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仮面ライダーZX 〜十人の光の戦士達〜

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麗わしの島の戦い

 バリ島、インドネシアにあるこの島は独特の文化を持っていることで知られている。
 インドネシアは一億五千万以上の人口を持つ東南アジア最大の国であるが同時に多様な文化も併せ持っている。スカルノやスハルトといった強権政治家達もそのことはよく認識しその文化を保護してきた。否、それを否定してはインドネシアという国は成り立たないのである。
 そうした難しい国であり民族問題も抱えている。東ティモールはその最たるものであったが他にも色々と民族問題はある。だが国民は全体的におおらかで平和を愛している。そして外交にも長けておりアメリカや中国、日本といった大国にも臆するところはない。
 この国で最も勢力の強い宗教はイスラム教である。だがアラブのイスラムとはいささか違う。
「ここの人達は思ったよりおおらかですね」
 沖一也はバリの街中を歩きながら隣にいる城茂に言った。
「確かにな。俺もアラブは行ったことがあるけれどこことは比較にならない位厳しかったぞ」
 城はインドネシアの雰囲気に驚きながら言った。
「リビアなんかは凄かったな。もう何から何まで怒られっぱなしだった。街の爺さんの厳しいこと厳しいこと」
「まあ城さんでしたらそうでしょうね」
「おい、そりゃあどういう意味だ」
 彼はその言葉に対し口を尖らせた。
「いえ、ただ普通に思っただけで」
「確かに俺は堅苦しいことも決まりごとも好きじゃないが」
「それがまずいんじゃないですか?」
「最後まで聞け。だからといって現地の習慣を破ったりはしないぞ」
「滝さんが言ってましたよ。牛肉が食べたいと盛んに言ってったって」
「イスラムは牛肉は食べてはいいんだぞ。それに豚肉も傷みやすいから食べないんだ」
「そうだったんですか」
「そうだ、イスラム教ってのは案外現実的でよく考えられた宗教なんだ」
 その通りである。例えば犬の唾を不浄としているのは狂犬病を恐れてのことである。実際には酒を飲む人も多かったりする。酒に関しては時代により解釈が異なる。当然人によっても。トルコの国父ケマル=アタチュルクは酒好きとして有名であった。
「それはわかっているつもりですが」
「だからアラブと東南アジアでは変わるものさ。マレーシアでもシンガポールでもムスリムは多いけれどアラブのそれとは雰囲気が全く違うし」
「そういえばここには占い師も多いですね」
 イスラムは建前上占いはするなという。だが実際にはイスラムにおいて占いはかなりの発展を遂げている。ちなみにキリスト教では異端とされ徹底的に弾圧された錬金術はイスラムにおいては奨励されそれが科学の発展に繋がっている。
「これもインドネシアの特色かな。確かに他のアラブ諸国に比べると多いな」
「ですね。まあここはバリ島ですが」
 バリ島はヒンズー教の勢力圏である。
「しかしムスリムもいるからな。そうした多くの宗教や文化が雑多に暮らしているというのは俺は案外嫌いじゃない」
「城さんに合っていますしね」
「おい、それじゃあ俺がガサツみたいに聞こえるじゃないか」
「あれ、違うんですか?」
「違う、すぐに訂正しろ」
 二人はこんな話をしながらバリ島の中を歩いていた。わりかしインドネシアの雰囲気とその風土が気に入っているようである。そこに一人の男がやって来た。
「さて、茂も一也も元気かな」
 それは一人の小柄な東洋人であった。彼はサングラスをして空港に降り立った。

 城と沖はバロン=ダンスを見ていた。バリ島名物の一つである。
 この島特有の伝説にバロンとランダの伝説がある。これはインドにもインドネシアの他の島にもない独特の伝説である。
 バロンは善を象徴としランダは悪を象徴する。聖獣バロンと鬼女ランダは互いに永遠に争い善と悪の戦いを続けるのである。だがランダにも良心はあり話は複雑である。しかもランダは死しても甦りバロンも同様である。これはインドの輪廻転生の思想に根拠がある。
「善と悪の対立ですか」
 沖はそれを見ながら呟いた。
「俺達に似てると思ってるな」
 城はそれを聞いて尋ねた。
「ええ。俺達もこうして悪の組織と何度も戦っていますしね」
「そうだな。思えば俺も多くの組織と戦ってきた」
 城の目が感慨に耽ったものになる。ブラックサタン、デルザー、ネオショッカー、ドグマ、ジンドグマ・・・・・・。沖もそれは同じである。彼等はライダーとなってから実に多くの組織と戦ってきた。
 一つの組織が崩壊すれば首領はすぐに新たな組織を起こす。幾度彼は死のうとも甦る。そしてライダー達は彼の野心を阻止する為に戦うのだ。
「かってあの奇巌山で葬ってやったがな」
 城はデルザーとの最後の戦いを思い出していた。
「だがすぐにネオショッカーを立ち上げた。それが潰れてもドグマ、ジンドグマだ。御前さんはドグマとの戦いがはじめてだったな」
「はい、彼等に国際宇宙開発センターを破壊されたのがはじまりでした」
 彼の声は少し沈んだものとなった。
「それから日本に渡りドグマと戦いました。その時に先輩達とお会いしたのでしたね」
「ああ、懐かしいな」
