やはり俺達の青春ラブコメは間違っている。
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第三章
そして桐山霧夜は覚えていられない。
俺は部室の前に着いていた。着いてはいたが入れてはいない。
いや、二、三分前には着いたんだけどね。あれなんですよ...。うふふふふ。
うん、俺がなに言ってるかわからない人、安心してほしい。俺もよくわからん。
べつに新たなス○ンド使いが現れたわけでも、もう一人の自分、ペル○ナが発現したわけでもない。雪ノ下と比企谷のラブコメが発展し、いや発展しすぎていてラブコメがサスペンスやホラーになってしまったわけでもない。本当にたいした事ではないんだ...。
あー、簡潔に結論を言おう。...今、部室の前にビッチがいる。
ただそれだけの事といってしまえばそうなんだが、俺はこういった人種とは関わったことがない。そのため上手く頭の整理が出来ないでいるのだ。...違うね。あらゆる人と関わったことなかった。
ちなみにペル○ナ風に言うなら今の俺のコミュステータス、捻くれぼっちの同級生、暴言垂れ流し美少女、ロリババア巨乳、あと親。...どうもこのままでは明日が閉ざされてしまう気がしてならない。
...え、財津?誰それ?...何々、材木座?なにそれ、俺知らない。あ!もしかして新しい豚の品種名かな?
まぁまぁ、今は豚の事は置いといて...、ってダメだ!すでに目の前に牝豚ビッチがいた!
まぁ取り合えず話しかけるか。嫌だなぁ...。でも気にしない。なにも気にしない。俺がぼっちでも表情が醜い根暗でも、ぐすっ。な、なにも気にしない。怖くない。キリヤ、ゼンゼン、コワクナイ。デモ、キモイ。
「あ、あの、奉仕部になにか用があるんですか?だったら入ってもらってもいい...」
「...」
女子...違った。メス☆ブタは何の反応も示さない。
...気づいた。俺気づいちった。最近自分から人に話しかけてこなかったから存在に気づいてもらえないんだ。
一回気づいてくれれば三分ぐらいは覚えていてくれるはず!おいおいどんなウル○ラマンだよ...。
...フフ。悲しい一人ボケ&ツッコミを披露してないで、さあLet's talking!
『そこでいつまでも突っ立ってないで早く入りなよ』
さぁ気づけよ俺に!
「...ここが奉仕部なんだよね?...」
会話不成立!彼女...違った。びっちさんは独り言を言うだけで俺の方を向いてすらいない!
ま、まさかこれが俺の異常なのか?...中二かよ。ちなみにどっちかと言うと、この能力は過負荷だと思いました。
それにこれは今日に限ったことじゃない。小学校のときは声を出せば普通にみんな振り向いた。影は薄かったけどな。...中学校からだ。声を出してもみんな気づかなくなった。どう考えても異常なことだ。でも、もう慣れたし。ぼっちにはすごい便利な...、体質?なのだろうか。
今は役に立つこともあるんだけど、こういうとき不便だ。例えば中学校のとき朝の出席確認で名前を呼ばれなかったときとか、リアルに身の危険を感じた。
話が長くなってしまった。ダメ元でもう一度試そう。...さあ、思いっきり気持ち悪い声で、
『《 早く入ったらどうなんだ?用があるんじゃないのか? 》 』
「...へ、声?...って、わきゃあぁぁぁあ!」
俺は自分が人だということを疑った。怖がりすぎだろ...。ビックリもドッキリも通り越して何かホラーみたいじゃないか!...いや、実際ホラーなのかな?
