仮面ライダーZX 〜十人の光の戦士達〜
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港町の毒蛇
ゼクロスの所在、それはバダンがその総力を挙げて捜しているものであった。皆血眼になりその影を追う。
だがそれは何処にもなかった。次第に焦りが生じだしていた。
「まだ見つけられないのかい!?」
ヘビ女も彼を捜していた。
「はい、残念だがら・・・・・・」
戦闘員達は申し訳なさそうに頭を垂れた。
「そうかい、本当に隠れるのが上手い奴だね」
彼女は忌々しげにそう吐き捨てた。
「このままではシャドウ様に合わせる顔がないよ、折角啖呵切ったんだしね」
彼女はゼネラルシャドウにゼクロスを捜し出しその首を献上すると言ったのだ。
「日本にいないのは確かなんだ。だけど世界中を捜し回るのも馬鹿なことだしね」
彼女は地球儀を回しながら呟いた。
「こうなったら誘き出してやろうか」
「あの男をですか!?」
「そうだよ。例えばね」
ヘビ女はここで残忍な笑みを浮かべた。
「あの男の大切な人を人質にするとかねえ」
それはまさに悪魔の笑みであった。地球儀を弄ぶその顔が嫌らしく歪んだ。
「それでしたら最適の人物がおりますが」
「あの男の姉は死んでいるよ」
「村雨しずかではありません。一条ルミです」
「一条ルミ!?あの小娘かい」
ヘビ女も彼女のことは少し知っていた。
「しかしあの娘も今何処にいるかわからないよ」
「日本にいたという情報がありましたが」
「何時の情報だい、もうとっくの昔に何処かに消えちまったよ」
「そうだったのですか」
戦闘員はヘビ女の言葉にうなだれた。
「今は地道に捜すことだな。もっとも連中はあたし達の影を見たら自分達から出向いて来てくれるけれど」
ヘビ女はそう言ったところでハッとした。
「待てよ」
彼女は再び嫌らしい笑みを浮かべた。
「何も捜し出すことはないよ。ちょいと目立つことをしてやるだけでいいんだよ」
「といいますと」
「わからないのかい、鈍いねえ」
「すいません」
「まあいいさ。今から教えてやるよ」
ヘビ女は戦闘員達に対して話しはじめた。
「どうだい、いい考えだろう」
彼女は話し終えると戦闘員達を見た。
「はい、それが一番だと思います」
「御前達もそう思うかい。じゃあ早速はじめるとしよう」
彼等は闇の中に消えた。そしてその中で無気味な蛇の鳴き声が聞こえてきた。
村雨良はシアトルにいた。アメリカの北西部にある港町だ。
ここは日本人にもよく知られた街である。理由はとあるスポーツ選手のせいなのであるが。
それを抜いてもこの街は日本と関係が深い。ボーイング社の拠点でもあるこの街は日本と盛んに貿易を行なっているのである。
「良さんはシアトルははじめて!?」
「うん、話には聞いていたけれど」
その街を行く人組の男女がいた。
男女といってもまるで兄妹のようであった。村雨良と一条ルミである。
「よくテレビでマリナーズとかいうチームのことはやっていたな。俺は大リーグにはあまり興味がないけれど」
「イチローがいるからね」
「イチロー!?オリックスにいたんじゃなかったのか」
「何言ってるのよ、大リーグに行ったじゃない」
「そうだったのか。どうもそうしたことには弱いなあ」
村雨は困った顔をして言った。
「それは仕方ありませんよ」
ルミはそんな彼を慰めるように言った。
「良さんは色々ありましたから」
「・・・・・・有り難う」
気遣うその言葉が有り難かった。村雨はルミの言葉に癒された。
「じゃあ試合見に行きますか?」
「今やってるの?」
「ええ。丁度イチローが出ますよ」
「そうか。じゃあ一度見てみるか」
二人はこうして球場に向かった。
丁度試合がはじまった時だった。イチローはライトにいた。
「ポジションは日本にいた頃と変わらないな」
「イチローといえばライトですからね」
ルミはニコニコとしながら言った。
丁度打球が飛んできた。かなり深い打球だったがイチローはそれを何なくキャッチした。
「守備も相変わらずだな。足も反応もいい」
「肩も凄いですよ」
