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髑髏天使

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第十七話 棺桶その七


「それでも」
「それにはこだわらない」
 これが牧村の返答だった。
「中にはグルメぶってスーパーのものだの何だのと馬鹿にする輩がいるが」
「君は違うのじゃな」
「それは食べ物を知らない人間の言葉だ」
 こう言うのだった。
「何一つとしてな。それは似非だ」
「似非か」
「食通ぶった奴は嫌いだ」
 これは彼の個人的な嗜好でもある。
「そしていちいち店の中で騒ぐ輩も嫌いだ」
「漫画でおるのう。まずいと言って店の中で騒ぎまくる新聞記者やら芸術家が」
「あれこそ愚か者の見本だ」
 とにかくそうした存在が嫌いなのがわかる牧村の今の言葉だった。
「野蛮人の最たるものだ」
「そうじゃのう。わしもああした奴は大嫌いじゃ」
 そしてそれは博士も同じなのであった。
「他人の食うものをまずいとかあれこれ言うのならな。自分が食わないならそれでよいじゃろうに」
「世の中愚か者も多い」
 牧村はその言葉に感情を見せていた。実に忌々しげに語っているのが何よりの証拠だ。
「自分の考えが他人とは違うことを認められない奴もまたな」
「そういう奴に限って民主主義だの言うのう」
「民主主義は己の考えを言いたいだけ言い押し通すものではない」
 彼はこうも言うのだった。
「他人の考えを受け入れることだ」
「ではあの新聞記者や芸術家は民主主義者ではないのじゃな」
「ただの愚劣な野蛮人だ」
 彼にとってはそれでしかなかった。
「あの漫画に出て来る人間は殆どそうだがな」
「そうじゃな。あれはな」
 そして博士も今の彼の言葉に同意であった。
「原作者の品性じゃな」
「まさにその通りだな」
「何でも飯を食いに行ってまずければ怒鳴り散らしていたらしい」
 人間として最低の品性であるのは言うまでもない。
「あの漫画の登場人物のようにな」
「およそ食べ物の漫画を描く資格のない輩だ」
 牧村は珍しく嫌悪感に満ちた声でそれを評した。
「無論何かを食べる資格もな」
「まずいと思ったらそう思えばいい」
 博士もそれはよしとする。
「しかしじゃ。他の者も食べておるからのう」
「それを邪魔するのは言語道断だ」
「しかも店の中で騒ぐとなるとじゃ」
「営業妨害だ」
 当然犯罪行為である。つまりこの漫画に出て来る登場人物の多くは下劣な犯罪者ということになる。汚らわしい野蛮人であると共に。
「そんな奴が描いておるからのう」
「少なくともあの原作者は人間の屑だ」
 牧村はまた嫌悪感に満ちた言葉で言い捨てた。
「最悪のな」
「そうじゃな。しかも権力を濫用しておるしな」
「さらに悪い」
 このおまけつきであった。
「もっともマスコミの連中の多くがそうじゃ」
「奴等に知性はない」
 牧村の今度の言葉は軽蔑だった。
「あるのは特権意識とエゴだけだ。腐敗したらそれっきりじゃ」
「我が国のマスコミはそうじゃよ」
 博士も言うのだった。
「全くもってな。腐敗してさらに腐敗していく」
「その象徴があの漫画だな」
「読んでいればわかるのじゃ」
 描いていてはわからないことである。
「その愚劣さと醜悪さがのう」
「あれはグルメ漫画ではない」
 牧村はまた軽蔑に満ちた声で言い捨てた。 
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