派手めな格好をした女の子...また間違った。牝豚さんは...何かこの呼び方酷いかな?牝豚はなかったよね。ごめん。
俺の敵である腐れリア充(メス)は俺を見るなり倒れてしまった。ってやっべーな俺!まさか久々に誰かに話しかけただけでこれかよ...。
「あなたはいつか殺ると思っていたわ...」
突然がらっと音がしたと思ったら雪ノ下が部室の扉を開いていた。多分今の悲鳴で、ってちょっと待って雪乃様!いま漢字が違った気がしたんですけど!しかも殺ると思ってたのかよ!「いつか」ってなんだ「いつか」って!失礼すぎるだろ...。
俺何もしてな...い、よな?お、俺は悪くない。俺は人に話しかけただけ、話しかけただけ、話しかけ...、
「なにをぶつぶつ行っているのかしら?もう起きたわよ」
「あっれ~、なんであたし倒れてんの?」
女の子様が起きた!
「くうぅ...よかったぁ」
危うくジ・エンドになるとこだった俺の人生に乾杯!
「なぜ泣いているのかしら?気持ちが悪いからやめてほしいのだけれど...」
「...」
危うく本気で人生をダメにするとこだった。いや、もうダメダメなんだけど...。まぁとにかくこの日俺は誓った。俺が死ぬときにはこのアマ、道連れにしたる!
「冗談よ。べつに本気で疑ったりしてないわ」
「いやいや、その手に持ってるケータイはなんだ? 1·1·0 の数字が丸見えだぞ。バリバリ本気じゃねぇか!...やめろよ、しゃれになんねぇから」
俺がケータイを引ったくってやろうとしたら何の迷いもなく耳にケータイを装着しやがった。完全に通報ルート。
これが恋愛シュミレーションゲームとかだったらぶちギレてるとこだ。ちなみに俺の沸点低っ!とか全然思わない。順ギレだよバカ野郎!これは冤罪だ!さっさと部活という檻から釈放しろ!
でも本当はもし通報されても完全に気配、と言うか存在を消せば平気。まあ、そうすると後で色々と矛盾が残るのでなるべく避けたい。
「おい、雪ノ下~、なにかあったのか?って桐山か。遅かったな。...で、それ誰?」
比企谷が来た。小声で聞いてきたので説明をしようと口を開こうとすると、
「な、なんでヒッキーがここにいんのよ!?」
俺よりはやく彼女、つまり牝豚さんが言った。ナニソノラブコメテンカイ?比企谷の知り合いなのかよ。...ありえねぇ。
俺が裏切り者を蔑むような目で比企谷を見つめると、比企谷は口を開いた。
「いや、俺ここの部員だし。...で桐山、誰?」
もちろん小声で比企谷が聞いてきた。
ふん、覚えはないようだな...。ま、だと思ったけどさ!
なにしろ彼女、まさに今時(笑)のジョシコウセイって感じでこの手の女子はよく見かけるからだ。つまりは青春を謳歌している派手めな女子(爆笑)というわけ。短めのスカート、ボタンを三つほど開けてあるブラウス、覗いた胸元に光るネックレス、ハートのチャーム、明るめに脱色された茶髪 = 牝ぶ...違った、違った。この出で立ちから導き出される結論は「だから誰?」である。
しかし本人は比企谷のことを知っているようなので、ここで「あんた誰?」なんて言ったら失礼ってもんだろう。
「あー、比企谷と面識があるみたいだけど、俺は知らないから名前、教えて頂けますか?」
「由比ヶ浜結衣さんよね」
私は雪ノ下さんに聞いてはいないのだけれど...。(←雪乃ボイス)
ちょっと上手いな俺。...ニヤリ。って、待って!
