スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇
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第七十四話 ファルコン壊滅の危機
第七十四話 ファルコン壊滅の危機
暫くの間その動きを顰めていたバーム軍とその根拠地である海底城であるがここに来てにわかに動きが活発になろうとしていた。
今城の司令室のモニターに四人の男達が姿を見せていた。そしてリヒテルと話していた。
「ゼーラ星暗黒星団東の王デスモント」
まずは角を生やした覆面の男が名乗った。
「同じく南の王ダンケル博士」
続いて耳まで裂けた口の男が。
「西の王アシモフ将軍」
虫の様な覆面の男が。
「北のキラー将軍だ」
最後に豚に似た顔の男が名乗った。そして揃ってリヒテルに対して言う。
「我等こそが暗黒四天王だ」
「暗黒四天王、話には聞いている」
リヒテルはそれに応えた。
「暗黒星団を率いる四人の将達。まさかこの地球に来るとはな」
「一体何の用なのだ?」
リヒテルの側に控えていたバルバスが問う。
「この地球にまで」
「確か貴殿達はバルマーとも我々とも関係が無かった筈だが」
ライザも問う。彼等はその意図が読めないでいたのだ。
「協力を申し出ているのだ」
ダンケルが言った。
「協力を」
「そうだ。我々も地球に用がある」
デスモントが言った。
「そうした意味では我等と貴殿達は目的が同じ」
アシモフも口を開く。
「同盟を結びたいのだが」
「同盟か」
リヒテルはキラーの言葉を聞き終えたところでその鋭い目を動かせた。
「その申し出は有り難いが余はそれを受けるつもりはない」
「ほう」
「これは卑劣な地球人共に対するバルマーの正義の鉄槌。それに関して他の者の手を借りるつもりはない」
「では受けぬと言うのだな」
「申し出は有り難いが」
アシモフに答える。
「貴殿等が地球人共と戦いたいのならばそちらでやられるがよかろう。余は余の大義で地球人共を裁く」
「オルバン閣下の御考えでもか」
「何っ」
ダンケルの言葉に眉を動かせた。
「オルバン大元帥の」
「そうだ、我等はオルバン大元帥の依頼を受け加勢にし参ったのだ」
デズモンドも言った。
「まさか」
「疑うのなら直接聞けばよい」
「我等とて嘘を言うつもりはない」
「うむむ」
「そしえもう一つ伝えることがある」
彼等はまだ言った。
「ここに。新しい司令官が赴任する」
「新しい司令官だと」
「まさか」
バルバスとライザがそれを聞いて動揺を見せる。
「それは一体」
「俺だ」
「その声は」
リヒテルはその声に気付き後ろを振り返る。するとそこには彼の見知った顔があった。
黒く長い髪に細く整った顔。そして茶色の翼。リヒテルが最もよく知る男であった。
「久し振りだな、リヒテル」
その男は微笑んでリヒテルに応えた。
「アイザムよ、そなただったのか」
「そうだ」
アイザムは答えた。
「そなたが地球攻略の新しい司令官なのか」
「その通りだ」
「馬鹿な、アイザム博士がここに来るなどと」
バルバスもライザもそれを見てさらに動揺していた。
「バームで最高の頭脳を持つと言われる天才科学者が」
同時に彼はリヒテルの親友であった。それを知らぬ者もバームにはいなかった。
「御前は司令官を解任された」
「何だとっ」
リヒテルはアイザムにそう言われて激昂した言葉を出した。
「今日からは私の部下として働いてもらう。いいな」
「馬鹿を申せっ」
だがリヒテルはそれを認めようとはしなかった。
「余には命よりも重い誇りがある」
彼は言う。
「アイザム!海底城が欲しくば余と決闘いたせ!」
そう叫んで剣を抜こうとする。だがそれはバルバスとライザが止めた。
「お止め下さい、リヒテル様」
ライザが止める。
「アイザム殿の命令に従わぬのは大元帥への反逆ですぞ」
「ええい、黙れ!」
だがリヒテルはそれを聞こうとしない。
「例えオルバン大元帥の命令であろうと聞けぬものがある!」
彼は叫ぶ。
「余はバーム星十億の民の為に命を捨てると誓ったのだ!それを果たせぬのならばその前に死を選ぶ!」
(リヒテル)
アイザムはそんな彼を見て心の中で呟いた。
(変わっていないな)
そして暗黒星団の将軍達に対して言う。
「そちらの話はそれで終わりか」
「うむ」
「もう話すことはない」
「それではな。ではまた」
そしてモニターを切った。それからリヒテルと向かい合う。
「さあアイザムよ剣を取れ!」
リヒテルはなおも叫んでいた。
「そして余と勝負致せ!」
「リヒテル、御前が昔通りで安心した」
「何だと!?」
アイザムの思いもよらぬ言葉にリヒテルは目を見開いた。
「リヒテル、俺を殺せ」
そして彼はこう言った。
「オルバン大元帥には俺は地球に来てすぐに事故死したとでも言え」
「どういうことだ」
「新任の総司令官である俺が死んだとなれば御前が引き続き任務に就く他あるまい」
「どういうことだ、アイザム」
リヒテルはアイザムのその思いも寄らぬ言葉にさらに目を動かせた。
「御前は余の為に死ぬつもりなのか」
「ここに来る時にオルバン大元帥に言われた」
彼は言う。
「御前が命令に従わぬ時は殺せとな」
「馬鹿な」
リヒテルはそれを聞き首を横に振る。
「オルバン大元帥は余の忠誠を何だと思われているのか」
「俺にそんなことができるものか」
彼は言う。