そんな話をしているうちにその回は終わった。今度はマリナーズの攻撃である。
イチローは難しい変化球を流し打ちした。そして盗塁を決めた。
「バッティングはさらに進歩しているな。あの時でかなりのものだったが」
村雨はオリックス時代の彼のことを思い出しながら呟いた。
「正直ここまでの選手は見たことがない。一体何処まで進化していくのか」
試合はマリナーズの勝利に終わった。イチローは攻守にわたり活躍した。
「面白かったですね」
「ああ、イチローも久し振りに見たがやはり凄いな」
彼は満足した顔でそう言った。
「やはり彼は凄いな。わざわざ見たかいがあった」
「次は何処に行きます?」
「そうだなあ」
彼は考えた。
「とりあえずは腹ごしらえをしよう。もう夕方だしね」
「はい」
二人はレストランに入った。そしてステーキを食べた。
それから二人はホテルに入った。ルミはベッドに入るとすぐに眠りについた。
「よし、気持ちよく眠っているな」
村雨はその寝顔を覗き込んで確かめた。見ればあどけなく可愛らしい寝顔である。
「これでよし」
彼は彼女から顔を離すと窓の外を見た。もうすっかり陽は落ち夜となっている。
村雨は部屋を出た。そして夜のシアトルに向かった。
シアトルはアジア系の多い街である。アジア太平洋地域への玄関口の一つであるからそれは当然であった。ボーイング社の最初の技術責任者も中国系であった。
元々アメリカはアジアを目指していた。彼等のモンロー主義も門戸開放宣言もそうした戦略が背景にあった。
そして多くの拠点を設けアジアと関わろうとする。太平洋戦争もベトナム戦争もその一環であった。APECはその戦略の集大成的な存在である。元々はオーストラリアと日本が打ち出した構想であったが。
そのシアトルのアジア寄りの象徴とも言えるのがチャイナタウンであった。ニューヨークやサンフランシスコにもあるがこのシアトルのものも有名である。
真夜中なので道には誰もいない。華やかな街も今は暗闇に包まれている。
村雨は一人その中を歩いていた。まるで何かを探るように。
その彼に向けて何かが投げられた。村雨はそれを咄嗟に叩き落とした。
「これは!?」
それはナイフであった。そこへ次々と投げられてくる。
「ムッ!」
村雨は上に跳んだ。そして建物の上に着地した。
「バダンかっ!?」
彼は既にゼクロスに変身していた。そして左右を見回す。
彼の周りを戦闘員達が取り囲んでいる。皆その手にナイフを持っている。
「やはりな」
ゼクロスはそう言うと肘の手裏剣を取り出した。
そして投げる。一つを投げるとまた一つ投げる。
「ギッ」
戦闘員達はそれを受け倒れる。ゼクロスは投げながら建物の上を跳ぶ。
そこに新手が来た。デストロンの光線怪人ピッケルシャークである。
「来たか」
彼は建物の上を跳び回りながら怪人を見た。怪人はゼクロスの方に跳んで来る。
「ヒルーーーーヒルーーーー」
そして右手のピッケルを振り下ろす。ゼクロスはそれをかわした。
移動を止める。そして怪人と向かい合う。
左腿から電磁ナイフを取り出した。それで斬り掛かる。
怪人はそれをピッケルで受け止めた。ゼクロスはそこに蹴りを入れる。
腹を蹴られ怯む。その後頭部にナイフを突き立てた。
「ヒルーーーーーッ!」
怪人は断末魔の叫び声を出して倒れた。そして爆発と共に消えた。
ゼクロスは下に降りた。そこに新たな敵がやって来た。
今度は下からだ。ゲドンの甲殻怪人獣人カタツムリである。
「ゲォゲォゲォゲォゲォゲォゲォ」
彼は奇声を発しながらやって来た。そして口から泡を吐き出す。
ゼクロスは横に身を捻りかわした。そして手の甲から何かを取り出した。
それはマイクロチェーンだった。彼はそれを怪人に向けて投げ付けた。
チェーンが怪人の首に巻き付く。ゼクロスはそれを引いた。
「ゲォ!?」
怪人は抵抗する。だがゼクロスはそこで電撃を流した。
「ゲォーーーーーッ!」
カタツムリは水分が多い。その為電流をよく通す。怪人は忽ち悶死して爆発した。
「これで終わりではないな」
ゼクロスは咄嗟に新手の気配を察した。やはりもう一体やって来た。
