八条学園怪異譚
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第九話 職員室前の鏡その十一
「いいことだ」
「?長生き?」
「長生きですか」
「そうだ。この時間にこの鏡に映るのは未来なのだ」
「未来?それじゃあ」
「このお婆さん達は」
「君達の未来の姿だ」
それぞれの祖母そのままの姿の彼女達はだというのだ。見れば服装も老女が着る落ち着いたものである。
「死ぬ時の姿だ」
「じゃあ私達って八十過ぎまで生きられるんですか」
「そうなんですね」
「そうだ。おそらく大往生だろう」
日下部は鏡の中の二人の顔も見ていた。その表情は至って穏やかなものだ。
「安らかに死ねる」
「死ぬのもですか」
「いい死に方なんですね」
「死ぬのならいい死に方の方がいい」
日下部は軍人、自衛官として多くの生死を見てきた立場から言った。
「それに尽きる」
「私達は長生きして安らかに死ねる」
「そうなるんですね」
「中には若く。そして惨たらしく死ぬ者もいる」
理不尽な殺人により命を落とす者もいる。サイコ系殺人鬼に襲われて惨殺される人間がいるのもまた人の世だ。
「そうした者がこの鏡に映るとだ」
「酷いものが映るんですか」
「そうなるんですね」
「如何にも」
まさにその通りだというのだ。
「人の結末はわからない。だが」
「だが?」
「だがっていいますと」
「おおむね善行を重ねている者はその結末もいい」
「それで悪いことをしてるとですね」
「そういうことばかりしていますと」
「そうだ。その場合はだ」
悪行を重ねている人間の結末を日下部はこの言葉で言い切った。
「因果応報という言葉の通りだ」
「因果応報ですか」
「つまりいい死に方をしないんですね」
「悪事は隠していても誰かが必ず見ている」
日下部はこの世の摂理の一つ、科学的には証明できないものかも知れないがこの摂理を今二人に対して話した。
「そう、必ずな」
「そういえばですよね」
「絶対に悪いことって見られてますよね」
そう言われると納得する二人だった。
「誰かが本当に」
「見てますよね」
「それが人とは限らないがな」
日下部は自分が幽霊だからではないが人以外の存在も見ていると言った。
「神の場合もある」
「神様ですか」
「神様っているんですね」
「いないと言う者も多いがな」
所謂無神論だ。尚この無神論にしても彼等の多くが何よりも強力に主張する科学的根拠で証明できてはいない。
「しかし確かにいるのだ」
「ううん、具体的にはどういった神様か」
「それがわからないですけれど」
「神といっても色々だ」
日下部は神を唯一ともしなかった。
「多くの神がいるのだ」
「あっ、八百万ですね」
愛実はすぐに日本の神の数を出した。とはいっても八百万で済まない数の可能性があるのが日本の神々である。
「八百万の神様ですね」
「それに仏様もいるし」
聖花はこちらを出した。厳密に言うが神様ではないが。
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