「え?雪ノ下さん知ってたの?」
「お前そういうのよく知ってるなぁ...。全校生徒覚えてんじゃねぇの?」
「え、でも俺たちのことは...」
「安心して、そんなことはないわ。あなた達のことなんて知らなかったもの。...それに桐山くんのことは知っていても忘れてしまいそうになるわ」
さいですか...。いやまぁ、名前覚えてもらってただけでビックリドッキリメカなんだけど...。
通常、俺の名前は忘れられるか、名前を教えても気づかれないから正直、最近戸惑ってる。俺を覚えてられる人が見つかりまくったから本当にビックリドッキリ。もう口からメカを出してくる勢い。
「そうですか...」
「比企谷、落ち込むな。ちなみに俺は名前を覚えてくれてただけで十分すぎるから」
「そうね。比企谷君、別に落ち込むようなことではないわ。むしろ、これは私のミスだもの。あなた達の矮小さに目もくれなかったことが原因だし、何よりあなた達の存在からつい目を逸らしたくなってしまった私も心の弱さが悪いのよ」
「ねぇ、お前それで慰めてるつもりなの?慰め方が下手すぎるでしょう?最後、俺が悪いみたいな結論になってるからね?」
「比企谷、俺たちが悪いって言ってたか?俺たちから目を逸らしたくなってしまった雪ノ下さんが悪いと本人も言ってたし、それに俺たち何も悪くないよ?」
悪くないよ。俺は悪くない。悪いのは俺を見ていられない奴等だ。気持ち悪い俺を見てられないんだろ?無意識のうちにみんな『僕』を避けてるんだ。みんなが弱いからいけないんだ。現実を...、『僕』を見ろよ矮小共!僕を!...って僕だなんて女々しいなぁ。つらいよ~♪彼に会ったときから『僕』から「俺」にしたのに...。
そうだ、あの日から『僕』は自分なりに一人で、
[だらしなく]
[何も持たず]
[適当に]
[考えず]
[いいかげんに]
[無意味に]
[雑に]
[醜く]
[気づかれず]
[相手にされず]
[気持ち悪く]
[へらへら笑いながら]
[格好悪く]
[でも格好つけて]...、友達なんていなくても彼のように「俺」になって強く「生きて『逝く!』」って決めたじゃないか!
「あなた達を慰めてなんかいないわ。ただの皮肉よ」
あっっそ!うっさいなぁ!
まあ、でーももうなんでもいいやー。くはっ、もうどうでもいいかえろう。ふへっ、あっは、あははははは♪
「なぜ気持ち悪すぎる笑みを浮かべて唐突に立ち去ろうとしているのかしら?あなたにそんな権利はないと平塚先生が言っていたと思っていたのだけれど」
あああああ、なんで俺に気づく?おっかしいだろ?小学、中学と誰にも気づかれてなかった居ないも同然の『僕』に!
くそ、平塚先生の話は嫌だな。本当にあの人のことを言われると痛ぇな...。命が奪われる。
「生きて『逝く』」つってもまだ死にたくねぇからなぁ。ゴミはゴミらしく人様に迷惑かけて生きて逝きたい。全然、死にきれないからね。まだ足りない。
「なんか...楽しそうな部活だね。そこの人はちょっと頭おかしいかもだけど...」
由比ヶ浜がキラキラした目で俺と雪ノ下と比企谷を見ている。...タノシソウ?え、何?この子バカ?それともアホ?どっち?
てか俺のこと頭おかしいって言った?うん、その通りだ、君から見ればね...。
まぁ、なに言われてもいいんだけど。どうせ俺ゴミ野郎だし。...でも忘れんな。ゴミを「輩出」してんのは全部人間だ。俺は悪くない。ゴミが溜まりに溜まって君らに不快感を与えたり害を及ぼすのも全部こんな僕を「輩出」してしまった君たちが悪いんだよ?みんな、僕が生まれてドンマイ♪
「別に愉快ではないけれど...。むしろその勘違いがひどく不愉快だわ」
冷ややかな視線を由比ヶ浜に向けて雪ノ下は言う。凍りつくような瞳を向けられ由比ヶ浜はあわあわ慌てながらくくっ。あわあわあわ、てながらってあわ三つあるし...。ごめん超どうでもよかったよね。ごほん。雑すぎると話になんねぇや。今度は落ち着いて話すね。
由比ヶ浜は両手をぶんぶん振った。そして言った。
「あ、いやなんていうかすごく自然だなって思っただけだからっ!ほら、そのー、ヒッキーもクラスにいるときと全然違うし。ちゃんと喋るんだーとか思って」
「いや、喋るよそりゃ...。それよかさっさと部室に入らないか?」
「それもそうだね。俺もこの場で立ちっぱなしはきついかな。さっさと椅子座ろう。比企谷たちが一生懸命頑張ってるのを遠くから微笑ましい様子で眺めながらぐだぐだと読書に勤しむんだ。それじゃあ由比ヶ浜さん。ようこそ部室へ」
「お、おう...、桐山は完全に関わらないつもりなのか...。流石だな」
「クズ過ぎるわね...。いや屑に失礼なくらい、最低ね...。更生なんて無理なんじゃないかと一瞬考えてしまったわ」
屑に失礼って。じゃあ俺は何?どこまで落ちぶれればいいの?
