八条学園怪異譚
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第五話 水産科の幽霊その三
「はいてきたけれど」
「愛実ちゃんってそういうところ慎重よね」
「靴とか靴下とか濡らしたら駄目でしょ」
やはりこうしたところは真面目な愛実だった。
「だからね」
「ううん、やっぱりしっかりしてるわね」
「水も滴るいい女っていうけれど」
こうした言葉も出す愛実だった。
「それは頭からだから」
「それ、水も滴るいい男じゃないの?」
「あっ、そうだったわね」
聖花に言われて失言に気付く。
「それは」
「水も滴るっていったら濡れ女じゃない」
「濡れ女って。そういえばそんな妖怪いなかったかしら」
「確かいたわね」
「そうよね。水産科に行くのなら」
その水の場所に行くならばだった。
「普通に出るわよね」
「幽霊だけがいるとは限らないから」
それでだった。二人は小川のところを出た。小川は暗く何も見えない。その漆黒の水を見てまた言う愛実だった。
「お昼は全然そうは思わないけれど」
「それでもよね」
「ええ。こうして見てると」
「今にも何か出そうよね」
「そのガジュマルの木から」
愛実は聖花に言いながら振り向いた。もうガジュマルの木は小さくなっている。だがそのガジュマルの木を見て言うのだった。
「何が出て来てもね」
「おかしくないって感じよね」
「木って夜は不気味よね」
「ええ、確かに」
「本当に次は調べましょう」
次はだというのだ。
「今の水産科の幽霊の次はね」
「あのガジュマルの木ね」
「今日のことが終わったら」
何はともあれ水産科の幽霊のことが先決だった。そうした話をしながら。
二人で水産科の校舎に向かった。水産科の校舎は海辺にある以外は愛実達の通う商業科の校舎と全く変わらない。普通の校舎だ。
しかし今二人はその至って普通の校舎を見て話すのだった。
「ここよね」
「そうね、ここにね」
「幽霊が出るのよね」
「海軍の人のね」
「じゃあ」
愛実は自分が首に下げているお守りを手にして言う。
「行きましょう」
「お札持ってるわよね」
「ここにね」
お札は懐から出す。二人共持っている。
「お経も」
「あるわよ」
「十字架も」
「ちゃんとね」
二人共それぞれ懐から出す。どれも持っている。
そのことを確かめてから聖花は愛実に言った。
「大丈夫ね。これでね」
「うん、じゃあいいわね」
「うん。行きましょう」
二人で話してそうしてだった。全てのチェックを終えて頷き合ってから校舎に入る。
その校舎に入ってすぐに二人はそれぞれの手に懐中電灯を取り出した。それで校舎の中を照らしながら先に進む。
まずは一階を歩き回った。その中でだ。
愛実は懐中電灯の光に照らされる校舎の中を見回しながら聖花に言った。
「夜の校舎って何か」
「怖い?」
「うん、お昼は全然そうは思わなかったのに」
だが夜はどうかというのだ。
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