八条学園怪異譚
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第二話 嫉妬その十九
「バッキーさんとか小山さんとかね」
「古いわね」
「まあ。そうだけれどね」
「それでもなのね」
「野球はピッチャーよ」
愛子は言い切った。
「何ていってもね」
「そうなの?私はやっぱり」
「打線とか?」
「それも大事だと思うけれど。あと守備も」
「そういえば日本ハムって昔から」
ここでも野球の知識を出す愛子だった。
「野手いいわね」
「そうなの?」
「そうなの。打つだけじゃなくて守備もいい選手がいいのよ」
「へえ。そうだったの」
「日本ハムは伝統的にそうした選手に恵まれてるの」
「打つだけじゃなくて守れる」
「そうなの。田中さんとかね」
ミスターファイターズと呼ばれた田中幸雄のことだ。二千本安打を達成したことでも有名である。
「他にも昔から」
「ううん、そうなの」
「羨ましいわ。そうしたところ」
「阪神は違うの?」
「ほんの一時以外はね」
愛子は悲しい顔になって語る。阪神について。
「そうなの」
「打線弱いの」
「ダイナマイト打線は?」
「あんなの終戦直後の一時期でね」
阪神の看板、代名詞とも言える打線の名前だがそれでもなのだ。あくまで一時期のことでしかないというのである。
「あとバースとかがいた時期に」
「ああ、あの時ね」
阪神ファンにとっては夢の時代だ。
「バックスクリーン三連発よね」
「それと星野監督の頃に少し言われたけれど」
「伝統としてはなの」
「阪神はピッチャーのチームよ」
愛子は言い切った。
「そんなね。打つとかは」
「縁がなかったの」
「ピッチャーで勝ってきたチームなのよ」
「豪快に勝つっていうイメージあるけれど」
愛実から見ればそうだった。しかしこれは古い阪神ファンの人でもそう思っていたりする。ダイナマイト打線のイメージが強いせいだ。
「違うのね」
「むしろ打ってくるる打線だったらね」
「阪神はもっと強かったわよね」
「暗黒時代なんて」
あの優勝から星野仙一が監督になるまでだ。長い長い冬の時代だった。
「もう一点か二点しか取れなくて」
「ピッチャーが幾ら好投しても?」
「見殺しだったのよ」
愛子は自分が生まれていない頃のことも一緒に話す。
「だから中継ぎ陣もね」
「ああ、中継ぎ課?」
「知ってるのね」
「話には聞いたから」
実はそれを教えたのも愛子だ。それで愛実も知っているのだ。
「何でも凄い酷使されてたとか」
「来る日も来る日も投げてね」
「勝ってる時は?」
「数少なかった勝ってる時にね」
その時の阪神は最下位の常連だった。まさに最下位こそが定位置と言われてきたのである。それも長い間。
「もう投げて投げてね」
「大変だったのね」
「そうなの。よく故障しなかったって思える位に」
そこまでだというのだ。
「頑張ってくれたわ」
「滅茶苦茶だったのね」
「そう。酷い状況だったのよ」
「打線が援護してくれないから」
「打ってくれない打線は辛いのよ」
しみじみとだ。愛子が骨の髄から感じていることだった。
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