八条学園怪異譚
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第八話 屋上の騒ぎその二
「あの作品のこと?」
「羅生門って実際はあそこに登る階段というか梯子なかったらしいのよ」
「あっ、そうだったの」
「それでその二階にはお客さんがいてもいいように座が置かれていたらしいのよ」
「そうなの。人が入らないのにそういう場が用意されてたのよ」
「ということは」
愛実もここでわかった。それはどういうことかとだ。
「あれよね。妖怪とか幽霊が宴会する場所だったの」
「そうした話があるのよ」
「ううん、何かもっと怖い場所だけれど」
「京の都はそうした存在を凄く怖がった街なのよ」
そもそも桓武帝が弟君の早良親王の怨霊を恐れてあの場所に都を置くことを命じられたことがはじまりだ。その為風水においても退魔においても万全の注意が張られていたのだ。
「もう街自体が結界みたいな」
「そんな街だったのね」
「それでその外はね」
中が結界で守られている、それならば外はだというのだ。
「もう鬼とか怨霊がうようよしていて」
「何時どうなるかわからなかったのね」
「そんな場所だったのよ」
「あれよね。結界とその外の境目だったのよね」
愛実はこう理解した。そしてそれはその通りだった。聖花も言う。
「そうよ。そうした場所だったのよ」
「だから余計に不気味なのね」
「芥川の話自体が不気味だけれどね」
「ううん、とはいってもこの学園は」
「結界自体がないからね」
むしろそうした存在と人間達が共存している、それが八条学園の実態だった。ある意味において日本らしいと言える。
「だから」
「そうした羅生門みたいなことが普通になのね」
「起こってるんだと思うわ」
「そういうことね。じゃあ今度行くけれど」
「やっぱり日下部さんにもね」
またここでも彼の名前が出た。今回は聖花の方が出した。
「一緒にね」
「来てもらった方がいいわね」
「何があるかわからないから」
それでだった。聖花は用心を尽くしてこう提案したのだ。
「それでね」
「元海軍将校の人で現役の幽霊がいてくれたら」
「若しもの時も心配ないわよね」
「そうね。その屋上にいる人達とも知り合いでしょうし」
二人は何となく幽霊や妖怪の世界がコネ社会だとわかってきた。法律やそうしたことがないことが充分考えられるからこれも当然のことだった。 それでこう話すのだった。
「それがいいでしょ」
「うん、じゃあそこに行く前にね」
日下部にしようということになった。それでその日まずはだった。
水産科に行き日下部のところに行った。それで工業科の屋上のところに行くとすうにこう二人に話したのだった。
「あそこか」
「あっ、御存知なんですか」
「やっぱりそうなんですか」
「あの場所は有名だ」
彼等夜の住人達の間ではというのだ。
「この学園でもな」
「幽霊さん達の集会場ですか?」
「それとも妖怪さん達の」
「両方だ」
そのどちらもだというのだ。
「両方が集まる場所だ」
「そうだったんですか」
「どちらもなんですか」
「そうなのだ。幽霊も妖怪も同じだ」
日下部はまたこう言った。
「姿形が違うだけだ」
「本当にそれだけなんですね」
「人間と変わらないんですね」
「私も実体がないだけだ」
あくまで人間だというのだ。彼もまた。
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