...あ、猫のトイレから臭ってくるニオイだった。
× × ×
...と、いうわけで皆さん着席しました。
ちなみに俺は前に座ってた席を由比ヶ浜さんに譲ってしまったので部室の隅っこで待機している。
いつの間にか異常者扱いだー。わーいわーい!これ普通だったら泣いてるぜ!
でも凡人で普通じゃない俺は机の上に足を乗っけてぎーこぎーこしている。
なんでそんなでかい態度とってんだ!偉そうに!...と思われるかもしれないけど、まぁ俺だから。みんな相手にしないし。...異論はないですか?ないですね。
それにしても今月の「歯がない」いいな。このね、友達が少ないとか言いつつハーレム築き上げてる主人公がね、もうお前友達いらねぇじゃん!って感じでもうホントすいません、雪ノ下さん許してください!
雪ノ下がめちゃくちゃ怖い目でこっちを睨み付けてきたので俺は慌てて地面に頭を高速で擦り付ける。今ならよく雑誌の付録でついてた銀はがしを頭で削り取れる気がした。
「桐山くん。私と比企谷くん、そしてあなたも含めて三人で真剣に勝負することになっているのよ?」
「勝負?...ああ、忘れてたよ。そんなのもあったよね。ハハッ、でもそんなんどうでも...いやっ、ダメだった!学校から追い出されることになるんだった!...真剣に奉仕活動に専念させていただきます!」
「気持ち悪いものを見て思い出したのだけれど、そういえば比企谷くんとああ、あと由比ヶ浜さんもF組だったわね」
「気持ち悪いもの繋がりで思い出すなよ...。失礼だろうが!...ってか同じクラスだったのか...」
「小声で言ったからわかりづらかったのだけれど...まさか、知らなかったの?」
あっちゃー。やっちゃたね比企谷。俺も昔は誰にも知られてないことが悲しくて悩んでた時期があったなぁ...。比企谷も知ってるだろ?いまさら慌てても遅い。
「し、知ってるよ」
うわ、比企谷ごまかすの下手!...って、なんか喉乾いたな。面白いとこだけどちょっくらコーヒー買ってこよ。...ちなみに本屋の前の自動販売機のなぁっ!
「...なんで目逸らすのよ」
「そんなだから、ヒッキー、クラスに友達いないんじゃないの?キョドり方、キモいしって、わきゃあ!」
『くそっ、なんで足伸ばすっ!』
躓いた。なんで躓いたかと言うと、気配を遮断するには目を瞑るのが一番楽だから。
そのため前方不注意で由比ヶ浜さんの足に引っ掛かってしまった。
「いつの間に由比ヶ浜さんの背後に!由比ヶ浜さん!その男を抑えつけて!」
「え、ちょっと何なのこの人?...え、えいっ!」
くそっ逃げられねぇ...。流石だな雪ノ下。女の子の胸をこんな風に利用するなんて!逃げられるわけがない!
