八条学園怪異譚
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第十二話 首なし馬その十二
「ちゃんとっていうと?」
「だから。怖がらずに見てくれるから」
「それでこうして一緒に遊んでくれるしね」
「それで好きなんだよ」
「博士のことはね」
「つまりじゃ」
博士も愛実に対して言う。
「わしは妖怪達と普通に友達として付き合っておる」
「それが妖怪さん達にとっては嬉しいことなんですね」
「だってさ。僕達を怖がるかおかしなものを見る目で接してくる人ばかりなんだよ」
「そういう人多いからさ」
「普通にこうして接してくれる人なんていないんだよ」
「本当にね」
「妖怪も繊細でのう」
博士は普通の人間があまり気付かないこのことも話した。
「そういう風に接されると嫌がるのじゃよ」
「そうなんですか」
「君達もそうじゃろ」
博士は愛実と聖花にも言った。
「無闇に怖がられたり変な目で見られても嫌じゃろ」
「はい、やっぱり」
「そういうのは」
二人もそうだと答える。
「普通に接してもらいたいです」
「特別な目で見られるとはいい気分しないです」
「そういうことじゃ。妖怪は人を驚かせて楽しむ習性があるが」
それでもだというのだ。
「無闇にそうされるといい気分はしないのじゃ」
「じゃあ私達も」
「君達は妖怪とも幽霊ともすぐに打ち解けた」
これはその通りだ。それで今も仲良くしている。
博士はその二人を見ながらさらに言う。
「それでじゃ」
「はい、それで」
「それでなんですね」
「夜行さんとは一緒に学園の中を巡ってみるとよい」
その魔術や錬金術を施した自転車に乗ってだというのだ。
「色々と見えると思うぞ」
「若しかして」
聖花は博士のそのアドバイスを受けてふと気付いた。
「その途中で泉を見つけることもできますか」
「ひょっとしたらな」
「その可能性もあるんですね」
「あるかどうかは今わしも調べておるところじゃ」
そもそもそうしたものが実際にあるかどうかは不明だが若しあるのならそれで見つけられるかも知れないというのだ。
「まああれば何かの手掛かりが見つかるやも知れぬ」
「ですか」
「行ってみるか」
「それじゃあ」
聖花は博士の言葉に頷いた。そしてだった。
愛実も頷く。二人は早速その夜に夜行さんと一緒に校内を巡ることになった、待ち合わせ場所は博士の研究室がある大学の校舎の正門だ。
二人がそこにいると彼女達から見て右側から夜行さんが来た。ただ普通に歩いてきたのではない。
褐色の毛の馬に乗っている、だがその馬が。
「あっ、お話通りに」
「ないですね」
二人は馬に首がないのを見て言う、まさに首なし馬だった。
「本当に首なし馬なんですね」
「お話通りに」
「そうだ。ただしだ」
「ただし?」
「ただしっていいますと」
「ちゃんとものは見えるし聞こえる」
夜行さんは二人の前に来てその首なし馬に乗ったまま話した。
「実は首もあるからな」
「えっ、あるんですか?」
「そのない頭も」
「ここにいる」
夜行さんが言うとその左肩の上に浮かんでいるそれが出て来た、馬の首が出て来たのである。
馬の首は楽しそうにこう二人に話す。
「僕は頭と身体が別々にあるんだ」
「何か首が抜けるろくろ首?」
「そんな感じ?」
「まあ色々なケースが考えられるけれどね」
馬の首は二人に笑って話す、白い見事な歯も見える。
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