ファイナルファンタジーⅠ
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36話『世界の死神』
前書き
【33話からの続き】
────協力者達とオンラクの町で別れたシファ、ビル、ランクの3人は、戻って来ているかもしれない仲間の1人を迎えるためクレセントレイクの町まで戻り、東の広場にやって来ていた。
予言者ルカーンを始めとした12賢者達はそれを待っていたかのように思い思いに佇んでいたが、ワインレッド色のローブの襟で口元が隠れている黒髪の女賢者が話を切り出した。
「期待させて悪いのだけれど、彼の魂はまだ戻っていないわ」
それを聞いた3人は落胆を隠せないが、予言者ルカーンはそれに構わず女賢者に次いで口を開く。
「砕かれた火のクリスタルの欠片は我らで修復したが、あの者がこちらに戻る条件は未だ満たしておらん。……とはいえ、1人欠けた中で三匹目のカオスを倒し二つ目のクリスタルの輝きを取り戻したお主らは、称賛に値する」
「わたし達の力だけじゃありません。協力してくれた人達がいてくれて、出来た事ですから」
シファは以前と違って臆する事なく12賢者達に告げたが、ビルはとんがり帽子を下向かせ心配そうに問う。
「ボク達は……今のマゥスンさんに、本当に何もしてあげられないんでスか?」
「えぇ、そうよ。あなた達は待つしか出来ないの。彼の魂が戻って来なければ近い内に、火のカオスが奪っていた火の源の力は制御を失い暴走し、取り返しのつかない事になるわ」
「アイツが戻って来なかったら、オレらの役目ってのも終いだ。それならそれで楽な話だろ、オレらが世界のためにしてやれるこたぁ何も無くなるだけだからな」
他の賢者よりいつもでしゃばって述べる女賢者に対し、ランクは特に苛立ちは覚えずにべもなく云った。
「あら、冷たいのね。世界も自分も彼も、どうなってもいいと?」
(そうだ、どーにでもなりゃいい。アイツが戻って来ねェなら──── )
助けに行ってやりたいのにそれすら出来ないもどかしさに、ランクは自暴自棄になっていた。
「……教えてくれませんか。あなたが予言した光の戦士が、何故わたし達なのか。どうして、クリスタルの欠片を持っているのか……」
ふと、シファがルカーンに問い掛けたが当の予言者の応えは呆気なかった。
「4つの源のクリスタルが、お前達4人を定めたのだ」
「そ、それだけじゃ納得できないでス。12賢者さん達は、ボクらよりずっと強い力を持ってるんじゃないですか? 本当はボク達なんて、必要ないくらいの────」
ビルも疑念を投げ掛けるも、賢者達はあくまで淡々としている。
「我らは導き手の役割を担っているに過ぎぬ」
「……結局アンタらは高みの見物で、オレらをいいように利用してンだろ。導き手を失っちまえば、むしろオレらは晴れて自由なンじゃねェのか? なら今ここで、やっちまうか」
水のクリスタルの欠片の力を左手に出現させ、若干濁りを帯びたクリスタルブレードの切っ先を12賢者達へ向けるランク。
「自由……そうね。クリスタルの欠片を持つ者はその役目を放棄すれば、アナタ達の"内なる闇"が暴走しアナタ達自身が新たなカオスとなり世界を終わらせるだけ。それを望むなら、好きになさいな」
感情の読み取れない口調で言葉を切る女賢者エネラ。
「そりゃあいい、世界を救うハズの光の戦士がカオス化か。なってみンのも悪かねェな、世界の死神に」
「───ランク、だめ。それじゃマゥスンが戻って来れなくなっちゃう。この人達の力を借りなきゃ、今は」
「…………」
ランクの左手にシファがそっと手を添えて制し、ランクは 賢者達を睨んだままクリスタルブレードの切っ先を下げ水の 泡と化させ消失させる。
「 ────お前達に、預けておこう」
予言者ルカーンはおもむろに懐から火のクリスタルの欠片を取り出し、その内なる淡い光は微かに明滅していた。
「あの者が、戻って来るであろう兆しを感じる。今少し時を要するが、これを持ちあの者が眠っている傍で待つといい」
不意に告げられ内心驚きはしたが、平静を装ってランクはルカーンに近寄り無言で火のクリスタルの欠片を受け取り、シファ、ビル、ランクの三人は早る気持ちを抑えつつマゥスンの身体が横たえられている家屋へと向かった。
「戻って来たら……、まずはお帰りなさいって云ってあげないとね」
「でスね。あと……助けてもらってばかりでごめんなさいとも、云いたいでス」
「オレは1発殴らねーと気がすまねェな」
道中シレっと云うランクに、ビルとシファはぎょっとする。
「な、殴るのは良くないでスよぅ……!」
「そうだよ、叱りたい気持ちも分からなくないけど……」
「アイツに何云ったって返ってくンのは、問題ねェだの気にすンなだのばっかだろ。何発か殴ってやりゃ、その内逆ギレすンじゃねェの」
「マゥスンが怒った所なんて見たことないけど……(笑った所も、見たことないよね)」
そう考えると、寂しい気持ちになるシファ。
「ランクさん! マゥスンさんを殴るくらいなら、ボクを殴って下さいっ。というか、マゥスンさんは殴らせませんでス!」
「おー、そーか。ンじゃ今殴らせろ」
不敵顔で指をボキボキ鳴らしながらビルに迫るランク。
「どどっ、どうぞひと思いにやって下さい! それでランクさんの気が晴れるなら……っ」
「二人して何云ってるんだか……、やめなさいってば!」
シファは持っている杖の先端で、ランクとビルの頭をポカっと軽く叩いた。
「マゥスンが帰って来たら、源のクリスタルに輝きを戻す必要があるのはもうわたしの持つ風のクリスタルだけ。4つの輝きが揃えば、わたし達が忘れている記憶も取り戻せるかもしれないし、どこかに姿を消したあのガーランドも炙り出せる可能性だってあるんだよ。役目とかそういうことじゃない……わたし達は、わたし達なりに出来ることをしなきゃ」
「それが、"ヤツら"の思うツボでもかッ?」
「違うよ。わたし達が、あの人達を利用するの」
「世界を闇から守るというより、ボク達自身の目的の為ってことでスか……? それならボクも、知りたいでス。ボク達はどこから来て、本当はどうしたかったのか」
「オレはどーでもいいケドな( ────アイツに、借りを返すまでは)」
左手に持った火のクリスタルの欠片の内なる淡い光の明滅を、ランクはじっと見つめた。
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