「ギリギリギリギリギリギリ」
何と両眼が髑髏になっている不気味な怪人が姿をあらわした。ブラックサタンの音波怪人カマキリ奇械人である。
「やはり来たか」
「ギリギリギリ」
怪人は右腕に巨大な鎌を出した。そしてそれをゼクロスに向かって投げ付けた。
「ムッ」
ゼクロスはそれを左にかわした。だがその背に鎌が戻って来る。
「ブーメランか」
彼はそれを屈んでかわした。怪人はそれを受け取ると今度はそれで斬りかかって来た。
「おそらくそれだけではないな」
その予想は当たった。怪人は左腕に鎖鉄球を出してきた。
それをぶつけて来る。ゼクロスはそれを受け止めた。
「ムン!」
そして投げる。怪人は受身をとり着地した。
着すると同時に再び鎌を放ってくる。鎌はゼクロスを両断した。
かに見えた。しかしそれは幻影であった。
「生憎だったな。俺は幻影を作り出すこともできるのだ」
怪人の後ろから声がした。それはゼクロスのものであった。
「死ね」
彼は言った。そして怪人の背に何かを取り付けた。
それは衝撃集中爆弾であった。ゼクロスはそれを怪人の背に取り付けると上に跳んだ。
怪人は爆死した。ゼクロスは再び建物の上に着地した。
その後ろから何者かが襲い掛かってきた。
「また来たか」
ネオショッカーのミイラ怪人ヒカラビーノであった。怪人は両手から包帯を放ってきた。
「今度はミイラ男か」
ゼクロスは感情を込めずに呟いた。
「ならば戦い方ははっきりしている」
彼はまず両肩から煙幕を放った。そしてその中に消えた。
「ガビッ!?」
怪人は煙の中でゼクロスを探した。だが何処にもいない。
包帯を放つ。四方八方にばら撒くように。だがゼクロスは何処にもいない。
「俺はここだ」
不意にその煙幕の中から声がした。
「ガビーーーノッ!」
怪人は奇声を発しそこへ攻撃を仕掛けた。だがゼクロスはそこにはいなかった。
「残念だったな」
ゼクロスは怪人の真横にいた。そして腕から何かを放ってきた。
それは超音波であった。彼は音波砲も装備しているのだ。
「ミイラ男なら乾燥している。衝撃には弱い筈だ」
その通りであった。怪人は音波攻撃を受けもがき苦しんでいる。
「ガビーーーーッ!」
それに耐えることは出来なかった。怪人は崩れ落ち爆死して果てた。
「もういないか」
ゼクロスは気配が全て消えたのを察して呟いた。
「それにしても一度に四体もの怪人を送り込んで来るとはな」
彼は道路に着地し変身を解きながら呟いた。
「やはりバダンはこの地で何かを企んでいるのか」
彼はマシンを呼んだ。やがてヘルダイバーが前に停まった。
「少し調べる必要があるな。一体誰がいて何をするつもりなのか」
村雨は夜のシアトルを回った。そしてバダンの影を捜し求めた。
だがその日は何も見つけることが出来なかった。朝が近くなり彼は仕方なくホテルに戻った。
「只今」
彼はそう言うとそのままベッドに入ろうとした。だがそこで異変に気付いた。
「ルミちゃん!?」
ルミの気配がしないのだ。寝息も聞こえない。
彼は驚いて灯りを点けた。ルミが眠っていたベッドはもぬけのからであった。
「まさか・・・・・・」
窓は割られている。そこから吹き込む風がカーテンを揺らしていた。
そしてルミがいたベッドには手紙がナイフで縫われていた。村雨はそれを手にとった。
『村雨良よ』
その手紙の序文にはまずそう書かれていた。
『一条ルミは預かった。貴様の居ぬ間にな』
「そうか、あの怪人達は俺を貼り付けておく為だったのか」
後悔の念で歯噛みした。だがそれはあまりにも遅かった。
『返して欲しくば今日の昼ウォーターフロントに来るがいい。ヘビ女』
「ウォーターフロントか」
シアトルの観光名所の一つである。かっては漁船の波止場であったが今は水族館やレストランで賑わっている。
「ならば行ってやる。そしてルミちゃんを救い出す」
村雨はすぐにその場をあとにした。あとには風だけが残っていた。
「こうして四人揃うのも久し振りね」
ある基地の宴の場でジンドグマの四人の幹部達が集まっていた。彼等はテーブルに座っていた。