俺の身体全体には由比ヶ浜の胸が...っておい!何カップあるんだよ?下手したらE...いやFと見た!
「雪ノ下さん!この人何なの?」
できれば「誰?」と聞いてほしかったなぁ...。
「その男は桐山霧夜。あなたと同じF組よ」
「え、こんな人知らないよ?」
うん、知ってる。言わなくていいよ。そして知っても忘れる。
「そして奉仕部のメンバーの一人よ」
「ええぇ...気持ち悪い」
嫌そうな顔で拒絶された。...だから辞めさせろって何度も言ってんじゃん!
「なぁ、そういえばさっき俺のことキモいって言ったか?」
「ん、どうした比企谷、急に?...ああ」
さっきから由比ヶ浜の目は汚いものを見る...比企谷を見る女子の目だった。ちなみに俺は見られん。もちろん女子以外からも...。まぁ、俺のことはいいさ、言いたいのはこの女、きっとサッカー部の連中とかとよく群れてる女子共の一人なんだろうってこと。つまり俺たちの敵。
比企谷からしたら気を使って損したというところだろう。
「...このビッチめ」
比企谷が小声で毒づくと由比ヶ浜が比企谷に噛みついてきた。
「はぁ?ビッチって何よっ!あたしはまだ処―う、うわわ!な、なんでもないっ!」
由比ヶ浜は一人でなんか言い出して、勝手に赤面して、ばさばさ手を動かして今しがた口にしかけた言葉を掻きけそうとする。ただのアホの子だった。ビッチって言ってゴメン。でもしょうがないよね。俺ってばゴミ野郎だからさ...。そして俺がゴミ野郎なのはゴミを産み出した君たちが悪い!だから本当は俺が謝る必要はない!Q·E·D 証明終了。俺は屑かよ。いや、それ以下だよ。まぁ、いいや、どうでもいい。
「別に恥ずかしいことではないでしょう。この年でヴァージ―」
「わーわーわー!ちょっと何言ってんの!?高二でまだとか恥ずかしいよ!雪ノ下さん、女子力足んないんじゃないの!?」
「...くだらない価値観ね」
雪ノ下の冷たさがぐっと増した。うん、確かに矛盾だよね。
「処女なのが恥ずかしいのなら俺が相手になるよ?ほらよく言うじゃん、処女なんて溝に捨てちまえって。それなら俺は童貞卒業できるし君は恥ずかしい思いをしなくてすむよ?君は一生後悔するし死にたくなるかもだけど...ま、俺には関係ないよね。それに比企谷にビッチって言われて否定してたけど俺は君みたいな価値観を持ってる人こそビッチだと思うんだ、このビッチ」
「...そこまで言う必要があるの?」
その場にいる全員から白い目で見られた。なんだよそれ...。
「雪ノ下さんにしては珍しいよね。俺はこのくらい言うと思ったんだけど...。それに俺の言ったことはそこまで間違ってないよ。実に効率がいい。両者にメリットがあるじゃないか。...あれ、もしかして俺って天才か何かなのかな?それと雪ノ下さん、君は自分の価値観を他人に求めるのは諦めなよ。由比ヶ浜さんは自分の価値観で処女が恥ずかしい事だと言ったんだ。彼女がそう思っているなら奉仕部らしくそれを助けるべきじゃないかなぁ?...あ、ゴメンね由比ヶ浜さん、話が長くなって。俺も初めてだからよくわからないけど...『《優しくするよ?》』だから『《さぁ、早く服を脱いで?》』」
俺は爽やかな笑顔を怯える由比ヶ浜さんに向ける。俺の笑顔を相手がどう思うかは気にしない。
「...い、嫌だよ、怖いよ」
『《え?》』
よく聞こえないなぁ。
「...は、初めては、好きな人が良いのっ!気持ち悪いのは近寄らないでっ!」
