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八条学園怪異譚

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第九話 職員室前の鏡その十


「さもないとお店潰れますから」
「生きていけなくなったら困りますよね」
「ですから本当にこうしたことは」
「真剣にやらないと」
「中には不真面目な店もあるがな」
 阻止tえ悪質な店もある。歌舞伎町に行けばそうした店も実際にあるらしいので注意が必要である。大体怪しい店、うまい話には乗らないことだ。
「しかし君達は違うな」
「まあ。お店のことには命をかけないまでも」
「真面目なつもりですよ」
 実際にこう答える二人だった。
「トンカツもカレーも美味しくしたいですし」
「いいパンを焼きたいですから」
「そうだな。では頑張ることだ」
 日下部は二人のこことも見て確かな顔で頷いた。そうした話をしながら鏡の傍に来た。
 その鏡は身体全体が見える鏡だった。二メートルはあるだろうか。
 姿見用のその鏡を見ながら二人は日下部の話を聞いた。
「まず私が映ってみよう」
「ええと。日下部さんは幽霊ですから」
 聖花は彼のその言葉を聞いて考える顔で述べた。
「映らないですよね」
「そのことは知っているか」
「鏡に映るのは実体ですよね」
「そう言われているな」
「幽霊は魂だけの存在ですから」
 実体があるかないか、その違いである。
「魂は鏡には映らないんですよね」
「吸血鬼は実体もあるがな」
「けれどそれでも」
「そうだ。吸血鬼もまた死者だ」
 吸血鬼といっても色々であり中には死者からなっていないものもいる。そうした吸血鬼はまた別だがスラブ等のここで話される吸血鬼は、というのだ。
「実体は邪霊に乗り移られているだけだ」
「だからですね」
「そうだ。それでその姿は鏡に映らないのだ」
「結局は魂の存在だからですか」
「そういうことだ。それではだ」
「はい、じゃあ日下部さんは」
「見てみるのだ」
 日下部は実際に鏡の前に出た。そして彼の言う通りのことになった。
 そこには何も映っていない、愛実がそれを見て言った。
「ううん、やっぱりそうなるんですね」
「そうだ、見ての通りだ」
 日下部はその愛実に顔を向けて言う。愛実の目の前にはいる。
 しかし鏡の中にはいない、その彼が言うのだった。
「私にはもう実体がないからな」
「それで、なんですね」
「お姿も」
「そういうことだ。ではだ」
「では?」
「ではっていいますと」
 今度は二人で日下部に応える。彼はその二人にこう言った。
「さっきも言ったが鏡の前に行けばわかる」
「そうすればですね」
「わかるんですね」
「ではだ」
 日下部は二人に告げ二人も応える。こうして。
 二人はそれぞれ鏡の前に出た。すると鏡の中には二人の、明らかに八十を超えている老婆が並んで立っていた。 
 愛実も聖花もその老婆達を見て首を捻って言った。
「このお婆さん達って一体」
「誰なんですか?」
「私のお祖母ちゃんにそっくりなんですけれど」
「私のお祖母ちゃんにも」
 それぞれの老婆達を今も見ている。そのうえでの言葉だ。
「ううんと、お祖母ちゃんまだ健在ですし」
「死んでいるとかないですよ」
「そうか。二人共長生きをするのだな」
 日下部は二人に答えずまずはこう言った。 
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