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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第七十三話 バルマー司令官マーグ

                第七十三話 バルマー司令官マーグ
「私は諸君に対して言うべきことがある」
マーグは穏やかな声で語った。
「まずは我々の目的である」
「どうせ地球侵略なんだろ」
「それは違う」
ケーンの言葉をすぐに否定した。
「大義の為だ」
「大義、ねえ」
「百人いれば百人の大義があるってね」
タップとライトも言う。
「我がバルマーは今戦っている」
マーグはそれを意に介さず言った。
「諸君等と。だがそれは本意ではないのだ」
「じゃあどうしたいって言うんだい?」
「まずはここで話をしたい」
万丈の問いにこう返す。
「話を」
「そうだ。君達の望みは何なのか。まずはそれを聞こう」
「言うまでもない、自由だ」
大介が言った。
「僕達は地球にいる。この地球の自由と平和を守る為に戦っている」
「そして御前達の存在を必要とはしていない」
今度は鉄也が言った。
「では我々に出て行けというのか」
「そうだ」
鉄也は完全に言い切った。
「祖先はどうか知らない。だが俺達は地球にいる。地球にいるからこそこの地球を守りたいんだ」
「ではバルマーとは手を組まないというのか」
「手を組むだって!?笑わせんじゃねえ」
今度は甲児が出て来た。
「御前等のやり方はもう知ってるんだ。どうせ俺達を利用するだけなんだろ」
「そしてその力でまた別の星を侵略する。違うか」
「それは誤解だ」
マーグは鉄也のその言葉を否定した。
「我々も平和を望んでいる」
「嘘をつきやがれ」
「嘘ではない。銀河は一つの世界によりまとめられるべきなのだ」
マーグは澱みのない声で述べた。
「それをまとめることこそがバルマーの使命なのだ。それに協力してもらいたいだけなのだが」
「断る!」
アランが言った。
「それは結局はバルマーによる独裁だ。そんなものを認めるわけにはいかない」
「そしてその下で多くの者が苦しむだろう。それは奴隷の平和だ」
隼人も言う。
「俺達は奴隷になることを望んじゃいない。それ位なら戦う」
「友人として迎え入れようと言うのだが」
「友人か。詭弁だね」
レッシィはそれを一笑に伏した。
「友達っていうのは対等なんじゃないのかい。一つしかないって言う奴がどうして友達なんて言えるんだ」
「そうだな、レッシィの言う通りだ」
京四郎もそれに同意する。
「俺達は御前さんの言葉を信用するわけにはいかない。どうしてもっていうのなら立ち去るのだな」
「交渉決裂ということか」
「そうだ。話があるのなら来い!」
ドモンが叫ぶ。
「まとめて叩き潰してくれる!」
「うわ、ドモンさん言っちゃったよ」
シンジはそれを聞いて困った声を出した。
「あれって宣戦布告だよね」
「何よあんた、びびってるの!?」
アスカがそんなシンジに対して言う。
「こんなの最初からわかってることじゃないの!?」
「けど」
「けどもどうしたもないわよ、どっちみち戦いは避けられないのよ」
「避けられへんいうても自分から喧嘩売るのはどないや?」
「あんたも五月蝿い!男なら過ぎたことでとやかく言わない!」
トウジにもこう返す。
「やってやるわよ!どっちみちバルマー相手にするのもわかってたことだしね!」
「けれど気をつけてね」
レイは熱くなるアスカに静かに言う。
「数が多いから」
「わかってるわよ、そんなこと」
「それに。あの人手強いわよ」
「あの人って!?」
「マーグさんって人」
シンジの問いにも答える。
「強いわ。私にはわかる」
「わかるって」
「そうだね、それは感じるよ」
タケルがそれに応えた。
「兄さんは前に会った兄さんとは違う」
「タケルさん」
「ずっと強くなっている。けれど俺は」
「タケルさん、頑張って」
レイはいつもの感情の見えない声で言った。だがそこには心が感じられた。
「タケルさんが。お兄さんを救えるから」
「レイちゃん」
「ちょっとレイ、あんたどうしたのよ」
アスカがいつもと少し様子の違うレイに対して声をかけてきた。
「優しいじゃない。どういう風の吹き回しよ」
「タケルさんいい人だから」
レイはポツリと答えた。
「幸せになって欲しいの」
「幸せって」
「何か場違いな言葉やな」
「けれどいい言葉だよね」
だがシンジはそれに頷いた。
「特にタケルさんみたいな人は。僕も幸せになって欲しいよ」
「シンジ」
「何かいいこと言うわね、シンジ君」
「ミサトさん」
ここでミサトがモニターに出て来た。ミサトは悪戯っぽくウィンクしてモニターに顔を出していた。
「成長したわね、また」
「そうでしょうか」
「ええ。私もうかうかしてられないわね」
「そろそろ三十だしね」
「そうなのよね。もうお肌も・・・・・・ってこら」
隣にいるリツコに突っ込みを返す。
「私はまだ二十九よ。それに女は三十になってからが本当の花なのよ」
「そうだったの」
「そうなの。だから歳のことはいいの」
「そう」
「うかうかしてられないってのは人間としてよ。シンジ君なんて最初はあんなに頼りなかったのに今じゃタケル君のことまで気遣えるなんて」
「貴女もタケル君のこと心配してたわね」
「そりゃタケル君綺麗な顔してるから・・・・・・ってそこじゃなくて」
どうも今のミサトは空回りが見られた。
「そんなんじゃないのよ。他人を心配できるだけ人として成長したんだなって。それが嬉しいのよ」
「嬉しい」
「そうよ。だって自分のことしか考えられなかったシンジ君がね」