 地獄谷五人衆との戦いであった。赤心少林拳も交えた総力戦であった。メガール将軍が手ずから鍛え上げた精鋭達との死闘であった。
「あの時に俺の他にもライダーがいたんだって知りましたよ。俺は一人じゃなんだって」
「皆俺達はネオショッカー首領との戦いで死んだと思っていたけれどな」
 城は苦笑して言った。
「あ、そうだったんですか」
「そうだよ。って知らなかったのかよ」
「ええ、初耳です」
「・・・・・・仕方ないな。まあおやっさんだけは信じていたみたいだけれどな」
「立花さんですね」
「ああ。あの人にだけはかなわないな」
 彼は急に温かい表情になった。
「俺達はあの人に育てられたからな。ブラックサタンやデルザーとの戦いでどれだけ助けられたか」
「俺もですよ。谷のおやっさんに」
「そうした人達がいるから俺達も戦える。それだけは忘れたくないな」
「ええ、同感です」
 バロン=ダンスは終わった。そこに新たに誰かが姿を現わした。
「ムッ!?」
 二人はそれを見て目を見張った。それはバダンの戦闘員達であった。
「バダンか!」
 二人は彼等の姿を認めると彼等の中に飛び込んだ。そして彼等との戦いをはじめた。
「クッ、城茂と沖一也か!」
 彼等は二人から間合いを離して叫んだ。
「バリ島に来ているとは知っていたがまさかここにいるとはな!」
 そして二人を取り囲む。二人は背中を向け合って彼等に対峙している。
「生憎だったな、たまたまダンスを見ていたんだ」
 城は不敵な表情で彼等に対して言った。
「貴様等に会ったのは軍善だったが」
 沖は赤心少林拳の構えを取っている。
「ここで会ったが百年目だ、相手をしてやるぞ!」
 二人は同時に叫んだ。
「クッ!」
 彼等はその気迫に押された。やむおえなく退こうとする。
「待て、それには及ばん!」
 そこに二体の怪人が姿を現わした。
「来たな」
 二人は怪人達を見て呟いた。観客達はそれを楽しげに見ている。
「おいおい、面白い見世物だな」
「ああ、日本の番組みたいだ」
 日本のテレビ番組はインドネシアでも人気である。彼等はこの戦いを何かの見世物だと思っている。
 怪人はショッカーの人食い怪人サラセニアンとネオショッカーの甲羅怪人オカッパ法師である。二体の怪人は二人に挑みかかって来た。
「ムッ」
 二人は森の中に投げ飛ばされた。観客達は思わず息を飲む。
「おいおい、いきなりやっつけちまったよ」
「何言ってるんだ、凄いのはこれからだよ」
 二人は素早く森から飛び出て来た。その時には既に変身していた。
「おおーーーーーっ!」
 皆その姿を見て拍手喝采である。彼等はそれを気にもとめず怪人達と対峙する。
「行くぞっ!」
 そして拳を振るって立ち向かう。怪人達も武器を手にして向かって来た。
「エケエケエケエケ」
 サラセニアンはストロンガーにその鞭で攻撃を仕掛けてきた。その右腕を掴み取った。
「ムムム」
 ストロンガーはそれを引いた。だが怪人の力も思ったより強く力比べは均衡していた。
 ストロンガーは鞭に左手を添えた。そして叫んだ。
「電ショック!」
 高圧電流が鞭を伝わった。そしてサラセニアンを激しく撃つ。
「エケエケーーーーーーッ!」
 怪人は叫び声をあげた。ストロンガーは怪人の力が怯んだのを見て反撃に移った。
「トォッ!」
 空中に跳んだ。そして一回転した。
「電キィーーーーーック!」
 電気を帯びた蹴りが炸裂する。怪人は後ろに吹き飛び爆死した。
「おお、凄いリアルだな!」
「おお、まるで映画みたいだ!」
 観客は誰もそれが本当なのだとわからない。戦いはそれに構わず続いている。
「カッパーーーーー」
 オカッパ法師は奇妙な叫び声をあげると頭の皿をスーパー1に投げて来た。
「ムッ!」
 スーパー1はそれを銀の腕で弾き返した。地に落ちた皿は忽ちその場所を溶かしていく。
「ケッ」
 今度は黒い布を投げてきた。スーパー1はそれを避けようとしたが避けきれず捕まってしまった。
「しまった!」
「ケケケケケ」
 オカッパ法師はそれを見て笑っている。逃れられないと確信していたのだ。
 だがスーパー1には切り札があった。そして彼はそれを今使うことをためらわなかった。
「チェーーーンジ、パワーーーーーハァーーーーーーンドッ!」
 彼は腕を換えた。忽ち銀であった腕が真紅のものになる。
「おいおい、今度は手の色が変わっちまったぞ!」
 皆それを見て大騒ぎする。しかし当のスーパー1はそれどころではない。
「ウオオッ!」
 その黒い布を掴む。そして左右に思いきり引きそれを千切ろうとする。
 やがて力が勝った。布は引き裂かれた。
「今度はこちらの番だっ!」
 スーパー1は身構えた。そして再び腕を換えた。
「オカッパ法師、河童の改造人間である貴様の弱点は・・・・・・」
 赤い腕が光った。そして青いものになった。
「水だ、河童は多量の水分がなくては生きていけない!」
 そして腕をエレキハンドに換えた。
「チェーーーーンジ、エレキハァーーーーーンドッ!」
 換装するとすぐにそれを怪人に向けた。
「喰らえっ!」
 そして電撃を放った。
「ギャアオオオオオッ!」
 これにはさしものオカッパ法師もたまらなかった。普通の怪人よりもかなり多くの水分を必要とする彼はそれだけ電気を通し易かったのである。そして彼はそれに打ちのめされた。
 それが決め手であった。怪人は倒れ爆発した。