「御前を。友人を殺すことなぞ。俺にはできぬ」
「アイザム・・・・・・」
「リヒテル、御前は俺にとってかけがえのない、唯一無二の親友だ」
そしてまた言った。
「そんな御前とバームの為なら俺は喜んでこの命を捧げよう」
「余を助けてくれるというのか?」
「そうだ」
彼は頷いた。
「その為に俺はここまで来たんだ。新兵器も用意してな」
「アイザム・・・・・・」
「御前を救う為に。俺はここまで来た」
なおも言う。
「もうすぐここに御前の敵が来るそうだな」
「うむ」
リヒテルは頷いた。
「ならば、行こう」
「済まぬ、アイザム」
いつもの誇り高いリヒテルはそこにはいなかった。一人の男になっていた。
「余なぞの為に」
「リヒテル様、アイザム様」
バルバスとライザも二人に心打たれていた。
「何と気高い御心」
「このライザ、感涙を禁じえませぬ」
「アイザム」
リヒテルは言った。
「余はこれまでの汚名を返上するべくロンド=ベルに一大決戦を挑む」
「わかった」
そしてアイザムもそれに頷いた。
「その戦いに勝利すれば大元帥も御前の実力を認めるだろう」
「見ておれロンド=ベル、そして竜崎一矢」
リヒテルは言った。
「余は百万の味方を得た。次の戦いで必ず貴様等の息の根を止めてくれる!」
彼は燃えていた。戦いに向けて。そしてそれは今や海底城を燃やし尽くさんばかりであった。
リヒテルがロンド=ベルとの決戦に向けてその心を燃やしている頃ロンド=ベルは別の敵と戦っていた。
「遅い!何をしておったか!」
ダイモビックに到着した彼等にいきなり三輪からの怒声が飛び込んで来たのだ。
「ハワイでバルマー軍と戦っておりまして」
グローバルがそれに応える。
「その戦闘と処理を行っており遅れてしまいました。申し訳ありません」
「言い訳なぞ聞く耳持たぬわ!」
だが三輪は相変わらずであった。
「処理なぞは現地の軍に任せておけ!今日本は大変なのだぞ!」
「何かあるのですか?」
「あるのですかではない!あるのだ!」
彼は叫ぶ。
「それをのうのうと。何を考えておるか!アラスカにまで遊んでおったな!」
「あれは致し方のないことでした」
「言い訳は聞かぬと言っておるだろう!」
彼はグローバルの話を全く聞いてはいなかった。
「ガイゾックの活動が続いておる!ミケーネもだ!」
「はい」
「しかも先に滅んだドクター=ヘルの部下達まで出て来ておるのだ!最早日本は危急存亡の時なのだぞ!それがわかっているのか!」
「それなら自分で対処すればいいんじゃないのか?」
それを艦橋の端で聞いていた霧生が呟く。
「こっちだってミケーネとは派手にやり合ったんだしな」
「おい、聞こえるぞ」
そんな彼を輝が窘める。
「聞こえたらまたことだぞ」
「ですね」
「滅多なことは言うもんじゃないってことですね」
「そういうことだ」
輝は柿崎にも応えた。三輪はまだ喚いていた。
「そこにきてバームの動きが活発化しておる!わかっておるのか!」
「はい」
「わかっていたらもっと早く来るのだ!よいな!」
そこまで言ってモニターを一方的に切った。何はともあれこれで話は終わった。
「終わったか」
グローバルは暗くなったモニターの画面を見て呟いた。
「まずは恒例の嵐は去ったな」
「お疲れ様です」
そこでクローディアがコーヒーを出してきた。
「ああ、済まない」
「いつものことですが凄いテンションですね」
「何、台風だと思えばいい」
グローバルも慣れたものであった。
「そのうち去る」
「そのうちですか」
「そうだ。こちらは聞き流していればいい。それを考えると台風よりはましなのかもな」
「強気ですね、艦長は」
「何、長い付き合いだからな」
彼は三輪もよく知っていたのである。
「昔からああだった。過激な人だった」
「やはり」
「そのまま太平洋区の司令官になられたが。やはり変わらないな」
「昔からああだったみたいですね」
それを聞いた柿崎が呟く。
「だとするとある意味凄い人だよな」
輝もそれに頷く。
「ですね。よく今まで問題もなくやってこれましたよ」
「知られていないだけで相当なことやっているのかもな」
「そうかも」
霧生もそれに同意する。そしてこれは後に的中するのであった。
「今のところは少し休もう」
「はい」
「総員艦内待機とする。いいな」
「わかりました」
こうしてロンド=ベルの面々はとりあえずは艦内において暫く待機することになった。その間彼等は少し休んでいた。
「あれコウ、何処に行くんだ?」
アルビオンの廊下でキースがコウを呼び止めた。
「少しな。格納庫まで」
「格納庫?一体何をするつもりだよ」
「デンドロビウムのデータのバックアップを取っておきたいんだ。後でニナに渡すから」
コウはこう答えた。
「ふうん、デンドロビウムのねえ」
「ああ。約束だからな」
「それがラブレターってわけじゃねえだろうな」
「ばっ、馬鹿言うな」
だが顔が少し赤くなった。
「そんな筈が」
「わかってるさ、からかっただけだよ」
キースは笑いながらこう返す。
「からかうなよ」
「しかしそっち方面の反応はわかりやすいな、相変わらず」
「おう、そこにいたか」
ここでモンシアもやって来た。
「あっ、中尉」
「ちょっとこれから付き合わねえか?」
「ちょっと?」
「何ですか一体」
「ベッキーからバーボンを貰ったんだよ。一緒にどうだ?」
「バーボンですか」
「そうだ。一人じゃちょっと多くてな」
「どれだけあるんですか?それって」
