八条学園怪異譚
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第十話 大学の博士その九
「人の血なんて」
「首が伸びるろくろ首は違いますから」
つまりろく子もそうだというのだ。
「本当に首が伸びて長生きなだけですよ」
「えっ、首が伸びるだけのろくろ首って」
「あっ、どうやらね」
愛実がろく子の今の言葉に首を捻るとその横にいる聖花が彼女にすぐにこう言った。
「ろくろ首っていっても二つあるらしいのよ」
「二つ?」
「そう。ろく子さんみたいに首が伸びる人もいれば」
「私達が多数派ですね」
ろく子自身もこう言ってくる。
「そうなりますね」
「そうですよね。それでね」
聖花は一旦そのろく子に顔を向けて頷いてからそのうえで愛実に顔を戻して再び彼女に話した。
「もう一つのろくろ首はね」
「どんなのなの?首が伸びないってなると」
「飛ぶの?」
「飛ぶ?」
「そう、首が飛ぶの」
こう愛実に説明する。
「首が抜けて飛ぶのよ」
「そうしたろくろ首もいるのね」
「飛頭蛮といってな」
博士も自分の席から愛実に話す。その間もろく子はその伸ばした首で二人を囲みそのうえで首を二人の前にやっている。
「元々は中国におったのじゃ」
「その飛頭蛮っていうのが元ですか」
「戦乱か何かで日本に移ったやも知れぬ」
中国の長い歴史においては戦乱も多かった。その都度日本に逃れてきた人達も多く飛頭蛮もその中にいたというのだ。
「とにかくじゃ」
「その人達が日本に来てですか」
「もう一つのろくろ首になった様じゃな」
「渡来人、ですか」
愛実は教科書に出て来る言葉をそのろくろ首にも当てはめて話した。
「それですか?」
「まあそうじゃな。それになるな」
「やっぱりそうなんですか」
「普通の首が飛ぶだけのものはよいのじゃが」
ここで博士は微妙な顔になってこのことを愛実達に話した。
「中には悪質なものがおってのう」
「まさかその悪質なのが」
「うむ、人に喰らいついてその血を吸う」
「吸血鬼ですか?」
「そうじゃ。吸血鬼なのじゃ」
「日本にも吸血鬼はいるんですか」
「どの国にもおるぞ」
博士は日本にも吸血鬼がいると知り少し驚いた顔になっている愛実にこう話した。
「本当にどの国にもじゃ」
「それで日本にもですか」
「無論中国にもおるしな」
「キョンシーですね」
聖花は映画にも出て来る中国を代表する妖怪の名前を出した。
「あの妖怪ですね」
「あれも血を吸うのじゃ」
「映画にある様に」
「ただその血の吸い方はかなり乱暴でじゃ」
博士はその首を少し捻ってからキョンシーの血の吸い方を二人に話す。
「首を引き抜いてじゃ」
「えっ、人の首を」
「そうしてですか」
「その身体や頭から血を吸うのじゃよ」
「それって殆ど食べてるみたいですけれど」
「人を」
「そうじゃ。吸血鬼は殆ど人食いと変わらぬ」
ハリウッド映画にある様な気品があり闇の貴族とすら呼ばれる吸血鬼の姿はそこにはなかった。それはまさにおぞましい食人鬼の話だった。
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