| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

八条学園怪異譚

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第六話 海軍軍人その八


「動物園のことも書いたな」
「ええ、夜にだけ出て来る昔の動物達ですね」
「戦争前の」
「動物達もいる」
 所謂動物霊のことだ。
「幽霊になるのは人間だけではないのだ」
「動物にも魂があるからですか」 
 愛実は少し考えてから述べた。
「そういうことですね」
「その通りだ」
「成程、そうなんですか」
「西洋では違う考えだがな」
 キリスト教では動物に魂がないと考えている。しかし日本では違い人と同じ様に動物にも魂があると考えているのだ。
 だから動物の幽霊も出る、日下部はこう二人に話した。
「ちゃんと存在している」
「動物園にも」
「勿論水族館にも出る」
 八条学園にはこの施設もある。
「そして他にも博物館にもだ」
「出るんですか」
「水族館にはペンギンの幽霊が出てだ」
「ペンギンって動物園にいるんじゃないんですか?」
「水族館にもいる」
 この辺りは重なる。ペンギンが海にいる生き物だからだ。
「それが普通に夜の水族館の中をびたびたと歩いているのだ」
「何か可愛い感じですね」
 愛実は日下部からその話を聞いてまずはこう思った。
「怖くないですよ」
「そうだろうな。私もそう思う」
「動物園の幽霊もですか」
「こちらも同じだ」
「ペンギンの幽霊ですか?」
「動物園の色々な生き物達が出て来る」
 ライオンや虎、象やキリンといったものがだというのだ。
「行列で夜の動物園の中を歩いているのだ」
「襲い掛かってきたりします?」
 聖花がその辺りを聞く。ライオンや虎は猛獣であり猛獣というものは人を襲うからそう定義付けられている一面があるからだ。
「そのライオンとか虎は」
「幽霊は何も食べない。猛獣が襲うのは食べるからだ」
「じゃあそのライオンや虎は」
「安心していい。何もしてこない」
 そうだというのだ。
「ただ歩いているだけだ」
「無害なんですね」
「水族館にしても魚、ピラニアの幽霊も出るがだ」
 アマゾンに出て来る水棲の魚だ。小さいがかなり凶暴なことで知られている。獰猛な肉食魚である。
「襲い掛かっては来ない」
「それは何よりです」
「魂だけの存在は食べる必要も飲む必要もない」
 日下部はこのことを強く話す。
「安心していい」
「見えるだけですか」
「そういうことだ。幽霊といっても無害な存在が殆どだ」
「ううん、そうなんですね」
「博物館に出る幽霊にしてもだ」
 話が先程ちらりと出たものに戻った。
「西洋の甲冑だが」
「ああ、その甲冑がですね」
「動き回るんですね」
「そうだ。ミイラもあるがだ」
 エジプトのミイラだ。博物館にあるものの定番でもある。
「どちらも夜に博物館の中を徘徊するがだ」
「怖い存在じゃないんですか」
「散歩をしているだけだ」
 それに過ぎないというのだ。
「特に怯える必要はない」
「何か拍子抜けですね」
「ただ身体がないだけだ」
 それが人間、動物と幽霊の違いだというのだ。
「ただそれだけだ」
「じゃあ妖怪はどうなんですか?」
「そっちの方は」
「妖怪は妖怪だ」
 日下部は二人に応えて妖怪のことも話した。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