「メガール将軍は呼ばなかったのか?」
鬼火司令は上機嫌でワインを飲み干す妖怪王女に対して尋ねた。
「一応声はかけたわよ。けれど堅物だからねえ」
「断ったのじゃな」
「そうなのよ。何であんなに頭が固いのかしら」
妖怪王女は幽霊博士の言葉に答えた。
「あ奴の糞真面目さはドグマにいた頃から変わらんのう。困ったことじゃ」
「鬼火司令が不真面目過ぎるのではないかしら」
魔女参謀はサラダを口にしながら言った。
「おいおい、わしはいつも真面目だぞ」
「怒って電話ボックスを壊す程ね」
「妖怪王女、その話はいい加減止めてくれ」
「うふふ」
口喧嘩をしながらも雰囲気はいい。彼等はどうも他の幹部達のように緊張した関係にはない。
「ドグマの頃からね。メガール将軍のああした性格は」
魔女参謀は呟くようにして言った。
「仕方ないがのう。あの者は我等と境遇が異なり過ぎる」
幽霊博士はもそもそと魚を食べながら言った。彼等はテラーマクロにスカウトされてドグマに入った。そして自ら進んで改造手術を受けた。
だがメガール将軍は違っていた。彼は改造手術の失敗で醜い姿になってしまったことに絶望し自殺しようとしていたところをテラーマクロに拾われたのだ。
「何度も言っておるのだが。そのようなことは気にするなと」
鬼火司令は顔を顰めさせた。
「けれどそれが忘れられないのでしょうね。元々真面目だから。私なんかと違って」
「王女、そなたはまた不真面目過ぎる」
「魔女参謀もあまり変わらぬがのう」
彼等は口々に言う。だが話している口調は敵意のあるものではない。
「全く、何が哀しくてテラーマクロの下にいたのやら」
幽霊博士はフォークとナイフを置いて言った。
「本当ね。あんな陰気な爺さんなんか」
「わし等より親衛隊が偉いときた。戦うのはわし等だぞ」
妖怪王女と鬼火司令もそれに同意する。彼等はドグマにいた頃からテラーマクロと衝突が絶えなかった。陰気な様子のドグマの空気が合わなかったのだ。
「悪魔元帥がドグマを出て行った時はしめたと思ったわね、本当に」
魔女参謀が言った。彼女もテラーマクロが嫌いであった。
「将軍もわし等の誘いについていればのう」
「変わっていたでしょうね。そう思うと残念だわ」
鬼火司令と妖怪王女は残念そうに言った。
「しかしそれがあの男の選んだ道じゃ」
「私達にそれをとやかく言うことはではしないわ」
幽霊博士と魔女参謀はそこで結論を出した。結局将軍はドグマにおいてスーパー1と最後まで戦った。彼等はジンドグマで戦った。そして今再び共にいる。
「惜しいのう、下らぬしがらみさえ忘れられればより素晴らしい男なのに」
「それが出来ないのよね」
彼等はメガール将軍が嫌いではなかった。だからこそ残念だったのだ。
四人は宴が終わるとその場から一人ずつ消えた。そしてそれぞれの場所に戻っていった。
ウォーターフロントの水族館は水中ドームで有名である。その中にはシアトル湾に生息する蟹や魚達がいる。
その前に彼等はいた。バダンの戦闘員達である。やがて一体の怪人がやって来た。
「一条ルミはいるか」
ショッカーの泡蟹怪人カニバブラーである。怪人はその後ろに数人の戦闘員達を引き連れていた。
「ハッ、こちらに」
戦闘員の一人が縛られたルミを引き立ててきた。
「ならばよい」
カニバブラーはそれを見て頷いた。
「大切な人質だからな。ゼクロスを誘き寄せる為の」
「果たして来るでしょうか」
「間違いなくね」
ここでヘビ女が姿を現わした。
「これはようこそ」
「うん、よくやってくれているみたいだねえ」
彼女は戦闘員と怪人から敬礼を受けながら満足気に笑った。
「イヒヒヒヒヒ、見れば見る程可愛い娘だよ」
ルミの顔を嘗め回す様に見る。ルミはそれに対し嫌な顔をした。
「ゼクロスを始末したら食べてしまうかい。女の子の肉は柔らかくて美味しいんだよねえ」
「その時は我等もご相伴に預からせて下さい」
カニバブラーは嬉しそうに言った。
「そうだねえ、ゼクロスを倒したら宴会といこうかい。シャドウ様もお呼びしてね」
「それは楽しみです」
「だろう、早くゼクロスが来てくれるといんだがねえ」
