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髑髏天使

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第十七話 棺桶その八


「アジビラだ。それ以外の何者でもない」
「じゃからわしはあの漫画はまともには読まん」
 博士もまた軽蔑した声で言うのだった。
「とても読むに値せん」
「その通りだ。それで博士」
「うむ」
 ここで話が元に戻った。
「その羊羹」
「そうそう、これじゃな」
 話がやっと元に戻ったのだった。
「この羊羹じゃな。美味いぞ」
「そんなにか」
「しかも安い」
 そこにこれまでつくのだった。
「早速食べてくれ。早速な」
「わかった。それでは」
「はい、どうぞ」
「お茶も」
 立ったままの牧村に対して周りの妖怪達が皿に入れられ爪楊枝まで添えられている二切れの羊羹とお茶を差し出してきた。お茶は普通の玄米茶である。
「食べて食べて」
「僕達が食べても本当に美味しいからね」
「妖怪が食べてもか」
「何言ってんだよ」
 彼等は牧村の今の言葉にすぐに反応してきた。
「僕達こそは真のグルメだよ」
「違いがわかるんだよ、違いが」
「そこが想像できない」
 これまで付き合ってきても今だに、であった。
「妖怪が人間の食べ物の味がわかることがな」
「いやいや、わしにしろだ」
 赤鬼が笑いながら彼に言ってきた。その頭の角が今にも天井に届きそうな位大きい。しかしその顔はいかついながらも実に愛嬌があり屈託のない笑みを浮かべている。
「豆腐も葡萄も大好きじゃ」
「鬼の好物か」
「左様、それに酒じゃ」
 鬼といえばやはりこれである。
「酒ものう。大好きじゃぞ」
「そうしたものの味もわかるのだな」
「わかるから好きなのじゃ」
 まさにその通りの言葉であった。
「豆腐についてもな」
「では味覚は人間と変わらないのか」
「そうだと思うよ」
 今度は河童がにこにこと笑って彼に答えてきた。
「僕はやっぱり胡瓜じゃない」
「ああ」
 河童といえばである。まさに。
「人間も胡瓜大好きだよね」
「そうだな。中にはそうではない奴もいるが」
「それと同じだよ。僕魚だって食べるしね」
「それもか」
「焼いた魚だって食べるよ」
 実際に岩魚を焼いて食べていると河童に取られたという話もある。真かどうかは不明であるが。
「もうそれこそね」
「ではやはり味覚は」
「そうじゃ。まあ同じじゃよ」
 ここで博士が言ってきた。
「妖怪によるがな」
「妖怪によるがか」
「猿だとあれだったな」 
 牧村は羊羹を手に取ってそれを食べながらまた述べてきた。皿はとりあえずは博士の机の上に置いてもらいそうして今は羊羹を食べていた。左手で皿を持ち右手に爪楊枝を持ってそれに羊羹を刺してそのうえで口の中に入れてそうして少しずつ食べていた。口の中に羊羹のその程よい弾力のある固さと小豆の甘さが広がる。それは彼が思ったより美味かった。
「渋柿でも美味そうに食うな」
「まあ猿は猿じゃ」
 博士は猿についてはこう述べた。 
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