「ほんの十本程だ。今アデルとヘイトも飲んでいるところだ」
「昼間からですか」
「それはまた」
「まあ今はいいんだ。いざってなりゃサウナで酒抜くからな」
「おい、それはまずいぞ」
そこにバニングが来た。そしてモンシアに対して言う。
「ゲッ、大尉」
「酒を飲んだ後でサウナに入るのは身体に悪い。休める時に休むのはいいがな」
「はあ」
流石のモンシアもバニングには頭が上がらなかった。
「それにいざという時には出撃しておけるようにしておかないとな。程々にな」
「わかりました」
「ウラキ、キース」
「はい」
バニングは今度は二人にも声をかけてきた。そして二人はそれに応える。
「休める時に休んでおけ。気持ちの切り換えが出来ないといいパイロットにはなれないぞ」
「了解」
「わかりました」
こうしてキースはモンシアやバニングと一緒にバーボンを飲みに言った。そしてコウはその前に格納庫に。それぞれの興味のある場所へと向かった。
そして別の場所では別のことが行われていた。キッチンでスレイ達がイルイと一緒に料理を作っていたのだ。
「ふふふ」
スレイは上機嫌で包丁を手にしている。その軍服の上からエプロンを着ている。
「久し振りだな、料理も」
「あんた料理も出来たのか」
「当然だ。これでも料理には自信がある」
同じくエプロンを身に着けているアイビスに対して言う。
「得意なのはお菓子だ。クッキーやケーキがな」
「これまた意外だねえ」
アイビスもそれを聞いて驚きを隠せなかった。
「まあそう言うあたしも料理はやらないわけじゃないけれど」
「そうなんですか」
そこにやって来たクスハが意外といった顔を見せる。
「あたしは卵料理がメインだけれどね」
「へえ」
「アイビスってこう見えても料理が得意なのよ」
同じくエプロンを身に着けているツグミがクスハに言った。
「スクランブルエッグなんて絶品なんだから」
「朝御飯によさそうですね」
「他にはチキンナゲットとかな」
アイビスはにこにこしながら言う。
「今から作るんだけれどどうだい?」
「いえ、私は今はちょっと」
だがクスハはそれを断った。
「部屋にさやかちゃんやちずるちゃんが待っていますから」
「女の子同士でだね」
「はい」
「さやかやちずるがそこにいるの?」
イルイはそれを聞いてクスハに顔を向けてきた。
「そうだけれど」
「ねえアイビス」
イルイは今度はアイビスに顔を向けた。
「どうしたんだい?」
「ちょっとクスハのところに行っていい?」
「ああ、いいけれど」
アイビスはそれをよしとした。
「それじゃあ後で食べ物出来たら呼ぶからな」
「うん」
「お菓子もな。楽しみにしていろ」
「わかったわ。それじゃあ」
「ああ」
こうしてイルイはクスハについて彼女の部屋に行くことになった。部屋に行くとさやかやちずるがもう部屋でくつろいでいた。
「お帰りなさい」
まずはさやかが声をかけてきた。
「イルイも来たのね」
「うん」
イルイはちずるの言葉に頷いた。
「何か面白そうだったから」
「面白そうね」
「まあ確かに。この部屋は」
二人はあらためてクスハの部屋を見回した。
「色々なものがあるから」
「色々なもの!?」
見れば何か様々なものがあった。それを見ていると妙な感じがする。
「トレーニング=グッズよ」
クスハ自身が言った。
「健康の為に」
「健康の為なの」
「他に何があるのよ」
さやかの言葉にこう返す。
「これでも。健康に気を使ってるんだから」
「けれどクスハはちょっと凝り過ぎよね」
「うんうん」
さやかはちずるの言葉に頷いた。
「ここまでくると独特で」
「女の子の部屋って感じがしないわね」
「そうかしら。私はそうは思わないけれど」
自分ではよくわかってはいなかった。
「自然じゃないかな、って」
「ちょっと自然じゃないわね」
「残念だけれど」
二人がそれに突っ込みを入れる。
「まあリョーコさんの部屋もこんな感じだけれど」
「ほら」
「だってあの人はまた特別だから」
「男の人より男っぽいからねえ」
「あはは、それはそうね」
クスハもこれには笑った。
「けれどあれで繊細なところもあるし」
「そうそう」
「可愛いところがね」
「あるのよ」
さやかとちずるは噂話に花を咲かせていた。クスハもそれに入る。
「結構人によって部屋が違うしねえ」
「うんうん」
「ヒカルさんなんか漫画やトーンで一杯だし」
「イズミさんはお水だし」
「お水って?」
「お酒とかそういう関係よ」
クスハがイルイに耳打ちした。
「レイちゃんの部屋なんか何もないし」
「あれはあれで彼女らしいけれど」
「沙羅さんなんか上にドがつく程派手だし」
「あの人将来ファッションデザイナーになりたいらしいから」
「そうなの」
「それでああした部屋になってるそうよ」
「へえ」
主にさやかとちずるが話している。クスハは聞き役である。
「意外なのがゼオラちゃんよね」
「うんうん」
ちずるはさやかの言葉に頷く。
「乙女チックで」
「乙女チック?」
「女の子らしいって意味ね」
またクスハが耳打ちした。
「女の子らしいの、ゼオラって」
「そうね。あれで結構」
クスハにもそれはわかっていた。
「少女趣味なの、彼女って」
「ふうん」
「あれはちょっと引いたわ」
「ぬいぐるみとか一杯だし。カーテンも可愛い柄のだし」
「ゼオラちゃんが一番そうした趣味なんてね。私服見た?」
「見たわよ、あのピンクハウスでしょ」
「そうそう」
