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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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XV編
  第239話:二兎を得ても一兎を得られず

 差し出された響の手を、未来は取るのではなく包む様に握り締めた。それは自ら先んじて響の手を取ったようにも見えるが、手を包まれた当の本人からすればそれは手を繋ぐことを拒まれ開こうとした手の平を拳の形で固定されただけでしかなかった。

「未来……?」
「……フンッ」

 未来は響に対して、今まで向けた事の無い様な熱の感じられない視線を送ると、まるでゴミを捨てるかのように掴んだ手毎彼女を振り回して下に投げるように叩き落した。

「未来ぅぅぅぅぅぅッ!?」

 突然の事に響も理解が追い付かず、エクスドライブモードだから飛べると言う事も忘れてそのままシャトーの屋上に叩き付けられてしまった。

「う、ぐぅ……!?」

 叩き付けられた衝撃で、響を中心に小さくクレーターが出来る。それでもシンフォギアの強固な防御力は彼女の身を守り、幸いな事に大事に至る様な事は無かった。それでも体に受けた衝撃以上に心が受けた衝撃は大きく、ゆっくりと降り立ってきた未来の姿に響は体を起き上がらせる事しか出来なかった。

「未来、何で……?」

 響が呆然と佇む未来を見上げていた頃、魔力を強制的に排出させられ変身が解除された颯人は彼女が叩き付けられた際の衝撃で目を覚ました。

「うぐ、く……? はっ! 何だ? 何がどうなった?」
「あ、颯人さん!」
「大丈夫かハヤト?」

 生身の彼を戦闘の余波から守る為に控えていた透とガルドが目覚めた彼の顔を覗き込む。覚醒したばかりでまだ意識がハッキリしていない彼ではあったが、それでも何度か頭を振って脳を揺らす事で少しはまともに考えられるだけの思考力が戻った。

 まず真っ先に感じたのは周囲の驚くほどの静けさだ。エクスドライブを発動した装者が戦えば、こんな静かな状況にはならない。となると戦いは終わったのかと思って周囲を見渡せば、離れた所で倒れた響の前に佇む見た事もない恰好をした未来の姿がある。そのただならぬ雰囲気に、颯人はただ事ではないと悟り立ち上がろうとして足に力が入らず転倒しそうになったところを2人に支えられた。

「くっ!? うぉ……!?」
「あぁっ!? ダメですよ、まだ安静にしてないとッ!」
「大事に至る様な怪我はしていないようだが、魔力を無理矢理放出させられたんだ。無茶はするな」

 そう言って2人は無理矢理に立ち上がろうとする颯人を宥めるが、彼はそれを無視して立ち上がろうとした。遠目にしか見えないが今の未来の状態はどう考えても普通ではない。最悪の事態も想定して、颯人は自分も動くべきであると満足に動かない体に鞭打ち2人の腕を掴んだ。

「なぁ、頼みがある。お前らの魔力、少しでもいいから分けてくれねえか?」
「何だと?」
「無茶ですよッ! まだ戦う気ですか!」
「寝てる訳にはいかなそうなんでね。無茶は承知の上だ、頼む。奏だってこの下で待ってるんだ。俺1人がジッとしてる訳にはいかねえんだよ」

 意地でも譲ろうとしない颯人に、ガルドと透は顔を見合わせ大きく溜め息を吐いた。こうなったら颯人は止まらない。意地でも立ち上がり、素手でも何でも使って戦おうとするはずだ。そんな無茶をさせるくらいなら、少しでも安全性を確保する為に変身し魔法が使えるようにしてやった方が良い。

 2人は渋々といった様子でプリーズの指輪を嵌めた颯人の右手をそれぞれのハンドオーサーの前に持って行った。

「言っておくが、少しだけだぞ」
「分かってるよ、サンキューな」
〈プリーズ、プリーズ〉

 2人の魔力が順番に颯人へと供給されていく。それぞれの現在の変身が維持できるギリギリのラインを見極めての魔力供給だったので一人一人の魔力はあまり多くは無いが、それでも2人分揃えば颯人が再び変身するだけの魔力は十分に賄えた。

「よし、これだ何とか……!」

 魔力が回復し、自力で立ち上がった颯人は通常のフレイムスタイルに変身して急ぎ響と未来の元へと向かっていった。その頃には他の装者達も異変を感じ、2人の周りに集まって来る。

