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八条学園怪異譚

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第十二話 首なし馬その十一


 その夜行さんに顔を向けてこう言うのである。
「毎晩学園の中を馬で走ってるんですよね」
「そうだ」
「これまでお会いしたことはないですよね」
「しかし日下部さんは知っている」
「あっ、そうなんですか」
「とはいっても知り合いになったのは三年前だがな」
 つまり彼が幽霊になってからだというのだ。
「その頃からの付き合いだからまだまだ浅い付き合いだ」
「妖怪とか幽霊の時間の概念だと」
「そうなる。妖怪や幽霊の時間の感覚はかなり長い」
 実体のある人間と比べてかなりだというのだ。
「数百年や千年だ」
「ううん、だから三年位はですか」
「そうだ、長い」 
 こう聖花、そして愛実に話す夜行さんだった。
「相当な」
「ですか。とりあえず校内のことはかなり御存知ですよね」
「しかしわし等が出て来た泉とかいうのはな」
「御存知ないですか」
「妖怪や幽霊では見ることができないものの様だからな」
 それでだというのだ。
「わし等とは縁のないものだ」
「そうですか」
「それは君達で見つけてくれ」
 聖花達でだというのだ。
「そうしてくれ」
「わかりました。とりあえずは」
「とりあえずは」
「ちょっと。一緒に学園を回りたいんですけれど」
 その夜にだというのだ。
「夜行さんと」
「えっ、そうするの!?」
 聖花の今の言葉に彼女の横にいる愛実が驚きの声をあげた。
「夜行さんと一緒に」
「うん、そうしない?」
「けれど私達馬なんて乗れないじゃない」
 愛実は夜行さんが首なし馬に乗ることからこう聖花に言った。
「精々自転車位よ」
「自転車なら貸せるぞ」
 博士がその愛実に言ってきた。
「それも二つあるぞ」
「あるんですか」
「実は馬の速さは自転車と同じ位じゃ」 
 意外な事実だ。自転車と馬は同じ速度になるのだ。
「しかもわしの自転車は特別でのう」
「どんな自転車なんですか?」
「現代科学に魔術や錬金術も入れた」
 つまり博士はそうしたかつて異端と呼ばれ今ではその存在を公には否定されている技術についても造詣があるというのだ。
「それこそ風の様に動けるぞ」
「風の様にですか」
「うむ、学園一周なぞ思いのままじゃ」
 即座に動けるというのだ。
「凄い自転車じゃぞ」
「自転車に錬金術を」
「実は錬金術は実在するのじゃよ」
 博士が言う衝撃の事実だ。
「勿論魔術もじゃ」
「ですか」
「そうじゃ」
 博士はまた愛実に話す。
「まあ公ではあれは偽りの学問だったっとなっておるがな」
「というかそうじゃないんですか」
「違うのじゃ。公は表に過ぎん」
 表があれば、というのだ。
「裏があるからのう」
「だからですか」
「そういうことじゃ。わしは表の学問も裏の学問も知っておる」
 そうした公には出ない学問もだというのだ。
「だから妖怪達ともこうして仲良くやれるのじゃ」
「博士は僕達の理解者だよ」
「牧村さんもそうだけれどね」
 その妖怪達も博士の周りで楽しく言ってくる。
「凄くいい人だよ」
「僕達をこの研究室に住まわせてくれてるしね」
「それで結構僕達と同じになってるかも知れないけれど」
「僕達博士が好きだよ」
「僕達をちゃんと見てくれてるからね」
「ちゃんと?」
 愛実は妖怪達のこの言葉に反応を見せた。 
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