彼女は上機嫌であった。そして右手に持つ蛇の鞭をしごきながら言った。
「この娘は連れて行くよ。何しろゼクロスをここに招き寄せる為の大切な撒き餌だからねえ」
「わかりました」
ヘビ女はルミをその手にとった。
「さあ、来るんだよ」
そして彼女はそのままその場をあとにした。カニバブラー達が残された。
「さて、と村雨良だが」
怪人は戦闘員達に顔を向けた。
「果たして何時来るかな」
「もう来ているぞ」
戦闘員の一人がそれに対して言った。
「何っ!?」
皆その言葉に振り向いた。その戦闘員はそれより早く他の戦闘員達を倒していった。
「何者だっ!」
怪人と戦闘員達が彼を取り囲んだ。
「言わずともわかっているだろうっ!」
その戦闘員は黒い服を脱ぎ捨てた。中からゼクロスが姿を現わした。
「くっ、ゼクロス!」
「まさか我等の中に紛れ込んでいたとはっ!」
彼等は鞭を手にゼクロスに襲い掛かる。だがゼクロスはそれより早く戦闘員達を倒す。
「残るは貴様だけだっ!」
そしてカニバブラーと対峙する。
「イイイイイイイイイイイイッ」
怪人は奇声を発しながらゼクロスを睨みつける。
左手の鋏で切り掛かる。だがゼクロスはそれをかわした。
「ムンッ!」
そして拳を繰り出す。だがそれは怪人の固い甲羅の前に防がれてしまう。
「ヌウ」
ゼクロスはそれを見て呻いた。対する怪人は不敵に笑った。
「どうだ、俺の甲羅は」
「クッ・・・・・・」
その自信に満ちた態度に歯軋りする。
「そう簡単には破れぬぞ。如何にライダーの力が強かろうとな」
「力か」
ゼクロスはその言葉に気付いた。
「ならば力を使わなければよいのだ」
「フン、馬鹿なことをそれでどうやって俺を倒すつもりだ」
「手段はいくらでもある」
彼はそう言うと左手の人差し指を突き出した。
「喰らえっ!」
そしてそこからレーザーを繰り出した。
「ウォッ!」
それは怪人の心臓を貫いた。
「力を使わずとも俺にはこうした力がある。それを忘れていたな」
「む、無念・・・・・・」
怪人はその場に倒れ爆死した。
「おのれ。カニバブラーをこうも容易に倒すとは」
そこに新たな敵がやって来た。ゲルショッカーの幽霊怪人ガニコウモルである。
「次は貴様が相手か」
ゼクロスは怪人の方を振り向いた。
「ならば相手になろう」
そう言うと両肩から煙幕を出した。
「またその手か!」
怪人はそれに対して飛び上がった。
「空にまで煙幕が届くかな!」
「確かにそれは無理だ」
後ろから声がした。ゼクロスが垂直に跳び上がったのだ。
「だがそれならそれで戦い方がある」
その後ろにヘルダイバーが飛んで来ていた。
ゼクロスは下に落ちる。その真下にヘルダイバーがやって来て乗った。
「行くぞっ!」
そしてガニコウモルに向かった。怪人はそれに対して空中戦を挑んできた。
「ギイッ、イィーーーーーーーッ!」
怪人は奇声を叫びながらライダーに突攻する。ゼクロスはそれに対して手裏剣を投げる。
それに怯むとゼクロスはマシンの機首を転じた。そして怪人に突撃する。
「ヘルダイバーーーーーアターーーーーック!」
怪人の腹を直撃した。ガニコウモルは空中に鞠の様に弾き飛ばされ爆死して果てた。
「急がねばな。ルミちゃんを早く解放しないと」
彼はそのままヘビ女を探しに向かった。
ヘビ女は埠頭にいた。そこでは貨物船が行き交い汽笛が鳴っている。
「いい光景だねえ」
彼女はその船達を見ながら目を細めた。
「叩き潰すにはもってこいだよ」
その後ろにはルミがいる。彼女は手を縛られ戦闘員達に抑え付けられている。
「さて、ゼクロスはやって来るかねえ」
そう言うとルミに顔を向けた。
「まあ来ない筈はないか。何しろこっちには人質がいるんだからねえ」
「その前に怪人に倒されているかも知れませんね」
戦闘員の一人が言った。
「そんな・・・・・・!」
ルミはそれを聞いて思わず顔を上げた。
「いや、それはないよ。残念だけれど」
ヘビ女はその戦闘員に対して言った。
「ゼクロスはそうそう簡単にはやられはしない。これはどのライダーにも言えることだけれどね」