 そんな彼ら彼女らに見向きもせず、未来は静かに口を開いた。

「良き哉……人の生き汚さ、百万の夜を超えて尚、地に満ち満ちていようとは」

 白銀のローブを纏った未来の口から紡がれる言葉は、彼女らしからぬ厳かさを持っており口調も他者を見下す威圧感のある物となっていた。まるで別人になったかのような未来の姿に、装者達は不安げに互いに顔を見合わせ、マリアはらしくない未来の言葉遣いに声を上げた。

「よしなさいッ! あなたにそんな物言いは似合わないッ!」

 マリアの言葉に、しかし未来は一瞥するだけですぐに興味を失ったように視線を頭上に浮かぶ月へと向けた。

「後は、忌々しい月の…………う゛ッ!?」
「んん?」

 突然、未来が頭を押さえて苦しみ始めた。頭の中で何かが暴れているのを押さえようとしている姿に、颯人は今の未来とは違う本来の未来の人格が表に出ようとしているのではと期待した。
 しかし別角度から未来を見ていたクリスは、彼女が苦しむ理由に気付き目を見開いた。

「う、うぅ……!?」
「未来……!?」
「小日向?」
「ハッ!? 身に纏うそいつは、まさかあの時と同じッ!?」

 見ると未来の背中側、首の付け根から背中の中程に掛けて奇妙な装置があった。最初は身に纏うローブの一部かと思っていたが、その部分だけラインが赤く発行しそこを中心に赤い光が沁み込むように広がっている。その様子と未来の姿から、クリスはそれが嘗てフロンティア事変の際に未来が身に着けさせられた、ダイレクトフィードバックシステムと同種のものである事に気付いた。

「どうした、クリスちゃん?」
「覚えてねえか? 前にフロンティアで、こいつが操られた時の事をッ! 多分今着けてるのは、その時と同じ奴だ!」

 こうなると話が大分面倒臭くなる。今の未来は二重の意味で支配された状態と言う事になるからだ。

 一つは、細かいところは良く分らないがとにかく顕現した神の力の影響によるもの。そこに意志の様な物が封印されていたのかは分からないが、とにかく未来が彼女らしからぬ言動をしているのは間違いなく神の力が影響を及ぼしている。

 そしてもう一つがダイレクトフィードバックシステム。こちらは以前颯人達も対処したが、正直に言ってあれの攻略法もかなり博打の要素が強かった。何よりも厄介なのは、無理矢理外してハイお終い、とはいかない所である。
 以前は未来が纏っていた神獣鏡の光を彼女自身に響諸共浴びせる事で装置だけを除去する事が出来た。だが今回も上手くいくかどうか…………

「とりあえず、これ以上暴れたりしないように押さえつけるのが先決だな」
「押さえつけて、どうするデスか?」
「母さんに見せる。それに、ウェルの野郎の力も借りれば、装置だけなら何とかなるだろ」

 最初のダイレクトフィードバックシステムを使用したのはウェル博士だ。彼なら何らかの知恵を借りれるだろう。もし渋ればまた後の彼に関する英雄伝説を面白おかしく脚色する事をチラつかせればいい。

 そう思いながら颯人がバインドの魔法で未来を拘束しようと足を一歩前に踏み出した瞬間、転移魔法で未来の傍に姿を現したワイズマンが彼に赤い光刃を振るった。

「ハッ!」
「な、ガハァァッ!?」
「颯人さんッ!?」
「貴様は、ワイズマンッ!」

 突如姿を現したのはワイズマン。その傍には何処か辛そうな様子で膝をついているメデューサの姿もあった。メデューサの方はつい先程まで戦闘をしていたのか、身に纏っているメイジの鎧があちこち傷だらけとなっている。

「はぁ……はぁ……」
「ふむ、システムも良い感じに機能しているようだな。これで、あの老人も満足するだろう。メデューサ、連れて行っておけ」
「は、はい……ワイズマン様……」

 既に大分疲労困憊した様子のメデューサだったが、彼女はワイズマンからの命令に逆らわず頭を抱えて苦しんでいる未来の手を取り何処かへと向かおうとする。その前に翼とマリアが立ち塞がった。