「他人への配慮が出来る様になったと」
「いいことじゃない、それって」
「まあシンジ君は元々優しいから」
「その優しさがよくなってきたのよ。何かこれからが楽しみだわ」
「じゃあちょっと俺達が教育してやっか」
「あんた達は却下」
出て来たドラグナーチームを引っ込めた。
「どうせ碌なこと教えないんだから」
「チェッ、ミサトさんは心配性だな」
「人間器が大きくないと駄目なのになあ」
「いいことも悪いことも知ってこそ人間。違うかな」
「あんた達はそのスチャラカさが駄目なのよ。シンジ君が変になったらどうするのよ」
「さて」
「俺達変じゃないし」
「まあ人生寄り道もあるさ」
「私も寄り道は一杯したけれどね」
ミサトもそれには頷くところがあった。
「けれど。あんた達はずっと寄り道でしょ」
「あら、きつい御言葉」
「何かショック」
「それでも我が道を行くのがドラグナーチームだけれどな」
「とにかくあんた達はいいの。今真剣な話なんだから」
「おやおや」
「いい男になれるかもね」
「ふふふ、乗り換えるの?」
「ば、馬鹿なこと言わないでよ」
リツコに言われてすぐに否定する。だがそれでも顔は少し赤くなっていた。
「十五も歳が離れてるのに」
「けれど最近若い子にばかり目がいってないかしら」
「それは気のせいよ」
否定しながらもやはり顔が赤い。
「そりゃこの部隊って若い子が多いけれど」
「タケル君にしろね」
「彼はまた特別よ」
顔が赤いのがなおっていた。そして真剣な顔で言う。
「だって。あんなに重いもの背負ってるんだから」
「重いものね」
「あの子にはそれを何とかして欲しいのよ」
心配する顔であった。
「そうでなきゃ・・・・・・やりきれないわよ」
「そうね。どうなるかはわからないけれど」
「ロンド=ベルは不可能を可能にできるのなら。今度もね」
「ええ」
「やってみせたいわ」
彼女達もまた以前のネルフにいた頃とは変わっていた。諦念とかそういったものはなくなっていた。僅かでも可能性があれば、なければ作ってでも、と考えるようになっていた。そうした意味でもう彼等はネルフではなくなっていたのであった。
「いい、皆」
ミサトはシンジ達に対してあらためて言った。
「今回はゴッドマーズのフォローに回って」
「はい」
「エントリープラグの関係でそうそう派手にはできないでしょうけれど頑張ってね」
「わかりました」
「何か今回の戦いこんな役回りが多いけれどね」
そうは言いながらもアスカも了承していた。
「やってやろうじゃない」
「そうね」
「ほなタケルさんの方へ行こか」
「うん」
彼等は動いた。そして構えを取った。
エヴァだけではなかった。他のマシン達もまた戦闘態勢に入っていた。そして敵を見据える。
「兄さん」
タケルはまた呟いた。
「あの時の兄さんは一体何処に」
「君は一体誰だ?」
だがマーグの返事は素っ気無いものであった。
「私には弟なぞはいないが」
「そんな筈は」
「戯れ言を言うのもいい加減にしろ」
ロゼが出て来た。
「マーグ司令に弟なぞおらぬ。司令は一人であられるぞ」
「嘘だ!」
タケルは叫んでそれを否定した。
「俺は知ってるんだ!兄さんのことを!」
「まだ言うか!」
「知っているからこそここにいるんだ!そして兄さんのおかげで今ゴッドーマーズに乗っている!」
「ゴッドマーズ」
マーグはその言葉に反応した。
「それは一体」
「司令」
だがここでロゼが前に出て来た。そしてマーグに対して言う。
「ここは私にお任せを」
「君が指揮を執るのかい?」
「はい、ゼーロンで出ます」
彼女は申し出た。
「ですから司令はここで全体を見ていて下さい。宜しいでしょうか」
「大丈夫だね」
「はい」
ロゼはこくり、と頷いた。
「ですから。お任せ下さい」
「わかった。それじゃあこの戦いは君に任せる」
彼は言った。
「けれど無理はしないようにね。何かあったら私も行く」
「ですがそれは」
「何、安心してくれ」
マーグは微笑んでこう語り掛けた。
「私とて超能力は持っているからね」
「司令」
「だから安心してくれていい。わかったね」
「・・・・・・わかりました」
一瞬だがそれまで引き締まっていたロゼの顔が微かに穏やかになった。
「では行って参ります」
「うん」
ゼーロンが出た。ロゼはそこから全軍に指示を下した。
「波状攻撃を仕掛ける」
まずはこう言った。
「そして敵を暫減していく。よいな」
「はっ」
「では全軍攻撃開始。まずは第一陣が行け」
命令の通りに動く。まずはメギロート達が出て来た。
そしてロンド=ベルに対して向かう。だがこれは彼等にとって敵ではなかった。
「今更メギロートじゃ」
「相手にゃならねえんだよ!」
彼等は敵を引き付けた。そして敵を小隊単位で減らしていく。それで敵を葬っていく。
「やはりメギロートでは相手にはならないか」
ロゼはそれを見て呟いた。これは実は予想通りであった。
「ターゲット=ロック!」
フォッカーが狙いを定める。目の前の数機のメギロートに照準が合わせられる。
「もらった!」
そしてマイクロミサイルを放つ。それは派手に動き回りながらメギロート達に向かって行く。
メギロートの反応が遅れた。いや、フォッカーがあまりにも速かったと言うべきか。無数のミサイルを受けて彼等は炎と化して消えてしまった。
フォッカーだけではなかった。その他の者達も積極的にメギロートを破っていた。そして敵の数は瞬く間に減ってしまっていた。
「よし」
ロゼはそれを見て次の決断を下した。
「第ニ陣、行け」
冷徹な声が響く。その声を受けてバルマー軍がまた動いた。彼等は第一陣とは違いゼカリアやハバクク等があった。だが