「うん、わかったよ。君がそう言うならそれが良いんだ。ちなみに俺は好きな人とかよくわかんないから誰でも良かったんだけど...。あ、もう安心していいよ?誰かさんと違って俺は自分の価値観を他人に押し付ける趣味はないから、ね?怖い思いをさせてゴメンよ。もしまだ君が不快なら警察を呼んでくれてかまわないよ?すぐにドロンしちゃうけどね♪俺はただ君が他人の目を気にして絶望に打ちのめされてしまうのを見たくなかっただけなんだ。君が許してくれるなら何事もなく終わるんだけど...まぁ、俺が全部悪かったからね。一生一人になってもかまわないよ。女の子が苦しむのを黙って見ているほど俺は忙しくないんだ」
「...理由が最低ね。結局はただ暇だったからじゃない。...由比ヶ浜さん、警察に通報するのが正しいわ」
「...え?あ、良いの。その人の言うこともわかるから...。怖かったしキモかったけど、間違ってない気がするの...」
意外な反応だった。決心はしてたんだけど、全てから忘れられることもかまわないと思ってたんだけど。気持ち悪くても間違ってない、俺にとって最高の誉め言葉だった。この人は、優しいんだろうな。少し嬉しいと思ったよ...。でも「ありがとう」と言うべきなのだろうか?俺は悪かったかもしれない、でも間違ってないのなら「ありがとう」はいらない。だから感謝の言葉は言わず、こう言うことにした。
「君が処女を溝に捨てたくなったら、いつでも俺のところに来ていいからね?その時には優しくするよ?」
「絶対に行かないって約束するよっ!...ううっ、やっぱり雪ノ下さんの言う通りにした方がよかったのかなぁ?」
こんな優しい子でも迷っちゃうんだ...。やっぱり俺って最低だなぁ。まぁ、そんな俺が俺は大好きなんだけどよ。
俺が突然のナルシ発言をしていると比企谷がいらんことを言った。
「でも、桐山がビッチって言っちゃうのも少しわかるなぁ。なにしろ女子力って単語がもうビッチくさい」
「また言った!さっきの人から言われたばっかりなのにビッチ呼ばわりとか、ヒッキーまじでキモい!」
由比ヶ浜さんは悔しそうにうっ~と小さく唸りながら言う。さっきの俺の言動のせいもあったからなのか、もう涙が溢れるんじゃないかってぐらいうるうるしている。
「ビッチ呼ばわりと俺のキモさは関係ねーだろ。あとヒッキーって言うな」
...ヒッキーって、まるで比企谷が引きこもってるみたいな言い方だな。...まあ多分クラスで使われてる比企谷の蔑称なんだろうなー。そして俺がちゃんと名乗ったのに「頭おかしい人」とか「そこのキモい人」とか「さっきの人」とか呼ばれてるのはもう既に忘れかけられてるからなんだろうなー。
たまに思うんだけど、これマジ発狂するレベルだから。平然と生きてる俺すげぇ。マジ惚れてまうやろぉ。
...まあ、比企谷のこと陰口言ってんのは良くないことだよね。だから俺たちは言うのだ、しっかりと直接相手に!
「このビッチが」
「やっぱ君ビッチだよ」
「こっの...!ほんとウザい!さっきの人もマジキモい!ヒッキーも一緒に死ねば?」
...「死ねば」って言われてもなぁ。俺一回死んだことあるしなぁ...。そう、確か中学校の授業中『僕』は死んだ。勝手に、一人で「いなくなった」。みんなの意識から、完全に...。
さっきもしも由比ヶ浜さんが警察を呼んだら、もう一度「それ」をするつもりだった。完全に消える。それも突然に...。
つまり俺は自由に「死ねる」のだ。これはすごいことだと思わないかい?俺が特技の一つとしてこれを数えることがわかるだろう?
