魔法少女リリカルなのは 平凡な日常を望む転生者
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第80話 文化祭(桐谷)
「お前らご飯だぞ!!」
文化祭1日目の夜、午後9時。
今晩の夕食がやっと完成した。
「やっとっスか………」
「う、うるさい!文句を言うなら食べなくて良いぞ!!」
「すいませんでした!!」
綺麗なジャンピング土下座だ………
まあウェンディの気持ちも分からんでも無いが、ノーヴェの料理上達の為と思って我慢してくれ。
今日だけでどれだけ玉子使ったかな………
ちなみに今日の夕食はオムライスです。
「そんなの良いから、早く食べよう!!」
待ちきれなかった様でセインが騒ぐ。
まあそう言う俺も実は腹ペコだったり………
「じゃあ食べるか。レミエル、お前もたまには準備を手伝………」
「寝てるわよ、ソファーで」
加奈に言われてソファーの方を見てみると、ぐーぐー寝てるレミエルが………
「ノーヴェ、叩き起こせ」
「分かった」
ノーヴェの拳骨で起きたレミエルに俺は食事をしてから1時間程説教した。
「なあ桐谷?」
「ん?どうした?」
「桐谷はさ、フェリア姉の事どう思ってんだ?」
遅い夕飯を食べ終えた夜、新聞を読みながらノーヴェと共にコーヒーを飲んでいると不意にそんな話をしてきた。
「フェリア?妹思いの良い姉だと思うけど………」
「………本当にそれだけなんだな?」
何でそんなに真剣に聞いてくるんだよ………
確かに最近フェリアは俺と行動することが多いけど、それはお前逹ダメっ子の3人が気になるから俺も連れてるだけだろ?
俺はお前逹の保護者みたいな者だしな。
それにフェリアは俺より零治の方が大事だろ。
アイツがフェリアを家族として迎えてくれたからこそ、今の生活が出来るのだからな。
「他に何かあるのか?」
「………だったらいいんだ」
そう言って、コーヒーに口を付けるノーヴェ。
………何だか最近様子がおかしい気がする。
事の発端は料理を手伝うと言い出した辺りだ。
確か文化祭の準備が始まる前の出来事だっけか?
いつも通り、エタナドと一緒に料理をしてきた時に、ノーヴェがやって来て………
「なあ、私にも料理教えてくれないか?」
と言ってきたのが始まりだった。
暫くしてから理由を聞くと、「文化祭で厨房出来る奴が少なくて、出来るって見栄張っちゃって………」と申し訳なさそうに述べた。
普通に大変そうだから手伝っていたと思っていた俺は少なからず悲しみを覚えはしたが、まあ手伝うって気持ちを持ってくれただけでも良しだと思うことにした。
だが現実はうまくいかず、包丁の使い方が危なかったり、調味料が分からなかったりと基本的な事が全く分かってなく、先ずは教える事から始めた。
そんな俺とエタナドの料理教室もノーヴェはやっていくうちに少しずつ覚えていったが、未だに焦がしたり、調味料を間違えたりと一人で任せるのにはまだまだ道が険しい。
そんな中ホットケーキをそれなりにちゃんと焼けたことは良かったがな。
褒めたのももしかしたら初めてかも。
他のダメっ子も少しは見習って欲しいものだ………
「必殺、グレートタイフーン!!」
「ええっ!?何それ!?」
「加奈!?何で私を盾に?」
「いいじゃないデバイスなんだし、それに装甲には自信があるでしょ?」
「私の使ってるキャラはむしろ薄いですぅ〜!!」
コイツらは………
「はあ………」
「お替りはいかがですか?」
「ああ、ありがとうエタナド」
そう言ってコーヒーを注いでくれる。
「では私は洗濯物を畳んできますので何かあれば………」
「ああ、頼む」
そう言ってエタナドは洗濯物を畳みに行った。
「桐谷………」
「何だ?」
「桐谷ってさ………す、好きな女子のタイプとかって………あるか?」
「好きな女子のタイプか………?」
そんな質問をノーヴェにされるとはな………
一体今日はどうしたんだ?
