八条学園怪異譚
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第七話 魚の目その四
「その人が洋食好きでね」
「カレー好きだった」
「カツもね。それで両方を一緒に食べようと思って」
「カツカレーを作ったの」
「そうだったのよ」
この事情を話すのだった。
「それでなの。お年寄りの人がね」
「嫌うのね」
「そう。凄くね」
「ううん。巨人絡みだったの」
「それで出来た料理なの」
「せめてロッテならよかったのに」
聖花は日本シリーズで阪神を完膚なきまで叩きのめしたチームの名前を出した。巨人よりずっといいというのだ。
「まだいいのに」
「本当にね。巨人絡みってね」
「それ宣伝したら絶対に駄目ね」
「しないよ。売れなくなるから」
関西ではそうなる。関西での巨人の人気は全くないからだ。
「絶対に」
「それがいいわね」
「勝手に海軍発祥にしようかしら」
「起源の捏造?」
「何処かの国みたいだけれどね」
どの国かはあえて言わない。
「そうしてみようかしらって」
「何かそれってね」
「よくないわよね、やっぱり」
「巨人起源なのは事実だから」
聖花は内心甚だ残念だったが事実は事実として認めるしかなかった。それは何があろうと揺るがないものだからだ。
「だからね」
「そうするしかないのね」
「そう。それならそれでね」
「言わないといいのね」
「カツカレーは普通に売れるわよね」
「ええ、本当に定番の一つだから」
とにかく人気メニューだというのだ。
「売れなくなったら困るわ」
「じゃあ決まりね」
「ええ。けれどカレーもね」
愛実は話をカレーのものに戻した。
「修行はじめたから」
「カレーは売れるからね」
「うちのお店ってどっちかっていうと洋食なのよ」
「和食系よりも?」
「そう。洋食」
そちらになるというのだ。
「カツにしてもカレーにしてもね」
「どっちも洋食よね」
「後エビフライにハンバーグも」
やはりこれも洋食だった。
「和風の定食とか丼、うどんも人気あるけれどね」
「定番ばかりね」
「定食屋って何でもコンスタントに美味しくないと駄目なのよ」
愛実は困った様な顔になって述べた。
「中々難しいのよね」
「そうなるのね」
「そう。何でも美味しくないと」
駄目だというのだ。定食屋は。
「一つだけが凄く美味しいとかはね」
「よくないよね」
「全部が美味しくないとね」
「相当な努力が必要よね」
「一流レストランや料亭とは違うけれどね」
そうした店と食堂はまた違っていた。所謂富裕と庶民の違いだろうか。もっとも日本では高い店か安い店の違いでしかないが。
「それでも美味しくないと」
「売れないわよね」
「しかもね」
それに加えてだと。愛実は聖花が自分の言いたいことがわかっていると確信してそのうえでこう言ったのである。
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