彼女は考える顔をして言った。
「あいつを倒せるのは結局あたししかいないだろうね。怪人達には済まないけれど捨石にしちまった」
「それは・・・・・・」
ヘビ女の申し訳まさそうな声を聞き戦闘員達は慰めようとした。
「だけれど仇はとってやるからね。ゼクロス、楽しみにしておいで」
そこへ遠くから一台のバイクがやって来た。
「あれは・・・・・・!」
だがそれには誰も乗ってはいなかった。
「どういうことだい!?」
ゼクロスが乗っていると思ったが違った。それを見たヘビ女達は驚いた。
バイクはそのまま突っ込んで来る。ヘビ女に一直線に。
「チィッ!」
彼女はそれを横にかわした。バイクはそのまま戦闘員達を蹴散らしルミを上に乗せた。まるで何者かが乗っているようであった。
「しまった!」
戦闘員達が起き上がった時はもう手遅れであった。ヘビ女もルミを捉えようと鞭を繰り出すが間に合わなかった。
バイクはそのまま海面を進んでいく。ルミはそのまま安全な場所にまで連れて行かれ見えなくなってしまった。
「人質はそれでよし」
そこで左手の倉庫の上から声がした。
「その声はっ!」
彼等はそちらに顔を向けた。そこには彼がいた。
「クウウ、やはり」
ヘビ女は村雨の顔を認め呻いた。
「貴様等のやることは全てお見通しだ」
村雨は彼等を見下ろして言った。
「俺は姉さんを貴様等に殺された、これ以上貴様等に誰も殺させはしない」
「言ってくれるねえ、あんたも」
ヘビ女は皮肉めいた笑いを浮かべて村雨を見上げた。
「そう言うあんたもバダンに生み出された癖に」
「違う」
彼は昂然として言い返した。
「俺を生み出したのは運命だ、貴様等と戦うという運命が俺を改造人間にしたのだ」
だが本来はこの身体は望んだものではなかったのだ。多くのライダーがそうであるように。
しかしそれは心の奥底に封じ込める。バダンと戦う為にだ。
「この身体、この力、人のものではない」
彼は言葉を続けた。
「あえていうならば鬼、鬼神のものだ」
邪悪を討ち滅ぼす鬼神である。ゼクロスの赤い色は降魔の焔の色であった。
「貴様等を倒す為に・・・・・・。俺はあえて鬼となる!」
そう言うと身構えた。
変
右腕を肩と垂直に右斜め上に出す。左腕はそれと並行に右斜め下に出す。
そして右手をそのまま九十度下ろす。左腕はそれに添うよに左斜め上に出す。
身体が赤と銀のバトルボディに覆われる。手袋とブーツも銀である。
身!
左腕を脇に入れる。右腕を左斜め上に突き出す。
顔が赤い仮面に覆われる。そして左も目が緑になりベルトが光った。
その光が全身を包む。ここに村雨良はゼクロスとなった。
「行くぞっ!」
掛け声と共に飛び降りる。そしてヘビ女達に立ち向かう。
「フン、来たね」
彼女の周りを戦闘員達が護る。そしてゼクロスに襲い掛かる。
ゼクロスはナイフを取り出した。そしてそれで戦闘員達を斬り倒していく。
そこへヘビ女の蛇の鞭がきた。そしてゼクロスのナイフを叩き落とす。
「ムッ」
ナイフを落とされたゼクロスはあらためて構えをとった。
「今度はあたしが相手をしてやるよ」
彼女はそう言うと今度はマントを投げてきた。
ゼクロスはそれをよけきれなかった。頭から被ってしまう。
「さて、あたしのマントは特別でねえ」
ヘビ女は無気味に笑いながら言った。
「エネルギーを吸い取ってしまうんだよ。あんたのエネルギーも吸い取ってやるからね」
彼女はマントの中でもがき苦しむゼクロスを見てほくそ笑んだ。
マントが落ちた。ゼクロスはその中に消えた。
「ンッ!?」
ヘビ女はそれを見て不思議に思った。
「おかしいねえ、全部吸い取る筈なんてないのに」
いぶかりながらマントを取ろうとする。その時だった。
手裏剣が飛んで来た。数個マントに突き刺さる。
「危ないっ!」
ヘビ女は咄嗟に後ろに跳んだ。足下に手裏剣が突き刺さっていく。
「流石にそれはかわしたか」
再び倉庫の上から声がした。
「クッ、変わり身の術かい」
彼女は倉庫の上に顔を向けて忌々しげに言った。
「そうだ、俺の能力を忘れていたな。俺は自身の幻影を作り出すことができる」
