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八条学園怪異譚

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第六話 海軍軍人その九


「妖怪は人の世界とはまた別の存在だ」
「ええと、じゃあ危ないんですか?」
「危険な存在ですか?」
「そうした存在もいればそうでない存在もいる」
 日下部の返答はここでは二人にとてはあまり要領を得ないものだった。
「一概には言えない」
「じゃあ悪い妖怪もいる」
「そうなるんですか」
「この学園にはわしが知っている限りだが」
 こう限定しての言葉であったがそれでもだというのだ。
「悪い妖怪はいないな」
「そうなんですか」
「そうだ、知っている限りだがな」
 いないというのだ。人に害を為す様な悪い妖怪は。
「いない」
「それは何よりですね」
「悪意のある妖怪は滅多にいない様だ」
 日下部は愛実に答える形でこんなことも述べた。
「どうやらな」
「いいことですね、それは」
「そうだな、わしもそう思う」
「妖怪に襲われて死にたくないですから」 
 愛実は心からそう思った。
「絶対に」
「誰でもそう思う。人は殺されたいと思うことは滅多にない」
「ましてや食べられるとか」
「そうした妖怪も聞くがおそらくこの学園にはいない」
 日下部はまたこう話した。
「だから安心するといい」
「わかりました」
「ではだ」
 ここまで話して日下部はこう二人に言ってきた。
「まだ聞きたいことはあるか」
「いえ、それはもう」
「特に」
 二人は日下部の問いに答えた。
「ないです」
「今のところは」
「そうか。では帰るといい」
 日下部は親切な口調で二人に言った。
「用が終わったらな」
「はい、色々教えてくれてすいません」
「有り難うございます」
 二人は日下部に頭を下げて礼を述べた。
「お陰で色々と知ることができました」
「この学園の怪談のことが」
「とにかく色々といるしある」
 ある、ともいうのだ。
「そうした学園だ」
「何かイメージと違うわね」
「入学前とね」
 日下部の話を聞いてまた話す二人だった。二人は制服が色々ある巨大な学園としか思っていなかったのだ。
 だがそれがだ。この学園は怪談が実に多い。愛実と聖花はこのことにこう話したのである。
「こんなに怪談が多いなんて」
「というか怪談自体がね」
「全然考えてなかったから」
「それでこれだから」
 二人で話す。
「イメージかなり変わった?」
「変わったわよね」
「これじゃあお化け学校じゃない」
「幽霊とか妖怪が一杯いるって」
「わしも死ぬまではわからなかったが」
 つまり幽霊になるまでは日下部もわからなかったというのだ。
「海軍にもそうした話は多かったがな。自衛隊にもな」
「自衛隊もですか」
「こういう話が多いんですか」
「そうだ。海軍の頃から怪談話は多かった」
 日下部の話は海軍にも及んだ。帝国海軍のことだ。
「そして自衛隊でも多かったがな」
「実感としてはですか」
「知らなかったんですか」
「わからなかった」
 そうだったというのだ。 
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