それもロンド=ベルの敵ではなかった。
「ビッグブラスト=ディバイダーーーーーーーーーッ!」
豹馬が叫ぶ。そして巨大なミサイルを放ちそこから無数の小型ミサイルを放つ。それでゼカリアの編隊を消し去った。
「ヘッ、ちょろいぜ!」
「豹馬さん乗ってますね」
「連戦だけどな!気合が違うぜ!」
小介に対して返す。
「どんどん来やがれ!蹴散らしてやるぜ!」
「けど調子には乗らないでね」
ちずるがここで釘を刺す。
「それでいつも失敗してるんだから」
「失敗は成功の元ってな!」
「アホ!いつも同じ失敗しとるやろが!同じこと繰り返したら同じや!」
十三がクレームをつける。彼等は相変わらずであった。
「さて」
「フォウさん」
彼等の横にフォウが出て来た。ガンダムマークⅢである。
「敵の数が多いし。油断はならないわよ」
「わかってるでごわすよ」
「流石はフォウさんですね。冷静ですね」
「あら、褒めたって何も出ないわよ」
くすりと笑って小介に言う。
「生憎」
そう言いながらバズーカを構えた。それで一機のハバククを撃つ。
「攻撃位しか」
「いや、それで充分」
豹馬が言う。
「また見事やな。一撃やないか」
見ればハバククは撃墜され大地に落ちていた。そして爆発を起こしていた。
「流石ね、やっぱり」
「だから褒めたって何も出ないのよ」
「いや、それでもや」
「フォウさんは凄いですよ」
「有り難う」
何もでないと言いながら笑みが出て来た。かっての険のある顔ではなく穏やかな顔であった。フォウもまたかってのムラサメ研究所の強化人間ではなくなっていた。フォウ=ムラサメという一人の人間になっていたのであった。第二陣も壊滅してしまっていた。ロゼはそれを見て次の攻撃を繰り出すことにした。
「第三陣」
彼女は言った。
「行け」
今度は彼女自身も行こうとした。だがそれより前にロンド=ベルは動いていた。
「なっ」
ロゼが言葉を出した時にはもうロンド=ベルの攻撃がはじまっていた。まずはガイキングが攻撃を放っていた。
「パァラァァイザァァァァァァァァァァァァァァッ!」
サンシローは叫ぶ。そして光の帯で敵を潰した。
「サンシローにだけいい役はさせねえぜ!」
続いたのは何とヤマガタケであった。
「それ!」
ビームを放つ。それでメギロートを一機撃墜する。
「もう一丁!」
また放つ。それでもう一機。これで二機だった。
「ヤマガタケも頑張ってるな」
「僕達もうかうかしていられませんよ」
「ああ、行くぞ」
「はい」
リーとブンタも続いた。
「行けっ!」
「そこです!」
スカイラーとネッサーも攻撃を放った。それでゼカリア達を撃墜していく。それで敵を減らしていた。
「クッ、態勢を立て直せ!」
ロゼはすぐに指示を下した。
「そして今は耐えるのだ!」
だがロンド=ベルは勢い付いていた。その攻撃を凌ぐのは容易ではなかった。だがそれでもロゼは兵を退かせながらそれをまとめていた。ゼーロンを中心として陣を立て直していた。
「敵ながら見事だな」
グローバルはそれを見て呟いた。
「普通はあれで崩れるのだが」
「艦長、艦橋は禁煙です」
「おっと」
キムに言われて折角取り出したパイプを引っ込める。
「いかんいかん」
「もう、気を付けて下さいよ」
「済まない。それでだ」
話をロゼに戻す。
「だが崩す方法はまだある」
「それは」
未沙がそれに問う。
「あの戦闘機を中心として陣を立て直しているな」
「はい」
彼女はそれに頷いた。
「そこだ。扇の要を叩く」
「要を」
「そうだ。すぐに精鋭部隊を編成してくれ」
「アムロ中佐の部隊はどうでしょうか」
「今離れ過ぎているな」
見ればその通りであった。アムロとクワトロの小隊は左翼の端で戦っていた。ロゼのゼーロンは中央にいるのである。
「彼等は無理だ」
「それでは」
「俺達が行きましょうか」
ケンジが名乗り出て来た。
「ケンジ君」
「俺達なら中央にいますし。それに」
「ゴッドマーズがいますから」
「そうか、頼めるか」
ミカの言葉を聞き頷いてこう言った。
「はい」
「では頼む。すぐにあの赤い戦闘機を撃墜してくれ」
「わかりました。ではタケル、行くぞ」
「了解」
タケルはまだ吹っ切れないでいた。だが頷くしかなかった。
「それじゃあすぐに行きます」
「うむ」
「僕達が援護します」
そしてシンジ達も出て来た。
「シンジ君」
「後ろは任せてよね。最近慣れてきたんだから」
「アスカちゃんもか」
「ちょっとお、レディーに対してちゃん付けはないでしょ」
タケルに対してクレームをtける。だがその顔も声も笑っていた。
「せめてフロイラインと呼んでよね」
「何でフロイラインやねん」
「あたしドイツ人とのクォーターなんだもの」
「そういやそうか」
「そういうこと。まあ最近ドイツのイメージが変なことになってるけど」
「ああ、あの変な仮面の人」
「それよ。何であんな変態が世の中に存在しているのよ」
「今度は変態か」
「それの何処が常識人なのよ。どう見たって普通じゃないでしょ、大体ドイツに忍者なんて」
「おらへんのか?イタリアにはおったで」
「あれはデルザー軍団でしょ。大体あれだって人間じゃないじゃない」
仮面ライダーストロンガーのドクロ少佐のことである。
「何で人間じゃないのを忍者にするのよ」
「まあそやけどな」
「とにかくあれだけは駄目なのよ」
「へいへい」
「それでフロイラインアスカ」
「何でしょうか、ヘル明神」
アスカは優しい顔でタケルに返す。どうもタケルにはやけに優しい。
「フォローをお願いするよ」
「任せて、いざとなったらATフィールドで楯になるから」
