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八条学園怪異譚

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第二話 嫉妬その十八


「六甲おろしをがんがんかけた方がずっといいわよ」
「それ阪神が調子のいい時にしたらいいんじゃないかしら」  
 ここでこう言った愛実だった。
「そうしたらお客さんも喜んでくれるし」
「来てくれるっていうのね」
「うん。どうかしら」
「悪くないんじゃないの?」
 愛子も愛実のその提案に反対しなかった。そうしたことはだ。
「本当にね。ここは関西だからね」
「そうよね。阪神だし」
「ドラゴンズの応援歌はご法度だけれどね」
「出来る限りね。まあ巨人の歌はね」
「問題外よね」
「あれかけたら大変なことになるわよ」
 悪の曲をかければそれで終わりということだ。巨人とは何か、それは日本国民共通の敵に他ならない。
「だから絶対にね」
「しないわ。私もね」
「そうしてね。それでもね」
「阪神の調子がいい時よね」
 その時はだというのだ。
「その時だけに」
「調子が悪い時はかえって白けかねないからね」
「注意するわ。今はね」
「止めた方がいいわね」
 つまり今は阪神の調子が悪いというのだ。阪神は伝統的に好不調の波が大きいチームだ。調子が悪い時はどうにもならないところがある。そして今は不調の波に飲まれていたのだ。
「今はね」
「そうよね。今はね」
「もっと強くなって欲しいけれど」
 愛子は困った顔になって本音を漏らした。
「本当にね」
「そうよね。私にしてもね」
「愛実ちゃんはやっぱり」
「そう。パリーグの方が好きだから」
「日本ハムファンだったわよね」
「ダルビッシュが好きだから」
 それで日本ハムファンなのだ。愛実はダルビッシュの好投に魅せられたのだ。
「凄いわよね」
「もうアメリカに行ったけれど」
「それでもあのチーム好きなのよ」
「そうなの」
「チームの雰囲気がいいわよね」
「ええ、とてもね」
 愛実は笑顔でまた話す。
「だから今も好きなのよ」
「阪神もダルビッシュがいれば」
 愛子は切実な顔でまた言葉を漏らした。その顔に本音が出ている。
「優勝できるのに」
「本当にいたわいいわね」
「そう思うわよね、愛実ちゃんも」
「だって。ダルビッシュが阪神にいれば巨人に勝てるわよね」
「負ける筈がないわね」
「じゃあいて欲しいわ」
 愛実も愛実で本音を出す。彼女にとってもそう言う理由があった。
「だって。巨人には小笠原獲られてるから」
「それね」
「そうなの。だからね」
 それでだというのだ。
「阪神には巨人に勝って欲しいのよ」
「有り難い言葉だけれどね」
 阪神ファンとしてはとだ。姉も妹に言葉を返す。
「それでもね」
「難しいのね」
「ダルビッシュかダルビッシュみたいなピッチャーがいてくれあら」
「全然違うわよね」
「昔の村山さんとか江夏さんとか」
 阪神ファンの中には過去の選手を懐かしむ者も多い。例えその目で見た選手でなくともそうするのだ。これも阪神ファンのチームへの愛故だ。 
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