「いや、男子ってどういう女子が好きなのかなって思って………」
ノーヴェはそう言う話題を嫌っていたと思ってたけど。
実際にウェンディがクラスの女の子の恋バナをしていた時に、一人だけゲームしてたりと話には入ってなかった。
だからノーヴェはそういう話は苦手だと思っていたのだが………
「なあ、どう……なのか?」
真剣な表情で俺に聞いてくるノーヴェ。
………真剣に聞いてくる以上俺も真剣に答えなきゃな。
「そうだなぁ………取り敢えず外見はともかく、一緒にいて違和感が無いと言うか楽しいと言うか………取り敢えず居心地が良い娘がいいな」
「胸が大きい娘とかじゃ無いのか?」
「まあ嫌いでは無いが、そんなに重要視する気はないな。俺は結構堅物だと自分でも分かってるし、融通も利かない。そんな俺を理解してくれれば良い」
「ふ〜ん、なるほど………だけどさ、桐谷って大人だよな………」
「ん?何でだ?」
「だって、クラスの男子とかって、優しい娘とか、面白くて元気な娘って感じに言う男子が多いからさ」
「………あんまりそんな実感は無いがな。まあこんなものだ、為になったか?」
「へ?何で?」
「何でって、好きな男子が出来たからそんな事聞いたんだろ?」
「んな!?」
おお、当たりみたいだな。
顔を真っ赤にして金魚みたいに、口をパクパクしてる。
「えーっ!?ノーヴェ、好きな男がいるんスか!?」
「どんな子?どんな子?」
話を聞いていたのかウェンディとレミエルがノーヴェに突っかかる。
「な、何だよ!!入ってくるな!!」
「いいじゃないっスか〜妹に教えてっスよ〜」
「女同士仲良く話しましょ?」
しつこい2人に困るノーヴェ。
取り敢えず止めておくか………
俺は食いつくように話かけている2人に拳骨を落とした。
「「ぎゃ!?」」
「人の恋路の邪魔する奴は馬に蹴られて地獄に落ちるぞ」
「今、拳骨が降ってきたっス………」
「マスター酷い………」
「これ以上しつこいと加奈に頼んで更に酷い事になると思うがどうする?」
「「止めておきます………」」
加奈は容赦無いからな。
「何でそこで私の名前が出るのよ………」
「加奈は容赦無いからね」
「セイン?」
加奈に睨まれ、縮こまるセイン。
「それと、いつまでも騒いでないでいい加減寝ろ。明日も文化祭だぞ」
「そうっスね、明日のためにも寝ておかないと………」
「ウェンディ、明日は何もしないよな………?」
「嫌だな桐谷兄、文化祭を楽しむだけっスよ〜」
………本当だよな?
