八条学園怪異譚
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第九話 職員室前の鏡その一
第九話 職員室前の鏡
工業科の屋上で妖怪達と遊んだ愛実と聖花はすっかり妖怪達と顔馴染みになった。その妖怪達の居場所はというと。
「大学だったのね」
「あそこにいたのね」
二人は今はかるた部の部室である畳の部屋にいる。茶道部の茶室の傍にあるその和室の中でかるたを置きながら話をしていた。他の部員達はまだ来ていない。
その中でかるたを並べながらそのうえで話をしていた。
「大学の悪魔博士の研究室って」
「あんな場所にいたの」
そこにいつもいると他ならぬ妖怪達から直接聞いたのだ。このことは二人にとっては思いも寄らないことだった。
それで愛実はこう聖花に言った。
「私妖怪ってもっと違う場所にいるって思ってたけれど」
「どういったところにいるって思ってたの?」
「山の中とかね」
まず挙げた場所はここだった。
「それか誰もいない廃屋とか」
「あっ、廃ビルとかね」
「今風だとね。そうした場所にいるって思ってたのよ」
こう聖花に話す。赤い上下のジャージ姿で青の上下のジャージ姿でいる彼女に対して。二人のジャージの色は好対照だった。
「後川とか海の中とか。人があまりいない場所ね」
「私も大体そうね」
「聖花ちゃんもなの」
「大体のイメージだけれど」
聖花は手を動かしながらそのうえで愛実に話す。愛実もまた同じく手を動かし続けている。
「そう思ってたわ」
「そうよね。妖怪ってね」
「人があまりいない場所に隠れててね」
日本人が考えているイメージに添っていた。二人共そうだった。
「そうだって思ってたけれど」
「大学の研究室にいるなんてね」
「ちょっとね」
「イメージと違うっていうか」
愛実はかるたを置きながら首を捻る。
「ううん、本当にね」
「イメージ変わったわよね、妖怪の人達への」
「ええ、完全にね」
「意外と以上に」
どうかと言う聖花だった。
「気さくで親切な人達で」
「そうそう、気配りもしてくれて」
宴の時のことを話していく。やはり二人にとって悪いことではなかった。
それでかるたを用意するその間も決して悪い顔で話をしてはいなかった。愛実はその中で聖花にこうも言った。
「それで八条大学よね」
「そう、八条大学ね」
「あの大学の名物教授よね、悪魔博士って」
「百二十歳らしいわよ」
聖花は真顔で愛実に話す。
「何でも」
「それってギネスに乗るんじゃ」
愛実は真剣な顔で返した。
「百二十歳って」
「日露戦争の頃にはもうこの世にいたらしいから」
「日露戦争って」
一九〇四年だ。二十世紀初頭のことだ。
「百年以上前なのに」
「その頃の資料とかどころじゃなくてね」
「その目で見てきてお話できるのね」
「日清戦争の頃もお話したって噂もあるわ」
「えっ、それは嘘でしょ」
愛実は聖花の今の言葉にはまさかという顔になり右目を顰めさせたうえでこう返した。
「幾ら何でも」
「けれど百二十歳なら」
「確かに。もう生まれてるわよね」
日清戦争は一八九四年だ。確かに年数では合ってはいる。
「その頃には」
「そうでしょ?だからね」
「それでも。凄い話よね」
「勿論二度の世界大戦も生きてきた人として知ってるわ」
「前の戦争はまだわかるけれど」
とはいっても第二次世界大戦もその身で語れる者は少なくなってきている。昭和は遠くになりにけりとなってしまっている。
「第一次世界大戦もなの」
「そうみたい。凄いでしょ」
「仙人か何かなの?」
愛実は真剣そのものの顔で聖花に問うた。
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