「まんま少女趣味よね。アラド君も驚いてたわ」
「意外とそうした意味ではルリちゃんも女の子らしいかも」
「彼女は素っ気無いけれど服装なんかはシンプルな感じで女の子らしいわよね」
「うんうん」
二人は頷き合う。
「ミサトさんの部屋はお酒しかないし」
「あの人はもう特別」
「エクセレンさんとか」
「うちの大人の女の人って皆飲むからねえ」
「そういえばアクアさんの部屋で肩叩きの棒見つけたけれど」
「あっ、それ私も見た」
二人はここで大笑いした。紅茶を片手に話を進める。
「あれでいつも肩をとんとんとしているのよね」
「そうでしょ。その為にあるんだから」
「ううん、アクアさんも苦労してるんだなあ」
クスハはそれを聞いて目を閉じて苦笑いを浮かべていた。顔に少し汗をかいている。
「まだ二十三なのにねえ」
「あれで結構苦労性だから」
「ヒューゴさんとはずっとパートナーだったんでしょう?テストの間」
「らしいわね。その時の最初のコーチとは今別れてるらしいけれど」
「へえ、そうなの」
さやかはちずるの言葉に耳を向けなおした。
「何でもティターンズに行っちゃったらしいわ」
「敵味方ってわけね」
「そういうことになるわね。確かそのコーチの名前は」
ちずるはそれを言おうとする。だがここで警報が鳴り響いた。
「!?」
「また何かあったの!?」
三人はそれに反応してすぐに立ち上がる。だがイルイは呆然として座ったままであった。
「大変だ、諸君」
和泉博士の声が放送で流れる。
「ビッグファルコンに敵だ。バーム星人達の軍だ」
「バームが!?」
「最近何かと動いてるって話は聞いていたけれど」
ちずるが言う。
「もう仕掛けて来るなんて」
「リヒテル、やっぱり侮れないわね」
さやかも言う。二人は完全に戦士の顔になっていた。
「至急救援に向かってくれ」
「チェッ、今やっと酔いが回ってきたってのによ」
「だが仕方がない。すぐに出撃準備にかかるぞ」
不満を露わにするモンシアに対してバニングが言った。
「いいな」
「了解。仕方ありませんからね」
ヘイトが答える。
「モンシアさんも。すぐに行きましょう」
「おう、ちょっと酔いを醒ましておきたいがな」
モンシアはアデルに応えてこう述べた。
「ヒンズースクワットでもしてな」
「それじゃあ酔いがかえって回るぞ。シャワーがいい」
ヘイトは彼にこう忠告した。
「シャワーか」
「時間がない。それですぐに酔いを醒ませ。いいな」
「わかりました。ったく、何時でもこんな時に来やがるな」
モンシアはブツブツ言いながらシャワールームに向かった。そして酒を抜いて格納庫に向かうのであった。
クスハ達も格納庫に向かっていた。そしてそこでそれぞれのマシンに乗り込む。
「イルイちゃん」
クスハは竜王機に乗り込むところでイルイに声をかけた。
「何?」
「すぐに戻るから。その後でね」
「お菓子が待ってるぞ」
隣にいるスレイも言った。
「楽しみにしておけ」
「うん」
イルイは頷いた。そして戦場に向かう戦士達を見送るのであった。
ロンド=ベルは急遽ビッグファルコンに向かう。そこではもう戦いがはじまっていた。
「おのれ、異星人共よ!」
三輪はビッグファルコンの司令室でその顔を怒りで真っ赤にしていた。
「この三輪の目の黒いうちは貴様等の好きにはさせん!行け!」
ジェガンを中心とする防衛隊に攻撃命令を出す。だが彼等はリヒテルのコブラーダの攻撃であえなく撃退されてしまった。
「雑魚はどくがいい!」
「うわっ!」
一撃で蹴散らされる。そしてあえなく退いて来た。
「馬鹿者共!逃げてどうするか!」
「司令、ダメージが大き過ぎます!これ以上の戦闘は無理です!」
「ええい、黙れ!」
だが三輪はそれを認めようとはしない。
「そんなことで地球を守れると思うか!特攻する気で行け!」
「そんな、無茶です!」
「無茶もこうしたこともあるか!地球の為に喜んで命を捨てる気にはなれぬのか!」
「相変わらず滅茶苦茶言ってるおっさんだな」
「バイストン=ウェルにもあそこまで極端な者はいなかったな」
トッドとガラリアがそんな三輪を見て言う。
「何か助ける気になれねえな、あのおっさんだけは」
「そうだな」
そうした意味で二人は同意見であった。
「しかしそうも言ってはいられない」
そんな二人に言ったのはニーであった。
「ビッグファルコンを守らなければならないのだからな」
「ええい、ロンド=ベルは何をしておるのか!」
「あれでもか?」
「あれでもだ。あの長官は放っておいていいがな」
「それならやり易いな」
「うむ」
トッドとガラリアはニーの言葉に頷いた。
「それじゃああのおっさんは無視して」
「ビッグファルコンの救援に向かうぞ」
そしてビッグファルコンの側に到着した。既にバーム軍により深刻なダメージを受けていた。
「ロンド=ベルだ!」
ジェガンに乗るパイロット達は彼等の姿を認めて歓喜の声をあげる。
「来てくれたんだ!」
「ああ、これで助かったぞ!」
「長官」
大空魔竜から大文字が通信を入れる。
「遅れてしまい申し訳ありませんでした」
「バカモン!」
三輪の返事はこうであった。
「何をしておったか!早く異星人共を追い払え!」
「はい」
大文字は不平を言わずそれに応えた。だが多くの者はそうではなかった。
「本当に相変わらずだな」
京四郎は不満を露にしていた。
「何処までも変わらないおっさんだ」
「ちょと位感謝してくれてもいいのにね」
「ナナちゃんの言う通りやな」