「おお、やけに強いなあ」
「正義の味方はこうでなくちゃな。上映される日を楽しみにしておくか」
「気楽なものだな」
「ま俺達やバダンのことを知らないだけまだいいですよ」
 そんな観客達の声を二人のライダーは苦笑して聞いていた。

 前哨戦はライダー達の勝利に終わった。二人の改造魔人はそれをモニターで見ていた。
「やはりあの怪人達では駄目か」
 ヨロイ騎士はモニターから目を離して言った。
「だがあの二体の怪人が駄目では実際にライダー達を倒せる怪人はおらんぞ」
 磁石団長はそんなヨロイ騎士に対して言った。
「それはわかっている。だが怪人はまた送られて来る」
「ライダーを倒せればよいのだがな」
「それが出来る怪人がおらんのだ。相手も手強いことだしな」
「やはり我々が出向くのが一番か」
 ヨロイ騎士が意を決した顔で言ったその時だった。
「まあ待てヨロイ騎士よ、それにはまだ早いのではないか」
 不意に部屋に一体の古代エジプトの棺が現われた。
「来たか」
 二人はその棺を見て言った。
「うむ、お主達のことが心配になってな」
 その棺の中からマシーン大元帥が姿を現わした。
「よく来てくれたな、マシーン大元帥」
 二人は彼の姿を認めると急に表情を明るくさせた。
「何を水臭い、我等は常に一緒ではないか」
 彼は二人に対して言った。
「堅苦しいことは抜きだ、早速本題に入ろう」
「うむ」
 三人はそこにあるテーブルに着いた。
「どうやらストロンガーとスーパー1に苦戦しておるようだな」
「うむ、先程襲撃をかけさせたが」
「サラセニアンとオカッパ法師がやられてしまった」
 二人は口惜しさを滲ませて言った。
「そうか、あの二体の怪人がのう」
 大元帥はそれを聞いて顎に手を当てた。
「うむ、やはりあの二人は手強かった」
「おかげでライダーに対抗できる怪人がいなくなってしまった」
「怪人なら任せておけ」
 マシーン大元帥は二人の話を聞き終えて言った。
「わしがすぐに送ってやろう。そのことは心配無用だ」
「まことか!?」
 磁石団長が思わず声をあげた。
「うむ。ライダーにも対抗出来るような怪人なら何体か持っている。それもこのバリ島の気候に合ったものをな」
「おお、それは有り難い。これであの二人を倒せるぞ」
 ヨロイ騎士も声を出した。
「だがそれだけではライダー達は倒せん」
 マシーン大元帥はここで声を厳しくさせた。
「的確な作戦がなくてはな」
「うむ」
 二人はその言葉に表情を引き締めた。
「ここは二手に分かれて動くべきだと思うが」
「今までと同じようにか」
「そうだ。まずはヨロイ騎士が陽動部隊を率いる」
「うむ」
 ヨロイ騎士はそれに対して頷いた。
「そして磁石団長が主力部隊を率いる」
「挟み撃ちにするつもりだな」
「その通りだ」
 マシーン大元帥は磁石団長の言葉に頷いた。
「まずヨロイ騎士がライダー達を誘き出す。そしてその背後から磁石団長が襲い掛かる。そして奴等を一網打尽にするのだ。幸いこのバリ島は陽動を仕掛けるにはもって来いの場所だしな」
 観光地だけあってテロにも悩まされているのである。
「相変わらず見事な作戦だな」
「フフフ、世辞はいらぬぞ」
 マシーン大元帥は二人の言葉に対して不敵な笑みを浮かべた。
「それよりもこちらのこてゃ頼んだぞ」
「任せておけ」
 二人は胸を張って答えた。
「必ずやライダー達を始末してくれよう」
「期待しておるぞ」
 三人は杯を取り出しそれを打ちつけ合った。こうして彼等の作戦は決定された。

マシーン大元帥は自身の基地に戻った。入口で戦闘員が敬礼した。
「何か変わったところはないか」
「暗闇大使が来られています」
 その戦闘員は答えた。
「暗闇大使がか。今何処にいる」
「客室に案内致しましたが」
「そうか、会おう」
 彼はそれを聞いて基地の中の客室に向かった。
「おお、戻ったか」
 彼は椅子に座っていたがそこから立ち上がった。部屋の中はコンクリートの壁と赤い絨毯がある。そして椅子とテーブルが中央になる。見れば簡素な部屋である。
「うむ、よく来てくれた」
 彼は暗闇大使に挨拶した。そして彼に再び席に着くように勧め自らも座った。
「ところで何の用だ」
 彼は問うた。
「わざわざ本部からこのようなところにまで来てくれるとは」
「うむ、一つ頼みたいことがあってな」
 暗闇大使の目が光った。
「頼みたいこと!?」
 大元帥もその言葉に眉を動かした。
「そうだ、ゼクロスのことでな」
「今あの男は日本にいるのではなかったのか!?」
「何を言っておる、バダン日本本部は今壊滅状態じゃ。あの男も世界を動き回っておる。我々を捜してな」
「そうであったな。日本支部は全ての改造人間を倒されてしまったしな」
「そうじゃ。これはわしの失態だがな。だが今それをここで言っても何にもならぬ」
「うむ」
 姿形は酷似していてもやはり地獄大使とは違っていた。従兄弟は激情家だが彼は常に冷静である。そうしたところが二人の不和を助長しているのかも知れない、とマシーン大元帥は思った。
(だがそれは口に出しては言えぬな)
 そのことを口にしたならば暗闇大使も激怒してしまうのだ。彼等はそれ程までにお互いを嫌悪し憎み合っているのだ。
「それで頼みだが」
 暗闇大使は再び言葉をかけてきた。
「頼めるだろうか」
「内容によるな」
 彼は言った。
「そうか。ではあの男と戦う時になった場合だが」
