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八条学園怪異譚

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第八話 屋上の騒ぎその三


「幽霊と生きている人間の違いは大したものではないのだ」
「ですよね。私達も何かそう思えてきました」
「身体があるかどうかですね」
「霊魂は不滅なのだ」
 日下部はこうも言う。
「輪廻転生があり私もやがてその中に入るがだ」
「生まれ変わるまではここにおられるんですね」
「そういうことですか?」
「そうだろうな。この辺りは私も確かなことはわからないが」
 霊魂、そして輪廻転生の謎はまだ完全に解明されていない。そうだろうというが確かにそうなっているのはまだなのだ。
 それでだ。日下部はこう言ったのだ。
「しかしおそらくはだ」
「そうなるんですね」
「日下部さんもまた」
「やがてはな」
 そうなるというのだ。
「生まれ変わるだろう」
「そうですよね、やっぱり」
「輪廻転生がありますから」
「おそらくこの世に何の執着もなくなった時だ」
 その時にだというのだ。
「私は生まれ変わる」
「ううん、それまではですか」
「ここにおられるんですね」
「そうなる。実はこの世界にまだいていたい」
 実際に未練があると言う日下部だった。
「この思い出の校舎にな」
「あっ、海軍将校の時におられたですね」
「この校舎にですか」
「私の思い出の場所の一つだ」
 このことを自分でも言う。
「まだここにいていたい」
「だからなんですか」
「幽霊になっても」
「老衰で死んだがな」
 日下部はこのことは微笑みになって述べた。
「私は海軍が好きだったからな」
「お姿もその時ですしね」
「軍服ですし」
「尚軍服は夏以外はこれで通している」
 黒い詰襟、帝国海軍の伝統のそれだった。
「そして夏はだ」
「あれですよね。白のですよね」
「白の詰襟ですよね」
「あれになる。幽霊は暑さや寒さを感じないのでどの軍服でもいいがな」
「ああ、身体がないから」
「そういうことは感じないんですね」
「そうだ」
 その通りだというのだ。
「そうしたことは感じないのだ」
「それは有り難いですね」
「暑さ寒さを感じないのは」
 愛実と聖花はそのことは素直に羨ましいと思った。人間は身体があれば必ずそうしたことに悩まされるからである。
 だが日下部は実体がないからそれがない。それでなのだった。
「飢え死にもしないですし」
「考えてみれば結構いいこと多くないですか?」
「幽霊のままでいるのも」
「そう思いましたけれど」
「そうかも知れないな。だが実体がある方がいいことも多い」
 日下部は羨ましがる二人にこうも言った。
「食べることも楽しみだしな」
「ああ、食べることのあの楽しみがですか」
「それを味わえないんですね」
「確かにそれは辛いですね」
「あまりいいことじゃないですね」
「そうだ。しかも暑さや寒さを感じないということは」
 それは即ちだった。
「風呂やプールの気持ちよさも感じないのだ」
「ああ、お風呂もですか」
「プールも」
「冬の風呂は最高の馳走だ」
 日下部は言う。 
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