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八条学園怪異譚

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第十話 大学の博士その八


「ろく子君といってな」
「はじめまして」
 ろく子と呼ばれた美女もにこりとした笑みで二人に挨拶をしてくる。その声も実に奇麗だ。
「ろく子と申します」
「そうですか。ろく子さんですか」
「宜しくお願いします」
 二人もそれぞれ頭を下げて挨拶をする。それからだった。
 ろく子は二人が頭を上げたところでこう笑顔で言った。
「ろくろ首です」
「えっ、ろくろ首っていいますと」
「あれですよね」
「はい、妖怪です」
 笑顔のまま言う。
「ろくろ首のことは御存知ですね」
「首が伸びる妖怪ですよね」
「そうですよね」
「そうです。この通り」
 ろく子はそう言うと首を伸ばしてきた。一気に三メートル程伸びそれが蛇の様にうねうねと動く。さらに伸びて二人をゆっくりと囲んでその顔で言う。
「かなり伸びますよ」
「ううん、そうなんですか」
「ろくろ首だったんですか」
「そうなんですよ。あっ、ですが」
 その伸びた首の先にある頭は二人の目の前に来ている。二人を蛇の様に囲んだうえでそこにある。
「表向きは人間になってますので」
「それで博士の秘書をしておられるんですか?」
「そうなんですか」
「はい、そうなっています」
 実際にそうだと言うろく子だった。
「お給料も貰ってます」
「何か私達と変わらないんですね」
「それだと」
「首が伸びて長生きするだけですよ」 
 ろく子は二人に楽しそうに笑ってこうも話す。
「それ以外は普通の人と同じですから」
「首が伸びるだけですか」
「そして長生きして」
「別に取って食べたりもしませんよ」
「というかろくろ首って人食べるんですか?」
 愛実はろく子の今の言葉に首を捻った。そんな話はこれまで聞いたことがなかったからだ。
 それで首を捻りながらそのろく子に対して問うた。
「初耳ですけれど」
「食べるものは普通の人と同じですから」
「それじゃあ」
「そういうことは絶対にしないです」
「じゃあ本当に普通の人と変わらないんですね」
「はい、そうです」
 ろく子は笑顔で愛実に答えた。
「お酒も大好きですから」
「どんなお酒が好きですか?」
「ワインですね」
 ろく子はにこりとしたまま愛実の酒の好みのこの問いにも答える。
「白です」
「白ワインがお好きなんですか」
「あのお酒が一番身体にいいですから」 
 ワインは身体にいい。少なくとも日本酒やビール、蒸留酒の類よりはずっと身体にいいことで知られている。
「ですから」
「それで飲んでるんですね」
「勿論味も好きですよ」
 当然このことも考慮に入れている。
「赤もロゼも」
「どちらにしてもワイン党ですね」
「そうです。ですが赤だと」
 ここで思わせぶりな笑顔でこうも言うろく子だった。
「血みたいですよね」
「生き血ですか」
「よくそう言われますけれどそうですよね」
「はい、確かに」
「どうですか?私が血を飲むとか」
「本当に飲んだりしないですよね」
 愛実は少し怯えた顔になってろく子に問い返した。 
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