八条学園怪異譚
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第八話 屋上の騒ぎその十一
「気付けばだ」
「それからですか」
「克服できるんですね」
「醜くなりたくはないな」
日下部は穏やかだがしっかりとした声で二人に問うた。
「その心が」
「そんなのはやっぱり」
「誰でもだと思います」
二人は普通の人間として答える。心の醜さは外見の醜さを遥かに凌駕し尚且つ外にも出てしまうものだ。
「それは」
「嫌ですから」
「そうだ。普通の者、相当人格が卑しい輩でもない限りはだ」
己の心の醜さを嫌う。しかしそれを何とも思わない輩もいる。世の中には下種を極めた餓鬼も存在しているのだ。
「そう思う」
「そしてそれに気付いたら」
「人はですか」
「その醜さを何があっても消したいと思う」
日下部はいささか孟子の様なことを二人にあえて言ってみせた。彼は荀子も知っているが今の二人には孟子の方がいいだろうと考えそうしたのだ。
「だから君達は今気付いたからだ」
「それでなんですね」
「私達は」
「これから大きく変わる。嫉妬、心の醜さを消す為にはだ」
どうするべきかというのだ。
「それを知り消すことだ」
「消すにはどうすればいいんですか?」
愛実は日下部を見上げて尋ねた。若い頃の姿のままの彼は背筋はしっかりしてい尚且つ長身だ。だから見上げる形になっている。
その彼を見上げたまま尋ねたのだ。
「嫉妬を」
「相手のいいところを素直に認める」
日下部はまずはこう答えた。
「そしてだ」
「そして?」
「己も精進することだ」
「努力ですか」
「そうするのだ」
やはり孟子めいたことを言う日下部だった。
「長所をさらに伸ばし自信をつけるもよし」
「じゃあ短所は」
長所を言えばこれも出る。その逆の存在であるそれもだ。
「それをですね」
「そうだ。克服していくのだ」
「そうすればですか」
「何故嫉妬するか」
日下部はここでは孟子から外れて言った。とはいっても極端に外さず要所は孟子のまま愛実に語る。
「それは努力が足りないからだ」
「そうすればですね」
「己を磨けば嫉妬なぞというものは消えるのだ」
「そのことに夢中にもなりますしね」
愛実は気付いた顔で言う。
「そういうことですね」
「そうだ。それではだ」
「はい、それではですね」
「精進するのだ」
日下部はあ愛実の肩を叩く様にして告げた。
「いいな」
「はい、わかりました」
愛実は確かな顔で頷いた。そして。
聖花も話を聞いてそのうえで頷いていた。そうしてだった。
二人はまたお互いに顔を向けてそのうえで話した。
「これからはね」
「うん、妬むよりもね」
「頑張ろう」
愛実は澄み切った声と顔で聖花に言った、
「そうしよう」
「そうね。そうしないとね」
「醜くなるから」
こう言ったのである。
「だからね」
「ええ、心の指が」
聖花は自分の右手の平を見た。その指を。
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