「いや、そこまでしなくても」
「フロイラインの誘いなんだから断らないでよ」
アスカは珍しく女らしい声を出した。
「頼むわよ」
「わかったよ。それじゃあお願いするよ」
「ええ」
タケルはゴッドマーズを前に出してきた。アスカの弐号機をはじめとしたエヴァ達はその周りを固める。
「雑魚はお断りなのよ!」
いつものアスカに戻っていた。ハイテンションで攻撃を仕掛ける。
「とっとと道を空けなさい!」
派手にポジトロンライフルを放つ。それで敵を蹴散らしていく。
「邪魔よ、邪魔邪魔!」
「クッ、あれがエヴァなのか!」
ロゼはゼーロンからアスカの戦いぶりを見て呻いた。
「何という強さだ」
「単にエヴァの性能だけじゃないのよ!」
彼女はそれに応える形で言った。
「乗っている人間の能力ってのがねえ、大きく関係するのよ!」
「何っ!」
「それを頭から忘れているあんた達の負けよ!マシンの性能だけじゃ勝てないってことを教えてやるわ!」
「何かねえ」
ミサトはアスカを見ながら呟いた。
「最近アスカも言うことが甲児君達みたいになってきたわね」
「そうね」
リツコもそれに同意する。
「影響受けてるのかしら」
「受けてません!」
すぐに本人から返事が返って来た。
「何であんなのに!」
「何か俺ってえらい言われ方だな」
「甲児君も熱血だからな」
鉄也がそれを聞いて言う。
「何かと目立つんだよ」
「まあ目立つのは好きだけどな」
「たまにはおいらにも目立つ場面与えるだわさ」
「いや、ボスはかなり目立ってるだろ」
「そっかな」
「そっかな、じゃなくていつもな。目立ってないとは言わせないぜ」
「じゃあ納得しておくだわさ」
「あたしは甲児なんかとは違いますから!」
アスカはまだ言っていた。
「ましてやガンダムファイターとかとは!人間なんです!」
「あんなことは修業すれば誰にもできる!」
「できるのはあんたとあの変態爺さんだけよ!」
「あれはね」
「有り得ないわよね」
ミサトもリツコも今回はアスカに同意した。流石に素手で使徒を破壊するという行為は彼女達の常識を遥かに凌駕したものであったのだ。
「あたしは人間なのよ!あんなこと出来る筈ないじゃない!」
「出来ると思うわ」
だがここでレイがポツリと呟いた。
「修業して。能力を極限まで高めれば」
「というとレイが超球覇王幻影弾になるの?」
「あまり考えたくないわね」
「それに。あの人格好いいから」
そう言ってポッと頬を赤らめる。
「敵なのに。不思議ね」
「ゲッ、レイが恋愛感情を」
「しかも相手が」
今度はリツコも顔を壊していた。
「あ、あんた・・・・・・」
アスカも言葉を失っていた。
「あんな地球人かサイヤ人かもわからないのに」
「素敵だと思うわ」
それでもレイは言う。
「逞しくて」
「異常で」
アスカが突っ込むがレイは気にしていない。
「強くて」
「常識外れで」
「それまでの観念を破壊して」
「世の中の摂理を完全に無視して」
「我が道を行っているから。あの人みたいな人は他にはいないわ」
「そりゃあんなのが二人もいたら怖いわよ」
「シュバルツさんは?」
「もう考えたくもないわよ」
アスカはシュバルツも苦手であった。
「あの人も人間じゃないし」
「けれどすっごく格好いいよね」
「止めてよ、あんたもあっちの世界に行きたいわけ?」
「何か憧れない?あそこまで強いと」
「強いとかそういう問題じゃなくてね。非常識じゃない」
「マスターアジアも?」
「そうよ。あたしはあの人達だけは認めないから。わかった!?」
「アスカって本当にあの人達に拒絶反応があるんだね」
「否定はしないわ。とにかく駄目なものは駄目なの」
憮然としながら答える。
「それに今はタケルさんのサポートなんだし」
「そうだったね」
「気をつけなさいよ、あんたとろいんだから」
「何だよ、また」
「ぼーーーっとしてると怪我するわよ。ほら、タケルさんもうあんなとおころまで行ってるし」
「わっ、何時の間に」
「話している間よね」
「何かエヴァもロンド=ベルに溶け込んでるわね、完全に」
ゴッドマーズはもうロゼのゼーロンの側にまで来ていた。エヴァは置いていかれていた。ミサトとリツコはそんないささか、いやかなりギャグめいた場面に途方に暮れていた。
「いい?」
それでもミサトはシンジ達に指示を出した。
「タケル君に向かう敵は皆対処して」
「了解」
「そして彼が危なくなったらすぐに援護に回って。いいわね」
「わかりました。それじゃ」
「すぐに対処しますわ」
こうしてエヴァはゴッドマーズのサポートにまた入った。ゴッドマーズはその間にロゼに向かっていた。その手に剣を握る。
「一撃で決めてやる!」
タケルは叫んでいた。
「タケル!俺達もいるぜ!」
ナオトが言った。エヴァの他にコスモクラッシャーもゴッドマーズの後ろにいた。
「ナオト!」
「そういうことだ。俺達は何時でも御前の側にいるからな」
アキラもいた。コスモクラッシャー隊はその機体の中に皆いた。
「安心しろ。何かあれば必ず助ける」
「隊長」
「だから周りは気にしないで。いいわね」
「ミカも・・・・・・。わかったよ」
タケルはそこまで聞いて頷いた。
「皆、後ろはお願いするね」
「ああ」
「俺は戦うんだ!そして」
「どうするつもりだ、マーズ!」
ロゼは問う。
「兄さんを救い出す!邪魔をするのなら」
「私もここを通すわけにはいかない!」
ロゼも叫んでいた。
「マーグ司令の為にも!」
この時彼女は気付いてはいなかった。自分が軍人としてよりも一人の少女として語っていることに。
「行くぞ!」
「どけ!」
ゴッドマーズはそのまま剣を横に一閃させる。その速さはロゼとても避けられるものではなかった。