「待てメデューサッ!」
「その子は置いて行ってもらうわよッ!」
「チッ!?」

 まぁこのまま未来を目の前で連れていかれるのを黙って見ている彼女らではないとメデューサも分かってはいた。見た所エクスドライブとは言え翼達もあちこちがボロボロだ。それだけ顕現したシェム・ハの力との戦いは激しく、彼女達自身も消耗し万全の状態ではない事の表れでもあった。しかし退く訳にはいかないのはメデューサも同じ。こちらはダイレクトに命が掛かっている為、必死さが翼達とはベクトルが違った。

「邪魔を、するなッ!」

 2人を魔法で追い払おうとするメデューサだったが、それよりも早くにワイズマンが彼女に助け舟を出し魔法の電撃で立ち塞がる2人を薙ぎ払った。

「フンッ……」
〈ライトニング、ナーウ〉
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
「きゃぁぁぁっ!?」

「「「「マリア(姉さん)ッ!?」」」」

「テメェ、先輩をよくもッ!」

 薙ぎ払われシャトーの屋根の上に叩き付けられた2人は、その衝撃と電撃の威力にシンフォギアが解除されてしまった。2人がやられた事に激昂したクリスがアームドギアのボウガンを構えようとするが、それより早くにクリスに肉薄したワイズマンは彼女の両手を掴んで動きを止めさせると捻り上げて持ち上げた上で真下に叩き付けた。

「あぁぁぁぁっ!?」
「フンッ!」
「が、ふっ!?」
「クリスッ!?」

 真下に叩き付けられたクリスの姿に、透が助太刀に入ろうと剣を手にワイズマンに飛び掛かろうとする。だが彼の動きは、ワイズマンが足元のクリスの腹を足で踏み付け光刃を首筋に突き付けた事で止めざるを得なくなる。

「うぐぅっ!?」
「クリスッ!? や、止めろッ!」
「そこでジッとしていれば、考えなくもないよ? ただし少しでも動けば……分かっているね?」

 ワイズマンが少し体重を掛ければ、光刃は容易くクリスの喉笛を貫く。そうすれば彼女の命はないし、よしんば命が助かったとしても喉を傷付けられては彼女の歌声は失われる。アリスであれば治療も難しくはないだろうが、自分と同じ苦しみをクリスに一時でも味合ってほしくはないと言うのが透の気持であった。

 それは他の装者達も同じ気持ちであり、これでワイズマンは完全にこの場を掌握してしまっていた。

「何て、卑怯な……!」
「流石悪い魔法使いデスッ!」
「誉め言葉と、受け取っておこう。さぁ、今の内だメデューサ」
「はい、ワイズマン様」

 颯人達が動かなくなったのを見て、メデューサが未来を連れて行こうとする。クリスは腹を踏みつけられる苦しみに耐えながら、自分の事は構わずメデューサを止め未来を助ける事を優先させた。

「ア、アタシの事は気にするな……! それより、それよりアイツを……!」
「君には悲鳴の方が似合うんじゃないかな?」

 しかしクリスの言葉は、痛めつける様に踏み付ける力を強めたワイズマンにより中断させられた。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!?」
「クリスちゃんッ!? 止めてッ!?」
「止めてくださいワイズマンッ!? これ以上クリスにはッ!?」

 響き渡るクリスの悲鳴に響と透の悲痛な声が重なる。ワイズマンはそれを愉しむ様に肩を震わせ、足元のクリスを踏み躙りもっと悲鳴を絞り出そうとした。

 その間にメデューサは未来を連れて魔法で何処かへと転移してしまった。

〈テレポート、ナーウ〉
「あぁっ!? 未来ぅッ!?」

 目の前で連れ去られる未来を前に、響は悲鳴のような声を上げるしか出来なかった。一方、それを見届けたワイズマンは満足そうに頷くと最後の仕上げと言わんばかりに手にした光刃でクリスの喉を切り裂こうとした。

「ふむ、もう人質も必要無いか。では、帰りの土産にこの少女の声でも奪っていくとするかな」
「なッ!?」
「止めろワイズマンッ!? それだけは止めろッ!!」

 クリスの喉を切り裂こうとするワイズマンに、彼が本気だと察した透が動き出す。いや、彼だけではない。その場で動ける全員がこれ以上の暴虐を許すまいとワイズマンに攻撃を仕掛け中断させようとしていた。