「ノーヴェ、私達も寝よう」
「あ、ああ。ありがとう桐谷」
「ああ、おやすみ」
ダメっ子逹3人はそれぞれ自分逹の部屋に向かった。
「さて、俺達も寝るか」
「そうね、エタナド悪いけど後はお願いね」
「了解いたしました。お2人共おやすみなさいませ」
「おやすみ〜」
「エタナド………」
「分かっております」
流石エタナド、分かっている。
後の事をエタナドに任せ、俺と加奈もそれぞれの部屋へと戻ったのだった………
ノーヴェ………
私が桐谷を意識し始めたのはいつからだろう………
桐谷は零治みたいに特別お節介って訳でもない。初めて見た印象はクールで無口な男だと思った。
実際に桐谷は自分から話をしたり、場を盛り上げたりするのは苦手だと思う。だけど、無口ながら気を使ってくれたり、私達居候の事をしっかり考えてくれたりと結構面倒見が良い。そんな桐谷に少しでも恩返しがしたいと思って、料理を覚えようと思った。
星も興味があったとは言ってたけど、全てをやってもらうのは申し訳ないからって料理を始めたと聞いたことがあったから、私もやってみようと思ったのがきっかけだ。
しかし、私はハッキリ言って甘く見ていた。料理なんてそんなに難しくないものだと思ってたのに、いざやってみるととても難しいし、細かい。アジトに居たときはウーノ姉が、零治の家では星が。私は食べてばかりだからどれだけ大変だったか身に染みて分かった。
それと同時に何だか申し訳無く思ってしまった………
なので頑張って覚えようと桐谷とエタナドに教えてもらってるけど、中々上達しなかった。
そんな状態で見栄を張って厨房に立つ事になってちゃって、最初は焦ったけどいざ当日桐谷に食べてもらった時、初めて褒められた。
褒めること何て滅多に無い桐谷に褒めてもらえた時の喜びは今までで味わった事の無いものだった。
もっと褒められたい、役に立ちたい。
気がついたら私は桐谷の事を気にするようになっていた………
「でもこの気持ちはどうなんだろうな………」
これが恋なのかはハッキリ言って分からない。
私には経験が無いし、そういう話も苦手だ。
ただフェリア姉と一緒に楽しくいる姿を見ると、胸が苦しくなる。
だからこそ………
「フェリア姉に聞いてみないとな………」
私はそんな事を思いながら眠りについた………
さて、文化祭2日目。
昨日と同じく、隣のA組には誰もいない。何故か空き教室でHRをしているらしい。
教室の中に入れない理由があるのか、ただ単に使わないだけか………
まあ別に良いんだけど………
「それじゃあ今日も頑張りましょう」
ちなみに俺達のクラスはアクセサリー作り。
自由に選んで自分で作るという、ハッキリ言って人が要らない店。
なので殆ど自由時間なのである。
「さて、どうするかな………」
婦警の姿で階段に座る俺。
昨日以上に視線が痛い………他の学校の生徒も多いのか、同い年位の男子がこっちを見てニヤニヤ笑ってたな………
しかし、昨日以上に男子に追いかけられていた女子が。
ドレスが邪魔そうだったが、懸命に逃げていた。
やっぱりどこかで見たような顔だったような………
「桐谷!」
そんな事を話してると加奈が俺に話かけてきた。
「どうした?」
「神崎見なかった?今日もどうせ男子の大半に追いかけられてると思って………」
「神崎?見てないな………」
「そう………」
「しかしお前が神崎をね………零治の事は良いのか?」
「………兄さんには星達がいるから………それに神崎は昨日から男子に追いかけられてるのよ、余りにも女装が似合い過ぎて………」
「そうなのか………」
ご愁傷さまだな。
「だから助けるついでにたかろうかなって」
全く加奈は………
まあお節介な所は零治に似てるが、たかる辺りはしっかりしてるな。
だけど………
「零治の事は良いのか?」
「いいって何よ?」
「あれじゃあその内お前の入る所が無くなるぞ?」
最近家族会議したことにより、更に絆が強くなった有栖家。零治は気がついて無いが、どう見ても星逹が零治に気があるのは明らかだ。
零治も、その気持ちには気がついて無いが、それでも家族が1番大事なのも誰が見ても明らかだ。
このままいけば、零治の隣に入る事は難しくなる。
そんな意味を込めて、加奈に言うとこっちを睨んできた。
「分かってるわよそんな事………だけど元々私には兄さんの所に居場所なんて無いじゃない!!知ったような口を聞かないで!!」
「おい、加奈!!」
そう怒鳴って加奈は行ってしまった………
「………やはり俺にはお節介なんて似合わないみたいだな」
そう自嘲気味に呟いて、上を見た。
加奈の気持ちも分かる。加奈も気が気では無いのだろう。だけど零治自身、一番幸せそうにしているのは家族と居る時で、そんな中に自分が入る余地何て無いと思ってるのだろう。そんな状態で零治に素直に告白したところで断られるかもしれない。
アイツの全ては今の家族なんだから。
悪いとは言わないが、アイツを好きになった当人たちはとても辛いだろうな………特に加奈に関しては零治のいる世界まで合わせたのにも関わらずだ。
だからこそ加奈も悩んでいるのだろう。どうすればいいのか分からないじゃないか?