十三もそれは同じであった。
「岡長官ならちゃうのにな。こんなんやったら何かやる気が起こらんわ」
「けれどそうも言ってはいられんでごわす」
「そうですね、ここは健一さん達にとって家も同然なんですから」
「そやったな」
十三は小介の言葉に頷いた。
「ここは健一達にとって」
「そうだ。あの長官のことはどうでもいい」
健一の言葉が強くなった。
「ビッグファルコンは俺達にとって家だ。ここは何としても守り抜いてみせる!」
「よし、では総員出撃だ」
大文字からの指示が下る。
「そしてビッグファルコンを防衛する。よいな」
「了解」
それに従いロンド=ベルの面々が次々に出撃する。だが妙なことに気付いた。
「妙だな」
まずはヒイロが呟いた。
「どうしたんですか?」
それにカトルが問う。
「敵の戦力が少な過ぎる」
「そういえば」
「母艦と僅かな戦闘獣か。確かにな」
トロワも言う。
「散髪の攻撃部隊と見るか」
「だとすれば敵の司令官であるリヒテル提督が自ら出ているのは」
「若しくは罠か」
「奴等の目的は基地への攻撃ではなく俺達を誘い出す為ということか」
「その可能性は否定できない」
ヒイロはウーヒェイにも答えた。
「けれど喋ってる暇はねえぜ。すぐにビッグファルコンに向かおうぜ」
「そうだな。考えている暇はない」
「すぐにビッグファルコンに向かいましょう」
一同デュオの言葉に頷いた。そしてバーム軍を蹴散らしてビッグファルコンに辿り着いたのであった。
「何か気味が悪い位にあっさりと済んだな」
「そうね」
美和は宙の言葉に頷いた。彼等も妙なものを感じていた。
「何かあると見た方がいいな」
神宮寺が言った。
「策、ですか」
「そうだ」
そして麗の言葉に頷く。
「さて、何をして来るかな」
「リヒテル、今だ」
コブラーダの艦橋でリヒテルの横にいるアイザムが言った。
「うむ」
リヒテルはそれに頷く。そして命令を下した。
「あれを出せ」
「ハッ」
「ロンド=ベルよ、今日こそは貴様等を倒す」
リヒテルは腕を組んでそう宣言した。
「行けっ、ゾンネカイザー!」
リヒテルは叫んだ。
「今日こそは奴等に引導を渡すのだ!」
「!?」
見れば二つの赤い頭を持つ戦闘獣が姿を現わした。だがそれは一機であった。
「何でえ、たった一機かよ」
ヤマガタケはそれを見て笑う。
「驚いて損したぜ」
「いや、待て」
だがそんな彼にリーが言った。
「油断するな。あれが罠かも知れないぞ」
「罠だって!?」
サンシローがそれを聞き眉を顰めさせる。
「そうだ。どう考えても一機だけとは妙だ」
「あれこそがバームの罠だということですね」
ブンタも警戒していた。
「その可能性は高い。注意しろ」
「へっ、じゃあここは大人しくしておくか」
「そうだな」
ヤマガタケとブンタはリーの言葉に従うことにした。ロンド=ベルは様子を見ることにした。だがその間にもゾンネカイザーはビッグファルコンに近付いて来ていた。
「おい、どうするんだよ」
それを見て勝平が痺れを切らしてきていた。
「敵が来ているってのによ。何もしねえのかよ」
「馬鹿、あからさまに怪しいだろうが」
そんな彼に宇宙太が言う。
「それで何で動くって言うんだよ」
「けれどとりあえず攻撃を仕掛けてみねえとわからねえぜ」
「ううむ」
「イオン砲でも撃ち込んでみっか?あれなら射程もばっちりだしよ」
「じゃあやってみろ」
宇宙太は考えた末でそれを認めた。
「けれど慎重にな」
「わかってらい。派手にぶちかますぜ」
「やっぱりわかってないじゃない」
「困った奴だな」
恵子も宇宙太もそう言いながら勝平に付き合っていた。ザンボットはイオン砲の発射に入る。
「いっけええええええええええーーーーーーーーーーーーーっ!」
「また派手にやるね」
万丈がそれを見て言う。
「さて、敵のお手並み拝見ってところかな」
「それで消し飛ばしてやる!」
勝平は最初からそのつもりだった。だがこの攻撃は無駄に終わった。
イオン砲の光がゾンネカイザーを直撃した。
「やったぜ!」
勝平はそれを見て叫ぶ。しかしそれは一瞬のことであった。
「なっ!」
ゾンネカイザーは無傷であった。全く平気な様子でそこに立っていた。
「なっ、どういうことだこれは!」
「直撃した筈だぞ!」
いつもは冷静な宇宙太ですら驚きを隠せなかった。
「敵の戦艦ですら一撃で沈めるイオン砲を受けて傷一つ受けないなんて」
「化け物かよ!」
「ハーーーーーーーーーーッハッハッハッハッハッハッハ!」
リヒテルは驚くロンド=ベルの面々を見て高らかに笑う。
「見たかロンド=ベルよ!これが我が友アイザムの開発した最強の戦闘獣ゾンネカイザーの力だ!」
「どういうことなんだ、攻撃が利かないなんて」
ピートが叫ぶ。
「超弾性金属よ!」
「超弾性金属!?」
サコンはリヒテルの言葉を聞いて眉を動かした。
「そうだ!アイザムが開発した全ての攻撃を受けて吸収する金属だ!」
リヒテルは高らかに言う。
「最早貴様等の攻撃には屈しはせぬ!覚悟するがいい!」
「クッ!」
それを聞いて一矢が前に出た。
「あっ、お兄ちゃん!」
「何処へ行くんだ、一矢!」
「そんなもの、この俺の拳で砕いてやる!」
一矢は熱くなっていた。そして自分の拳でゾンネカイザーを倒すつもりだったのだ。
「馬鹿、今は落ち着け!」
「そうよ、何もわかっていないんだから!」
「わかっていなくても行かなくちゃいけない時があるんだ!」