「フン、何で鬱陶しい奴だろね」
「そしてこういった術も使える」
彼はそう言うと左右に分身した。五体のゼクロスが姿を現わした。
「行くぞ」
そして彼等はヘビ女を取り囲んだ。
「ヌウウ・・・・・・」
五体のゼクロスが彼女を包囲する。そして身構えた。
「一つは本物、あとは全部偽者かい」
彼女はゼクロス達を凝視して言った。
「見たところ全部本物に見えるけれどね」
どれも影まである。厄介なことに。
「だけどこうしてやりゃあすぐにでもわかるね」
そう言うと鞭を繰り出した。そして五人のうちの一人を打つ。
消えた。どうやら偽者だったらしい。
「さあ、本物はそれだい!?」
そして鞭を手当たり次第に振り回した。忽ちゼクロス達が打ち据えられる。
だが途中で鞭が切られた。どうやら手裏剣を使ったらしい。
「そこかい!」
ヘビ女はそこに左手を向けた。それは蛇の頭である。
蛇の牙がゼクロスを襲う。そしてその喉に喰らいついた。
かに見えた。だがそれもまた幻影であった。
「チッ・・・・・・」
ヘビ女は舌打ちした。全てが幻影だったのだ。
「どうやらあたしを相当舐めてくれているね」
ゼクロスは少し離れた場所に立っていた。そしてそこから手裏剣を投げていたのだ。
「それは違うな」
ゼクロスはいきり立つ彼女に対して言った。
「俺は貴様の力をよくわかっているつもりだ。だからこそこうして術を使うのだ」
「へえ、そりゃ有り難いねえ」
「俺は勝つ為に最も有効な戦い方をとる。それだけだ」
彼の口調はあくまで機械的であった。そこに感情はない。
突進した。そして拳を出す。
「甘いね」
しかしそれはヘビ女の左の蛇により防がれた。
「今度はあたしの番だよ」
そしてその蛇で食い殺さんとする。
ゼクロスはそれをかわした。そして蹴りを入れた。
「ガハッ」
蹴りはヘビ女の腹に入った。彼女は思わず怯んだ。
そこへ拳がきた。顎を打たれのけぞる。
「よし、今だ」
彼は間合いを離すと大きく跳んだ。
「ゼクロス・・・・・・」
その全身が赤く光った。
「キィーーーーーック!」
その赤い光が炎のようになった。そしてヘビ女の胸を撃った。
後ろに跳ね返り着地する。目の前ではヘビ女が片膝をついていた。
「フン、見事なもんだねえ」
ヘビ女はゼクロスに顔を向けて呻くように言った。
「このあたしをここまで倒してくれたのはこれで二人目だよ」
「そうか」
彼はまだ油断せずに身構えている。
「あたしはこれでお終いだよ。幾ら何でもここまでダメージを受けてしまってはね」
そう言うと最後の力を振り絞り立ち上がった。そして左手を右の手刀で断ち切った。するとその左手は蛇となった。
蛇はそのまま這って行った。海に入りそのまま何処かへ去って行く。
「これでシャドウ様にはお伝えできるね」
彼女は蛇が無事海に入ったのを見届けると満足気に言った。
「それじゃあゼクロス」
彼女は最後にゼクロスに顔を向けた。
「あんたはいい男だったよ、シャドウ様の次にね」
それが最後の言葉だった。彼女はそのまま爆発した。
「手強い女だった」
彼はその爆発を見送りながら言った。
シャドウは自身の基地でトランプのカードを切っていた。そこに一匹の蛇がやって来た。
「御前は・・・・・・」
彼はその蛇を見てハッとした。蛇は彼の足下に辿り着くとそこで力尽きた。
「そうか、逝ったか・・・・・・」
彼は泡となり消えていく蛇の亡骸を見下ろしながら苦渋と無念に満ちた声を漏らした。
「ヘビ女・・・・・・」
彼の声は明らかに落胆したものであった。
「俺より先に旅立ったか」
彼とヘビ女の関係は深いものであった。魔の国にいた頃から常に彼を助けてくれたのだ。
「その貴様を死なせてしまうとはな」
それだけに落胆振りは凄いものがあった。
「どうした、えらく落ち込んでいるが」
そこへ誰かがやって来た。
「・・・・・・やはり貴様か」
シャドウは顔を上げて客の顔を見て言った。
「今情報を仕入れたのだが」
「知っている」
「そうか、ヘビ女が死んだぞ、シアトルでな」
「・・・・・・・・・」
シャドウは答えようとはしなかった。
