戦国異伝
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第八十七話 朝攻めその二
彼はあらためてだ。こう言ったのだった。
「ではじゃ」
「はい、城攻めですか」
「そうされますか」
「久助の軍勢だけでない」
大和、河内を手に入れただ。彼等だけではないというのだ。
その他の軍勢についてもだ。信長は話した。
「播磨からの軍勢も来るからのう」
「おお、勘十郎様ですか」
「あの方の軍勢もですか」
「あ奴に猿達をつけたのは正解じゃったな」
己の人選だがそれでもだ。信長は満足していた。
「お蔭で播磨も無事手に入ったわ」
「あの国が手に入ったことは大きいです」
生駒がここで信長に述べる。
「播磨は豊かです。米以外にも塩も採れます」
「塩か」
「塩は常に欠かせぬもの」
人は飯、水と共に塩も必要だ。それはどうしてもなのだ。
「それが播磨ではふんだんに採れます」
「そうじゃな。塩が手に入るのはよいことじゃ」
「そうした意味でも播磨は大きいかと」
「うむ、あの国もよく治める」
信長は政を第一に考えている。まずは治めてからなのだ。
それ故にだ、彼は今こう言うのだった。
「そして今以上に豊かにするぞ」
「ではこの戦の後で」
「そうするとしよう。無論摂津や河内もじゃ」
今手に入れようとしているこの国々もだというのだ。
「よく治めるぞ。そしてじゃ」
「そしてといいますと」
「摂津を手に入れた後は堺に向かうぞ」
かつて行ったことのあるだ。その町にだというのだ。
「そうするぞ。よいな」
「堺にも行かれるのですか」
「そのつもりじゃが」
「そうですか、堺にもですか」
「堺の商人達とはじっくりと話がしたい」
それ故にだというのだ。
「今後の為にな」
「今後ですか」
「堺は違う」
どう違うかもだ。信長は生駒に話していく。
「商人の町だけあってじゃ」
「確かに。活気があり」
「栄えておるな」
「ではその堺の商人達もまた」
「うむ、取り込む」
まさにそうすると言う信長だった。
「わしの天下布武には堺や他の場所も必要じゃ」
「他の場所もですか」
「国友にしてもそうじゃ」
鉄砲の産地として知られているだ。その村も挙げる信長だった。
「京にしてもな。あの町もじゃ」
「では朝廷もまた」
「必要じゃ。帝はじゃ」
どうかというのだ。この国の主であられる方はだ。
「この国の柱であられるしのう」
「柱ですか」
「我が織田家は元々神主の家じゃ」
このことはあまり知られていない。だが信長はこのことをよくわかっている。何故なら他ならぬ彼の家のことだからだ。知らぬ筈のないことである。
それでだ。信長はその家の出自のうえから皇室について話すのだった。
「神主ならばじゃ」
「皇室はですか」
「やはり柱じゃ」
神主の頂点におられる方こそ皇室、そして帝なのだ。天照大神の子孫であられる方だからだ。
そこからだ。信長は話す。
「その柱を支えるのがわしなのじゃ」
「そうした意味での天下人ですか」
「うむ、わしはそうなる」
これが信長の望みだった。
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