魔法少女リリカルなのは 平凡な日常を望む転生者
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第79話 文化祭(初日)
文化祭当日、有栖家全員で登校してくると、皆教室の前でたむろっていた。何故中に入らないんだ?
「よ〜す」
「あっ!みんなおはよう」
「おはようなのは」
「「「「おはよう」」」」
俺達は一番近くにいたなのはに挨拶をした。
その声で俺達に気がついたのか、アリサが慌ててこっちに来る。
「やっと来た!!ねえライ、教室のドアが開かないんだけど………」
なるほど、だからみんな廊下にいるのか。
「あっ!!そういえば総大将が扉に封印をかけておいたから儂が来るまで大人しくしとけってメール来てた〜」
のんきにそう言ったライの頭を叩いた俺は悪くないだろう。
暫くすると慌てた様子でぬらさんがやって来た。
「いやぁ、すまんすまん、勝手に入られたら一生出てこれなくなったから、入れない様にしたんだった!!」
大笑いしながらとんでもない事を口走ってるぬらさん。
もう休憩所にした方がいいんじゃないのか?
「教室の中へ入ると別空間に繋がっておってな、この数珠の腕輪を着けないと迷ってしまうから、絶対に入ってはならんぞ」
「何でそんなことに!?」
「ライに折角だからおもいっきり怖くしてと言われたからな。儂久々に年を忘れて頑張ってしもうたわ!!」
またも豪快に笑うぬらさん。
それを聞いてみんなライを睨む。
「あ、あれ………?」
「ライ、帰ったらオハナシです………」
「えっ………?」
ライに死刑宣告が出されました。
「さて、それじゃあちょっとばかし、誰かに試してもらうかの………男はライの家主でいいだろう。娘は………そこの栗色の髪の娘で」
「い、い、い、い、い、嫌です、絶対に嫌です!!!」
「大丈夫だって、ほらほら」
そう言って星に数珠を渡そうとする。
「絶対にいやー!!!」
呼ばれた瞬間、星は全速力で何処かへ行ってしまった。
「星!?………レイ、星を探しに行ってくる!!」
「私も手伝おう」
「悪い、頼むぞ夜美、フェリア」
そう言った後、2人は星を追いかけに行った。
「仕方ないの………だったらアリサ嬢、君が行け」
「えっ、私!?無理です!!」
首をおおきく振り、拒否するアリサ。
「駄目だ。お主はこのクラスの代表なんだ、それぐらい当たり前だろ」
ぬらさんの言うことは最もだ。
アリサもそれを聞いて覚悟を決めたようだ。
「わ、分かりました。それなら私が行きます!!」
覚悟を決め、緊張しながら行くと言うアリサ。
「流石代表だ。それじゃあこれを」
そんなアリサと俺に数珠の腕輪を渡してくる。
「これが道を案内してくれる、これの通りに進むように」
「分かりました」
「2人共、気を付けてね………」
「怪我しないようにね」
「頑張れアリサ」
「骨は拾ってやるで〜」
「ありがとう、すずか、なのは、フェイト。後はやては帰ったら覚えてなさい」
親友逹に声をかけられ、少し、緊張が解けたみたいだ。
「じゃあ行ってくるな」
そう言って俺とアリサは中へ入っていった………
「あれ?何で墓地に!?」
教室の中に入ると景色がまさかの墓地に。
後ろを見るとさっき入った筈の扉が無くなっている。
「これは確かに迷うな………」
「な、何冷静に言ってるのよ………」
震えた声で俺に文句を言うアリサ。
俺の制服の端を掴んで離さない。
こんな弱々しいアリサは初めて見る。
やっぱりアリサも女の子なんだな………
「大丈夫だ、俺もついてるし、目印もあるんだ。無事に帰れるさ」
「べ、別にビビって無いわよ………」
そう言うものの制服を握った手を離そうとはしない。
まあ強がるのもアリサらしいか。
「そうか、じゃあとっとと進むぞ」
俺はそう言って、アリサを引っ張るような形で歩き始めた。
「きゃー!!!」
「おおっ!?」
「ぎゃー!!!」
「うわっ!?」
「いやぁー!!!」
「マジか!?」
「何で……アンタは……そんなに……平気なのよ………」
「いや、充分驚いてるぞ………」
最初の墓場では、鬼火に追いかけられたり、一つ目の人が追いかけてきたり、傘に一本足が付いた妖怪が飛んできたり、白い肌をした女の子が雪を吹いてこっちに手を振ったりその他色々………
途中からアリサは俺の手を繋ぎ、引っ張っていくように走って逃げていた。
なので俺はアリサの思うがままに進むしか無かった。
「それにしてもここどこよ………」
墓地を抜けたのか景色が変わっていて、いつの間にか学校の校庭に俺達はいた。
学校と言ったが、木造でかなり古そうだ。
明らかにあそこに何か居るって事が分かる。
「数珠もあの校舎の中を示してる………」
数珠の腕輪から浮かび上がった矢印は真っ直ぐ校舎を目指していた。
「まさかあの中に入れって………?」
「そうみたいだな」
「ううっ………」
涙目で校舎の方を睨むアリサ。
「行くしかないぞ」
「分かってるわよ!!だけど絶対に手を離さないでね!!」
そんな少し可愛らしいアリサに苦笑いをしながら俺達は中へ入っていった………
そして校舎の中はさっきの墓地より凄いこと凄いこと。
