八条学園怪異譚
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第十二話 首なし馬その二
「それがいいんだよ」
「そうですよね。栄養学的にも」
「うん、それにカツカレー自体にもボリュームがあるし」
そのことにも自信があった。愛実の店は味だけでなくそうした配慮とボリュームからも人気のある店なのだ。
「人間たっぷりと食べないとね」
「そうですよね」
「太るとか気にしたら駄目なんだよ」
おじさんはこんなことも言う。
「アメリカ人みたいに太らないとね」
「いえ、アメリカ人みたいにって」
聖花もおじさんのその言葉には少し苦笑いになる。おじさんは聖花と話しながらおばさんと一緒に二人でそのカツカレー定食を作りはじめている。
「あそこまで太ると」
「危ないね」
「あれは本当に危ないですよ」
太り過ぎてだというのだ。
「健康どころか命にも」
「アメリカにはそういう人もいるからね」
「日本人の肥満とアメリカ人の肥満は違います」
その太り方がだと。聖花は深刻な顔になっておじさんに話す。
「アメリカでは太っている人は出世できないっていいますけれど」
「最初聞いて酷いって思ったね」
「はい、けれどアメリカ人の肥満を見たら」
「お腹の脂肪が本当に膝まで垂れ下がっている様な」
「そうそう、そんな感じだからね」
「死にますよ。出世できない以前に」
それがアメリカ人の肥満なのだ。
「あれではとても」
「日本の肥満はアメリカの肥満じゃないんだよ」
「はい、本当に」
「あそこまで太ると危ないよ」
おじさんもカツカレー定食、聖花が注文したそれを作りながらそのうえで彼女に対して言う。その手際は見事なものだ。
「いや、うちの愛実もさ」
「愛実ちゃんもですか」
「最近ちょっと太ることを心配してるんだよ」
「愛実ちゃん太ってないですよ」
聖花はすぐに愛実のスタイルを思い出してこうおじさんに答えた。
「全然」
「そうだろ?愛実は全然太ってないだろ」
「そりゃ愛子はすらりとしてるさ」
愛子は背が高くそうしたスタイルだ。しかも胸は出ているのだ。
「けれど愛実もね」
「皆愛実ちゃんスタイルいいって言ってますよ」
「そうそう、親父の俺が言うのも何だけれど」
何気に娘自慢にもなる。
「愛実は胸もあるしね」
「女の子達からも羨望の的なんですけれど」
「それでどうしてああ思うのかね」
「わからないですけれど」
「全く。わからないことだよ」
おじさんは調理をしながら作っていく。カツが揚げられそれが切られていく。それでこうぼやくのだった。
「女の子は少し位太っててもいいんだよ」
「油断大敵よ」
ところがここでこの声がしてきた。
「ちょっとでも油断すると大変なことになるのよ」
「あっ、愛実ちゃん」
聖花はおじさんの隣に何時の間にか来ている愛実に気付いた。
「帰ったの」
「今ね。全くお父さんは女の子のことを知らな過ぎるわよ」
愛実は聖花に応えながらむっとした顔で自分の父に言う。
「私ただでさえ甘いものとか好きだし」
「そっちを節制すればいいんじゃないのか?」
「甘いものは別腹よ」
愛実はそのむっとした顔で多少自分勝手なことを言った。
「それにお酒も」
「日本酒は糖尿病になってビールは痛風になるからな」
おじさんはこのことはかなり注意した。
「女の子でも痛風になるからな」
「わかってるわよ。気をつけてるから」
「飲むなら焼酎かワインにしろよ」
「身体にいいからよね」
「お父さんいつも言ってるだろ。酒は百薬の長であると共に」
「百毒の長でもあるのね」
「ああ、そうだ」
薬と毒は紙一重、それは酒が特にそうだというのだ。
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