京四郎とナナにもこう返す。
「それが今だ!俺は行く!」
「お兄ちゃん・・・・・・」
「チッ、馬鹿野郎が」
ナナと京四郎は呆れながらも一矢を見守っていた。
「行くぞゾンネカイザー!」
一矢はゾンネカイザーの側まで来た。そして叫ぶ。
「俺の拳を見せてやる!」
攻撃に入った。
「ダブルブリザァァァァァァァァァァァァァァドッ!」
胸からダブルブリザードを出した。そして次に拳を構える。
「必殺!烈風!」
力を溜める。そしてゾンネカイザーを見据えた。
「正拳突きーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
そのまま拳を繰り出す。だがそれも効果がなかった。
「ば、馬鹿な」
さしもの一矢も呆然とする。
「手応えはあったのに」
「ハーーーーーーーーーーハッハッハッハッハッハ、竜崎一矢よ!」
リヒテルはそれを見てまたしても高らかに笑う。
「無駄なことだ!アイザムのゾンネカイザーは貴様なぞには敗れはせん!」
「クッ、リヒテル!」
「さあ、今ここで倒れるがいい!そして我等の正義の裁きを受けるのだ!」
「誰が!」
「やばい!」
だがここで何者かが前に出て来た。それはマサキ達であった。
「マサキ!」
「一矢、ここは逃げろ!」
マサキが叫ぶ。
「今はダイモスでもこいつは倒せねえ!逃げるんだ!」
「しかし!」
「ここで死んでも何にもならないよ!」
リューネも言う。
「あんたエリカさんと一緒になるんでしょ!こんなところで死んでどうするのさ!」
「エリカ・・・・・・」
それを聞いて冷静さを取り戻してきた。
「いいからここは俺達に任せろ!とっとと逃げろ!」
「わかった。それじゃあ」
「待て竜崎一矢よ、逃げるのか!」
「リヒテル、この勝負は預けておく!」
彼は言った。
「だが今度会う時は負けない!そしてエリカを取り戻す!」
「ほざけ、地球人共が!」
リヒテルは撤退する一矢に対して叫んだ。
「こちらこそ容赦はせぬ!我が父だけでなく妹までたぶらかした罪、あがなってもらうぞ!」
「おい、そこのやかましい奴!」
マサキはそのリヒテルに対して言う。
「何だ!?」
「あまりそうして周り見えねえことばかり言ってるんじゃねえ!ちょっとは自分の足下を見やがれ!」
「フン、貴様等も地球人だな!」
「それがどうした!」
「地球人の様な卑劣漢共に余のことを言うことができるのか!」
「手前は一つのことしか見えていねえんだよ!」
「どういうことだ!」
「本当に一矢達が御前の親父さんをやったと思っているのかよ!何で会談の場でわざわざ毒を入れたりしやがるんだ!」
「ムッ」
「そういえばそうだな」
ヤンロンがそれに気付いた。
「暗殺するのなら。目立つ場でしたりはしない」
「そうよね」
テュッティがそれに頷く。
「ましてや会談の場で。どう考えてもおかしいな」
「何が言いたい」
「俺達ばかりじゃなくて手前の身内のことも見ろって言ってんだ!」
マサキはまた叫んだ。
「そんなこともわかりゃあしねえのかよ!」
「ええい、黙れ!」
だがリヒテルはマサキ達の言葉を認めようとはしない。そして闇雲に叫んだ。
「我がバーム星人を愚弄することは許さんぞ!」
彼は言う。
「誇り高きバーム星人は暗殺なぞせぬ!貴様等などと一緒にするな!」
「健一」
「ああ」
健一はそんなリヒテルを見て一平の言葉に頷いた。
「似ているな」
「同じだ」
彼は言った。
「兄さんと。何もかも」
「そうでごわすな」
「兄ちゃんと。本当に同じだね」
大次郎と日吉も頷いた。彼等はリヒテルに自分達の兄ハイネルと同じものを見ていたのだ。
「誇り高く、純粋だから見えないんだ」
一平は言う。
「他のものが。だからわからない」
「だが気付いた時には」
「気付くかしら」
「気付く」
一平はめぐみに答える。
「兄さんもそうだったから。けれどその時は」
「全てが崩壊する時だってことか」
「リヒテル、御前もか。けれどそれでも兄さんは」
ハイネルは目覚めた。そして真の意味で誇りのある戦士となった。彼等はその兄を誇りに思っている。そしてリヒテルにもその兄の姿を見ているのだ。
「これ以上戯れ言に付き合うつもりはない!」
リヒテルは最後に言った。
「死ね!ここでまとめて始末してくれる!」
「させない!」
だがここでガッテスが前に出て来た。
「これで!」
そしてヨーツンヘイムを放つ。それでゾンネカイザーの動きを止める。だがやはり止めただけであった。
「ならば」
今度はグランヴェールが前に出て来た。
「これで・・・・・・どうだ!」
そして電光影裏を撃つ。凍てついたゾンネカイザーが今度は炎に包まれた。
その時であった。ゾンネカイザーに異変が起こった。
「!?」
「どうした、サコン君」
それに目を瞠ったサコンに大文字が問う。
「博士、いけます」
サコンはその大文字に顔を向けて言った。
「いける、何がだね」
「ゾンネカイザーの攻略です、後はそれを実現させるだけです」
「だが今は」
「はい、一時撤退しましょう」
「撤退か」
「無闇に戦うばかりではありません。ここは退いて態勢を整えるのです」
「わかった、全軍一時ダイモビックまで撤退せよ」
「馬鹿を言え!」
だがここで三輪がモニターに割り込んで来た。
「敵に背を向けるなぞ正気なのか!」
「またこのおっさんかよ」
マサキは三輪の顔を見て露骨に嫌そうな顔を見せた。
「ったくよお、毎度毎度」
