出るぞ」
「確かに。三人衆も今は近畿におりませんし」
「それではですな」
「そうじゃ。主がその国におるとおらぬとでは全く違う」
 信長がここで支城や他の城を狙うのはそうした事情からだった。
「それ故にじゃ」
「では芥川山城と勝龍寺城の二つの城を孤立させ」
「そのうえで」
「うむ、攻める」
 これがだ。信長の摂津での策だった。狙うのはその二つの城なのだ。
 そうした話をしてだ。そのうえでだった。今度は他の城にも声をかける。そうしている間に滝川が筒井や雪斎、そして大和の国人衆の主な面々を連れて来て挨拶をしてきた。その国人達を見て信長は彼等にも言った。
「ふむ。多いのう」
「大和の国人達が全て集っております」
 そうなっているとだ。筒井が信長に答える。彼等は今本陣において信長の前に控えている。そのうえで信長に対して述べたのである。
「大和は全て信長様のものになりました」
「左様か。ならよいことじゃ」
「そうですな。では」
「それではじゃ」
 信長は今度は滝川の顔を見てだ。彼に告げた。
「では久助よ」
「はい」
「御主、今我等が囲んでいる城を陥とせるか」
「お任せ下さい」
 不敵な笑みでだ。滝川は答えた。 
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