ありきたりな人の模型がいきなり目を見開いて動いてきたり、誰もいないのにピアノは鳴ったり、何故か人面犬が沢山追っかけてきたり、口裂け女が刃物持って斬りかかってきたりとマジで怖かった………
そのお陰で………
「零治、離れないでよ………」
もう俺の背中にピッタリくっついて歩くアリサ。
とうとう恐怖心が羞恥心を上回ったみたいで、走って逃げるとき以外、この状態で歩いている。
これを見れば男共は羨ましいシチュエーションなのだろうが、俺自身もマジで怖く、アリサの胸の感触も感じる間も無く、これ以上ビビらせないようにと気を張るのに精一杯だった。
「しかし、いつになったら出られるんだ?」
さっきから上に昇ったり下に降りたりと階段を昇り降りしながら廊下を進んでいるのだが、一向に景色が変わらない。
「れ、零治………私逹、もう帰れないの………?」
その場に座り込み、弱々しい言葉を吐くアリサ。
もういつもの面影すら感じなくなってきた。
精神的にも限界になってきたのだろう。
そんな状態になってきて俺にも焦りが出てくる。
早く出ないと本当にアリサがおかしくなる。
そんな時だった。
「ガアアアアアアア!!」
天井まで大きい、影みたいな妖怪が大きな口を開けてこっちに迫ってくる。
「アリサ、逃げるぞ!!」
「ま、待って………!」
アリサは立ち上がるのに苦労している。
走り回ったのと精神的に限界なのが原因かもしれない。
「アリサ、しっかりしろ!!」
「もう私の事はいいから先に………」
「馬鹿野郎!!冗談でもそんな事言うな!!」
俺はアリサを背負って、走り出す。
「零治!!」
「いいから黙ってろ!!」
俺は懸命に走る走る!!
しかし、怪物は少しずつ追いついてくる。
「零治、もういい!もういいから!!」
「絶対に嫌だ!!」
走りながらも俺は叫ぶ。
こうなったら転移で………って!!
「ラグナル無いからリミッター解除出来ねえ!!」
集中力を切らしたのがいけなかったのか、俺は何かに足を引っ掛けて転んでしまった。
「キャ!?」
「アリサ!!」
アリサも横に落ちてしまい、転がってしまう。
しかも怪物はアリサの方に向かっていく。
「アリサ!!」
咄嗟にアリサの方に向かい、覆いかぶさる様に、アリサを庇う。
「零治!!」
「逝くときは一緒だ!!」
そんな事をアリサに言って、俺達は暗闇に包まれた………
「あれ?光………?」
光が見えたかと思うと、扉の前に出ていた俺達。
しかし、何故かみんなの目線がキツイ………
「レイ………何をしているのですか………?」
「何をって………あれ?」
いつの間にか帰って来ていた星に言われ、自分の状態を確認する。………俺とアリサは抱き合っていた。
アリサは未だに俺の胸で目をつぶったままだ。
「アリサ、アリサ………」
耳元で声をかけるとアリサが目を覚ます。
しかし、俺との状況を見るや、顔が真っ赤になって………
「バカー!!!」
リバーブローをかましてきた………
「で、どうだった?」
「廃校舎の場面は無くしたほうが良いです。あれじゃ精神崩壊しますよ………」
腕組みしているぬらさんに感想を言う。
あの後、赤くなったアリサはどっか行ってしまい、悶えている俺に対して嫉妬に燃えたSBS団が俺を囲み蹴りやがった。
星逹も助けてくれないし、俺はされるがままだった。
神崎、何気にお前の蹴りが一番痛かったぞ………後で覚えてろ………
「そんなに怖いのですか………?」
「ああ、星が1人で入ったら間違い無く帰って来れなくなるな」
「………レイ、入るときは絶対一緒でお願いします」
まあお前は絶対に入らないだろうけどな………
「なるほどの………墓地だけじゃつまらんと思い、幽霊にも協力を仰いだが、流石にやりすぎたか………分かった、廃校舎の幽霊逹も墓地に呼んで墓地だけにするか………」
何だか解決になっていない様な気がするが、マシにはなったか………
「後、出口が妖怪に食われないと出れないとかどんな罰ゲームですか。あれじゃ誰も出られませんよ………」
「ふむ、そこも駄目か………人間は臆病で勝手が分からん」
臆病とかの問題じゃないから。絶対に無理だから。
「後、リタイヤしたい時にリタイヤ出来るようにしてください。じゃないと一生出れなくなる可能性が出てきそうなので」
「分かった、そうしよう」
どうやるのか分からないがこれなら問題無いだろう………
俺が一通り指示を出し終わると、ぬらさんはドアを開け、誰かに指示をし始めた。
そしてものの2分位で話終え………
「よし、今度は誰が入ってみるか?」
早すぎだろ………
「はいはーい!!僕と星が行きまーす!!」
「えっ!?」
「そうかそうか、まあカップルだけとは限らんからな………よし行ってこい!」
扉を開け、数珠を2人に渡す。
「じゃあレッツゴー!!」
「えっ!?」
星が拒否する前にライが無理やり中に入れてしまった。
「夜美………」
「レイ、無事に帰って来られたら抱きしめてやれ………」
夜美がそんな事言うなんて珍しいのだが、俺はその通りすることにした。
結局、あの後、3分程で帰ってきた星。
さっきのSBS団のダメージのある体で何とか抱きしめると、安心したのか泣き始めた。
もう、周りの目を気にせず大泣きだ。
そんな中ライは一人で「あ〜楽しかった!!」と言いながら出てきた。
