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八条学園怪異譚

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第十二話 首なし馬その三


「だから気をつけろよ」
「肥満以上になのね」
「肥満はそれこそアメリカ人みたいにならないと大丈夫なんだよ」
 娘にもこう言うのだった。
「それこそな」
「太るのはっていうのね」
「御前の何処が太ってるんだ」
「太ってるわよ」
 愛実はむっとなった顔で返した。
「自分で自分のことがわかってるから」
「体重も脂肪率もそんなにないだろ」
「油断したらすぐに変わるじゃない」
 何処か意固地になっている愛実だった。
「気をつけないと」
「そもそもかるた部はそれなりに身体も動かすだろ」
「結構走ったりサーキットトレーニングもするけれど」
「だったら充分だろ。かるた自体も身体を動かすしな」
 意外とそうなる。特に八条学園商業科のかるた部は百人一首もするから余計に白熱したものになっているのだ。
 だからそれでなのだ。
「大丈夫だろ」
「身体を動かすから」
「御前は食べる量も内容も普通だぞ」
 おじさんは娘である愛実にこのことも告げた。
「本当にな」
「そうなの?」
「確かに甘いものは好きだけれどな」
「それでも?」
「ああ、それでも普通だろ」
 こう言うのである。
「全然な。ただな」
「ただって?」
「お前はもう少し牛乳飲め」
「何でそこで牛乳なの?」
「背がな」
 それが問題だというのだ。
「気にしてるだろ」
「うん、それもかなり」
「だったら牛乳飲んで背を高くしろ」
「今更伸びないでしょ」
 愛実は欲しいがもう諦めるしかないと思っていた。成長期が過ぎるとそこからは伸びることは殆どないからだ。
「高校生だし」
「それなりに伸びるだろ。あとな」
「あとって?」
「御前もお昼まだだろ」
 話が変わった。昼飯の話になる。
「ほら、そう思ってな」
「お昼作ってくれたの」
「ああ、そろそろ帰ってくると思ってな」
 帰って来なくても用意しておくつもりだった。この辺りは先読みだ。
「今作ってるところだよ」
「何なの?」
「カツカレー定食だけれどいいな」
 丁度今完成しようとしているところだった。
「それでな」
「お野菜もたっぷりよね」
「肉と野菜がバランスよくあってこそだからな」
 おじさんもそこはにこりと笑って言う、
「だからな」
「そうよね。それじゃあね」
「食べるな」
「うん」
 愛実は自分の父親の問いに笑顔で頷いた。
「じゃあ場所は」
「お隣の席空いてるよ」
 聖花がカウンターからにこりと笑って愛実に言った。
「座る?」
「あっ、カウンターなの」
「うん、そうだけれど」
「四人用の席だったら食べやすかったけれどね」
「だって愛実ちゃんもう帰ってくるとか思わなかったから」
 だからだと返す聖花だった。
「けれど隣同士だから」
「そうね。それじゃあね」
「早く座りなさい」 
 おばさんも娘に言う。
「もうできるわよ」
「そう。それじゃあ」
「安い早い美味しいよ」
 おばさんはもう揚げたカツをまな板の上で切っていた。
「食堂の鉄則はいつも言ってるわよね」
「うん、牛丼と同じで」
「そういうお店だからよ」
「それじゃあ今から」
「早く食べなさい、いいわね」
 愛実はおばさんの言葉に頷きカウンターに座った.勿論席は聖花の隣の席だ。 
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