「許さんぞ!最後の一兵まで戦うのだ!」
「三輪長官!」
叫ぶ彼にブライトが言う。
「倒すこともできない相手に立ち向かうなぞ愚の骨頂です、ここは退くべきです」
「わしに意見をするつもりか!」
「違います、これは提案です」
「同じことだ!」
彼はブライトの話も聞き入れようとはしない。
「逃げるのは許さん!ここは最後まで戦うのだ!」
「じゃあおっさんだけで戦えよ」
ケーンがそんな彼に対して言い放つ。
「何だと」
「無駄な戦争やっても勝てる筈ねえだろ。撤退するのも軍人じゃねえのかよ」
「貴様、官職氏名を名乗れ!」
「ケーン=ワカバ。階級は少尉だ」
「何、ワカバだと」
「ワカバ?」
未沙がそれを聞きその目を微かに動かした。
「それってもしかしてワカバ参謀総長の」
「親父のことは言うなよ」
未沙にも釘を刺す。
「俺には関係ねえんだから」
「そうね、御免なさい」
「俺は俺だ。大体こんなところで馬鹿やっても死ぬだけなんだよ」
「うんうん、ケーンが言うと説得力あるなあ」
タップがそれを聞いて頷く。
「たまにはシリアスにいかねえとな」
「そうだな。俺達はどうも軽いと思われているから」
ライトも言う。
「最近じゃギガノスの旦那の方が人気ありそうで。怖いからねえ」
「そりゃマジで洒落になってねえぞ」
ケーンはライトに突っ込んだ。
「俺はこれでも主役なんだからな」
「それが元主役に」
「諸行無常の響きあり」
「あの、少尉殿」
見るにみかねたベンが話に入って来た。
「お話が脱線しているようですが」
「おっといけねえ、それでだな」
三輪に話を戻す。
「あんたも命が惜しかったらさっさと逃げやがれ!」
「わしに逃げろというのか!」
「死にたくなかったらな!命まで捨てることはねえだろ!」
「クッ、撤退だ!」
三輪も遂に観念した。
「遺憾ながらビッグファルコンを放棄する!」
「やっとかよ」
マサキはそれを聞いて呟いた。
「何かすっごい話がこんがらがったね」
「ああしたおっさんに話をするのはな。疲れるんだ」
ミオに応える。
「まあフェイル殿下みてえに物分りのいい人ってのは滅多にいねえってことだ」
「けれどその殿下でさえ困らせるのがマサキなのよね」
「ちぇっ」
シモーヌの言葉にふてくされる。そしてロンド=ベルはダイモビックに向けて撤退するのであった。
三輪も退いた。ロンド=ベルにとってははじめての撤退であった。
「リヒテル様!」
それを見てバルバスがリヒテルに声をかける。
「やりましたな!」
「うむ、全てはアイザムのおかげだ」
「リヒテル・・・・・・」
「アイザム、そなたのおかげで遂に勝つことができた。何と礼を言っていいかわからぬ」
「気にするな。これは御前との友情があってこその勝利だ」
「アイザム・・・・・・」
「何と気高い方だ」
バルバスもそれを聞き感涙に堪えなかった。
「このバルバス、アイザム様の様な方は今まで」
「俺のことはいい。それよりもまずは」
「おお、そうであった」
リヒテルはその言葉で気付いた。
「ビッグファルコンに入城するぞ」
「ハッ」
ビッグファルコン占領を命じたのであった。
「そしてあの場所に我がバームの旗をかける」
「はい」
「我等の勝利だ。聞け、バームの民達よ」
リヒテルは言う。
「我等は遂に安住の地を手に入れようとしている!兵達よ!高らかに勝利の歌を唄うのだ!」
「万歳!リヒテル様万歳!」
兵士達の歓呼の声をあげる。
「バームに栄光あれ!」
「勝った、勝ったのだ!」
リヒテルもまた叫んでいた。
「我等は勝ったのだ!」
「リヒテル・・・・・・」
アイザムはそんな友を温かい目で見ていた。だがここで突如として胸を押さえた。
「うっ」
「どうされました?」
「いや、何でもない」
ライザにそう応える。
「暫し休んでくる。ではな」
「はい」
アイザムは自分の部屋に戻った。まるで勝利そのものには興味がないように。いや、何かを焦っているようでもあった。
ロンド=ベルがダイモビックに退いたことはすぐに地球圏に知れ渡った。だがリリーナがそれと同時にロンド=ベルを離れ何処かへと向かったことは知られていなかった。
「いいのかよ、ヒイロ」
「構わない」
ヒイロはデュオの問いに答えた。
「今のリリーナなら。心配いらない」
「そうか」
「ああ。それよりも今は俺達の目の前にあることだ」
ウーヒェイにも答えて言う。
「バームを。何とかしなければな」
「了解。じゃあここはヒイロを信じるとしますか」
「そうだな。御前がそこまで言うのならな」
「済まない」
彼等は今は次の戦いに目を向けていた。そしてそれは彼等だけではなかった。
「ダリウス大帝」
デスモント達四人は向かい合う四つの椅子に座っていた。そしてその中央に浮かぶ赤い顔をした髭の男に恭しく頭を
下げていた。
「暗黒四天王よ」
彼等に大帝と呼ばれたその男は四人に問うていた。
「バーム星人のリヒテルが地球人の基地を手に入れたそうだな」
「はっ」
それにアシモフが答えた。
「アイザムと申す者の開発したマシンにより」
彼は言う。
「その超弾性金属が彼等を退けたのです」
「では御前達は何もしなかったのだな」
「はい」
今度は四人で答えた。
「そうか。わかった」
大帝はそれを聞いて頷いた。
「大帝。今後我等はどう行動をとればよいでしょうか」
キラーが問う。
「このままバームとの協力を続けよ」
大帝が下した命令はそれであった。
「バームと。では海底城に」
