ツバサ -DECADE CHRoNiCLE《ディケイドクロニクル》-
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第19話:鉄騎のソウコウ
前書き
蠍の凶刃と蜻蛉の凶弾。
旅人たちに容赦なく襲い掛かるネオライダーの刺客達
彼らを救ったのは、伝説の英雄が装着した次世代五番目の『仮面ライダーになろうとする者』。
形勢は逆転……するかと思われたその時、地の底から魔の者が蘇る
ディケイド達が怪人達と戦っている同じ頃。
東京都の城南地区にある"城南大学"のある研究室。そこではとある人物が日々研究に勤しんでいた。
「ふぅ、一息いれるか」
部屋の主であるその女性……『沢渡桜子』はパソコンの作業を終えて席から立ち上がる。
8年前までは大学院生だった彼女も、今では母校であるこの大学で准教授として教鞭を執っている。
部屋に備え付けられたコーヒーメーカ―を使って、ブラックコーヒーを入れながら休憩に入った彼女はふと新聞に目を配る。
そこには『ネオライダーまたもや出現』という記事が大々的に描かれていた。
「……なんだか、あの時以上に嫌な世の中になっちゃったわね」
渋い顔をしながら、桜子は9年前に起きた未確認生命体による殺人ゲームの事件を思い出す。
あの時は『自分の友人』が現代に蘇った戦闘種族と戦うという大きな関わりを持つことになり、放っておけなかった彼女は手がかりになる古文書の解読や情報を集めていた。
1年間という戦いの末、何とか人間とグロンギとの戦いは終結……それから桜子自身が関わる事が少なくなった。
あれからもグロンギの他にアンノウンと呼ばれる未確認生命体が出た様子だが、そちらについては詳しい事は知らない。
9年という歳月の後、その間にグロンギ以外の全く新しい『未確認生命体』が各地にて出現した。
ある時は妖怪のような大きな怪物、ある時は死んだ人間が灰色の怪人となる、ある時は昆虫の特徴を模した地球外生命体、ある時は極彩色の体色を持つ吸血鬼……そんな都市伝説のような信憑性の薄い情報が彼女の耳にも届いている。
しかしグロンギという未知の生命体に関わった人間として、その未確認生命体達が嘘だとは思えなかった。
おまけに先程出た『ネオライダー』なる武装組織が暴れまわり、さらには未確認生命体と共に行動しているという噂まである。
……これでは、グロンギの時より酷いと言いようがない情勢になっている。
「不安だな……こんな時、彼ならどうするのかな」
彼女は今もこの広い青空の下で旅を続けているであろう『彼』の事を思い浮かべながら、コーヒーを啜る。
そんな中、一人の学生が慌ただしい様子で入ってきた。
「沢渡教授!大変、大変なんです!」
「ちょっとどうしたの?そんなに慌てて!」
「ゴウラムの石が!また光り始めたんです!!」
桜子はそれを聞いて、驚きの表情を浮かべる。
―――それは、最近の出来事。役目を終えて眠っていたはずの【超古代の生命メカ】に埋め込まれた石が光出したのだ。
それも一度ではなく、二度、三度も光が灯るときがあった。
まるで、『何か』と呼応するかのように。
何かを感じているのだと思った桜子は生命メカ……『ゴウラム』を保管室から出し、広い倉庫へと移して何かが起きるまで傍観しているつもりだった。
そして今、何度目かのゴウラムの石が光り始めた。
すぐさま研究室から出て、倉庫へと走って向かった桜子。
そこで待っていたのは、今までより緑色の光を石から放つゴウラムの姿であった。
「これは……!」
「さっきニュースで未確認生命体が出たって言っていました!もしかしたらそれに関係が!」