そう思うと、確かに俺の言葉は軽率だったな………
「はあ、謝る………べきじゃないな」
加奈はそういう所で気を使われることを嫌う。
だからそっとしておくのが一番だよな。
「………さてと、俺も何処かに行くか」
考えるのを止め、取り敢えず気分を変えるため俺も重い腰を上げた………
「あ、あの!!桐谷先輩!!」
いきなり大きな声で呼ばれて、驚きながらも後ろを向く。
そこには男子の制服を着た3人の女子が。
………確かセイン逹と同じクラスだった子逹だったか?
「少しお時間良いですか?」
「あ、ああ」
取り敢えず俺は言われるがまま、3人に連れ出された………
ノーヴェ………
「桐谷は………何処にいるんだ?」
取り敢えず私も自由時間を得たので桐谷と回ろうかなと探していたんだけど………
あっ、ちなみに私の衣装は学ランだ。
何故かノーヴェには似合うっス〜!!ってウェンディに勧められたんだけど似合ってるのか分からない。
「何処にいるのかな………」
結構歩き回ってるけど見つからない。桐谷のクラスにも行って覗いてみたけどいなかった。
そんな中一人でフラフラしていると、
「あら?ノーヴェちゃん?」
クア姉とディエチ姉がフランクフルトを食べながら歩いていた………
「しかし、面白いかと思っていたけど、見ている内に女装している男が気持ち悪く思えてきたわ」
私はクア姉とディエチ姉と一緒に歩きながら桐谷を探していた。どうやら2人はみんなの衣装を見てみたいらしく色々と歩き回ってるみたいだ。
「それに比べてノーヴェちゃんは違う学校の制服かしら?似合ってるわね」
「そう?私はよく分からないけど………」
「うん、私も似合ってると思う。………そういえば妙に女装が似合ってた男子がいたよ」
「ああ、あの銀髪オッドアイの美人ねディエチちゃん。何だか加奈と一緒に逃げ回ってたけど………」
ああ、あの変態だ。
私はあんまり話した事は無いけど………
「それと零治の格好も見たわ。チビッ子マテリアル逹とちょうど話してて加わったんだけど、アイツ、真っ赤なドレスなんて着ててさ、結構似合ってんの!!」
「私も見て驚いたよ、パッと見誰だか分からなかったよ」
そんな感想を2人が言った。
………確かウェンディも見たって聞いたな。
どんな服装かは言って無かったけど………
そう聞くと見てみたいかも………
「で、桐谷はどんな格好してるのよ?」
「婦警の格好だよ」
「「婦警!?」」
「うん、レミエルがドラマを見て、作ってみたんだって」
「そう言えばウェンディもガンマンだったね………」
「あの子もドラマで?」
クア姉の問いに私は頷く。
そんな様子を見た姉2人は溜息をついた。
「まあ男装と言うよりはコスプレになってる気がするけど、本人たちがいいならそれでいいか」
「そうだね。………そう言えば、零治逹のクラスの肝試しって知ってる?」
「あ、うん一応。私のクラスでも噂になって、あまりの恐ろしさに最後まで回れたのが零治とアリサっていうそのクラスの代表と、ライとウェンディだけだって聞いたよ」
「………なにその肝試し」
「零治の関係者だけだって事自体がまともじゃないから………」
私の話を聞いて、不安そうにする2人。
「興味があるなら行ってみれば?私は行こうとは思わないけど………」
「いや、私達は良いんだけど………大丈夫かしら2人」
「2人?」
「ドクターとウーノ姉だよ。ドゥーエ姉は結局潜入した管理局の仕事が抜け出せなくて絶叫しながら働いてるって言ってたし、トーレ姉は文化祭より酒を買いに行くって言ってどこか行っちゃったから、せっかくだし2人きりにさせてみたんだけど………」
「肝試しでも行ってみたらって勧めちゃったのよ………」
ああ、それで………
「でもドクターなら大丈夫そうだけど………」
「そうね、流石に問題無いわよね!!」
「うん、私もそう思うよ!!」
何だか無理やり納得したって感じがするけど、気にしなくていいか………
「ん?今………」