そんな余裕の様子を見て、クラスの雰囲気が『今度のやつなら行けるんじゃねえか?』って空気になり、結局クラスみんなも一度試すことになった。5人ずつ入って行ったのだが、我がクラスの魔王や、怖いものなどなさそうな狸さんもマジのお化け屋敷?には勝てず、最高で10分耐えたすずか班が最長だった。
文化祭が始まる前からライを除いたクラスの皆が既にヘトヘトだ。
「………これから文化祭だけど、みんな帰る?」
そんな様子を見たシャイデがそう言ってしまうのも悪くないと思う………
「これから文化祭を開催します!!」
会長の宣言で9時に文化祭が始まった。
生徒は既に女装男装済ませ、それぞれ色んな店を見に行っている。
そんな中我がクラスは………
「ねえレイ行こうよ………」
「もう少し休ませて………」
執事服を着たライが俺を揺すりながら言う。
俺が昔、仕事でシャイデの付き添いで着ていた執事服を持ってきたのだろう。
しかし、胸元がかなりキツそうだ。
………胸に力を入れたらラOュタの鉱山のおじさんみたいな事が出来そうだ。
それはともかく、クラスのみんなは未だにグロッキーが治ってなかった。
空き教室で皆動かずにその場でじっとしている。
俺自身も未だにダメージがデカイ。精神的にも肉体的にも………
ちなみに星は泣き疲れて眠ってしまい、シャイデに頼んで保健室へ運んで貰った。
「もう!みんなせっかくなんだし、もっとテンション上げていこうよ!!ほらほら!!」
「ライ、本当に黙ってて」
濁った目で言うフェイトのキツい一言に流石のライも黙る。
しかし、確かに初めての文化祭でテンション高いのも分かる。
だけど空気読んでほしい。
「ライ、悪いがもう少しかかる。おこづかいやるから先に楽しんで来い」
「えっ、良いの!?ありがとうレイ!!」
抱きつかんで良いからさっさと行ってくれ。
「大丈夫になったら連絡してね〜!!」
そう言い残してライは1人で行ってしまった。
さて、流石に10時頃には皆立ち直り、それぞれ友達やカップルで周り始めた。
そして我がクラスの肝試し(流石に、屋敷では無いので変えた)もとうとう開店する。
出来ればトラウマ物なので来て欲しくないが………
入ったらいきなり墓地とかそれだけで混乱しそうだし………
取り敢えずジャンケンで負けた3人に店番をさせ、1時間交代で順番にクラスの皆でやることになった。
アリサが未だに帰ってこないのですずかがまとめたのだが、アリサは一体何処へ………
まあそれは取り敢えず置いておいて、着替えの時間だ!
「はい、零治君の衣装はこれや」
まさかのドレス。しかも真っ赤!!
胸元が強調される様に大胆に肌が露出しているちょっとセクシーなドレス、そして長い髪のかつら。
しかし何故にこんなドレスを!?
ほかの男子は制服借りてんのに。
「会長が零治君用やって」
会長………
「そしてこれ詰めといてね」
そう言ってなのはが丸めた紙とブラジャーを持ってきた。
「良介!!圭!!」
我がクラスの親友に助けを求めるが、どちらも似たような状況だった。
良介は彼女の渚に、圭は他の女子に、しかも化粧までさせられてる………
「か、神崎は!?」
そう思い、神崎の方を見ると………
「「「「「「「「「「付き合ってください!!」」」」」」」」」」
何故かSBS団の奴らが円を描いて告白してた。
その中心には………
「や、止めろ!!俺は男には興味が無い!!」
神崎がいた………
あいつは銀色のドレスを着ており、綺麗な足、綺麗な腕、スレンダーな体型、綺麗な顔、元々少し長めでしかもドレスと同じ色の髪。どう見ても女性にしか見えない。
「神崎君綺麗………」
「負けた………」
「これでBLが………」
ヤメレ。
「元々イケメンやったからなぁ………まあいい気味や」
「しかしはやて………ドンマイ」
「………それどういう意味や?」
俺の顔を化粧しながら足を踏んでくるはやて。
「しかし、零治君も結構綺麗な顔してるやないか。これは化けるで〜」
「嫌だし。それにしても後ろにいる方々は何をしているのでしょうか?」
はやての後ろには携帯のカメラを構えているなのは、フェイト、すずか。フェリア、夜美が。
「だって家の家族が見たいって………」
「私もお母さんが撮ってきなさいって」
「私は忍姉さんが………」
「私はチビッ子逹やあの姉妹逹に頼まれた」
「我はせっかくだから………」
もう嫌………
あの後着替え終わった俺は他の人の服を見ていた。
基本、準備できる人は準備してくるようになっているが、無い人は女子の制服(女子の場合は男子の制服)でもOKだったらしい。
俺、知らされて無いんだけど………
まあ俺専用のドレスがある所をみると強制的に着せられるんだろうけど………
なのはは多分だけど恭也さんの高校の制服を着ている。
フェイトはクロノさんの管理局の制服だと思う。ここで着ていいのだろうか?
すずかは執事服。ライとは違い、中々様になってるな。
はやてはまさかのクロノさんのバリアジャケット。どうやって作ったのか分からないけど、本人が見たら絶対怒るだろうな………
フェリアはスカさんが作ってくれた銀色の甲冑。男性魔導師で人気のデザインらしい。何でそうなった?
