八条学園怪異譚
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第八話 屋上の騒ぎその十
「そうなる。しかし君達は」
「指、減ります?」
「悪いことを考えていたから」
「減っていたかも知れない」
日下部が今の二人に話すのは可能性だった。それも過去形の。
「そのまま嫉妬に囚われていればな」
「そうですか、やっぱり」
「減っていたんですか」
「さっきも言ったが心の指は減る」
そして増える。それぞれの心の持ち様で。
「嫉妬は人の心の中で最も醜いものの一つだからだ」
「だからですか」
「持ったら危ないんですね」
「嫉妬をそのまま心の中に飼うことは心を腐らせることだ」
それと同じだというのだ。
「そしてそれは誰にでもあることだ」
「誰にでも、ですか」
「心に嫉妬が出来るんですか」
「私も過去嫉妬を抱いた」
それは日下部もまた然りだというのだ。
「経理学校で素晴らしい成績の同期がいてな。彼は常に首席だった」
「海軍の学校で首席って」
「凄いですよ、それ」
「終戦後八条大学経済学部の教授になった」
つまりその資質に相応しい地位になったというのだ。
「その彼に対して私は常に劣っていた」
「それでその人にですか」
「嫉妬していたんですか」
「そうなっていた。だからだ」
「日下部さんもですか」
「嫉妬されてたんですね」
「しかしそれに気付いた」
その彼に嫉妬している醜い自分に気付いたというのだ。
「そして嫉妬から逃れる為にあることをした」
「あること?」
「といいますと」
「修行だ、心のな」
それをしたというのだ。
「心を修める為に時間があると座禅をしまた滝に打たれもした」
「ううん、凄いですね」
「そうしたことをされたんですか」
「清掃に励み武道に打ち込み水ごりもした」
彼は己の若き日のことを思い出しながら話す。己の中にある醜悪から脱却した様な、そうした修行をしてきたことを瞼に浮かべていた。
そのうえで二人にこう話すのだった。
「その結果だ」
「嫉妬から、ですか」
「解放されたんですか」
「一つの考えに至った。人は人だ」
そしてだった。
「自分は自分だ。修行の中で己と向かい合う中でだ」
「それでなんですか」
「日下部さんは嫉妬を克服されたんですね」
「一人で修行する方法もある」
それもまた一つのやり方だというのだ。
「しかしそれと共にだ」
「それと一緒に?」
「っていいますと」
「友と話しそれで克服する方法もある」
今の愛実と聖花がまさにそれだった。日下部はそれを見て話している。
「君達の様にな」
「けれど私聖花ちゃんに嫉妬してて」
「私は愛実ちゃんに」
お互いにだというのだ。
「それでもですか」
「克服できるんですか」
「まずは気付くことだ」
それからだというのだ。
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