ほんの一瞬だったが、階段へ向かう婦警を見つけた。
あれは多分桐谷だと思う。
「ごめん、私行くね!!」
「あっ、ノーヴェ!?」
ディエチ姉が何か言っていた様な気がしたけど、私は無視して後を追った。
「桐谷先輩、初めて見た時から、貴方の事が好きでした………恥ずかしがり屋で、引っ込み思案な私ですが良ければ付き合って下さい!!」
体育館裏へと連れて行かれたかと思うとまさかの告白。
話した事もなければ全く接点も無い。
外見から見れば普通に可愛い子だ、だけど彼女なら同学年でも彼女にふさわしい彼氏が見つかるだろう。
「………悪いけど君の気持ちには答えられない。君は俺の外見だけで判断してるようだけど、俺はそこまで出来た人間でもなければ、慕われる人間でもない」
「いえ、そんな事は………!!」
「なら君は俺の何が分かる?俺の性格や、好きなタイプ、趣味など知っているか?」
「それは………」
「対して知りもしない相手に告白するとこの先痛い目見るぞ。俺は遊びで付き合う気もなければ、本気で好きになれる人以外の人と付き合う気は無い」
「ご、ごめんなさい………」
告白してきた女の子が涙を流しながら謝る。
取り巻きの女の子2人は一生懸命なだめている。
少しキツすぎたかもしれないけど、これくらい言っておけば為になるだろう。
俺は何も言わずその場を後にした。
「あれはノーヴェか?」
体育館の裏から出てくると、近くの茂みにしゃがんで隠れているノーヴェを発見。
恐らくさっきの場面を覗いていたのだろう。
俺が向かってくるのが分かって慌てて隠れたって所か?
「これこそ頭隠して尻隠さずだな………まあ逆だけど」
ノーヴェは体こそ隠れているが、髪が見えていた。
「隠れてないで出てこいよノーヴェ」
俺がそう言うとゆっくりと茂みから出てくるノーヴェ。
「桐谷ごめん………別に覗くつもりは無かったんだけど………」
「別にいいさ。それより何でこんな所にいるんだ?」
「あっ、それは………」
「桐谷!」
俺を呼ぶ声がしたので、そっちを見てみると白い甲冑を着たフェリアがいた。
完璧コスプレだな。
「ノーヴェ、お前も一緒だったか。2人共暇か?今店番を終えて、一緒に回る人が居なくて困ってた所だ。2人共、一緒にどうだ?」
「まあ構わないけど、先ずはノーヴェの話を聞いてからな」
そう言ってノーヴェの方を向くと、ノーヴェはフェリアを睨んでいるように見えた。
しかしよく見ると別にいつもと変わらない。
………気のせいだったか?
「………私は別に良いよ、3人で回ろう」
「そうか」
「なら行こう2人共」
こうして俺達は3人で回る事となった………
暫く歩いた後、買った食べ物をゆっくり食べる事にし、近くのベンチに座った。
だけどミスったな、飲み物買うの忘れてた………
「何か飲み物買ってくるべきだったな………ちょっと俺買ってくるわ。2人共何がいい?」
「私はお茶を頼む」
「コーヒーをよろしく」
「分かった、じゃあ行ってくる。先に食べてていいからな」
そう言って俺は自販機へ向かった。
「ねえフェリア姉………」
「お〜い、桐谷〜!」
俺の名前を呼んで走ってくる青い髪の女の子。
その後ろには3人の女の子がいた。
着いた途端、俺の格好を見て笑い始めた。
「会ってそうそう人を見て笑うのは良くないぞレヴィ」
「うひひひひ………だって………」
「ご機嫌よう桐谷」
「ご機嫌よう!!」
上品な挨拶をしてきた2人の女の子、シュテルとユーリだ。
「シュテルとユーリか。だけどご機嫌ようって………」
「星の部屋にあった漫画のヒロインはこうやって挨拶してました」
「だから私達も真似しようと思って」
お互い見合ってにっこりするシュテルとユーリ。
この二人は結構趣味的にも合うのかもな。
「しかし貴様はこんな所で何をしておる?」
「飲み物を買いに来たんだよディア」
最後に声をかけてきたのはディア。
腕に着けているアクセサリーは俺達のクラスで作った物かな?