「クッ!」
ロゼはこの時死を覚悟した。避けられはしない。ならば運命は決まっている。そう判断するしかなかったからだ。だがその剣はロゼには届かなかった。それはすんでのところで止まった。
「なっ!?」
「ロゼはやらせない」
ゴッドマーズとゼーロンの間にもう一機マシンが入っていた。それはタケルもよく知るマシンであった。
「ゴッドマーズがもう一機」
「それじゃあ中にいるのは」
皆それに乗る者が誰なのかわかっていた。
「兄さん・・・・・・」
「私に弟はいないと言っている」
マーグはタケルの言葉に応えた。
「ロゼ、怪我はないな」
そしてロゼに対して優しい言葉をかける。
「は、はい」
「無理をしては駄目だ。ゼーロンでは限界がある」
「ですが」
「ロゼ、これは司令としての命令だよ」
命令とは言っても声は優しく、穏やかであった。
「下がるんだ。いいね」
「わかりました。それでは」
ロゼはそれに従うことにした。そして戦艦に戻る。
「逃げちまったな」
ナオトが戦艦の中に入って行くロゼを見て呟いた。
「あと一歩だったってのにな」
「まあ仕方ない」
だがそれはケンジにより宥められた。
「ゴッドマーズが来ては。そして問題が変わった」
「そのゴッドマーズですね」
「そうだ」
そしてアキラの言葉に頷いた。
「ゴッドマーズが出て来ては。話が違う」
「タケル兄ちゃんがもう一人、それに敵に回っているってことだよね」
「簡単に言えばそうなるな」
ナミダにも答える。
「どうなるか。まずは邪魔はさせるな」
「了解」
コスモクラッシャーは警戒にあたった。そしてゴッドマーズに近付こうとする敵に向かうのであった。
「私を兄と言うが」
二機のゴッドマーズは空中で対峙していた。そしてマーグはタケルに対して問う。
「どういうことだ。嘘を言っている様には見えないが」
「兄さん、俺がわからないのか」
「君が?」
「そうだ。あの時言ってくれたじゃないか」
タケルは兄に声を送る。
「弟って。だからゴッドマーズにも乗って」
「そんなことは知らない」
だがマーグからの返事は相変わらずであった。
「そもそも私は君のことを知ったのはここでだ。それがどうして」
「まだわからないのか、兄さん」
タケルは言った。
「あの時、俺の心に呼び掛けてくれて」
「君の心に」
「そう、そして地球を救えって」
「馬鹿な、地球を」
それを聞いたマーグの顔が変わった。
「何故私が地球を」
「兄さんは忘れたのかい?そして地球で俺と戦って」
「さっきも言ったが君と出会ったのはここがはじめてだ」
「違う、前にも会っているんだ」
「何処でだ」
「中央アジアで。そしてその時もゴッドマーズに乗っていたじゃないか」
「この機体に」
それを聞いて今度は狼狽の色も顔に浮かんできた。
「それは・・・・・・」
「全然覚えていないのか、兄さん」
タケルはまた問うた。
「何もかも」
「覚えるも何も・・・・・・うっ」
「洗脳ね」
ヴィレッタがタケルとマーグの話を見て呟いた。
「そうだな」
イングラムもそれに頷く。
「マーグは洗脳されている。バルマーによって」
「またかよ」
リュウセイはそれを聞いて吐き捨てるようにして言った。
「相変わらず。ひでえ奴等だ」
「戦いには時として私情が邪魔になる時がある」
イングラムは静かにこう返した。
「特にバルマーの様な国家には、だ。マーグは特に優し過ぎる」
「そうね。それは軍人としては致命的になりかねないわ。それにマーグは霊帝にも否定的だったし」
「だから洗脳が施されたのですね」
「そういうことだ」
イングラムがアヤに答えた。
「反抗する者には容赦はしない、それがバルマーだ」
「チッ、結局それかよ」
「マーグもまた然り、だ。だが」
イングラムは言葉を続けた。
「そのバルマーとて完全ではないのだ。だからこそ俺も背くことができた」
「教官も」
「ユーゼスを倒し、今ここにいることが何よりの証拠だ。そして」
タケルを見据える。
「彼もまた。それに気付くか」
「兄さん」
タケルはマーグに訴え続けていた。
「何度言ってもわからないのか」
「一体何を」
マーグの顔に戸惑いが見られてきた。
「わかるというのだ。君は何が言いたいのだ」
「何度も言ってるだろ、忘れてしまったのかって」
「忘れる。どういうことだ」
「俺にゴッドーマーズを教えてくれたことと。戦いの後わかり合えたことも」
「だから何度も言っている」
マーグはまだ言う。
「私と君は兄弟などでは」
「違う!」
タケルは叫んだ。
「兄さんは騙されているんだ」
「何っ」
「バルマーに。兄さんは本当はバルマーにいちゃいけないんだ」
「どういうことだ」
「だからこそゴッドマーズを。そして俺を」
「・・・・・・くっ」
そこまで聞いてマーグは頭を押えた。
「頭が」
「兄さん!?」
「頭が・・・・・・。どういうことだ」
「洗脳が弱ってきたな」
イングラムはそれを見て言った。
「だがまだまだだ」
「それだけバルマーの洗脳が強いということですね」
「そうだ。だが完全ではないのはわかったな」
「はい」
アヤは頷いた。
「頭が痛い・・・・・・。こんな筈が」
「一緒に行こう、兄さん」
タケルはさらに言う。
「そして共に地球を」
「共に地球を・・・・・・」
「黙れ地求人!」
しかしここで邪魔が入った。ロゼがまたゼーロンで出撃して来たのだ。
彼女は二人の間に入る。そしてマーグを庇いながらタケルに対して言う。
「司令を惑わせるつもりか!それは許さん!」
「クッ!」
「司令には指一本触れさせはしない!この私がいる限り!」
「御前は!」
「ロゼ!」
彼女は名乗った。
