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戦国異伝

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第八十五話 瓶割り柴田その四


「二人を置いていってもらいたい」
「贅沢じゃのう」
「こちらも戦力が必要じゃ」
 だからだ。彼等もだというのだ。
「よいな。二人残してもらおう」
「では又左と鎮吉を残そう」
「そうしてもらえるか」
「わしは全ての騎馬隊を率いて進む」
 そのだ。六角の陣に進むというのだ。
「それで御主は対岸からじゃな」
「仕掛ける。ただしじゃ」
「本気で仕掛けるのじゃな」
「陽動もよいが他にもやり方がある」
 だからこそだというのだ。
「鉄砲に弓矢もじゃ」
「向こうも用意しておる」
「使う者の腕による」
 そうしたものもただ使うだけというのだ。
 そしてだ。さらに言う佐久間だった。
「それも六角の者に見せてやるわ」
「そうじゃな。ではお互いにじゃ」
「うむ、やろうぞ」
 こうしてだ。織田家の軍勢は仕掛けに入った、まずはだ。
 佐久間が対岸にいる六角氏を見ながらだ。こう命じた。
「鉄砲は打てるのう」
「はい、既に」
「用意はできております」
「だからですか」
「最初は」
「鉄砲を派手に放て」
 最初にだ。それをせよというのだ。
「ではよいな」
「はい、それでは」
「今より」
 こうしてだ。佐久間は部下達を奇麗に片膝を立てて座らせてだ。そのうえでだ。
「撃て!」
「撃て!」
 この命令と共に鉄砲が放たれる。その六角の軍勢に対して。
 だが対岸にいる為鉄砲は届いていなかった。それを見てだ。
 六角は家臣達にだ馬上から笑みを浮かべて言った。
「読み通りじゃ。ここにおればじゃ」
「守れますか」
「万全に」
「そうじゃ。鉄砲は届かぬ」
 安心しきっての言葉だった。
「そして他にものものう」
「弓矢もですか」
「それもまた」
「そうじゃ。届かぬ」
 このだ。川の対岸にいればだというのだ。
「届かぬ飛び道具なぞ何にもならぬわ」
「さて、しかしです」
 ここでだ。難しい顔にあった家臣の一人が言ってきた。
「敵はこれで終わりでしょうか」
「実力を見ればな」
「今はとてもですか」
「うむ、進めぬ」
 そうだというのだ。
「この川がある限りじゃ」
「ですな。それではです」
「我等はゆうるりと守っていましょう」
「敵が去ればそれでよし」
「そうしましょう」
「待てばよいのじゃ」
 こうしてだ。六角の軍勢は川の守りを頼りに守っていた。織田家の軍勢が川を渡れる筈がないとたかをくくってもいたのだ。だがそれでもだった。
 佐久間、川の対岸に位置したままの軍勢を率いる彼は冷静に敵陣を見据えてだ。こう命じたのだった。
「鉄砲じゃ」
「鉄砲ですか」
「鉄砲を使われるのですか」
「この距離ならぎりぎりで届く」
 敵陣にだ。そうなるというのだ。
「弓矢なら無理じゃが鉄砲ならいける」
「しかしです」
 その佐久間にだ。奥村が言ってきた。
「例え届いたとしても。倒すことは容易ではないかと」
「遠いからじゃな」
「はい、それは無理かと存じますが」
「それでもよいのじゃ」
 構わないというのだ。倒せなくともだ。
「音がすればそれでよい」
「音、ですか」
「それがあれば」
「左様。音で敵を怯ませるのじゃ」
 それがだ。佐久間の狙いだった。
「それで敵が怯んだ間にじゃ」
「権六殿が率いておられる騎馬隊が川を渡られ」
「そして敵陣を襲う」
 対峙しているだ。その六角の軍勢にだというのだ。
「そうなる。だからじゃ」
「ここでは鉄砲ですか」
「弓矢だと無理じゃな」
 届かぬというのだ。それはだ。 
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