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八条学園怪異譚

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第一話 湧き出てきたものその十


「八条高校でもね」
「普通科に行くのね」
「うん、そう考えてるの」
 こう聖花に話したのだった。
「実はね」
「そうなの。美紀ちゃんは普通科なの」
「商業高校も面白そうだけれど」
 だがそれでもだというのだ。美紀はこう考えているのだった。
「オーソドックスにね。勉強したいから」
「確かに商業科って独特だからね」
「そうでしょ。算盤とかも本格的にやるから」
「美紀ちゃん算盤嫌いだったの」
「あまり得意じゃないの」
 美紀は残念な微笑みになって聖花に答えた。
「それでなの」
「そうなの」
「うん。まあ普通科と商業科じゃ校舎も別になって実質的に違う学校になるけれどね」
「それでもよね」
「同じ高校になるわよね」
「じゃあ若しそうなったらね」
「その時また宜しくね」
 聖花は親しみのある笑顔で美紀に答えた。
「一緒の高校になったらね」
「ええ。その時はね」
 美紀も聖花に対して彼女と同じ笑顔で返した。
「宜しくね」
「お互いにね」
「後ね」
 美紀はここでこんなことも言った。それは聖花に対しての言葉ではなかった。
「このことだけれどね」
「あっ、愛実ちゃんにも伝えて欲しいっていうのね」
「ええ、お願いね」
 こう聖花に言ったのだ。愛実のことを。
「あの娘って私が見てもね」
「美紀ちゃんが見ても?」
「自信ない娘じゃない。そんなに悪くないのに」
「そうなのよね。すぐにネガティブになって」
「人は人、自分は自分なのにね」
「どうしても暗くなるのよね」
 聖花もわかってきていた。愛実はすぐに自分と他人を比べて自分を卑下してしまうのだ。彼女の持っているそうしたナガティブな面に気付いたのだ。
 それでだ。こう美紀に言ったのである。
「私もね。そのことがね」
「心配なのね」
「暗い気持ちになったら全部が暗く見えるじゃない」
「そうそう。そういうものだからね」
「だからね」
 それでだというのだ。
「私も愛実ちゃんのそうしたところは支えられたらなって」
「愛実ちゃんって危うくなったら誰かに支えてもらわないと」
 どうなるかというのだ。そうした時は。
「壊れるかぼろぼろになるわ」
「そうなるのね」
「とにかく。自信なくて気が弱いから」
 美紀はそう見ていた。愛実の心は弱いとだ。そう見ていたのだ。
 そしてだ。聖花もこう言うのだった。
「誰かがいないと駄目なのね」
「いい?若し何かあってね」
 美紀は切実な顔になった。そのうえで聖花に話す。
「愛実ちゃん見捨てないでね」
「例え何があっても」
「そう。若し困ってる時に握ろうとしている手を振り払われたら」
 その時はどうなるかというのだ。愛実は。
「どうしようもなくなる娘だから」
「何があっても」
「そう。そうしてあげてね」
 美紀にとっても愛実は友達だ。確かに聖花程彼女とは深い絆を持っていない。だがそれでも友達であるが故にだ。こう言ったのである。
「絶対にね」
「信じないといけないのね」
「愛実ちゃんいい娘よね」
 今度はこんなことを言う美紀だった。
「そうよね」
「ええ、本当にね」
 確かに自信はなく気は小さい。だがそれでもなのだ。
 愛実は友達思いで心は優しい。家族や友人、とりわけ愛子と聖花を大切にしている。家では犬も飼っていて一番可愛がっている。
 心根はいい娘なのだ。だから聖花も友達でいるのだ。
 その友達の聖花がだ。静かな声で言った。
「友達でよかってって何度思ったか」
「じゃあお願いね。何があってもね」
「愛実ちゃんを」
「そう。大切にしてあげて」
 美紀は半ば訴える目で聖花に言った。 
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