「それより君達こそ何してるんだ?アミタとキリエはどうしたんだ?」
「人の多さではぐれちゃった〜」
「彼女逹は絶賛迷子です」
「それに探すのも疲れました………」
「全く、世話のかかる臣下共だ………」
この4人はマイペースだなぁ………
自分達が迷子だとは思わないらしい。
「はぁ………仕方ないな、ちょっと聞いてみるからここを動くなよ」
そんな4人を放置するのは流石に可哀想だと思い、俺は電話で片っ端から聞いてみる事にした………
「いやぁ、見つかって良かった………」
「本当に心配しましたよ………」
アミタがホッとした様子でチビッ子逹に話かける。
先ずは零治と思って連絡すると、一人目でビンゴみたく、アミタとキリエと一緒に探していたらしい。
「見つかって良かったわ」
「何だ、はやてもいたのか」
「そうやねん、見回りの途中で零治君と会ってな」
「零治達と話してる時にユーリがはぐれちゃって、それを追ってチビッ子達も離れ離れになっちゃったから焦って………」
「そうだったのか………」
しかし迷子の本人逹は何事も無かったかの様に、次の場所へ行こうとしている。
「ちょっと、落ち着きなさいって………!!」
「やかましいピンク!!我はまたくじと言うものをやってみたい!!」
「僕はストライクアウト!!今度こそライに勝つんだ!!」
「私は中のたい焼きを食べてみたいですね、とても美味しいと評判みたいです」
「私は………またアクセサリーを作りたいです」
「そんな一辺には無理よ………」
「仕方ないから二手に別れて回る?」
呆れながらキリエがアミタに提案した。
こう見るとアミタとキリエはチビッ子逹の保護者だな………
「悪いな、付き合ってやりたいんだが、一応俺も仕事だから」
「私達はもう行くな〜」
「うん、ありがとう、零治さん、はやてさん」
「じゃあね、レイカちゃん〜」
「やかましい、キリエ!!」
そう文句を言って零治とはやては行ってしまった。
「桐谷さん、行かなくていいのですか?」
「あっ!?そうだった!!」
ユーリに言われて飲み物を買いに来たことを思い出した俺。
「ありがとうユーリ!!じゃあ俺も行くな、最後までゆっくり楽しめよ」
俺はそう言ってフェリア逹の所へ戻った………
それから慌てて飲み物を持って戻ると何だかいつもと雰囲気が違うような………
ただそう感じるだけで2人はいつもの様に話している。
だけど何だかいつもと違う気がする………
「あっ、お帰り桐谷」
「あ、ああ待たせて悪かったな」
そう言って買ってきた飲み物を渡した。
「俺が来るまで何を話していたんだ?」
「桐谷には教えない〜」
「ああ、教えられないな」
ノーヴェとフェリアが揃えて言ってきた。
雰囲気は未だに不自然な気がしたが、いつも通りなので俺は気にしない事にした………
文化祭も後1時間と言うところで、見回りの仕事になったのでさっきの2人と別れ、歩いていたのだが………
「おい、菊地カナタがライブするってよ!!」
「マジで!?どこでやるんだ!?」
「体育館でやるみたいだぜ」
すれ違う女装男子がそんな事を話しているのを耳にした。
「菊地がね………まあ現役アイドルだし話題になるのは当たり前か………」
しかし菊地となると忘れてはいけない奴が………
『嫌だな桐谷兄、文化祭を楽しむだけっスよ〜』
奴は未だに何も問題を起こしていない。それが逆に不気味だ………
「一応行ってみるか………」
俺は一応体育館へ行ってみる事にした………
「みんなー!!今日は私のライブを見に来てくれてありがとー!!」
「「「「「「「「「「カナタちゃーん!!」」」」」」」」」」
熱狂的な女装男子が声援を送る。
………気持ち悪い。
しかし、体育館はかなりの満員でやはり人気があることが分かる。
それにしてもキャラ違うな………
「今日は私の友達も一緒に歌ってくれまーす!!その人は………ウェンディ・イーグレイ!!」
そう言うとステージ脇からウェンディがやって来た。
その肩にはギターをかけている。
………アイツギターなんて弾けたっけ?
