戦国異伝
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第八十七話 朝攻めその四
「今すぐにでも」
「そうか。それは何よりじゃ」
「しかし今すぐには攻めませぬな」
「ほう、わかっておるな」
「明け方に攻めまする」
まさにだ。その時にだとだ。滝川はその不敵な笑みで述べる。
「それで宜しいでしょうか」
「そこは御主に任せる」
「それがしにですか」
「そうじゃ。好きにするがよい」
信長も不敵な顔で滝川に返していた。そうしてだった。
この日の夜は何もなかった。このことに対してだ。
城の中の三好の兵達は緊張していた。それは何故かというと。
「今夜にでも来るやもな」
「うむ、夜襲じゃな」
「織田は夜襲もしてくるぞ」
六角との戦のことは彼等も知っている。それ故に警戒しているのだ。
そのうえでかがり火を焚き警戒を怠らない。だがそれでもだ。
織田の動きはなかった。ただ城を取り囲んでいるだけだ。その織田の軍勢が夜の闇の中でも布陣しているのを見ながらだ。彼等は話すのだった。
「だから気をつけておるがのう」
「織田は油断ならん」
「忍の者もおる」
このことも話される。
「まことに危険じゃな」
「一体何時襲い掛かって来るかな」
「夜だからこそ危険じゃが」
「何時来るか」
こう言いながらだ。彼等は具足を着けたまま飯も頬張る。それは面頬の男も同じだ。
主の間で具足のままでだ。こう居並ぶ者達に言っていた。
主の間にもかがり火がある。その中でこう言うのだった。
「織田の動きはないか」
「はい、今のところはありませぬ」
「静かなものです」
「左様か」
男は左右から報告を聞いて静かに述べた。しかしだった。
ここで彼は胡坐をかき腕を組んだ姿勢でだ。言うのだった。
「警戒は怠らぬ様にな」
「それはわかっています」
「そうしております」
「夜が一番危うい」
戦でもっとも言われていることをだ。彼は言ったのである。
そしてそのうえでだ。周りの者にこう命じたのだった。
「では皆起きておれ」
「はい、そうしてですな」
「敵が来れば何時でも対応できるようにしておきましょう」
「朝までは」
「日が出るまでは用心しておれ」
夜まではだった。とてもだというのだ。そうした話をしつつ男もまた起きていた。彼は夜通し起きてそのうえで織田の軍勢に備えるつもりだった。その彼にだ。
ふとだ。傍にいる者の一人がこう言ってきたのだった。
「それでなのですが」
「どうしたのじゃ?」
「織田の軍勢の中に河内から来た者がいますが」
「河内か」
「大和から河内に入った者達がです」
この摂津に向かい合流してきたというのだ。そのことを聞いてだ。
男は真剣な面持ちになりだ。また言うのだった。
「その中にどういった者がおる」
「その忍の者が」
「織田で忍というと」
織田家の家臣は多いがそれでも忍となると限られる。男はこの二人の名を挙げた。
「滝川か。それとも蜂須賀か」
「滝川の様です」
その家臣は彼だと答える。それはその通りだった。
「あの男が来ているそうです」
「織田家の中で最近特に頭角を現しているそうじゃな」
「はい、その者が来ておる様です」
「ならば余計にじゃ」
男は滝川の名を聞いて面頬の奥の目を険しくさせた。そのうえでの言葉だった。
「警戒を怠らぬ様にな」
「滝川という者は蜂須賀より危ういのですか」
「蜂須賀でも同じじゃが油断できぬ」
そうだというのだ。忍というだけでだというのだ。
「ましてあの者は城攻めを得意としておる」
「ううむ、そうなのですか」
「ではやはり夜ですな」
「夜に気をつけますか」
こうしてだ。男の言葉もありだ。城の者達は夜襲への警戒を怠らなかった。それは夜通し続き誰もがまんじりともしなかった。しかしだ。
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