八条学園怪異譚
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第五話 水産科の幽霊その一
第五話 水産科の幽霊
装備を全て整えた。そのうえでだ。
愛実と聖花は二人で夜の学園に入った。夜とはいっても大学等では灯りが見える。
その灯りを見ながらだ。愛実は聖花に尋ねた。
「まだ人いるのね」
「残って研究してる人がいるからね」
「そういえばうちの大学って色々研究施設もあったわね」
「そう。だからそこでね」
深夜まで研究をしているというのだ。
「そうしてるのよ。後はね」
「後は?」
「ガードマンの人もいるから」
「夜に怪しい人が入り込まない様になのね」
「動物園とか植物園もあるしね。うちの学校って」
水族館もある。マンモス学園故に様々な設備が整っているのだ。
「だからね」
「それでなのね」
「そう。夜でも人はいるから」
「じゃあ見つかったらまずいわね」
「ええ、今の私達の場合はね」
真夜中の学園に忍び込むのだ。それならばだった。
「気をつけないと見つかるわよ」
「そうしたら追い返されて」
「幽霊を見つける前に終わりよ」
聖花も言う。二人並んで夜の高等部に入った。門は閉じられていた。
だが学校というものは色々と抜け道がある。二人は学園の裏道の一つ、高等部に流れる小川の脇から中に入った。
その際だ。愛実はこう聖花に言った。
「小川から入るのはいいにしても」
「ええ、入るにはね」
「長靴が必要だからね」
実際に二人は長靴をはいていた。それも膝まであるかなり長いものをだ。
二人でそれぞれの長靴を見ながら少し苦笑いになって話していた。
「こんな長い長靴はくのは」
「ちょっと女の子らしくないわね」
「小川に入るのはいいけれどね」
「それでもよね」
仕方ないとはいえ、というのだ。
そしてその小川について愛実はこんな話をした。
「この小川にも噂あるらしいわ」
「ここにも出るの?」
「そうみたい」
こう話すのだった。
「だからここはね」
「柵とかないのね」
「あくまで噂よ」
愛実はこう断ってから聖花に話す。
「けれど。ここにも出るのよ」
「何賀が」
「悪いことを考えて夜に学校の中に入ろうとすると」
そうした目的で入ろうとするならばだというのだ。
「河童が出て来て襲い掛かって来るらしいのよ」
「だから何が出て来るの?」
「ううん、それが何かははっきりしないのよ」
それはだというのだ。不明だと。
「河童って話もあるし」
「普通川だと河童よね」
聖花は愛実の話を聞いてこう言った。
「それよね」
「私もそう思うけれどどうやらね」
「違うの?」
「何か違うって噂もあるのよ」
こう言うのだった。
「ガジュマルの木から出て来るってね」
「ガジュマルってあの木よね」
聖花は丁度目の前に見えているその木を見た。その木は少なくとも日本本土にはない熱帯の木だった。夜の中にその木が浮かんでいた。
そのガジュマルの木を見て聖花は首を捻って言った。
「はじめて見た時から場違いだって思ってたけれど」
「そうよね。日本の木じゃないから」
「あの木に何かあるの」
「うん、その何かが出て来るのよ」
「あれ日本の木じゃないから」
どう見てもだった。聖花から見ても。
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