八条学園怪異譚
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第五話 水産科の幽霊その二
「河童じゃないんじゃないかしら」
「聖花ちゃんはそう思うの?」
「ちょっとね」
二人で歩きながら話す。そうしながらだ。
二人はそのガジュマルの木の横に来た。近くで見ればさらに日本のものには見えない。熱帯のものである。
その熱帯、詳しく言えば亜熱帯の木を見てだ。聖花はまた言った。
「河童って木だと柳とかのイメージない?」
「川辺だから?」
「ええ、だからね」
「それか薄よね」
それではないかと言うのだった。愛実は。
「何か河童が薄を持っている絵なかったかしら」
「芥川龍之介の絵よね」
聖花は大正から昭和の初期に活躍した作家の名前を出した。
「確か」
「あっ、あの作家の絵だったの」
「黒い不気味な絵だったわね」
聖花は芥川が描いたその河童の絵についてこう話した。
「そうだったわね」
「あまりいい絵じゃなかったのは覚えてるけれど」
「どっちにしろ河童でガジュマルは」
聖花はここでは首を捻った。ガジュマルの木の傍は通り過ぎた。今は後ろを振り向く形で二人でその木を見ていた。
「ないわよね」
「そうよね。やっぱり」
「じゃあ河童じゃないのかしら」
「この木について調べてみる?」
聖花はまずはここから述べた。
「そうする?」
「そうすえばそれが何かわかるかしら」
「そう思うからね」
だからだというのだ。
「そうしようかしらって」
「次はここのことを調べようかしら」
「次なの?」
「あっ、何かそんな気がしたから」
今二人が確かめようとしている水産科の幽霊だけではなくなっていた。ガジュマルの話をしているうちに。
「そうしない?」
「愛実ちゃんがそうしたいならいいけれど」
「一緒に来てくれるの?」
「だって。一人だと心配だし私も興味あるから」
聖花はその理由を話していく。
「そうするわ。その時わね」
「有り難う。じゃあ次はね」
「このガジュマルの木ね」
「今は出てきていないみたいだけれど」
確かにだ。二人の前には今は出てはいなかった。
それが何かはわからないがだ。それは出ていないことは確かだった。
「それでもね」
「悪い目的で入ろうとした人の前に出て来る」
「つまり私達は特になのね」
愛実はその噂の何かが出て来ないことからこう言った。
「悪いことはしていないのね」
「そうみたいね」
「じゃあいいけれど」
また言う愛実だった。今度はこう。
「自分でもほっとするわ」
「だって私達特に盗もうとかいうことじゃない」
「水産科の幽霊のことを確かめるだけだから」
「そう。悪いことじゃないでしょ」
「そうなるわね」
愛実も聖花の話を聞いて頷く。
「だといいわ」
「ええ。ただね」
聖花は再び困った笑顔になった。そのうえで。
自分達ははいているその長靴を見てこう言うのだった。
「やっぱりこれはね」
「けれど暗いから若し小川に足を踏み入れたら」
「びしょ濡れになるから」
「そう。よくないから」
用心に用心を重ねてだというのだ。
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