夜美は俺が小学生の時に着ていたジーパンとジャケット。
まあ小6の時既に160近くまで身長があったからちょうどいいのだろう。
男装とは言い難い気もするが………
ちなみにアリサは分からないが寝ている星も俺が昔着ていた服を用意したって夜美から聞いた。
そして俺は夜美と一緒に回ってる。ライから連絡が凄いので取り敢えず合流するつもりだ。
ちなみにはやては会長の所に、フェイトとなのはは店番、すずかはアリサを探しに、フェリアは妹達の様子を見に行った。
フェリアはかなり妹LOVEだと思う………
まあ負ける気は無いがな!!
「やはり活気があるな………」
「そうだな。若気の至りって奴だな………」
並んでいる姿を見るとデートじゃないかと思うかもしれないが、こんな格好ではとてもじゃないけどデートなんて気分で歩けない。
しかし、夜美とぶらぶら歩くこと自体は結構楽しい。
ライはアグレッシブだし、星も結構連れ回す所もあったりするので、気長にのんびりと出来るのは夜美と一緒の時だったりする。
「たい焼きか………食べてみるか?」
「ああ、美味しそうだ」
3年の教室の前で学生の焼いた物とは思えない良い匂いをしている店があったので、俺達はたい焼きを買い、食べながらゆっくりライの所へ向かった………
「あっ!?やっと見つけた!!………って誰!?」
俺を見るなり誰と聞いてくるライ。
その両手は既に大量のビニール袋で一杯だった。
「私、Dクラスの有栖川レイカって言いますぅ〜」
「ぶっ!?」
隣でジュースを飲んでいた夜美が吹き出す。
「えっ、そうなんだ………知らなくてごめんなさい………」
今年の文化祭の意図を忘れているのか、普通に気づかずに謝るライ。
夜美は俺の後ろに隠れて笑うのを堪えている。
「謝らなくていいですよぉ〜、私って目立たないからぁ〜」
「くくく………」
もう我慢できなさそうだな夜美………
だがもう少しもってくれ。
「そんな事無いよ!!充分綺麗だよ!!」
慌ててフォローするライに夜美の我慢は限界だった。
「あははははははは!!!」
「えっ!?なんでいきなり笑ってるの?」
いきなり笑い出した夜美を不思議そうに見るライ。
そんなライに夜美は腹を抑えながらも話始めた。
「だ、だってな………そいつ………レイだぞ」
「…………………えっ!?」
「だからレイだ」
「えええええええええええええええっ!?」
まあ気持ちは分からんでも無いがな。
ぶっちゃけ自分で鏡を見ても誰だか分からないし………
まだ信じられないライに俺は、
「てへ」
目にピースを当て、一生懸命可愛い子ぶってみた………
「はぁ、はぁ………」
着替え終わってから女装した男子が迫ってくる………
そんな味わいたくもないモテ期に痛い目に遭ってる俺は学校中を走り回っていた。
どこにいても、ナンパをしてくる女装男。
本当に勘弁して欲しい………
「キャ!?」
不意に誰かにぶつかり、倒れそうな所を何とかキャッチした。
「何すんのよ!!………ってアンタもしかして神崎?」
「ああ、加奈か」
加奈の衣装はタキシードか………
余り違和感を感じないほど似合っている。
「な、なに見てるのよ………」
「似合ってるな」
「何?男装が似合ってるとでも言いたいの?」
ドスのある声で俺に言ってくる。
しまった、男装が似合ってるなんて言われれば誰だって怒るよな………
「………まあ私自身似合ってるって思ってたし、余り気にしないんだけどね」
さっきの様子がケロッと変わりいつも通りの口調になる加奈。
しかし前の時もそうだが、俺ってもしかしてからかわれてるのか?
「だけど女性に男装似合ってるなんて滅多に言うことじゃないわよ。言葉には気を付けなさい」
「………ああ、肝に命じておくよ」
「分かればよろしい………しかしあんた女装似合ってるわね………」
直ぐ前に言葉に気を付けろと注意してなかったか?
女子もそうだったら男子だってそう思うと思うのだが………
「ああ、お陰でナンパされてそれに逃げてる所だ………」
「あー、ドンマイ………」
物影から覗いてる男子生徒達を見て、加奈が呟く。
「加奈がいるからこっちに来ないが………」
「………それどういう意味?」
加奈はSBS団の中で美人と評価を得ているが、それと同時に大変危険と評価されている。
俺も昔は回し蹴りされたりとこの身で体験済みなのでよく分かる。
「美人だがそれと同時に危険だって事さ」
「まあ綺麗なバラには刺があるからねえ〜」
物は言いようだな。
「この際だから一緒に回る?さっきの話の通りなら私と一緒の方が助かるんじゃない?」
「いいのか?」
「前助けてもらったお礼よ。あっ、だけど何かおごってね」
お礼じゃないし………
まあ、加奈らしいか。
「分かった、よろしく頼むよ」
「よし!それじゃあ行きましょ!!」
俺は加奈と共に文化祭を回る事になった………
色々引っ張り回されたが、とても楽しかった。
「はあ………」
俺は階段に座り、ため息をつく。
ニートな俺のデバイス、レミエルが隠れて作っていた衣装、婦警の衣装を着ている。
何故婦警なのかと言うと、ウェンディと共にハマっているドラマ、『レディポリス』を見て、作ったとか。
しかし、家事など出来ないもんだと思っていた俺にとっては予想外で、自信満々に見せられたときは、だったら手伝いしろ!と逆に説教してやった。
まあ、結局他の衣装も無かったからこれを持ってきたのだが………
「まさか、制服OKだったとは………」
それは俺と恐らく零治にも知らされていない事。
と言うよりも元々皆は制服を借りるつもりだったらしい。俺専用のドレスが有ったときは本当に焦ったが、俺は婦警の衣装があるのでそっちにした。
レミエル、感謝する………
あんなドレスを着るくらいなら婦警の制服を着たほうがマシだった。
のだが………
「実際着てみると恥ずかしいな………」
いざ歩いて見ると皆に注目されて、結局誰も居なさそうな階段に腰掛けてる。
殆どの人が女子の制服の為、どうしても注目されてしまう。
しかし、さっきドレスを着た美人が、女装した男逹に追いかけられてたな………
日程を間違えて外の人が入ってきたのか?
