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八条学園怪異譚

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第十二話 首なし馬その十


 鬼はここでこうも言うのだった。
「痛いぞ」
「滅茶苦茶痛いとは聞いてるけれど」
「足の親指の付け根が万力の様に締め付けられる」
「そうした痛さなのね」
「うむ、そうだ」
「俺は糖尿病になったことがある」 
 青鬼はそっちだった。
「酒にお菓子のせいでな」
「明治天皇みたいね」
「百年苦しんでやっと治した」
 こう言いながら蒸しカステラをぱくぱくと食べている。実に美味そうに。
「いや、辛かったぞ」
「治っただけでもよかったじゃない」
「今もならないように気をつけているぞ」
「というか糖尿病って完治するの?」
「俺は治したぞ」
「それはよかったけれどね」
「全く。厄介な病気だった」
 カステラを食べ終え今度は羊羹を手に取りにこにこと食べていく。
「病気はしないに限るぞ」
「けれどあんたまた糖尿病になるわよ」
 愛実は青鬼がどんどん菓子を食うのを見て突っ込みを入れる。
「甘いものばかり食べてると」
「なるか」
「なるわよ、運動とかもしないと」
「それで毎日走ってアメフトや野球にも励んでいるがな」
「俺もだ」
 スポーツに励んでいるのは赤鬼もだった。彼等はそれぞれ左右に並びそこから元近鉄のローズと中村の構えをして言う。
「打倒巨人だ」
「俺達は巨人を倒す鬼になる」
「素性を隠して阪神にテスト入団しようかと思っている」
「そして阪神に黄金時代をもたらしてやろうか」
「ああ、阪神は伝統的にバッター弱いからね」
 聖花は二人の堂々とした名乗りうんうんと頷いて述べる。
「そうしてくれると有り難いわ」
「外国人ということで受けようか」
 赤鬼はこう言った。
「名前はホーナー、いやラインバックがいいか」
「では俺はブリーデンだな」
 青鬼はそちらだった。
「そう名乗るか?」
「いいんじゃないか?」
「何かかなりね」
「そうよね、古いね」
 愛実と聖花は鬼達が出す名前を聞いてこう話した。
「バースとかならわかるけれど」
「ブリーデンとかラインバックって言われてもね」
「無茶苦茶古いから」
「私達生まれてないしね」
「いや、バースの頃も生まれていないだろ」
 夜行さんが今の二人の会話に突っ込みを入れる。
「君達は今十六歳だな」
「はい、そうです」
「高校一年です」
 数え歳での年齢だった。
「まだ高校に入ったばかりで」
「わからないことも多いですけれど」
「バースはもう二十年五年以上前だぞ」
 あの日本一は遠くになった、既に記憶の彼方になっている人も多い。
「それでもバースを知っているのか」
「ずっと語り継がれてますよ」
 愛実がこう夜行さんに答える。
「うちのお父さんとお母さんもいつも話題にしてますし」
「それでか」
「はい、私も知ってます」
「私の家も一家全員阪神ファンですから」
 勿論聖花自身もである。
「やっぱり」
「話題に出るか」
「阪神ファンは昔の選手の話題をよくしますよね」
「そうだな。常にな」
「だから私達もです」
 そうして話すというのだ。
「いつもそうしてます」
「それで知っているか。成程な」
「はい、まあとにかく野球もいいですけれど」
 何か話が脱線してきたと思ったので聖花はやや強引に話を戻すことにした。 
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