「私達ができることは……今すぐ倉庫の扉を開けて!ここの被害が出る前に!!」
「は、はい!」
桜子の指示に従い、何人かの学生達は急いで倉庫の扉を開ける。
その瞬間であった……ゴウラムの背中の羽根が大きく開いたのは。
ゴウラムは昆虫特有の羽ばたく音を鳴らしながら浮かび上がり、そのまま倉庫の扉を抜けて外へと出ていく。
桜子は続いて外へと出ていき、大空へ飛び立ったゴウラムの姿をその目で見つめていた。
「ゴウラムが動き出したってことは……4号が、彼が戻ってきたの?」
多大な不安と一筋の淡い期待、入り混じった二つの気持ちを抱えながら桜子は青空へと消えていくゴウラムの姿を見送るしかなかった。
―――――
ディケイド達四人のライダーとG3達警察組織のライダーは突如現れた魔化魍・オオアリに苦戦を強いられていた。
ディケイドはライドブッカー・ガンモードで牽制しながら悪態づく。
「くっ、なんでよりにもよって二体もいるんだ!」
一体だけなら歌舞鬼と協力して倒せるならまだしも、今回出てきた数は二体。
オオアリ達は餌である人間を求めて建物の一部を壊しながら暴れまわっており、自分達二人だけでは手が付けられない。
しかし、魔化魍を倒すには物理的攻撃だけでは難しい……この場で完全に倒すことができるのは清めの音を発する鬼である歌舞鬼か、その特性を無視して倒せるディケイドのみ。それ以外だと例え必殺の一撃を食らってもまた元通りになる。
どうにかしてオオアリをどうにか対処にディケイドは歌舞鬼へ声を飛ばす。
「おい、黒鋼!片方は任せた!俺はもう一つの方に相手する!」
「それは構わんが……お互いに一匹一人で大丈夫か!?」
「今この場でこいつらを倒せるのは俺達だけだ、やるしかないだろ!」
ディケイドはそう言いながら、再びライドブッカー・ガンモードによる銃撃を再開する。
歌舞鬼も音撃棒・烈翠を構えて火炎弾を繰り出して二匹のオオアリと応戦を図る。
その一方ではクウガとサガはG3達と共に出方を伺っていた。
クウガはマイティフォームに戻り、サガと相談する。
「ファイさん、これ、どうする?」
「いやはや、いろんな世界回ってきたけどこういうのに何度も出くわすとはね」
「響鬼の世界じゃこういうのは日常茶飯事だったけど……とにかく、俺達が引き下がるわけにはいかない」
クウガとサガはオオアリの進攻を止めるべく、近づいて攻撃を仕掛ける。
G3達も自身達が持つスコーピオンやサラマンダーを駆使して注意を引いていた。
「くっ!こんなの聞いてないぞ!」
「こんなデカブツ相手がしかも二体!どう対処すりゃいいんだよ!」
「やるしかない……俺達の背にはみんながいるんだ」
戸惑いながらもスコーピオンを発射し続けるG3-01とG3-02、今もこの場所から逃げているであろう一般人達の事を思いながらサラマンダーで狙い撃つG3-03。
三人のG3による連携攻撃により、オオアリの一体は怯む……だが、それだけだ。
銃撃をまともに受けているにも関わらず、何ともないように暴れまわっている。
このままではジリ貧だ……せめて、大きな隙をつくれば打開策はあるのだが……。
―――その時だ、ディケイドとクウガの元に夏海と北条の声が聞こえてきたのは。
「士君!ユウスケ!刑事さんが!」
「夏海?」
「夏海ちゃん!?」
「そこの二人!一条さんから連絡です!受け取りなさい!」
北条は自身の持っていた無線機をクウガへと投げ渡す。
何らくキャッチしたクウガは無線の相手のG5へと連絡へと繋げると声が聞こえてきた。
『小野寺ユウスケ!』
「は、はい!」
『今そっちに増援が向かった。目視で確認できるか!?』
「増援!?一体誰が……」