「それなら構わないぞ」
 捕らえろ、というものならば首領から直々のものでない場合以外は断るつもりであった。
「そうか。ならば少しテストして欲しいものがある」
「テスト!?兵器か何かか」
「そうだ。実は今開発中の兵器があってな」
「それは興味深いな」
「それをあの男との戦いに際して使ってもらいたい。頼めるか」
「こちらとしても有り難い話だ。新兵器がどのようなものか興味があるしな」
 彼はそれを快諾した。
「そうか、有り難い。では宜しく頼むぞ」
「そしてその兵器は何時こちらに届くのだ?」
「すぐに送る。楽しみにしておいてくれ」
 彼は言った。そして基地を後にした。
「兵器か。そういえばあまり使ったことはないな」
 デルザーの主戦力はあくまで改造魔人であった。他の組織の大幹部達と同等の戦闘力及び位を持つ彼等はそれ自体が最大の戦力であったのだ。
「だが面白いな。果たしてどのような兵器か」
 彼はほくそ笑んだ。
「あのゼクロスを葬り去れればそれでよし。それでわしの名もさらに上がるというものよ」
 彼は笑ってその部屋を後にした。部屋は闇の中に消えていった。

 城と沖はバリ島においてバダンの捜索を続けていた。そしてライステラスに謎の一隊が向かっているとの情報を掴んだ。
「臭いな」
 道をバイクで進みながら城は言った。
「はい、レーダーの反応が普通のものとは明らかに違いますし」
 沖はⅤマシンのレーダーを見ながら答えた。
「すぐに行きましょう」
「ああ、そこにいる奴は大体察しがつくがな」
 二人はそう言ってライステラスに向かった。
「よし、準備はいいな」
 ヨロイ騎士は緑の棚田の中で戦闘員達に対して指示を出していた。
 このライステラスはウプド郊外にある。標高は八〇〇メートルであり中々涼しい。その緑の田園地帯はのどかで優雅ですらある。
 だが今ここにバダンの悪の戦士達がいた。彼等は周囲に散りこの田園地帯を次々と占拠していった。
「よし、作戦は順調なようだな」
 ヨロイ騎士は戦闘員達の動きを見ながら言った。
「ライダー達が来る前にここを我等の陣地とするのだ」
 その指揮は的確である。やはり古から騎士だっただけはある。
「待てっ!」
 だがそこに声がした。
「来おったな」
 ヨロイ騎士はその声がした方に振り向いた。
 そこは棚田の上の方であった。そこに二人の戦士達がいた。
「城茂、そして沖一也よ」
 ヨロイ騎士はその二人の戦士の名を呼んだ。
「今ここで倒してくれる」
「貴様にそれができるかな」
 城は彼を挑発するように言った。
「ほざくな、かかれっ!」
 それに対してヨロイ騎士は剣を振るった。散っていた戦闘員達が集まり二人に襲い掛かる。
「来たな」
 二人は身構えた。変身することなく戦闘員達を倒していく。
「絡め取れっ!」
 ヨロイ騎士が指示を出す。戦闘員達が二人の左右に回り鎖を投げる。
「ムッ」 
 それは二人の両腕、及び両足をとった。
「さあ、どうする」
 ヨロイ騎士は二人を見上げて言った。
「このままでは力尽きるぞ」
 まるで何かを待っているかのような口調であった。
「この程度でっ!」
 沖が叫んだ。そしてその鎖を引き千切った。城もそれに続いた。
 ヨロイ騎士はそれでも攻撃を止めない。執拗に鎖を投げさせ二人を絡め取ろうとする。まるでその体力を徐々に奪っていくように。
「フフフフフ」
 彼はその様子を眺めながらほくそ笑んでいた。そこに何かがやって来た。
「ヨロイ騎士よ、待たせたな!」
「来たか!」
 城と沖の後ろにその影は現われた。そして二人を取り囲んだ。
「磁石団長か!」
「そうだ、貴様等を倒す為にやって来たぞ!」
 彼は自信に満ちた声で二人に言った。
「見たところヨロイ騎士の部隊との戦いで相当に体力を消耗しておるな」
「あの鎖はそれが目的だったのか」
「そうだ、流石にそれは見抜いたか」
 ヨロイ騎士は上の方に向かって歩きながら言った。
「あの鎖は貴様等の体力を奪うのが目的だったのだ」
 その後ろに怪人達が現われた。
「そして疲れたところに磁石団長の一団が到着して一気に倒す。素晴らしい戦術だろう」
「確かにな」
 沖はそれを聞いて無表情で答えた。
「成功したならな」
 城は不敵な声で言った。
「フフフフフ、今それが成功したのだ」
 磁石団長とヨロイ騎士は並んでその言葉を言った。
「さあ、観念するがいい。貴様等は最早変身する力も残ってはおるまい」
「それはどうかな」
 二人は言った。
「俺は電気がその力の源」
「俺は赤心少林拳の修業により気から力を取り入れることが出来るのだ」
 二人は彼等と正対して不敵に言った。
「それがどうしたというのだ。スーパー1はともかくストロンガーは変身できまい」
「そうじゃそうじゃ、例え変身したとしてもその体力ではチャージアップできまい」
 ヨロイ騎士と磁石団長は勝ち誇った態度を崩さない。
「・・・・・・ならば見せてやろう」
 城は不敵な態度を崩さない。
「ライダーの力を合わせた技を」
 沖も言った。そして二人は構えをとった。

 変身
 城は手袋を取ると両腕を肩の高さで右に垂直にした。右腕は伸ばし左腕は肘のところで直角にし右腕と並行にする。そしてそれを上にゆっくりと旋回させる。
 身体が黒くなっていく。胸は赤くなりブーツが白になる。
 スト・・・・・・ロンガーーーーーッ!