(どうやらかなりの痛手のようだな)
タイタンは彼の顔を覗き見ながら思った。
「相手はゼクロスだ」
「・・・・・・そうか」
それを聞いて怒り狂うかと思った。だが違っていた。当てが外れてタイタンはつまらなく思った。
「飲むか」
彼は懐から一本のワインを取り出した。
「モーゼルだ。ドクトル=ゲーから貰ったものだ」
「ドクトル=ゲーからか」
彼はドイツ出身なのでその地の酒には精通していた。
「そうだ、かなりの上物らしいぞ」
「ではいただこう。貴様も席に着くがいい」
彼はそう言うとタイタンに向かいの席を勧めた。
「うむ」
タイタンは席に着いた。そしてワインを開けると二つのグラスを取り出した。
白い酒がグラスに注ぎ込まれる。二人はそれを手に取ると杯を当てて飲みはじめた。
「美味いな」
シャドウはその酒を一口飲んで言った。
「そうだな、俺はいつもはイタリアのものをよく飲むのだが」
タイタンは口の中でその味を堪能しながら言った。
「ドイツのものもいい。今度はこれも飲むか」
「そうだな、俺もそうするとしよう」
二人は瞬く間にワインを空けた。
「さて、と」
タイタンはシャドウの気持ちが落ち着いたのを見計らい声をかけた。
「今後どうするつもりだ」
「今後か」
二人は酔ってはいなかった。だがシャドウは酒により気を鎮めていた。
「まずはストロンガーを倒す。そして」
「そして!?」
「あの男を倒す。そして仇をとる」
「そうか」
見ればその眼は燃えていた。復讐を誓う激しい炎で燃えていた。
「さて、とルミちゃんも無事だったみたいだな」
村雨は戦いを終えルミと共に再び野球観戦を楽しんでいた。
「ええ、良さんのおかげで」
ルミはそれに対して笑顔で答えた。
「そうか、無事で何よりだよ」
彼はそれを聞いて笑った。にこやかで優しい笑顔である。
「・・・・・・・・・」
ルミはその笑顔を見て自身も笑った。
「どうしたんだい!?」
村雨はルミが笑顔を見せたのを不思議に思った。
「イチローがまた打ったの?」
違った。今はマリナーズの守りの時である。イチローはライトを守っていた。
ライトに打球が飛んだ。イチローはそれを素早い動きでキャッチした。
三塁にいたランナーがそれを見て走った。イチローがホームへ向けて矢の様な送球を返した。
速い。そして正確であった。キャッチャーのミットに寸分の狂いもなくボールは収まりホームに突入を敢行したランナーは憤死した。
「肩も相変わらずだな」
彼はそれを見て感嘆の声を漏らした。
顔を戻す。見ればルミはやはり笑っていた。
「イチローのプレイに微笑んだんだね」
「違いますよ」
ルミはそんな村雨に対しやはり微笑んで答えた。
「良さんに笑ったんですよ」
「俺に!?」
村雨はそれを聞いて大いに驚いた。
「俺の顔に何かついてるかな」
そして両手で慌てて顔をさすったり軽く叩いたりした。
「だから違うんです」
ルミはそんな彼の様子がおかしくてたまらなかった。だがそれに対して笑ったのでは当然なかった。
「良さんって自分のことはあまりわかってないんですね」
「そ、そうかな」
彼はそれを聞いて今度は狼狽した。不思議な程狼狽している。
「けれどいいですよ。そうしたところも良さんの持ち味ですから」
「それはあまり嬉しい言葉じゃないなあ」
彼は不満そうであった。
「どうしてですか?」
「だってほら、何か馬鹿にされているみたいで」
「馬鹿になんかしていませんよ」
「本当に!?」
彼は顔を少し尖らせて尋ねた。
「ええ。むしろ良さんの別の一面が見られましたし。見直しているんですよ」
「そうかなあ。俺にはそうは思えないけれど」
今度は首を傾げた。やはり彼にはよくわかっていないようである。
試合観戦後二人はシアトルを後にすることにした。そして次の戦場へ旅立つ為に空港へ向かった。
「行こうか」
「はい」
こうして二人は次の戦場に向かった。二人を乗せた銀の翼がワルキューレの槍の様に輝いた。
港町の毒蛇 完
2004・5・22
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