ちなみにやり方は簡単。軽く発狂すればいい。その場で自分にとっての「現実」への不満を怒鳴り散らせばいいだけ。ベリベリイージー。それだけで消えられる。
だからそれをやった『僕』は死んでしまった。
まあ、だから「俺」がいる訳なんだけど...。ああ、あの時は大変だった。全校生徒および全教職員から忘れられた。親にも少し影響が出た。
「僕」という自分がいなくなって「無」になった不確かな存在の自分は、彼と会って「俺」を名乗り、ゼロからのスタートを決意したのは別の話だ。それは後で話す。
とにかく俺はいいんだ。死ねって言われても...。
でも比企谷は違う。俺としては比企谷を否定してほしくはないし、それに「死」という言葉は生きている人間に対し「禁句」なのだから。そんな言葉を言えるのはそいつの命を背負えるようになってからだ。
ちなみに他人の命を背負える奴はいないと俺は思っている。誰もが人間の死を受け入れられず、背負いきれず、別の何かに救いを求めようとする。...ま、当然か...。
ちなみに俺は誰が死んでも無関係である。未だに母親は俺をさん付けで呼ぶまである。
まあ、とにかく俺は比企谷に軽い気持ちで死ねと言った由比ヶ浜さんは間違っていると思ったのだ。
これには普段温厚でまったくキレない安全カミソリみたいな比企谷でもさすがに押し黙った。
比企谷はわずかな沈黙の後、確かな怒りを込めて重々しく口を開いた。
「死ねとか殺すとか軽々しく言うんじゃねぇよ。ぶっ殺すぞ」
「―あ...、ご、ごめん。そういうつもりじゃ...えっ!?今言ったよ!超言ってたよ!」
やはりアホの子だ。そう俺の中で確定した。
そして良い人だと思った。ここで謝ることは正しいのだ。
...正直、意外に思った。彼女がリア充集団の一人だということは紛れもない事実であり、彼女の容姿がそーいう感じだということは俺の目に見えている通りだ。
少し落ち着きが無くなっていたかもしれない。視野が狭かった。
人は見た目で判断できない。危うく真実を見余ってしまうところだった...。
俺はどうせ彼女も馬鹿なリア充やその周囲の人間と同様に、遊ぶこととセックスとドラッグのことで常に頭がいっぱいだと...、村上龍の小説かよ。
由比ヶ浜さんは俺と比企谷のこともあったのか疲れてしまったようで小さくため息をつく。
「...あのさ、平塚先生から聞いたんだけど、ここって生徒のお願いを叶えてくれるんだよね?」
微かな沈黙の後由比ヶ浜さんはそう切り出した。...え、そうなの?
「そうなのか、桐山?」
「いや俺に聞くな比企谷。でも『奉仕活動をしろ!』みたいなことは平塚先生に言われていたからね、さほど驚かないよ。...あ、ちなみに言われてただけで俺が本気で奉仕活動をする訳じゃないから。奉仕がどうのこうのっていうのは比企谷と雪ノ下さんの役目だから。由比ヶ浜さん、そこんとこよろしく!ちなみに俺は桐山霧夜っていうんだ。まあ、名乗る必要はないんだけど...」
「...あ、よろしくね。え、えーとき、桐谷くん?」
早ぇよ...。
「いえ由比ヶ浜さんと桐谷くんの言ったことは少し違うわね。あくまで奉仕部は手助けをするだけ。願いが叶うかどうかはあなた次第」
雪ノ下は突き放すように言った。
「どう違うの?」
「多分、お願いが必ず叶う保証がない分だけ奉仕部は無責任ってことだと思うよ。お願いを叶えるには由比ヶ浜さんのやる気とか、なんかそんな感じのものが必要で、楽に願いを叶えられる訳じゃないってことじゃないかな?簡単に言えば俺たちが願いを叶えてあげるんじゃなくて、由比ヶ浜さん本人が自力で願いを叶えられるようになるのを俺たちが手助けするっていうような、俺にとってしてみれば面倒くさくてやってられねぇ、みたいな活動なんでしょ?ね、雪ノ下さん?」
「まあ、そんなところね。桐谷くん、意外とよく理解しているようではあるのだけれど...、一々自分はやりたくないアピールをするのが...気にくわないわ」
すごく怖い顔で睨まれた。...でも、
「まあ、俺の名前桐山なんで怒られても全然悪いことしてる気にはなりませんけどね」
―コン♪言ってやった♪言ってやった♪わーいわい♪...でっ○ちゃんとか古すぎんだろ俺。いや昨日TVで見たよ、俺...。
「くっ...まあ、いいわ。つまり由比ヶ浜さん、飢えた人に魚を与えるか、魚の取り方を教えるかの違いよ。ボランティアとは本来そうした方法論を与えるもので結果のみを与えるものではないわ。自立を促す、というのが一番近いのかしら」
つまり雛鳥を飛び立たせようとする親鳥になれと!...なんてめんどくさい!
