八条学園怪異譚
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第七話 魚の目その七
「それだったらね」
「日下部さんに聞けばいいわよね」
「そうね。調べてもわからないし」
聖花も言う。
「それだとね」
「うん、そうしよう」
「日下部さんに聞くとなると」
どうかとだ。聖花は考える顔で愛実に述べた。
「お会いするの二度目ね」
「そうなるわね」
「何か。死んでる人だけれど」
「ちゃんとお話したら怖くないわよね」
「ええ、全然ね」
日下部は幽霊だがもう怖くなくなっていた。二人にとって彼はもうそうした相手になっていた。知り合いと言っていい。
「怖くないわよね」
「確かに海軍の人だから厳しいけれど」
謹厳実直という意味だ。
「ちゃんとした人だしね」
「そうよね。それじゃあね」
「今夜日下部さんのところに行って」
水産科の校舎である。
「それでお話しよう」
「それじゃあね」
こうして何故定食の魚の片目がなくなるのかを日下部に聞くことにした二人だった。その夜早速だった。二人は夜の水産科の校舎に入った。
懐中電灯を手に校舎の中に入る。夜の校舎についてはこう言う二人だった。
「日下部さんは怖くないけれどね」
「そうね。外見は変わらないから」
足もある。外見は本当に普通の人間と変わらない。
「けれど夜の校舎はね」
「怖いわよね、何度入っても」
そうなのだった。夜の校舎は別だったのだ。
「ここはどうしてもね」
「怖いわよね」
「何ていうか本当に」
「冗談抜きで怖いのが出てきそうで」
「中々ね。気が抜けないっていうか」
「怖いわよね」
こんな話をしながら二人で夜の水産科の校舎を歩いていく。そうして日下部を探しているとその前にだった。
その日下部が出て来た。そのうえでこう二人に言ってきた。
「今日ここに来た理由は何だ?」
「あっ、こんばんは」
「こんばんは」
二人はまずは挨拶からはじめた。丁寧に頭を下げる。日下部もそれに応えて海軍の敬礼をしてから話す。
「こんばんは」
「はい、今夜も宜しくお願いします」
「そういうことで」
「うむ。礼儀正しいな」
「お店の娘ですから」
だからだとだ。愛実が二人を代表して日下部に答える。
「だからなんです」
「私も」
そして聖花もそうだと言う。
「前にもお話させてもらいましたけれどお家食堂ですから」
「パン屋をやっているんで」
「ですから普通に躾けられました」
「この辺り親も厳しかったんです」
「そうか。出来たご両親だな」
親としても店の人間としてもだと。日下部は二人の両親をこう評した。
「立派だ」
「こういうことはしっかりしないと」
「お店やってけないですから」
「ですからその辺りはなんです」
「厳しいんですよ」
「そうあるべきだな。ところでだ」
日下部は二人の礼儀正しさから話を戻してきた。二人がどうして今夜ここに来たかと尋ねた。
「君達は何故ここに来たのだ」
「はい、実は今日のお昼の聖花ちゃんの秋刀魚定食がですね」
「秋刀魚の片目がなかったんです」
二人で日下部にこのことを話す。
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