 銀の両手を合わせる。するとそこに電撃が走る。
 その両手が白い手袋に覆われる。顔の右半分が黒と白の仮面に覆われる。眼は巨大で緑である。そしてそれが左半分も覆っていく。

 変・・・・・・
 沖は両手を爪の様にした。そしてまず右腕を頭の高さで後ろに引き左腕は腰のところで前に置く。
 右腕を前に出す。掌は上を向いている。そしてそれはすぐに引き込む。
 身体が黒と銀になっていく。手袋とブーツは銀である。
 ・・・・・・身!
 手首のところで両手を合わせそれを前に出す。そして時計回りに百八十度回転させる。
 顔が銀の仮面に覆われる。左半分も。眼が赤く光った。

 二人は光に包まれた。そして二人のライダーが現われた。
「フフフ、変身したな」
 ヨロイ騎士は彼等を見てまだ笑っていた。
「一体どうするつもりなのかのう」
 磁石団長もそれは同じである。やはり笑っていた。
「見るがいい」
 スーパー1はそれに対して言った。
「チェーーーーンジ、エレキハァーーーーーンドッ!」
 スーパー1は腕をエレキハンドに換えた。そしてそれでストロンガーを掴んだ。
「ムッ!」
 何とそれでストロンガーに対して渾身の力で電撃を放った。ストロンガーの全身が緑に輝く。
「何とっ!」
 二人の改造魔人はそれを見て驚愕した。彼はその電気の力を瞬く間に吸収したのだ。
「よし、これで充分だ」
 ストロンガーは電気を吸収し終え満足した声で言った。
「わかりました」
 スーパー1はそれを聞くと電撃を止めた。そして腕をスーパーハンドに戻した。
「どうだ、ファイブハンドにはこうした使い方もあるのだ」
「ぬうう、ぬかったわ」
 ヨロイ騎士はスーパー1の言葉を聞き歯軋りした。
「俺は元々は惑星開発の為に改造されたのだ。人々を助ける為にな」
 彼の声には何処かやりきれぬ思いが込められていた。
「貴様等バダンがいる限り俺達の戦いは終わらない」
 ストロンガーは二人を指差して言った。
「小癪な・・・・・・」
 磁石団長はそれに対して呪詛の言葉を漏らした。
「だが貴様等を倒してもう一度夢を掴む、行くぞっ!」
 ストロンガーの夢、それはかって共に戦ったあの戦士との約束を果たすことであった。だが彼はそれを誰にも言おうとはしない。自分の心の中に留めているだけであった。
 その前に怪人達が出て来た。そしてストロンガーとスーパー1を取り囲む。
「来たな」
 二人のライダーは背中合わせになり取り囲む怪人達と対峙した。
 四体いた。ゲルショッカーの酸欠怪人サソリトカゲス、デストロンヨロイ一族の一人カマクビガメ、ゴッドの木人怪人アルセイデス、ドグマの忍者怪人カメレキングであった。
「どうだ、この怪人達は」
 磁石団長は怪人達の輪の中にいるライダー達に対して余裕を含んだ声で問いかけた。
「打ち破れるものなら破ってみよ」
 磁石団長も同じである。まるでライダーの敗北を確信しているようだ。
「大した余裕だな、二人共」
 それを聞いたストロンガーが言った。
「まだ勝負ははじまってはいないというのに」
「勝負とは常にはじまる前から決まっておるのだ」
「そうだ、現に貴様等は既に取り囲まれているではないか」
 二人はストロンガーに対し反論した。
「スーパー1」
 ストロンガーはそれを聞いてスーパー1に声をかけた。
「わかっていますよ」
 彼が何を言いたいのかスーパー1はわかっていた。そう言って頷くだけで充分だった。
「ならば見せてやる、俺の技を」
 スーパー1は身構えると腕をゆっくりと動かした。
「ちょこざいな、やれい!」
 二人の指示が同時に下った。そして二体の怪人がスーパー1に襲い掛かった。
「ソオーーーーーーリィーーーーーーーーーーーッ!」
「フシューーーーーーーーーーウッ!」
 サソリトカゲスとカメレキングが来た。鋏と剣がライダーを襲う。
「ムンッ!」
 スーパー1は彼等の腕を蹴り飛ばしてその攻撃をかわした。そして跳び上がった。
「スーーーパーーーーライダァーーーーー」
 空中で叫ぶ。
「天空連続キィーーーーーーック!」
 そしてまずはカメレキングを蹴った。間髪入れずサソリトカゲスも蹴った。
 彼等の後ろに着地した。二体の怪人はその背の向こうで爆死した。
「今度は俺だっ!」
 ストロンガーは自分から残る二体の怪人に向かって行った。
 アルセイデスは蔦の鞭を放ってきた。カマクビガメは自身の首を伸ばしてきた。
 ストロンガーは首をかわした。そして蔦の鞭は手で掴んだ。
「無駄だっ!」
 そしてそこから電撃を放った。
「グオオッ!」
 怪人は苦悶の声をあげる。カマクビガメの首も戻るまでには時間があった。
