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八条学園怪異譚

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第九話 職員室前の鏡その九


「我が国の社会主義者とやらはその国を礼賛していたのだ」
「そしてですか」
「訳のわからないことになってたんですか」
「社会主義を標榜しているだけで賛美し」
 これもまた歴史にある。日本の歴史の恥部の一つだ。
「その考えに染まっていったのだ」
「何か馬鹿みたいですね」
「おかしいですよ」
「おかしいのだ。問題は社会主義を標榜しているからいいのではない」 
 では何が問題かというと。
「その行動だ。それを見て判断しなければだ」
「おかしくなるんですね」
「そうなんですね」
「戦後日本の社会主義者の一部は社会主義者ではなかった」
 全てがそうではないことは日下部もわかってい0た。だがそれでもだった。
「共産主義、特にだ」
「特に?」
「特にですね」
「個人崇拝の独裁主義者達だった」
 戦後日本の教師達がおかしい理由はそこにあった。日本の知識人達の腐敗と堕落は心からだったのである。
 日下部は語りながら暗い顔になっていた。そしてそうした話から本題に入った。
「それで鏡だが」
「それですよね」
「一体どうなのか」
「観てからですか」
「それからですね」
「百聞は一見にしかずだ」
 よく言われる言葉だがまさにその通りだ。
「観ればわかる」
「その鏡をですか」
「十二時に」
「丁度いい時間だ」 
 日下部は校舎の壁にある時計を見た。白い壁、夜の中にあるそこに浮かぶ様にある。
 その時計の時間を見てそうして言った。
「十一時五十分だ」
「あと十分ですね」
「その十分の間に着きますね」
「むしろ少し時間が余るな」
 距離と時間、それに三人の歩く速さのそれぞれを重ね合わせ計算したうえでの言葉である。海軍将校だっただけに計算は強いようだ。
「これだとな」
「五分位ですか?」
「それ位ですか?」
「それ位だな」
 日下部は実際にそれ位の時間だと答える。
「五分前になる。いいことだ」
「あっ、海軍は五分前でしたね」
「五分前行動でしたよね」
「海上自衛隊でも同じだった」
 この伝統がそのまま受け継がれたのだ。
「五分前行動はな」
「だからいいんですね」
「五分前ですから」
「五分前ならいざという時に余裕を以て行動ができる」
 こうした考えからよいとされているのだ。海軍のよき伝統であると言っていい。
「それ故にだ」
「五分前なんですね」
「その行動ですね」
「そうだ。海軍からそうなっている」
 こうした行動が生きていることからも海上自衛隊は帝国海軍の後継者、若しくはその直系だと言われているのだ。そのものとすら言われる。
 その海軍精神については日下部も胸を張ってこう言う。
「いい考えだと思う」
「お店でも大体そうよね」
「そうなってるわよね」
 二人は日下部のその誇りを聞いてお互いに話した。
「こうしたことってどうしてもね」
「しっかりしないといけないか」
「時間厳守」
「お店での基本よね」
「君達は本当に真面目に自分達の店のことを考えているのだな」
「それはまあ。お店の子供ですから」
「自然とそうなってます」
 二人にとっては自然のことだ。店のことを真面目に考えるのは。 
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