それにしてもどこかで見たような顔だった様な………
「あれ、桐谷兄?何してるんスか?こんな所で………」
ウェンディがアイスをかじりながら上からこっちに降りてくる。
その隣には菊地が一緒にいた。
ちなみにウェンディと菊地はお揃いでガンマンの格好をしている。
こちらもさっきのレミエル同様、ゲームをしていて着てみたいと思い、作ったらしい。
家事スキルが全く無いと思ったのにレミエルといい、ウェンディといい………
そう言えばセインとノーヴェは加奈に相談してたな………
少し気になるがまあいいか。
「桐谷兄?」
「ああ、悪い。それで何だっけ?」
「何してるかって聞いたんスよ!!」
話を聞いてなかった俺に怒ったのか少し強めの口調で話すウェンディ。
「こら!何年上にそんな態度とってるの!!」
後ろから頭を叩く菊地。
「流石ドリル、いいツッコミっス!!」
「アンタは本当にぶれないわね………」
頭をさすりながらサムズアップするウェンディ。
そんなウェンディに呆れる菊地。
しかし菊地も初めて会った時と印象が大分違う。
初めて見たときは総選挙をした時か。
あの時はアイドルで自分が一番だと自意識過剰………とまで言ってしまうと失礼かもしれないけど、その様に感じた。
だけど今は、友達に振り回されてる苦労人って感じだな。
………苦労かけて申し訳無い。
今度何かお礼をしないとな………
「桐谷兄、これからレイ兄のクラスに行ってみようと思うっス、桐谷兄もどうっスか?」
「俺はもう少しここにいる。お前ら2人で行ってくるといいさ」
「そうっスか………ならそうするっス。行くっスよドリル!」
「ちょ!?だから引っ張んないでって………」
そう言って慌ただしく行ってしま………
「あっ、今、クラスでセインとノーヴェが店番してるっス、せっかくだから見に行ってあげてっス」
柱の影からそう言って今度こそ行ってしまった。
「………せっかくだし行ってみるか」
俺はそう思い腰を上げた………
「い、いらっしゃいませ………」
「………」
ウェンディのクラス、アニマル喫茶は結構な賑わいだった。
しかしお客が女装した男子が多いので気持ち悪い。
まあそんな事は取り敢えず置いておいて………
「何してるんだフェリア………」
メイド服(ネコ耳ミニスカート白ニーソ)のフェリアに俺は突っ込んだ………
「妹逹に休みの子が出たから手伝ってくれと言われて………」
俺の席にコーヒーを持ってきてくれて、フェリアも俺の向かい側の席に座った。
どうやら休憩を貰ったらしい。
しかし………
「かなり似合ってるぞ」
「恥ずかしいから勘弁して欲しい………デパートの時を思い出したぞ………」
「デパート?」
「そうか、言ってなかったか」
「何だよ、教えろよ」
「いいや、知らなくていい。というより聞かないでくれ………」
どうやら黒歴史のようだ。
「だが、楽しそうじゃないか」
「確かに妹逹と一緒に何かをするって機会が、アジトでも少なかったから楽しいと言えば楽しい。だが格好はどうにかならないものか………」
確かにフェリアだけ特別で他の皆は普通である。
セインも普通の物だし、ノーヴェに関しては厨房らしい。
………最近料理を手伝い始めた事で少しずつ料理に興味を持ち始めたノーヴェ。料理の腕は大した事は無く、まだまだって所だろうが、それでもマシな方なのだろう。
「桐谷!これノーヴェから!」
そんな事を思っていると頼んでもいないのに、真剣な表情でセインがホットケーキを持って来た。
少し焼きが足らない様にも感じるが、それでも家で作る料理よりかはマシそうだ。
うん?よく見るとノーヴェがこちらを覗いてる?
セインも俺の顔をじっと見ている。
………もしかして味が気になるのか?