「な、なんかすごいねっ!」
由比ヶ浜さんはほえーっと目から鱗で納得しました!って顔をしている。こういう人が詐欺とかの被害にあって損をするんだろうなぁ...。勉強になりました。
それにしても巨乳の子は往々にして...という俗説も世の中に存在するが、その一例に加えても良いんじゃないかなぁ。なあ、比企谷はどう思う?
俺が小声で聞くと比企谷からグッドサインが来た。まあ、当然だよね。
俺はもう三~四度由比ヶ浜さんの胸にちょっと目を向けた後、雪ノ下の塗り壁を見てみた。...あ、貧乳も悪くないな、と思った。超どうでもいい。
「桐ヶ谷くんの言ったように必ずお願いが叶うわけではないけれど、できる限りの手助けはするわ」
その言葉で本題を思い出したのか、由比ヶ浜さんはあっと声をあげる。
「あのあの、あのね、クッキーを...」
「比企谷くん。それと...霧ヶ峰くん?」
雪ノ下がくいっと顎で廊下の方を指し示した。失せろという合図だ。そんなブロックサインを使わなくても「ボウフラが教室に入らないでもらえるかしら、二度と戻って来ないでその辺の水溜まりで干からびてくれるとくれると嬉しいのだけど」って外を指差せば良い...って駄目だな、俺死んでんじゃん。
...それでもボウフラは否定しない俺ってマジボウフラ、惚れる。
俺が蚊の幼虫になっていると比企谷が空気を察して言った。
「...ちょっと『スポルトップ』買ってくるわ」
「じゃあ俺は『どうだ書店』に行ってくる」
この空気に乗っかって帰宅を計るとか俺あったま良い!超合法的。
しかし俺は何回か逃亡を計っているので雪ノ下に気づかれてしまったようだ。
「霧ヶ峰くん、『どうだ書店』には行かずに比企谷くんと一緒に『野菜生活100いちごヨーグルトミックス』を買ってきて」
「...」
「どうしたの?早くして霧ヶ峰くん」
「なあ、わざと言ってんの?俺、霧ヶ峰じゃないからね?桐山だからね?どんどん離れてったけど...。っつーか気づけよ!霧ヶ峰て!まんまエアコンじゃねぇか!」
き~りが~みね~♪って音楽が頭の中でエンドロール!どうしてくれんだ全く!
「わかったわよ。さっき言った品物を買ってきて、桐ケ谷くん?」
「比企谷とイントネーション近いからって間違えんなよ!桐ケ谷なんて人間ここにはいねぇよ!」
これだけ言っても覚えていられないとか俺マジぱねぇっす。
後書き
誤字脱字、ギャグのネタに関して気づいたこと、不満な点があれば教えてください。
そして感想が全く来ませんでした。
なんでやなぁ? ...この小説がつまらないからよ、ね♪ はーはっはっは、はーっはっは以下略。
ええ、それでは何かご不満があれば、ぜひ感想にてお伝えください。
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