「みんなこんにちはー!!」
「「「「「「「「「「こんにちはー!!」」」」」」」」」」
「ありがとー!!ウェンディ・イーグレイです!!一生懸命頑張るからよろしくねー!!」
いつもじゃ絶対に見ない爽やかな笑顔で観客に答えるウェンディ。
っス口調も使わないみたいだ。
「それじゃあ行くよウェンディ!」
「ええ、頑張りましょカナタ!」
どうでもいいが、キャラが違いすぎて気持ち悪くなってきた………
「行きます、トロピカルキッス!!」
カナタが言うとバックの音楽が演奏し始め、ウェンディも………ってエアギターかよ!?
そう言えばアイツ楽器を弾けるなんて聞いたこと無いもんな………
しかしエアギターがとてもうまいと思う。
ぶっちゃけ判断基準が分からないが、それでもうまいと思えた。
しかもウェンディの歌も結構うまい。
菊地の声と合わさって綺麗な歌声を響かせてる。
「これなら問題無いか………」
もっと聞いていたいが、仕事もあるため、俺は静かに体育館を出た………
後夜祭、文化祭も終わり、夜に学生逹で盛り上がる祭りが始まった。
校庭では大きなキャンプファイヤーを中心に楽しく踊っている。
当然女装も男装も終わり、それぞれの制服でだ。
俺はそんな光景を校庭にある芝生に座りながら見ていた。
「桐谷!」
そんな俺にフェリアが声をかけてきた。
さっきまで踊っていたのか、少し汗をかいている。
「どうしたのだ?桐谷は踊らないのか?」
「踊れないんでな」
「桐谷が?」
「ああ」
そんなに驚く事じゃないと思うんだけどな………
「それに見ているだけで良い。それだけでも充分楽しいよ」
「そうなのか?」
そう言って俺の隣に座ってくるフェリア。
………少しは気にして欲しいものだ。
「私には分からんな。………なあ桐谷」
「何だ?」
「お前はノーヴェの事をどう思ってる?」
「ノーヴェの事?」
「ああ、それでどうだ?」
「どうだってな………まあ家では一番手伝いや言うことを聞いてくれるし、俺との趣味もあったりして楽しいけどな」
「そうか………」
それを聞くと何だか複雑な顔をするフェリア。
「では、私はどうだ………?」
「フェリア?」
こういう事を本人に直接聞くもんじゃないと思うのだが………
「フェリアは妹逹の事をいつも思っていて、優しい姉だと思う。俺とも話が合うし、結構一緒にいても楽しいかな」
「そうか………」
俺の話を聞いて嬉しそうにするフェリア。
だが俺はかなり恥ずかしい………
「なるほど、こんな気持ちかノーヴェが言っていた事は………」
「ん?何だって?」
「桐谷には関係無い」
そう言ってフェリアは立ち上がった。
「ノーヴェの所へ行ってくる。直ぐに言わなくちゃいけない事が出来たからな」
「言わなくちゃいけない事?」
「ああ。………それとノーヴェには負けられない」
そう言い残してフェリアは行ってしまった………
そんなフェリアに、
「訳が分からん!!」
そう言って俺は寝転がった。
そんな俺の耳には楽しいBGMが流れて来た………
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