 切歌は鎌の刃を飛ばし……

 調は丸鋸を飛ばし……

 セレナはビームダガーを投擲し……

 ガルドは槍を投擲しようと構え……

 颯人がガンモードのウィザーソードガンの銃口を向け……

 響が立ち上がり拳を握り……

 透が飛び掛かり手にした剣を振り下ろそうとした。

 だがその全てが間に合わない。どれか一つがワイズマンに届く前に、クリスの喉は無残に切り裂かれ彼女の歌声は一時であっても失われるだろう。透の脳裏に、嘗ての自分の姿にクリスのそれが重なり絶望に目の前が真っ暗になりかけた。

「止めろォォォォォォッ!!?」

 悲痛な透の叫び声を嘲笑うかのようにワイズマンが刃を動かそうとしたその時、出し抜けにワイズマンは動きを止めると足元に視線を向け、舌打ちしながらその場を飛び退いた。

「チィッ!」
「え?」

 突然その場から逃げる様に飛び退いたワイズマンに誰もが目を瞬くと同時に、クリスの真横を突き破る様に一本の槍が飛び出し先程までワイズマンの居た場所を突き抜けていった。この場の誰もが知るその槍の形状に、真っ先に声を上げたのは颯人と響であった。

「「(さん)ッ!!」」

 2人の声に応える様に、シャトーの中から飛び出した奏は勢いそのままに空中に躍り出ると周囲を見渡し奇襲をギリギリのところで回避したワイズマンに向け『SUPERGIANT∞FLARE』を放った。

「喰らえぇぇぇぇぇッ!」
[SUPERGIANT∞FLARE]

 まるで太陽から放たれた光線の様な一撃に対し、ワイズマンは障壁を張ることで対抗した。

「ヌッ!」
〈バリアー、ナーウ〉

 足場であるシャトーを完全に崩さないようにする為多少は加減した攻撃ではあるが、それでも相応の威力を持つはずの一撃をワイズマンは苦も無く受け止め防ぎきってしまった。技を放ち終え、後に残った焼け跡の中心に無傷で佇むワイズマンの姿に奏は悔しそうに歯噛みしながら着地した。

「くっそぉ、微塵も堪えないとか少しショックだぞ」
「と言うか、真下に向けて大技使うな馬鹿者」
「アイデッ!?」

 着地した奏を待っていたのは、彼女を助ける事を目的とし再会の時に焦がれていた颯人の抱擁ではなく、危うくシャトーが崩壊する危機に額に青筋を浮かべたキャロルの拳骨であった。奏は、颯人が輝彦に叱られた時の様に殴られた箇所を両手で押さえながらその場に蹲る。

「ぐ……い、つぅぅ……んな殴らなくても良いだろうが。ちゃんと下が崩れないように威力は加減したっての」
「そう言う問題じゃない。全く、お前と言い立花 響と言い、どいつもこいつも……」

 色々と言いたい事はあるキャロルではあったが、今はそれどころではないので言葉を飲み込み視線をワイズマンの方へと向けた。キャロルの視線に気付いたワイズマンは、体に付いた埃を払うように手で叩きながら、余裕を表すかのように両手を広げて近付いて来る。

「やぁやぁ、意外と時間が掛かったね。特に邪魔は用意していなかった筈だが……?」
「まぁ、こっちにも色々と準備があってな」

 ここで言う準備と言うのは、損傷したオートスコアラー達とヴァネッサ達をS.O.N.G.の本部潜水艦へと連れていくことと、奏の要望で当時のシャトー上部の様子を確認する事であった。それにより奏はクリスの危機を察し、彼女を助けるべくワイズマンに奇襲を仕掛けようとして最適な位置取りをしていたのである。そして、シャトーの内部を突き破って下から奇襲を仕掛け、残念な事に失敗したのであった。

 無駄にシャトーが破壊されてしまった事に色々と言いたい事はあるキャロルではあったが、それらは後にして今はこの場に残ったワイズマンをどうにかするべく策を巡らせようとした。しかし彼女の横を通り抜けて、颯人がワイズマンへと突撃していった。