取り敢えず俺はホットケーキを食べてみる事にした。
ナイフで切り、フォークで切ったホットケーキを刺す。
そして口の中に入れた。
うん、少し生焼けの気がするが十分に美味しくできている。
「うん、なかなか………」
「本当!?」
「ああ、悪くないぞ」
「やったねノーヴェ!」
「バ、バカ!バレるだろ!!」
まあちょっと意味が違うが、顔が丸見えだった為、見ていた事に気がついていたけどな。
「中々よかったぞノーヴェ!」
聞こえる様に大声で感想を言ってあげる。
「そ、そうかなぁ………」
恥ずかしそうに頬を掻くノーヴェ。
何だか成長が見れたみたいで嬉しいな………
あながち零治をバカに出来ないかもな。
「それじゃあ私も………」
そう言ってフェリアもホットケーキを食べる。
「どう………?」
「ああ、美味しいぞ………」
「「やったー!!」」
姉に褒めてもらえたのが嬉しいのか、客そっちのけで抱きつくセインとノーヴェ。
だが、フェリアにはなんだが少しショックを受けているように見える………
「しかし、ノーヴェも料理出来るように………私も………」
以前、星にフェリアの料理した時の話を聞いた事があるのだが、それはもう酷いらしい。最初の時なんかは自身のISで料理しようとしたこともあり、星はとても苦労したようだ。
(こりゃあ、星も大変そうだな………)
俺は苦笑いしながら再び仕事に戻ったフェリア逹の様子を見ていた。
さて、ライと合流し、暫く歩いていると、色んな所で俺達のクラスの話題が聞こえてくる。
まあ想像通り、今まで味わった事の無い恐怖として浸透していってるみたいだ。
そして、俺の店番の番が回ってきた。
「………時間か、じゃあ俺教室行くな」
「うん、分かった〜」
「出来れば星の様子も見に行ってくれ」
「ああ、任せろ」
取り敢えず伝えたい事を言った俺は、自分のクラスへと向かった。
「おっ、はやて早いな」
「会長に相談事をされて、それが終わったのがついさっきなんよ。だからどこも寄らず真っ直ぐ帰ってきたんや」
「そうだったのか………」
取り敢えず会長がはやてに何を相談したのかもの凄く気になる。
「はやて、どこも寄ってないなら食うか?ライの奴が早とちりして残った食い物だけど」
「おおー!!ありがとな〜」
そう言ってたこ焼きの入ったパックを開け、爪楊枝で食べた。
「………不味い」
「まあ文化祭だからな」
「なるほど」
それでも残さず食べるはやて。
「しかしアリサはどこに行ったんだろうな………」
「すずかちゃんが探しに行ったんやけど、さっき見つけたって聞いたで。ただ一人にして欲しいって言われたらしいんや」
マジか………
絶対あの時の事を気にしてんだろうな………
だけど、店番位来て欲しい。
「しかし暇やね〜」
「暇だな………」
俺達が言ったように俺達のクラスの前の廊下には誰もいなかった。
だが、今中にいるのかもしれないし、マジで怖いと噂が広がり過ぎて、来ないのかもしれない。
「まあ楽でいいか〜」
「そうやね〜」
と、こんな感じで俺とはやてはダラっとしていた。
「そう言えばはやて」
「何や?」
「お前、いつからそんな性格になった?」
「いきなり何を言うとるねん」
「だってな、平行世界のはやてはとても素直な子でさ、何であんなに素直で可愛い子がこんなになってしまったのかって残念で残念で………」
「………喧嘩売っとる?」
だって事実だし………
「俺の世界のはやての事を話したら、『私、絶対道を踏み外さへん!!』って力強く言ってたぞ」
「何でや!?私だって………まあ少し素直じゃないかもしれへんけど、可愛いやないか」
冗談だろうが、自分の事を可愛いと口にするのははやてくらいだろうな。
まあフェイト辺りがそんな事言ったら今度こそ嫉妬に燃える女子に何をされるか分からないけど。
「まあ可愛いわな。だけど素直さなんて微塵も………」
「何を言っとるねん!!この私のどこが素直じゃ無いって言うんや!!」
「全部」
「ぐはっ!?」
吐血して倒れ込むはやて。
ちゃんとトマトケチャップを口の近くからまき散らす辺り芸人だよな〜
「ちゃんと拭けよ」
「そこは『大丈夫か!?』ちゃうんけ!?」
「はやてはこんなもんじゃ死なない。倒すには聖剣ルシファーが………」
「私はラスボスかいな!?しかも聖剣と悪魔のはずのルシファーが矛盾しとるし………」
「倒して手に入る物はおっぱいデータ」
「残念、データは私の頭のメモリースティクの中や!!」
「ちなみに容量は?」
「3ギガ」
「少な!?」
「人の脳ってこんなもんや無いの?」
「いいや、人には無限の可能性があるっス!!」
「そうだ!!人は夢に向かってどこまでも走っていける!!」
「脳の話から無限の可能性となって何で夢に行くんや?」
「いや、無限の可能性だったらやっぱり夢じゃね?」
「私、将来は日本の救世主になるっス!!目指すはALRKING」
「ウェンディ、それアウトー!!」
「ウェンディの場合はQUEENやしな」
「いや、そこは重要じゃ無いんだけど………」
「ならPRINCESSやな」
「だ〜か〜ら〜」
「もういい加減にしなさい!!!」
菊地カナタに怒鳴られ、俺達3人のトークは止まった………
「何でそんな訳の分からない話で盛り上がれるんですか………」
そんなカナタの呆れた言葉にいや〜と恥ずかしがる俺達3人。
「褒めてませんから!!………っとそれより、中入れますか?」
「ああ、いいけど中に入るのか?」
「噂なら聞いたっス。私の武勇伝並に広がってる噂がどれくらいなのか確かめに行ってくるっス!!」
そう言って勝手に入ろうとするウェンディ。
「ちょい待ち!!これを着けて行け!!」
俺は慌てて2人を止め、数珠を渡す。
「これは?」
