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戦国異伝

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第八十五話 瓶割り柴田その三


 だからこそだ。奥村に今こう言うのだった。
「率いるのは我等よ。それでどうして破れぬことがあろうか」
「我等だからですか」
「そうじゃ。破れる」
 六角の軍勢を。そうだというのだ。
「だからじゃ。よいな」
「では。今より瓶を割り」
「出陣じゃ」
 こう奥村に告げてだ。柴田は己も立ち上がりだ。城の中の瓶を高々と持ち上げそうしてだ。その瓶を地面に叩き付けて割っていくのだった。
 派手に割れる音が鳴り破片が飛散る。その有様を将兵達に見せてだ。柴田は顔を上げて彼等に言った。
「これで我等に水はない」
「では生きる為にはですか」
「敵を破りそのうえで、ですか」
「水を手に入れるしかない」
「そうなのですか」
「そうよ。生きたければじゃ」
 どうするかというのだ。
「勝て。そして六角を倒すぞ」
「はい、それでは」
「今より」
 将兵達もだ。その決意を見てだ。それぞれ意を決した顔で応える。柴田はその彼等にだった。
 顔を向けてそうしてだ。あらためて告げたのである。
「全軍出陣じゃ!勝つぞ!」94
「おおーーーーーーーーーーっ!!」
 誰もが高々と声を挙げてだ。そのうえでだった。 
 織田の青い軍勢は一斉に城や陣を出てだ。そのまま野洲川に向かって突き進んだ。忽ちのうちに対岸に姿を現した彼等を見てだ。六角の者達は驚きを隠せなかった。
「何と、もうか」
「城から出てもう向こうに来たのか」
「ううむ、何という速さじゃ」
「信じられぬ」
 こう言ってだ。驚きを隠せないでいた。それは六角も同じでだ。その彼等を見てこう言った。
「まるで台風じゃな」
「そうですな。恐ろしい速さです」
「あそこまでとは」
「だが既に用意はしておる」
 確かに織田の軍勢は速かった。しかしだ。
 六角の軍勢は既に布陣している。だから六角もだ。安心している声で言えた。
「安心せよ。ここで守るぞ」
「はい、それでは」
「この岸で守り」
「凌ぎましょう」
「ここにおればどうということはない」
 川を頼りにすればだとだ。六角は安心していた。
 そのうえで対岸の織田家の軍勢を見る。確かに意気は高い。しかしだった。
「川は渡れる。若し渡ろうとすればじゃ」
「その時は容赦なくですな」
「弓矢で」
「射よ」
 実際にそうせよというのだ。
「よいな。そうせよ」
「わかっております。それでは」
「その時は」
 こうしてだ。彼等は織田家の動きの速さに驚きながらもそれでもだ。守れると確信していた。それだけ野洲川の守りへの自信があったのだ。
 だが柴田はその六角の軍勢を見てだ。傍らにいる佐久間に話した。
「わし自ら行こう」
「川を渡るか」
「うむ、渡る」
 まさにだ。そうするというのだ。
「騎馬隊を率いてな」
「では敵はわしの方でひきつける」
 佐久間は柴田に応えて述べた。
「御主は安心して川を渡れ」
「そうしようぞ」
「それでじゃが」 
 佐久間と話してからだ。それからだ。
 柴田は奥村に顔を向けてだ。こう尋ねたのだった。
「川の深さじゃが」
「はい、そのことですが」
「浅いのじゃな」
「おそらく普段はより深いのでしょうが」
 だがそれでもだというのだ。
「今は。かなり浅くなっております」
「やはりこの暑さ故にか」
「それ以外にはないかと」
「そうじゃな。では尚更好都合じゃ」
 川が浅い、そのことがだというのだ。
「楽に渡れるわ」
「では権六殿が騎馬隊を率いられ」
「行くぞ。御主が案内をせよ」
 柴田がこう奥村に言う。しかしだ。佐久間は自分から柴田に対して言ってきた。見れば彼の今の顔は咎めるものだった。その顔での話だった。
「いや、助右衛門はこちらに残してもらうぞ」
「何故じゃ?」
「助右衛門が使えるからじゃ」
 まさにだ。それは理由だというのだ。
「だからじゃ。よいな」
「何じゃ、助右衛門は守りに残せよというのですか」
「うむ。他の斥候を連れて行くがよい」
「仕方ないのう」
 柴田は腕を組み口を尖らせたうえでこう佐久間に答えた。
「そちらにも人が必要じゃのう」
「又左と内蔵助と鎮吉のうちじゃ」
 佐久間は柴田にさらに言う。 
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