「先程も言ったな!バルマーの副司令にしてマーグ司令の副官だ!」
「あの若さでか」
グローバルはそれを聞いて少し目を大きくさせた。
「相当なものだな」
「おそらくかなりの能力を持っていると思われますね」
クローディアがそれに応えた。
「何の力までかはまだわかりませんが」
「うむ」
「司令」
ロゼはマーグに顔と声を向けた。それまでの強い調子とは変わって穏やかで女らしいものになっていた。
「大丈夫ですか」
「ロゼか」
「はい。司令の危機なので参上致しました」
「艦に退くように言ったのに」
「申し訳ありません。司令の危機にいてもたってもいられず」
本当に申し訳なさそうに言う。
「来てしまいました。御許し下さい」
「いや、許しを乞うべきなのは私だな」
「えっ」
ロゼはそれを聞いて思わず声を出した。
「それは」
「私がふがいないばかりに君に心配をかけた。司令として失格だな」
「いえ、そのような」
そこまで言われてはロゼの方も収まりが悪かった。
「司令を御護りするのが副官の、そして私の役目ですから」
「そう言ってくれるかい?」
「はい」
優しい、少女らしい笑顔で微笑む。
「ではここはお退き下さい」
「悪いね。ではそうさせてもらう」
「はい」
マーグはそのまま退きはじめた。タケルはそれを追おうとする。
「待ってくれ、兄さん!」
「黙れ!」
だがそれはロゼのゼーロンによって阻まれてしまった。
「ここは通さぬ!どうしても通るというのなら私を倒してからにしろ!」
「なら!」
「いかんな」
ゴッドマーズはまた剣を構えた。だがそれは突如としてやって来たアストラナガンにより止められてしまった。
「待て」
「イングラムさん、どうして」
「今この女を斬ってマーグのところに行っても何にもならない」
「そんな」
「まだ時ではないのだ。待て」
「イングラム=プリスケンか」
ロゼはイングラムのアストラナガンを見て言った。
「裏切者が。生きていたのか」
「死んだとは聞いていない筈だが」
イングラムはロゼにこう返した。
「違うか。私もアストラナガンもまだやるべきことがあるのでな」
「あくまで我々に逆らうつもりか」
「そうだ。私はバルマーを倒す」
強い声で言った。
「その為に生きている。それを忘れるな」
「無駄なことを」
笑ってはいなかった。強い目でイングラムを睨んでいた。
「バルマーに反旗を翻すなど」
「御前にはそれはよくわかっているな」
「御前なぞに言われたくはない」
ロゼは悔しそうに言い返した。
「私のことは。放っておけ」
「無論御前自身のことには興味はない。だが」
「だが?」
「御前もまた。自分の心を偽るな」
「馬鹿な、私が自分の心を偽るだと」
ロゼはそれを否定した。だが何故か心の何処かでそれを否定しきれていないことに気付いていた。
「何故そうする必要がある。私はバルマーの為の機械だ」
「そうか」
「そうだ。心なぞない。私はあくまでバルマーの為に動くだけだ」
「心がない、か」
イングラムはそれを聞いてシニカルに笑った。
「何が言いたい」
「いや、よくもそこまで自分を偽れると思ってな」
「私を愚弄するというのか」
「そんなつもりはない」
イングラムは冷やかに言い返す。
「その答えは御前自身が最もよくわかっている筈だからな」
「おのれ」
「ロゼ、ここは下がれ」
イングラムは今度はロゼに対して下がる様に言った。
「今は戦う時ではない。それはもう終わった」
「何を」
「いや、ロゼも下がれ」
マーグが戻った艦の艦橋からロゼに言った。
「司令」
「我々もダメージを受け過ぎたここは下がろう」
「ですが」
「無理をしてはいけないと言ったね」
「は、はい」
「そういうことだ。ここは退くんだ。いいね」
「わかりました。ロンド=ベル」
キッと彼等を見据える。
「ここは退く。だが忘れぬぞ」
こうしてロゼも去った。そしてバルマー軍も退いた。戦いは決着がつかないままとりあえず終わった。
「兄さん・・・・・・」
タケルはマーグの乗る艦が消えた方を見ていた。だが当然ながら返事はなかった。
「心配することはない」
だがイングラムは項垂れる彼にこう言う。
「いずれ御前の願いは適う」
「気休めですか」
「違う。さっきマーグは頭を押えていたな」
「はい」
「彼は洗脳されている」
「洗脳」
「それが弱まっているということだ。また機会があれば話せばいい」
「兄さんと」
「だが辛い道だ」
イングラムの声が硬くなった。
「成功する可能性はないに等しい。また敵の司令に向かい合う危険はわかっているな」
「はい」
「命の危険もある。それでもいいな」
「俺の命」
彼はこの時自分の身体のことを思った。起爆装置が埋め込まれた自身の身体を。これが起爆すれば地球そのものが消えてしまうのだ。それを思うととてもすぐには言えなかった。
「それは心配するんじゃねえ」
宙が言った。
「宙さん」
「御前は俺達が全力で護ってやる。敵には指一本触れさせねえぜ」
「そうだ、俺達がいるんだ」
豹馬も言う。
「タケル一人護れなくてどうして地球が守れるんだよ。安心しな、コンバトラーもいるからよ」
「俺達もいるぜ」
ケーンも言った。
「ドラグナーにかかりゃあよお。どんな敵が来てもお茶の子さいさいってね」
「あんた達が言うとホンットウに説得力ないわね」
「何だよ、またアスカかよ」
「そうよ。タケルさん」
アスカはウィンクしてゴッドマーズのモニターに出て来た。
「勝利と美貌の女神がついてるからね。安心しなさいよ」
「アスカちゃん」
「だから女神にちゃん付けはないでしょ。フロイラインって呼んでよ」
「わかったよ、フロイライン」
「そうそう。やっぱりタケルさんみたいな人に呼ばれると気持ちがいいわね」