「今だっ!」 
それを逃すストロンガーではなかった。すぐに彼は跳んだ。
「ストロンガーーーーー・・・・・・」
 上空を跳びながら叫ぶ。
「ダブルキィーーーーーック!」
 まずはアルセイデスを蹴った。続いてようやく首が戻ったカマクビガメを。
 そしてスーパー1と同じように怪人達の後ろに着地した。怪人達は先の二体の同僚達と同じくライダーの背で爆発した。
「どうした、もう終わりかっ!」
 ストロンガーはヨロイ騎士と磁石団長を見据えて言った。
「ヌウウ、マシーン大元帥が送ってくれた精鋭達をこうも簡単に倒すとは・・・・・・」
 彼等は思わぬ展開に舌打ちした。
「今度は貴様等の番だっ!」
 スーパー1はストロンガーの横に来て言った。
「ムムム・・・・・・」
 改造魔人達は怯んだ。だがそれは一瞬であった。
「こうなれば我等で倒してくれる」
「そうじゃ、最初からこうすれば問題なかったのじゃ」
 ヨロイ騎士は二振りの剣を、磁石団長は磁石の杖を取り出した。それを手にして身構える。
「行くぞっ!」
「望むところだっ!」
 かくして二組の戦いがはじまった。ストロンガーはヨロイ騎士と、スーパー1は磁石団長と戦いをはじめた。
「喰らえっ!」
 磁石団長は前に屈んだ。そして背中から何かを発射してきた。
「ミニ磁石っ!」
 無数の磁石がスーパー1に襲い掛かって来た。
「来たな」
 スーパー1はそれを見て身構えた。
「どうじゃ、この磁石の嵐、よけられるかっ!」
 磁石団長はスーパー1を前に豪語した。
「それはこれを見てから言うのだな」
 彼はすぐに腕を換えた。
「チェーーーンジ、冷熱ハァーーーーーンドッ!」
 そして腕を緑のものに換えた。
 まずは炎を放った。忽ち磁石が紅く染まる。
「フン、何をするかと思えば」
 磁石団長はそれを見て笑った。
「そのようなものでわしの磁石を止められると思うてかあっ!」
 だがスーパー1は答えない。すぐに炎を収めた。
「次はこれだっ!」
 そして今度は冷気を出した。
 それまで炎で激しく熱されていた磁石が今度は冷気に曝される。これによりまず磁石の一つが割れた。
「ムッ!?」 
 そしてそれは全ての磁石に渡った。粉々に砕け散り床に落ちた。
「熱したあとで急に冷やすとどういうことになるか・・・・・・。わかるな」 
「おのれ・・・・・・」
 磁石団長は悔しさと怒りで歯噛みした。だがそれを続けている暇はなく磁石の杖を振るってスーパー1に向かった。
「もう飛び道具は止めじゃあっ!」
「望むところだっ!」
 そして二人は今度は接近戦を開始した。
 ヨロイ騎士は両手に長短二振りの剣を持っていた。それでストロンガーに斬り掛かる。
「ムンッ!」
 だがストロンガーはそれをかわした。間合いが離れた。
「間合いなぞわしには関係ないわっ!」
 彼はそう叫ぶと頭上で剣を交差させた。
「高圧熱線っ!」
 交差された剣から熱線が放たれる。それはストロンガーに襲い掛かる。
「ストロンガーーバリアーーーーーッ!」
 ストロンガーは叫んだ。すると彼の身体が青く光った。
 そして自身の前に電磁の壁を作った。それで熱線を防いだ。
 壁と熱線は相殺された。ストロンガーはそれを確認すると身体の色を元に戻した。
「まだだっ!」
 そして今度は胸のSの文字のところに両手を合わせた。
「チャーーーーージアーーーーーーップ!」
 叫んだ。そしてSの文字が激しく回転をはじめた。
 ストロンガーの角と胸の中央が銀色になった。超電子の力を発動したのだ。
「おのれ、本気を出してきおったな」
「そうだ、勝負はこれからだっ!」
 今度は自分から突進した。剣と拳がぶつかり合う。
 四人は激しい戦いを続けていた。相変わらずストロンガーはヨロイ騎士と、スーパー1は磁石団長と戦いを続けている。
 状況は次第にライダー達の方に傾いてきていた。さしもの二人もチャージアップしたストロンガーと五つの腕を自由自在に操るスーパー1が相手では分が悪かった。
「今だっ!」
「はいっ!」
 二人は彼等の一瞬の隙を逃さなかった。そして頷き合うと一斉に跳んだ。
「行くぞっ!」
 彼等は同時に空中で一回転した。
「超電・・・・・・」
「スーパーライダァーーーー・・・・・・」
 二人は技の名を同時に叫んだ。
「スクリューーーーーキィーーーーーック!」
「閃光キィーーーーーック!」
 そして蹴りを放った。二人の蹴りが同時に二体の改造魔人の胸を撃った。
 二人は後ろに大きく吹き飛ばされた。ライダー達は着地しながらそれを見守った。
「グオオオオオオ・・・・・・」