クウガは空を見上げると、黒い影が通り過ぎる。
その黒い影……黒のボディに金色のパーツを持ったそのクワガタムシの外見の巨大なメカは、二体のオオアリに突撃して激突した。
二体ごとその巨躯を仰向けへと横転させた。
ディケイドは突如やってきた【それ】を見て、名前を口にする。
「あれは確か……ゴウラム!?」
「士、アレを知ってるのか?」
「そうか、お前は知らないのか。あれはゴウラム……かつて古代のクウガが使っていた、馬の鎧だ」
「馬の鎧だって?」
クワガタムシ型のメカ……ゴウラムを見て、クウガは驚く。
そのゴウラムはディケイドとクウガ達の目の前に浮かぶように現れ、オオアリと対立するように滞空している。
無線越しのG5の言葉がクウガへと投げかけられる。
『君が本当に別の世界のクウガというなら持ってるはずだ。ゴウラムと融合するアレを』
「融合……馬の鎧……まさか……!?」
「なるほど、大体わかった!」
無線越しのG5の言葉を聞いてクウガは閃き、その意図を悟ったディケイドはある事をする。
銀色のオーロラが現れ、その中から出てきたのは……ユウスケが普段乗っているバイク・トライチェイサー2000。
元々はクウガの世界で使われていた白バイであり、クウガの乗るとして使われていた代物だ。
ユウスケが世界の旅に出る際に共についてきた愛機として使われていたそれをディケイドの有する"世界を渡る能力"を応用してここに出現させたのだ。
ディケイドはクウガに向かって叫ぶ。
「ユウスケ、お前はお前のバイクに乗れ!」
「ありがとよ、士!」
ディケイドの言葉を聞いたクウガは、トライチェイサー2000に乗りこんだ。
するとゴウラムの上半身と胴体が二つに分かれ手変形、トライチェイサーと合体する。
ゴウラムの巨大なキバを有した戦闘マシン『トライゴウラム』が完成し、クウガは驚きの声を上げる。
「これが、馬の鎧……!」
「トライゴウラム、丁度いい。魔化魍相手にはこの馬力が必要になりそうだ」
そういいながらディケイドはトライゴウラムの後方部分に立つ形で乗りこむ。
ディケイドを乗せたクウガのトライゴウラムは発進し、オオアリの一体へと突っ込んでいく。
「いくぞ士!振り落とされるなよ!!」
「ああ、いくぞユウスケ!」
【FINAL-ATTACK-RIDE…DE・DE・DE・DECADE!】
ディケイドは自身のドライバーにカードを装填し、発動させる。
クウガの駆るトライゴウラムの進行方向上にカード型のエネルギーが発生し、それを潜り抜けていく。
ディケイドの次元エネルギーの力と、トライゴウラムの前方に集まった封印エネルギー。
二つの力が融合し、マゼンタ色の光に包まれたトライゴウラムがオオアリへと迫る。
『ギリギリギリ……!?』
「「いけぇーーー!!!」」
マゼンタ色の光に包まれたトライゴウラムの突撃『トライゴウラムアタック』がオオアリに直撃。
数十メートルも押し出した状態が続いた後、オオアリは胴体と上半身が泣き別れになりながら爆散する。
その巨体は枯れた木の葉となりながら消えていった。
オオアリの一体が消えたことにより形勢は変わっていく。
G3-01とG3-02は左右から仕掛け、右腕につけたフックのついた射出武器"GA-04 アンタレス"を構える。
「銃器が効かないならば!」
「これならどうだってんだ!」
射出されたワイヤーフックがオオアリの節足に絡ませて、動きを封じる。
身動きが取れないオオアリは蟻酸を吐いて溶かそうと口を開くも、そこへジャコーダービュートの赤い刀身が大アゴに絡みつく。
『ギギギギギリ!?』
「おっと、そうはさせないよ……!」
「ふんぬぅ!」