「ッ! 明星 颯人ッ!」
「これ以上やらせるかよッ!」
〈イィィンフィニティ! プリーズ! ヒースイフードー! ボーザバビュードゴーーン!!〉

 再びインフィニティースタイルとなった颯人が、カリバーモードのアックスカリバーでワイズマンに斬りかかる。先程颯人がシェム・ハの力との戦いで魔力を大幅に失い、今はガルド達から魔力を補充されて辛うじて変身していられるのだと言う事を知っていたワイズマンは彼が再びインフィニティースタイルになれた事に疑問の声を上げる。

「貴様……さっき魔力が底をついていた筈。なのに何故その姿になれる? もう通常のスタイルになるのがやっとだった筈だ」

 その問いに対する答えは実に単純であった。

「へっ! 生憎だったな? 俺は、奏さえいれば何時でも全開なんだよッ!」

 愛する彼女の前では、少しでも見栄を張りたい。彼女にカッコいい自分を見て欲しいと言う、子供っぽいが男として譲れぬ信念の元彼は魔力を捻りだしインフィニティーとなったのである。

 とは言え流石に無茶をしてインフィニティーとなったので、魔力の絶対量は正直不足していた。この姿は維持できても、これ以上の魔法は迂闊に使えない。已む無く彼は攻撃の殆どをアックスカリバーか蹴りによる物理攻撃に頼らざるを得なくなっていた。

「ほっ! はっ! おらっ!」
「ぬっ、くぅっ!」

 それでもやはり生半可な攻撃を通さないアダマントストーンの鎧はそれだけで十分な武器となった。ワイズマンの反撃も颯人にヒットはするが、殆どダメージは通らず逆に弾かれて隙を見せてしまう。もし今ワイズマンに何らかの勝機があるとすれば、颯人の隙を伺い鎧の無い部分に刃を突き立てる事くらいだ。
 そして恐ろしい事に、ワイズマンはそう言った針の穴に糸を通すような技術に長けていた。

「ハァァッ!」

 颯人がワイズマンに剣を横薙ぎに振るう。すると、驚くべき事に狙って放った筈の斬撃は距離を見誤ったかのようにワイズマンの僅か数センチ先を空振る結果に終わってしまった。

「ッ!?」

 確かに狙って、当てるつもりで放った筈の一撃。しかしワイズマンが何か回避行動を取る様子もなくその攻撃は文字通り空を切った。その現象に颯人は猛烈な違和感を感じていた。

――今のは……!――

 颯人が驚愕している隙に、ワイズマンは足元に両手をつき全身のバネを利用して颯人に両足蹴りをお見舞いした。

「ぐぉっ!?」

 蹴り飛ばされた颯人は、しかし鎧の防御力のお陰でさしたるダメージも無く済んだ。そのまま蹴り飛ばされた勢いそのままに着地し、呼吸を整えているとワイズマンは首周りのコリを解す様に肩を回しながら右手の指輪を交換した。

「ん、ん~……! ふぅ。戯れに少し付き合ってやったが、そろそろお暇させてもらうよ。私も疲れたのでね」
「テメェ、逃げんのかッ!」

 敢えて逃げると言うネガティブな言葉を投げかける事でワイズマンのプライドを刺激しようとする颯人だったが、彼の考えは突き抜けだったのかワイズマンは全く気にした様子もなく魔法を発動した。

「それでは諸君、また会おう」
〈テレポート、ナーウ〉

 無情にも未来とメデューサ同様目の前で姿を消したワイズマン。

 キャロルとハンスは取り戻せた。奏も帰ってきた。

 しかし、未来だけは目の前でみすみす連れ去られたまま終わってしまった。
 後味の悪い戦いの終わりに、颯人は足元を強く踏み奥歯を噛みしめるしか出来なかったのだった。 
 

 
後書き
と言う訳で第239話でした。

原作だとここで訃堂が翼に掛けた洗脳で未来を連れ去るのですが、本作では翼が洗脳されていない為代わりにワイズマン達により未来が連れ去られました。勿論それを黙って見ている颯人達ではなく、ワイズマンとの戦闘に突入しますがその前にシェム・ハの力との戦いで消耗していたのもあってエクスドライブでも逆に追い詰められると言う結果に。万全であれば或いは装者に勝ち目があったかもしれませんが、色々と制約があったりした所為で……

颯人とワイズマンの戦いも同様で、全力を出せないが故に颯人もワイズマンを完全に圧倒する事は出来ませんでした。戦う相手が全力を出せなかったりする場面で戦う事になる、ワイズマンは変に悪運に恵まれてしまっています。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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