 二人は地面に叩き付けられながらも立ち上がった。そしてライダー達の方へ顔を上げた。
「見事な蹴りだ。我等にここまでのダメージを与えるとはな」
 ヨロイ騎士は足をふらつかせながらもまだ前に進もうとする。
「わし等の負けじゃ。バリ島での作戦は失敗だ」
 磁石団長も同じである。彼等の目の前には死が口を開いていた。
「やりおるわ、ライダー達よ」
 それでも彼等は膝をつこうとはしなかった。
「褒めてやろう、復活した我等をまたしても破るとは」
 そして誇りも忘れてはいなかった。
「貴様等を倒しこのバリ島を死の島に変えてやるつもりだったが。こうなっては致し方あるまい」
「あとはマシーン大元帥に任せるとしよう」
 二人はよろめきながらも踏ん張ってそう言った。
「だがのう」
 二人は目を見開いた。
「デルザー軍団改造魔人は死ぬまでその偉大な祖先の名を汚すことはないのじゃ。今からそれを見せてやろう」
「とくとな」
 二人はそう言うとその場に座り込んだ。
「死ぬその時も堂々とし威厳を忘れぬ、それをしかと見よ!」
「地獄で待っておるぞ!」
 彼等はそう言うと爆発した。二つの爆発がライダー達の目に映った。
「死んだか」
 ストロンガーはそれを見て呟いた。
「ええ。流石は誇り高き魔物達の子孫です。見事な最後です」
 スーパー1もそれに同意した。こうしてバリ島の戦いは終わった。

「何だ、もう終わっていたのか」
 立花は二人と合流して言った。
「折角わしが来てやったというのに」
 あからさまに残念で仕方がないといったふうである。
「おやっさんが来ていたなんて聞いていませんよ」
「そうですよ。アメリカにいたんじゃなかったんですか」
 二人は残念で仕方なさそうな彼を宥めるようにして言う。
「フン、どうせわしはいてもいなくても一緒だ」
 彼はヘソを曲げた。
「おやっさんも強情だなあ。戦いはまだまだこれからだってのに」
「そうそう、バダンの奴等は次から次に来ますよ」
「それはわかってはいるが。しかしわしがやることはどうせ足手まといにしかならんだろう」
「それは違いますよ」
 二人は表情を引き締めて答えた。
「おやっさんがいなかったら俺達は今こんなにくつろいだりできませんよ」
「そうですよ、俺達ライダーを理解して常に側にいてくれる人の存在がどれだけ有り難いか」
「お前達・・・・・・」
 立花はその言葉にじんときた。
 彼等は皆孤独である。家族はない。早くにうしなったか殺されてしまったか。そして普通の人間ではない。心は人間であっても身体はそのほぼ全てが改造されている。彼等の他には誰もいない。孤独な戦士達なのだ。
 その彼等を常に父親のように支えてきたのが立花である。ライダー達にとって彼の存在がどれだけ有り難かったか、それは言うまでもなかった。
 彼等が苦しみ、悩んでいる時も常に側にいた。時には厳しく、時には優しく。彼なくしてライダー達は悪の組織を破ることは出来なかったであろう。
「だからおやっさんはむくれる必要はないんですよ」
「そうですよ、ここは勝利を祝って乾杯しましょうよ」
「そう言ってくれるか」
 涙は流さない。笑顔で言った。
「ええ、飲みましょうよ今日は!」
「そして次の戦いに英気を養いましょう!」
「よし、わしのおごりだ、今日はじゃんじゃん飲むぞ!」
「はい!」
 こうして三人は酒場に向かった。束の間の勝利の喜びを味わう為に。

 勝者はそうして勝利の美酒を味わう。だが敗者は苦い憎しみを味わう。マシーン大元帥がそうであった。
「死んでしまったか・・・・・・」
 彼は円卓に一人座しそう呟いた。
「かっては常に共にあったというのに・・・・・・」
 残る二つの席には誰もいない。杯も空である。
 一人杯に酒を入れる。そしてそれを飲む。
「お主達の仇は必ずこのわしがとってやる」
 その声は沈んでいたが怒りに満ちていたものであった。
「だから悲しむでないぞ」
 そして再び酒を口にした。
「えらく辛気臭いな」
 そこに誰かがやって来た。
「お主か。悪いが今は一人にしてくれ」
 彼は後ろを振り返らずに言った。
「お主!?誰かと勘違いしているのではないかな」
「!?」
 マシーン大元帥はその声に対し後ろを振り向いた。見ればそこには彼がいた。
「いや、違うか」
 暗闇大使に瓜二つではあるが違っていた。身体から発せられる気は彼の方が獰猛であった。
(あの男の気はもっと狡猾なものだ。それに対しこの男のは・・・・・・)
 心の中でそう思った。
「どうやらあいつを間違えたらしいな」
 地獄大使はどうやら怒っているらしい。
「だがいい。今はそれ程気分は悪くない」