「ヘッ、ジャジャ馬が」
「うっさいわね、そこ!」
ジュドー達には顔まで変わる。
「あんた達は別よ!ちょっとは悲壮感とか持ちなさいよ!」
「悲壮感で飯が食えるかよ!」
「一人当たり三人前食べてる連中が言う言葉!?」
「そういうおめえは四人前食ってるじゃねえか!人のこと言えるのかよ!」
「あたしは育ち盛りなのよ!」
「そりゃ俺もだ!」
「頭使ってるのよ!」
「こっちは勘使ってるんだ!」
二人はモニター越しに喧嘩をはじめた。収納がつかなくなったがそれは放置されイングラムはタケルにまた声をかけてきた。
「いい仲間を持ったな」
「はい」
タケルは頷く。
「どうやら御前自身のことは心配はいらないな」
「そうですね」
「後は御前が兄を何処まで説得できるかだ。できるか」
「やります」
タケルは強い声で言った。
「何があっても。兄さんは俺の兄さんなんですから」
「よし、その言葉だ」
イングラムは笑わなかった。だが強く頷いた。
「では任せよう。そしてその手に兄を掴むのだ」
「はい」
「私は暫し去る。その時にはマーグと一緒にいればいいな」
「あれっ、何処に行くんですか?」
「少しな」
リュウセイに応える。
「別の仕事があるのでな。では」
アストラナガンを青い光が包んだ。
「また会おう。リュウセイ、マーズ、元気でな」
こうしてイングラムは姿を消した。後には何も残ってはいなかった。
「何かまたいきなり消えたな」
「あの人らしいがな」
ライが一言述べる。
「色々と動いているんだろう」
「バルマーと戦う為にか」
「そうね。詳しいことは表には出ないけれどそれは確かよ」
アヤも言う。
「かっては敵味方に分かれたけれど」
「また仲間になったってわけだな」
「離れてはいてもね」
「よし、じゃあ俺達も頑張るか」
「気合を入れ過ぎて空回りしないようにな」
「ヘッ、そんなの後でどうにもならあ」
リュウセイはライに対してこう返した。
「バルマーの奴等、一人残らずぶっ潰してやるぜ」
ハワイでの戦いは終わった。バルマーは撤退しロンド=ベルはハワイを守りきった。これを以ってハワイでの戦いはロンド=ベルの勝利と言えた。
戦いを終えた彼等は補給を再開した。そして日本に向かう準備も同時に再開したのであった。
「日本か。何か久し振りね」
ミスティがマクロスの娯楽室で呟いた。彼女は今一人でビリアードの練習をしていた。
「ミスティさん日本にいたことあったんですか」
側にあるソファーに座っているレトラーデが彼女に尋ねた。彼女は漫画を読んでいた。
「ここに配属される前はね。日本にいたのよ」
「へえ」
ここで弾をついた。数個の弾がまとめて弾かれる。
「といってもこの戦争がはじまる前だけれど」
「新型機のテストか何かですか?」
「ダイアモンド=フォースが今乗っているあれのね。訓練をしていたの」
「ふうん」
「VF-19ね。面白い機体ね」
「色々とやってたんですね」
「メルトランディにいた頃はまさかマクロスに乗るなんて考えもしなかったけれど」
実は彼女はメルトランディ出身なのである。
「いざ乗ってみると。楽しいわね」
「ですね」
「俺みたいなナイスガイもいるしな」
「あら、古い言葉ね」
ミスティは笑って声がした方に顔を向けた。そこにはイサムとガルドがいた。
「俺は何も言っていない」
ガルドはポツリと呟いた。
「こいつが勝手に言っているだけだ」
「おいおい、つれねえなあ」
イサムはそれを聞いて軽口を続ける。
「御前だって結構もててるじゃねえか」
「俺は別にもてたいとは思わない」
だがガルドの返事はつれない。
「御前とは違う」
「ヘッ、相変わらずの朴念仁かよ」
「イサムさんが軽過ぎるんですよ」
レトラーデはそんな彼に対して言った。
「日本でも激しい戦いになりそうですから。気をつけて下さいね」
「そういや何かまたバームの連中が賑やかになってるそうだな」
「そうらしいわね」
ミスティはビリアードを撃つ手を止めた。そして上体を起こして言う。
「暫くなりを潜めていたけれど」
「結構派手にやったからな」
イサムは言う。
「一矢の奴も。凄かったからな」
「一矢さんですか」
レトラーデが彼の名を聞いて声をあげる。
「あの人も。何かと大変ですね」
「そうだな」
ガルドがそれに頷く。
「一矢は。あまりにも辛い」
「タケルの奴といい。うちには重いもの背負っちまってる奴が多いな」
イサムも言葉が重くなった。
「どうなるかわからねえのがな」
「何とかならないんですかね」
「難しいな。エリカはバームの司令官の妹だ」
「そうね」
ミスティはガルドの言葉に頷いた。
「それが。あの二人を引き裂いている」
「敵と味方に」
「けれどよ」
ここでイサムは言った。
「何か応援したくはねえか?」
「えっ!?」
「一矢の奴をよ。何て言うかな」
彼は恥ずかしそうな苦笑いを浮かべつつ話した。
「難しい恋ならなおさら実現させて欲しいじゃないか」
「障害を乗り越えて」
「ああ。そしてその先にあるやつをあいつには掴んで欲しいんだよ」
「イサムも一矢君が心配なのね」
「心配っつったらそうだな」
ミスティの言葉にも素直に返す。
「見ているとな。危なっかしいし」
「ええ」
「それに。応援したくなるんだよ、あの二人は」
「助けてあげたくなる」
「ああ。妬けるけれどな」
ここで純粋な苦笑いになった。
「けれどそれを差し引いても実らせて欲しいんだよ、あいつ等には」
「敵味方を越えたものを」
「俺達だってゼントラーディやメルトランディと和解できたしな」
「あれは特別だけれどね」
そのメルトランディ出身のミスティが応える。
「歌があったから」