「それが道案内してくれるから。無くしたら帰れなくなるから絶対に無くすなよ」
「えっ!?それってどういう………」
「分かったっス!!それじゃあ行くっスよ!」
「あっ、ちょっと今先輩が大事な事を………」
そこで完全に2人は中に入っていった。
「はぁ、また暇だなぁ〜」
「そうやね〜」
そして俺達はまたくだらない話を始めた………
「星?」
「あっ、はいどうぞ」
星の寝ているであろうベッドのまで行って呼んでみると星の声が聞こえた。
返事を聞いたのでカーテンの中に入って行った。
「起きてたか」
「はい………ってどちら様?」
そうか、そう言えば俺の女装を見てなかったな。
だったら………
「有栖川レイカですぅ〜」
「レイですね。見舞いですか?」
何事も無かったかのようにスルーしないでくれますか星さん………
しかも誰だか分かってたろ絶対………
「ああ、そうだよ。文化祭ももう終わりなのに、まだ保健室に居るって聞いたからな」
「そうですか、ありがとうございます」
そう言いながら布団を畳む星。
流石、手際の良いこと。
「けれど私って何で寝ていたのですか?よく覚えていないのですが………」
あんなに大泣きしてたのに覚えてないのか………
まあかなり嫌な記憶を無意識に忘れる事もあるって聞いたことがあるから恐らくそれだろう。
「じゃあ取り敢えず近くのベンチに移動しないか?歩きながら説明するから」
取り敢えず俺達は保健室を出た………
「ああ、確かに覚えが………」
説明してると思い出したのか顔が真っ赤になる星。
まあ気持ちも分かるけど………
「明日からどんな顔して学校に行けば………」
「大丈夫だよ、みんな体験してるし、その恐ろしさも身に染みて分かってるから誰もお前を笑う奴なんていないぜ。もしそんな奴がいたら俺が文句言ってやるよ!」
「レイ………」
そして俺は袋からさっき買ったお好み焼きを取り出し、自分と、もう一つを星に渡した。
「ほい」
「ありがとうございます。あの………もう時間も無いですし、どんな店があったか教えてくれませんか?」
星の言うとおり、今の時刻は2時半ちょっと過ぎ。
文化祭は3時に終わりなので後20分弱しかない。
なら明日のために教えてあげるのも悪くないか。
「そうだな、食べながら説明するよ」
後20分ちょっと、お好み焼きを食べながら俺達は時間になるまで話していた………
さて、放送で文化祭終了の合図があり、朝代わりに使った空き教室に集まっていた。
しかしそこにもアリサの姿が無い。
う〜ん、朝の事そんなに気にしてるのか?
「なあすずか、アリサって何してるんだ?」
「アリサちゃん?暫く一人にしてって言われてから会ってないから分からないけど………」
「何処にいるか分かるか?」
「多分まだ屋上にいると思う」
「そうか………」
「気になる?」
「まあ俺のせいで恥ずかしい思いさせたしな………ちょっと謝ってくるわ」
そう言って俺は教室を出ていった………
「ファイト、アリサちゃん………」
アリサ………
「はぁ………」
屋上の柵に寄りかかって今日の朝の事を振り返る。
お化け屋敷の中に入ってからというもの、アイツに迷惑ばかりかけたのに………
リバーブローだなんて………
流石にあれはいけなかったと思う。
それにしても今日のアイツはかっこ良かった。
どんな時でも私を引っ張ってくれたし、足手まといになった私をおんぶしてまで逃げよう
としてくれた。
「かっこよかったな………」
アイツの顔を思い浮かべるとどうしても顔が赤くなるのが分かる。
こんなんじゃみんなの前に顔出せないよ………
「どうしよう………」
私は携帯の画像のアイツを見ながらずっとそうしていた………
「文化祭も終りか………」
結局文化祭の放送が流れるまで私はその場を動かなかった。
放送が聞こえてきてやっと私も我に返る。
「いい加減戻らないとみんなに心配かけちゃうな………」
そう呟いて携帯に保存してある画像を見る。
当然零治が写ってる画像。
よし!大丈夫だ、問題ない!!
そう思って入口へ向かうと………
「アリサ!!」
アイツが屋上にやって来たのだった………
「アリサ!!」
屋上に来てみるとアリサはこっちに向かっていた。
どうやら俺が来なくても帰る気だったみたいだな。
「な、な、な、何でアンタがここに!?」
意外だったのかかなり慌てるアリサ。
近づくと顔を俯いて俺を見ようとしない。
「一言言いたくて来んだ」
「ひ、一言って!?」
声が裏返ってるんだけど………
まあ取り敢えずいい。先に俺の言いたい事を言わせてもらうことにしよう。
「アリサ………すまなかった!!」
思いっきり頭を下げて謝る。
顔を上げるとアリサは困惑しているようだ。
「何言ってるのよアンタは………アンタ何かしたっけ?」
「直ぐに離れなくてみんなの前でくっついていた事に怒ったんだろ?だったらそれは俺のせいじゃないか」
「何言ってるのよ、あれは私が………」
「いや、あれは俺のせいだ………俺が直ぐに我に返ってアリサを離してれば、今日だってすずか逹と楽しく文化祭を楽しめた筈なんだ………」
それが俺の一番気にしてること。
何だかんだ言ってアイツらも目の前にいるアリサも文化祭を楽しみにしていた筈だ。それなのに俺のせいで1年に1度の文化祭を不意にしてしまった。
「本当に、すまなかった。罰は何でも受ける。だから………!!」
俺がそう言うと呆れた様子でため息を吐いた。
「全く、コイツは何を勘違いしてるのかしらね………」
小さく呟いた為に何を言っているのか分からない。
だけど恐らく俺についての事だろうな………
「まあいいわ!!じゃあ目を瞑りなさい!!」
「目を?」
「早く!!」
急かされ、俺は目を瞑った。
一体何を………!?