 そしてマシーン大元帥と向い合った。
「ところで聞きたいことがあるのだが」
「バリ島での戦いならば他の者に聞くがいい」
 マシーン大元帥の声は不機嫌そのものであった。
「フフフ、まあそう怒るな」
 地獄大使は気の短い自身のことはさておき彼をたしなめた。
「わしが聞きたいのはそれではない」
「では何だ!?」
「ここにあの男がよく来るそうだな」
「あの男!?・・・・・・ああ、奴のことか」
 マシーン大元帥は最初は誰のことかよくわからなかったがすぐに誰のことか察した。
「確かにな。しかしそれがお主と一体どういう関係があるというのだ?」
「言わずともわかることだと思うが」
 地獄大使の声は少し不機嫌なものになった。
(本当に感情の起伏の激しい奴だ)
 マシーン大元帥は心の中で呟いた。
「それで何が聞きたいのだ?」
「うむ。あの男を見つけたのはそなただったな」
「うむ。ラオスの奥でな」
「そうか。確か死んでいたと聞いたが」
「それはお主が最もよく知っていると思うが」
「・・・・・・そうだが」
 彼等は従兄弟同士であった。だが極めて仲が悪かった。
 その理由は誰も知らない。マシーン大元帥も不思議に思っていたのだ。
「聞いていいか」
 マシーン大元帥は逆に尋ねてみることにした。
「何じゃ!?」
 地獄大使はそれに対し何か身構えるようであった。
「お主とあの男はかっては共に戦ったのではなかったのか!?」
「・・・・・・そうだが」
 地獄大使は憮然とした表情で答えた。
「だがそなたは急にショッカーに入った。あの男はそのまま東南アジアに留まっていたのか!?」
「・・・・・・わしがショッカー東南アジア支部にいた頃には既にいなかったがな」
 大元帥はそれを聞いて彼を注意深く見た。
(嘘ではないようだな)
 こうした組織にいてはどうしても洞察力が求められる。彼は地獄大使の顔をよく見てそう思った。
「では彼は一体何処にいたのだ!?」
「・・・・・・それは知らぬ。わしもな」
「そうか」
 どうも暗闇大使も首領に以前仕えていたことがあるらしい。それは物腰等でわかる。
(どうやらショッカーの頃らしいが)
 確証はない。暗闇大使本人もそれは決して言わないであろう。
「まあ何はともあれだ」
 彼はここで尋ねることを少し変えた。
「お主達は東南アジアでかっては共に戦っていたのだな」
「そうじゃ。勇将と言われていたのは知っていよう」
「うむ」
「それに対してあ奴は知将と言われておった」
「対照的だな」
「あの時からそう言われておったわ」
「そうか」
 そう言う地獄大使の顔は誇りと蔑みが同時に見られた。こんなところにも従兄弟に対する憎悪が見てとれる。
「一つ言っておく。あの男の知は奸智じゃ。それはよく覚えておけ」
「わかった」
 マシーン大元帥は素っ気なく答えた。奸智はバダンの常である。百目タイタンなどはそのいい例だ。特に警戒するまでもない。最初から念頭に入れていることだ。
「で、わしに対して他に何か聞きたいことはあるか!?」
 地獄大使は不機嫌そのものの声で問うてきた。
「いや」
 マシーン大元帥は首を横に振った。
「わしはまだ聞きたいことがあるがな」
「何だ」
「あの男の所在だ。何か知っているか?」
「・・・・・・いや、これといってはないが」
「そうか」
「どうしたのだ!?焦っているように見えるが」
「・・・・・・何でもない。どうもあの男の影が最近また出て来てな」
「何処にだ!?」
「ヘビ女が姿を消したのは聞いているな」
「らしいな」
「他のライダー達の所在は掴んでいる。だがゼクロスだけは掴めていない」
「こちらもだ。果たして何処にいるのやら」
 そうだった。ゼクロスの所在は今誰も知らないのだ。それがバダンにとって最大の捜査対象の一つであった。
「わしも捜しているが。まだ何もわかっておらんのだ」
「こちらもだ」
 地獄大使に対し大元帥も答えた。
「早く捜し出さねばな。さもないといきなり本部に襲撃をかけられる怖れがある」
「そうだな。まさかとは思うがあの男なら有り得る」
 彼等もゼクロスの力をよく知っていた。九人のライダーが一斉に立ち向かってようやく相手になる程の力の持ち主である。それは当然であった。
「一体何処にいるのか、それさえわかればな」
「うむ・・・・・・」
 彼等もまた捜すものがあった。だがその影すらも見つけることができないでいた。



麗わしの島の戦い    完

     
           2004・5・17

 
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