サガとG3-03は協力してジャコーダービュートを掴み、口を開かない様に抵抗する。
そうして身動きが取れなくなったオオアリの背中へ、歌舞鬼が飛び乗った。
「悪ぃな、誰も殺させずに戦うってのは難しいんでな」
腹部に取り付けられた音撃鼓をオオアリの背中へ取り付ける。
巨大な大きな太鼓となり、音撃棒・烈翠を構えた歌舞鬼は高らかに叫んだ。
「音撃打・業火絢爛!」
《b》業火絢爛《/b》
音撃棒・烈翠で演奏するように叩き込んでいく歌舞鬼。
その度に桜吹雪の花弁が舞い、周囲を彩っていく。
対しオオアリは歌舞鬼の放つ清めの音が効いており、苦しそうな声を上げる。
やがて最後の一撃まで決めるところまで辿り着き、音撃棒・烈翠を大きく振り上げる。
「―――ハァ!!」
ドォン、と腹の底から響くような太鼓の音が響いた後、オオアリは爆散。
木の葉と土くれとなって、その身は崩れていく。
上手く着地した歌舞鬼は、魔化魍だった残骸を見て呟く。
「コイツが魔化魍、この世界の妖魔か」
「お疲れ、黒様」
「おう」
歌舞鬼はサガの労いの言葉に短くそっけなく返した。
G3達は二体のオオアリを倒したディケイド一行を見て、関心を覚える。
特にG3-03は思わず一人呟いた。
「あれが、仮面ライダーか……」
~~~~~~
頼打地区にあるネオライダー達の拠点の一つ。
『マシンゼクトロン』と呼ばれる専用バイクが止められたその場所に斬刃と風嵐の姿があった。
「どうやら、オオアリは上手くおびき出されたようだな」
「ふぅん、マシンゼクトロンに載せてあったミラーモンスター用の餌でいけるんだ」
「ミラーモンスターも魔化魍も、基本人間が主食だからな。似た者同士なんだろ」
斬刃はあの時仕掛けた事を思い出す。
―――それは、マシンゼクトロンに載せてあった『ミラーモンスター用の餌である高純度エネルギー』。
クロックアップで取ってきた餌をあの場にバラまき、オオアリの童子と姫が連れてきた子供達である二体のオオアリに呼び出したのだ。
「いい時間稼ぎにはなったよ。おかげで逃げる時間が稼げた」
「でもでも斬刃、感づかれたりしない?あんな街中でなんで魔化魍がいたのかって事」
「さぁてな、感がいいヤツがいればいいが、それに気づかなきゃ意味がないがな」
「ふぅーん……まあいいや、皆が守れたんだし!」
風嵐はそう言いながら、周囲にいるであろうサナギのワーム達を見やる。
そこにあったのは何体、何十体、何百体にも及ぶワーム達が群がる光景。
常人ならゾッとする光景だが、二人はそれを見ながら身を寄せ合う。
「ねぇ、斬刃。私達、この子たちを守れるかな」
「……守り抜くんだ。なんせ消えたあの世界からの数少ない生き残りだからな」
互いの温もりを確かめ合うように、彼ら二人は決意を固める。
その瞳には悲しみが秘められていた。
後書き
満を持して登場、クウガの第二の相棒・ゴウラム!
実はこの小説初めてユウスケクウガによるトライゴウラム戦やるのが夢でした。
クウガと一条さんの絡みも我ながら凄い素敵。
実は桜子さんのシーンが一番長かったことについて。
最初はこれを18話のシーンにぶちこむつもりだったんですが、ゴウラム登場させる事ができそうになかったので今回に持ち越しになりました。
歌舞鬼の必殺技、音撃打・業火絢爛!これに関しては漫画版仮面ライダー響鬼 七人の戦鬼を参考にしてました。
漫画版は映画では披露しなかった技を繰り出してるので。
斬刃&風嵐、どうやら訳ありの様子……消えた世界とは一体?
次回、一難去ってまた一難!?
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