ファイナルファンタジー1
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37話《還るべき場所へ》
前書き
《35話からの続き》
「────ジタンさん! このままだと飛行艇もろとも引き込まれてしまいますよ?!」
ヒルダガルデ3号の操縦士、女性船乗りのエリンが声を上げ、世界の中心・輝く島の封印は青く澄み渡る空に燦々と降り注ぐ陽光の元に四方の大陸から反射された青・赤・緑・黄の鏡の色が寄り集まって解かれ、来訪者を待っていたかのようにその輝きは増し七色の光の渦を巻き起こしていて、おませな女の子エーコは興奮した様子で飛び跳ねる。
「どーするのよジタン、もう引き返せなくなるんじゃないっ!?」
「ここが、″異世界への入り口″だってことしかオレ達には分かってないからな……」
猿のような尻尾の生えた少年ジタンは、飛行艇のブリッジから〈輝く島〉を感慨深げに見つめる。
「────よし、あそこに飛び込むっきゃない! みんな、甲板に出ようぜ!!」
その自信に満ちた掛け声で9人のメンバーは一斉に甲板へと移る。
「マゥスンよ、確認しておくが……この″異世界へ通じるゲート″にて事象の異なる〈次元の狭間〉とやらは、おぬしに判るのか?」
「案ずるに及ばない。……″向かうべきルート″である〈導きの光〉は既に、私には視えている」
ネズミ族の亜人の女性、竜騎士フライヤの問いに普段通り冷静に答える白銀の長髪で羽根付き帽子はしていない赤魔道士の彼。
「そっか、多分マゥスンにしか見えないんだろうな? じゃあ……ほんとにこれでお別れなわけだ」
「短い期間とはいえ、そなた達には本当に世話になった」
名残惜しそうなジタンとその仲間達に礼を述べ、彼は頭を下げる。
「いやぁ、マゥスンが居てくれたお陰でこっちも色々助かったぜ!」
「その通りじゃ。────のう、サラマンダー?」
「……俺に振るなフライヤ」
焔色の頭髪と逞しい体付きのサラマンダーはどことなく不機嫌だった。
「マゥスン殿、達者でな!」
「今度会ったら美味しいカエル料理ごちそうしてあげるアルよ?」
「またいつか、会えるといいなぁ……元気でね!」
「無理をせず、身体には気を付けて下さいね」
それぞれ別れの言葉を述べてくれるブリキの騎士風のスタイナー、奇妙なク族のクイナ、黒魔道士の男の子ビビ、気品のある少女ガーネット。
「(はーぁ……けっきょく笑顔にさせれなかったとゆーか、そんなカオひとつ見れなかったわ……。そのうえ、こんなに早くお別れなんてっ)」
どこか不服そうにうなだれているエーコにふと、赤マント姿の彼が歩み寄り、片膝を付き目線を合わせ、本人は特に自覚なく優しげに微笑み掛けた。
「エーコにも随分、気を遣わせてしまった。────ありがとう。そなたが諭してくれた言葉、肝に銘じておく」
「…………、へ?? なっ、ななな……何よ!? 今さら笑って見せてくれたっぽくても遅すぎるんだからっ! もう、知らない! アナタなんて……さっさと元の世界に帰って、自分の仲間とちゃんと仲よくしなさいよね!!」
「あぁ……、承知した」
「おぬしの行く末に幸あれ、マゥスン。────おぬしは決して独りではない。仲間と共に、自らを良い方向に変えてゆけるはずじゃ」
「ありがとう、フライヤ。……そしてサラマンダー、私が消滅せずにいられたのはそなたのお陰でもある。本当に……感謝している」
「俺は別に大した事なんざしちゃいねぇ、お前の意志あっての結果だろ。────あばよ」
「おいサラマンダー……いいのかよ、そんなんで」
ジタンに小声で他の言葉をけしかけられようと、焔の男はそれ以上口を閉ざす。
……そして赤魔道士の彼は再び皆に一礼をし、甲板の縁から七色に光り輝く島へ先立って飛び込もうとする。
「ちょっと待て!」
そこへ、8人の内のメンバーの一人がマゥスンに向かって前に進み出るが、間を置いて迫ろうとはしない。
「サラマンダー……?」
「お前が元の世界に戻ろうと俺にはどうでもいい事だがな……マゥスン、この際ハッキリさせてくれ。お前は────″どっち″なんだ!」
思いきったその問いに、彼は一瞬驚いたように目を見開くが、次の瞬間には微笑みを交え、よく通る声でひと言だけ言い放った言葉を残し、開いた口が塞がらないといった様子の異世界の8人の仲間をよそに赤マントを翻し、七色の光の渦に一点だけ微かに視える紅き導きの光めがけ飛び込んで行った。
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