俺の右頬にある温かい感触………
まさか………
目を開けると目の前にアリサの顔が。
「ありがとう助けてくれて。さっきのはお礼よ………」
弱々しく告げて走り去ってしまった。
けれどさっきのは………
「キス………だよな………?」
俺は右頬に僅かに残る感触を右手で確認しながらその場に立ちすくんでいた………
フェイト………
「あれ?零治?」
私がトイレから出ていくと、慌てた様子で走っていく零治を見た。
何を焦ってるか分からないけど、何だか重要そう。
「ちょっと付いて行ってみよう」
私はバレない様に零治に付いてみることにした………
「屋上?」
零治は階段を上がっていき、屋上に向かっていた。
屋上のドアが閉まった音を聞いてから私も上がる。
そしてドアを少しだけ動かし、見えるようにした。
………何だか私覗きみたいだな。
首を振って今考えた事を忘れる。
そして外の様子を見てみると、どうやらアリサと何か話しているようだった。
零治が頭を下げてる所を見ると謝ってる?
………また何かしたのかな?
そう思ってみてると………
「えっ………?」
アリサが零治の右頬にキスをした。
「どうして………?まさかアリサ………」
考え始める前にこっちに来るアリサに気がついた私は急いで階段を降り、右の柱に隠れた。
アリサは直ぐ行ってしまい、次に来た零治も何だかぼーっとして行ってしまった。
それにしても………
「アリサって零治が好きなの?」
直接じゃなくてもキスしたんだ。
だったらアリサは零治の事が好きだよね。
だったら友達として応援してあげなきゃ……………なのに、
「どうしてこんなにも胸が苦しいんだろう………」
私にはこの胸の苦しみの正体が分からなかった。
「………それで明日の見回りの順番は………って零治君、聞いてる?」
「あっ、はい………」
「じゃああなたの順番は?」
「………午前10時から1時間と午後1時から1時間」
「まあ聞いてたみたいね。だけどどうしたの?何だか意識が別の所にある感じだったけど……」
「いや、別に………」
会長が真剣に心配してくれるなんて珍しい………
まあぶっちゃけ半分以上聞いてなかったけど、自分の時間帯だけはちゃんと忘れずに聞いてたから何とかなった。
現在、生徒会室で明日の打ち合わせ中………なのだが、さっきのアリサの出来事で頭が一杯。
全然集中出来ない………
そんな俺を心配したのか隣に座ってるはやてが声をかけてきた。
「なあ零治君、何かあったん?」
「いや、何も………」
「嘘や。だっていつも以上におかしいもん。絶対何かあったに決まっとる!!」
そんなに力説しなくても………
元々おかしいと思われてたのか俺って?
「はやてだけにはおかしいとは言われたくない」
「いやいや、私と比べちゃアカンよ。私のレベルは激辛やからな!」
「なんでぶよぶよのゲーム難易度!?」
ぶよぶよは言わずともがな、あっちにある某落ちゲーに似ているゲームである。
「それに比べて零治君はまだまだ甘口やな………」
「はやてとのレベルが大きすぎる!!俺は一体どうしたら………」
「笑えばいいやない?」
「何故にそこで………」
「桐谷君、そこの2人を止めて」
「………了解です」
結局桐谷に止められたが、何かスッキリした。
「………どうや?」
「ありがとうはやて」
これがはやてなりの気の使い方なんだろうな………
明日何かおごってやろう。
さて、はやてのおかげで幾分楽にはなったものの、問題解決には全くなっておらず、俺は家に帰って直ぐ、自分の部屋に入った。
アギトが俺の名前を呼んだ気がしたが、悪いが後にしてもらおう。
取り敢えず、俺はベットにダイブして、アリサとの出来事をもう一度良く考えてみた。
アリサは俺にキスをしたが、それは本当にお礼だったのだろうか………?
ハッキリ言って俺はアリサに好かれるような事をした覚えは無い。お化け屋敷の事だって、男としてあの行動は当然だし、誰が一緒でも同じ行動に出ていたと思う。
だが、それは俺の価値観であって、アリサは違うかもしれない。
アリサが今日の出来事であんな行動に出たのなら余りにも軽はずみな行動だと思う。
そもそもキスと言うのは、心から大事だと思った人に贈るのもであって、助けられたからってするものじゃ………って何を考えてんだ俺。
そもそも、右頬にキスされた位で考え過ぎだし、アリサはれっきとしたお嬢様。社交挨拶でキスをすることなんて結構あるんだろう。
だから今日のキスもそんな感じだろう。うん、そうに違いない!!
前世も含め、キスなんて小さいときに加奈にされたくらいで他の人にされたことが無かったから動揺したけど、考えてみればそういうことだよな!!
吹っ切れた俺は枕に顔を埋める。
何馬鹿な事考えてたんだか………ってあれ?何か俺以外の匂いがするような………
そう思ってもっとよく嗅いでいると………
「………何してるのかしら?」
いかにも怒ってますよオーラを出しているキリエがドアを開けて見ていた。
「えっと………何か自分の匂いじゃなかったからつい………」
「それでクンクンと………匂いはどうだったかしら?」
「中々匂いで………ごちになりました!!」
まあ後の事を語るまでも無いだろうが、あの後優理とレヴィ以外の全員からたらい回しに説教された。
全く冗談が通じない家の女性陣である。
ちなみに優理は、
「………昨日、私もベットにいましたから私の匂いも………うふふ………」
この呟きをたまたま聞いたユーリは他の人に教えるべきか悩んだが、優理のプレッシャーを感じ、言うのを止めたのだった………
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