戦国異伝
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第八十五話 瓶割り柴田その十
「御主等がおってこそじゃった」
「わし等もか」
「特に牛助、御主よ」
佐久間を見てだ。柴田は笑ってみせた、髭だらけの顔は笑うと随分愛嬌がある。
そしてその愛嬌のある顔でだ。佐久間に対して言ったのである。
「御主の粘りと頭のよい采配でじゃ」
「野洲川の戦のことか」
「そうじゃ。あの戦はわしの騎馬隊ではあそこまで勝つことはできんかったわ」
こう言うのだった。
「御主が岸辺で動きそして渡ってくれたからじゃ」
「あそこまで勝てたというのじゃな」
「その通りじゃ」
まさにだ。そうだというのだ。
「わし一人の力なぞたかが知れておるわ」
「わし等全てがおってこそか」
「この戦に勝てた。そしてじゃ」
この戦のことだけでなくさらに大きなものについても言う柴田だった。
「わし等が全ておってこそじゃ」
「殿のお力になれるか」
「そうじゃ」
柴田は己の言いたいことを述べた。
「我等が全ておってこそじゃ。殿のお力になれぬわ」
「殿のお役に立てぬか」
「殿の目指されるものは大きい」
天下だ。小さい筈がない。
「そのお助けになるにはわし一人では小さいわ」
「殿の器には御主でも小さいか」
「殿は大器よ」
柴田は笑って言う。
「その大器はわし等全員で入るものよ。天下と共にじゃ」
「だからこそか」
「我等全員が必要なのじゃ」
「ふむ。面白い話じゃのう」
柴田のその話を受けてだ。佐久間も笑っていた。そうしてだ。
また水を飲んでからだ。そして言ったのだった。
「では命は大事にしてじゃ」
「殿という器に入りじゃ」
「やっていくのがよいのじゃな」
「そう思う。わしは殿の御為に働くぞ」
実直な柴田らしい言葉だった。
「そして天下に尽くすのじゃ」
「そうじゃな。それはわしとて同じじゃ」
佐久間も確かな笑みで柴田に応えて言う。
「思えば殿の凄さを知ってから長いがのう」
「左様じゃな。殿が幼い頃じゃったな」
「あの頃から明の古典を読んでおられた」
信長のその政と戦の才は元よりあったものに加えてだ。鍛錬もあってのことなのだ。
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