「そうだ。それと同時に奴等の監視を行え」
「御意」
四人はそれに頷く。
「それでは仰せのままに」
ダンケルが言う。
「バームは信用できぬからな」
「あのオルバンという男ですな」
「そうだ」
四人の問いに答える。
「表面ではわしに従っているがああした男は信頼されるに値せぬ。どうせ地球を征服したらわしに背くだろう」
「おそらくは」
「あの男はそういう男ですから」
「リオン大元帥の時もそうでしたから」
「うむ」
大帝はそれを聞きまた頷いた。
「急げよ、あまり時間がない」
大帝は言った。
「我等の母星ゼーラがブラックホールに飲み込まれるのはあと僅かだ」
「はい」
「それまでに地球を制圧し、ゼーラの民を移住させる。よいな」
「御意に」
彼等もまた目的があった。そこには妥協できないものがあった。だからこそ戦うのであった。
「ビッグファルコンが」
「はい」
この話はエリカ達のところにも届いていた。エリカは報告して来たダンゲに問う。
「アイザム博士の開発したマシンによって」
「そうか」
それを聞いたメルビはそれが当然であるかの様に頷いた。既に酒での芝居は止めている。そして聡明な顔でそれを聞いていたのであった。
「アイザムならば仕方がない」
「メルビ様」
「あの男が開発した超弾性金属は厄介なものだからな」
そして彼はこう述べた。
「アイザム様といえばリヒテル様の御親友」
「うむ」
メルビはマルガレーテの言葉にも頷いた。
「そしてバームで最高の科学者であられた方。その様な方が」
「それだけバームも本気だということだ」
「けれどそれでは一矢が」
「落ち着け、エリカ」
メルビは焦りを見せたエリカに対して言った。
「今ここで焦ってもどうにもならぬ。今は動くな」
「ですが」
エリカはそれでも動揺を見せていた。
「一矢が敗れたのです。あの人の敗北は私達の敗北でもあります」
「確かに竜崎一矢は敗れた」
メルビもそれは認めた。
「だが彼はまだ生きている」
「ですが」
「彼を信じろ」
メルビははっきりした声で言った。
「一矢を」
「そうだ。御前は彼を愛しているな」
「はい」
エリカは頷いた。
「ならば今は動くな。彼等の為にもな」
「・・・・・・・・・」
エリカは答えることができなかった。だがそこにもう一人彼女を止める者が現われた。
「エリカさん」
「貴女は」
それは貴族の礼装を着た美しい少女であった。
「私はリリーナ=ピースクラフト」
「リリーナ=ピースクラフト」
「地球人です。メルビ殿のお招きに応じこちらに参りました」
「リリーナ殿、よく来られました」
メルビは彼女に一礼した。
「今日お招きしたのは他でもない理由からです」
「わかっております」
リリーナは優雅に微笑んで彼に応えた。
「平和の為に」
「そう、地球とバームの平和の為に」
メルビも言った。
「よくぞ来て頂きました。このメルビ、心から御礼を申し上げます」
「いえ、私も感謝しております」
リリーナはそう言葉を返した。
「バームにも。平和を求めておられる方がいたと知ることができましたので」
「我々も地球の方々と変わるところはありません」
メルビは穏やかな声で述べた。
「いい者もいれば。悪い者もおります」
「はい」
「そして平和を求める者も。我々はこの戦いは双方にとって何の利益も生み出さないと考えております」
「そうです。地球人とバーム星人は争ってはなりません」
リリーナは彼の言葉に頷いた。
「その為に火星で話し合おうとしたのですから」
「残念な結果になりましたが」
「仕方のないこととは思いたくはありませんね」
「ええ。今からでも遅くはありません」
彼は言う。
「地球とバーム、二つの間の戦争を終わらせましょう」
「はい」
そして二人は握手した。これが何よりの証であった。彼等が平和を望んでいるということの。
「エリカさん」
メルビとの握手を終えたリリーナはエリカに顔を向けてきた。
「はい」
「今は落ち着いて下さい。大切な時ですから」
「はい」
「今我々が下手に動いてはロンド=ベルの行動の妨げになります」
「そうすれば一矢は」
「そうです。一矢さんを信じて下さい」
リリーナも言った。
「あの人は立派な方です。あの様な気高い方は他にはいないでしょう」
「はい」
リリーナにも一矢がわかっていた。一矢は愚かと言えばそうかも知れない男である。だがその求めるものはあくまで純真であり、そして一途だ。心に曇りはない。それは皆が知っていることであった。
「ですから。信じて下さい」
「わかりました。私は一矢を信じています」
エリカも頷いた。
「ですからここは」
「はい。お願いします」
(これでいい)
メルビは頷き合うエリカとリリーナを見て心の中で密かに思った。
(この二人が。そしてエリカと一矢が地球とバームの架け橋になってくれる。平和は必ず訪れる)
「ただ」
だがここでダンゲが言った。実は彼はボアダンの者である。ハイネルの命でここに来ているのだ。
「ビッグファルコン占領とは。由々しき事態です」
「それでダンゲ将軍に頼みたいことがあるのだが」
「私にですか」
「そうだ。届け物をしてもらいたい。いいかな」
「届け物」
「ロンド=ベルを勝利に導く為のな」
メルビも動いていた。平和の為に。今平和に向けての胎動もはじまろうとしていた。
第七十四話完
2006・2・14
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