「リン=ミンメイか」
「けれど愛もあったわよ」
「マックスさんとミリアさんね」
「そうそう」
レトラーデは上機嫌に言う。
「ミスティさんだって霧生と」
「まあね」
それを言われて少し頬を赤くさせる。
「成り行きで」
「愛があれば種族なんて、ってやつだな」
「では一矢にも期待するか」
「ああ、あいつならやってくれるさ」
「あいつは。不思議な男だ」
ガルドは低い声でこう述べた。
「繊細で。それでいて一途だ」
「そうだな。そして見ていると放っておけない」
「助けたくなる。あんな男ははじめてだ」
「そんな奴に惚れられるなんて。あのエリカって娘も幸せだよな」
「そうですよね、私もそんな恋がしたいなあ」
「お嬢ちゃんにはまだ早いぜ」
イサムはレトラーデをからかうようにして言った。
「あっ、嫌な言い方」
彼女はそれにすぐに反応した。
「まあそうぼやくなって。何時か恋もするからよ」
「どうせ馬鹿にしてるんでしょ」
「ちょっと待てって。そんなんじゃ」
「ふん」
「あらあら、レディーを怒らせちゃって」
「おい人聞きの悪いこと言うなよ」
ミスティのからかいにも困った顔をする。
「困った奴だ」
「ガルド、手前まで」
皆でイサムを叩きにかかった。イサムはそれに面白い様に手玉にとられていた。
マクロスでは他にも騒ぎがあった。バサラが甲板で派手に単独ライブを敢行していたのである。
「イヤッホーーーーーーーーーーーーゥ!」
ギターをかき鳴らしながら叫ぶ。
「俺の歌を聴けーーーーーーーーーーーーっ!」
いつもの言葉と共に曲を奏でる。彼はすぐにハイテンションになっていた。
「これがファイアーボンバーのギターね」
そこには多くの観客が集まっていた。シルビーもその中にいた。
「噂通りのことはあるわ。いいじゃない」
「シルビーってロックが好きだったのか」
「ロックだけじゃないわよ、バラードとかも好きよ」
隣にいるヒビキにこう答える。
「けれど。ロックが好きなのは事実ね」
「そうなんだ」
「派手なのがね。特に」
「それじゃあバサラのはお気に入りだな」
「ええ」
ネックスの言葉に頷いた。
「やっぱり。名が知られるだけはあるわね」
「そうだな」
ダッカーもそれに同意する。
「バサラのギターはいい」
「ええ」
「一見派手でそれでいて無駄がない。音楽のセンスはやっぱり凄いものがあるな」
「そうね。最初いきなり出て来た時には何かと思ったけれど」
「あれには正直驚いたよ」
ヒビキが困った顔になった。
「見たこともない派手なマクロスが出て来て音楽を演奏しはじめるんだものな」
「彼らしいって言えば彼らしいけれど」
「その無茶苦茶さも売りってやつだな」
「そういえば」
シルビーはここでふと気付いた。
「何?」
「バサラ君って演奏の許可とってるのかしら」
「許可って?」
ヒビキが問う。
「ほら、こうしたコンサートとかって開くの艦長の許可が必要じゃない」
「そうだったね」
「許可得ているのかしら。若し得ていないと」
「こら、バサラ君」
「ほら」
未沙が甲板にやって来た。
「何してるの、こんなところで」
「俺の単独コンサートさ」
彼は悪びれずに未沙に返す。
「俺の歌を聴かせてやってるんだ。悪いけれど黙って聴いててくれよ」
「何言ってるのよ。許可は出してないわよ」
「やっぱり」
シルビーはそれを聞いて呟いた。
「無断で開いて。何考えてるのよ」
「許可なんていらねえぜ」
彼は未沙の話を全く聞こうとしない。
「俺の歌は何時でも何処でもお構いなしだぜ!そしてこれで戦争を終わらせてやる!」
「終わらせるのはいいから規則は守りなさい」
だが未沙も負けてはいない。厳しい顔で彼に言う。
「さもないと」
「独房でもやってやるぜ!」
「そういう問題じゃないの!」
「俺の歌は不滅だぜ!さあ次の曲だ!」
「人の話は聞きなさい!」
「俺の歌を聴けーーーーーーーーーーーーっ!」
さしもの未沙もバサラには勝てなかった。バサラはそのまま派手に演奏を続けた。後のことは知ったことではなかった。後はどうとでもなる、大切なのは今この瞬間だ、バサラはそう信じて歌っていたのであった。
「全くもう」
ミレーヌはそれを聞いてその可愛らしい頬を膨らまさせた。
「バサラ一人が滅茶苦茶やるからあたし達まで迷惑するじゃない」
「まあそう言うな」
レイがそんな彼女を宥める。
「バサラも後で叱られたことだしな」
「未沙さんにでしょ。けれど全然反省していないわよ」
「まあそうだろうな」
「そうだろうなって」
「それがバサラだ」
レイは言った。
「あいつはあいつなんだ。それでいい」
「いいの!?」
「あいつがそうだからファイアーボンバーは今までファイアーボンバーだった。違うか」
「確かにそうだけれど」
これにはミレーヌも納得するしかなかった。
「けれど」
「何、暴走しても何とかなる」
レイはそれでも言う。何処かバサラを庇っているのはリーダーだからであろうか。
「あいつの暴走はプラスの暴走だからな。それに」
「それに?」
「ミレーヌも。同じだと思うがな」
「あたしがバサラと同じ!?冗談じゃないわ」
それには憤慨した。
「何であたしがバサラなんかと」
「それもおいおいわかることになる」
「わかる訳ないでしょ」
ミレーヌは憮然とした顔でこう返した。肩にいるグババも同じ顔であった。
そうした小さな騒ぎもあったがロンド=ベルは日本に向けて出発した。そしてそこでまた新たな運命の戦いを経ることになるのであった。

第七十三話完

2006・2・10  
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