ツバサ -DECADE CHRoNiCLE《ディケイドクロニクル》-
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第15.5話:旅人のデート
前書き
今回は若干スランプ中のため、調子を取り戻すために閑話休題の回をご用意しました。
小狼とサクラ、二人が向かった場所は……?
その日。
小狼とサクラは頼打地区の遊園地"頼打遊園地"を訪れていた。
入園口には二人の姿があり、お互いの顔を見合わせた。
「来てしまった」
「来てしまったね、小狼君」
小狼とサクラはぎこちなさそうに互いにそう言うと、そのまま手に持ったとあるパスに視線を落とす。
それは先日の事、サクラがハルと別れた後、買い物したお店で行われていた福引を回したところ、どうやら特賞の遊園地の人気アトラクション無料パスを当てたという。
最初はみんなで行こうと計画していたが、どうやらペア用として二つだけ用意されていた。
士達は羽根探しで忙しそうだし、仕方がなく夏海を誘おうとしたが……。
――ああ、すいませんサクラちゃん!私その日おじいちゃんに頼まれた事があるんでした!
――そう、ですか……
――代わりに小狼くんが行ってくれますよ!ね、小狼君!
……と、小狼がサクラの相手として一緒についてくることになった。
士達は勝手に引き抜かれた事に意見を申そうとしていたが、夏海が親指を立てて向けると何も言わなくなった。
任された小狼も夏海の押しとサクラと一緒にいることに拒めず、出かけることになった。
「と、とりあえず……行きましょうか?姫?」
「う、うん……」
ぎこちなさそうに小狼は声をかけ、サクラも同じくぎこちない態度で頷く。
二人は照れ臭そうな表情を浮かべながら、入園口を潜って遊園地の中へと入っていった。
―――――
まず二人がたどり着いたのは、ジェットコースターだった。
頼打遊園地の目玉でもあるこのアトラクションへやってきた。
上を見上げる必要があるほど高さを見て、サクラは驚いた表情を浮かべる。
「す、すごい大きい」
「姫、大丈夫ですか?別のものにしても俺は大丈夫ですからね」
「ううん、これでいいよ」
サクラは小狼と共に、他の乗客の後に並んだ。
数分ののちに自分達の番が回って来て、コースターの席に乗り込む。
すぐさまコースターが動き出し、高くそびえるレールの上を目指して登っていく。
「……」
「大丈夫ですか?」
「うん、ちょっと怖くなってきたかな」
「その、おれがついていますから」
小狼はサクラの手を握る。
サクラは少し驚くが、その後小狼の手を握り返した。
「小狼君の手、暖かい」
「姫の方もあったかいですよ」
二人が互いに笑顔で返し合った後、ジェットコースターがレールの頂点に達する。
そしてそのまま乗り越えて、自由落下の勢いで加速していった。
「わあああああああ!」
「きゃああああああ!」
二人の絶叫が他の乗客のものと共に加速しながら消えていく。
縦横無尽にレールの上を駆け巡り、超スピードを味わった。
やがて搭乗口に戻り、ジェットコースターから降りた小狼とサクラは感想を言い合う。
「凄かったですね」
「うん、あんなに早いなんて!」
あまりの速さに凄かったのか少し疲れ気味の小狼と比べ、対照的にサクラははしゃいでいるように見えた。
次に二人が向かったのは、コーヒーカップだった。
ジェットコースターより人が並んでなかったせいか、すぐに自分達の手番へやってきて、ティーカップ型のベンチに乗り込んだ。
並んでいた客が乗りこむと、ティーカップのアトラクションが動き出した。
周囲のが回る中、サクラが小狼に話しかける。
「ねぇ、小狼君。少しお話いいかな」
「なんでしょうか。姫」
「えっとね……その……」
サクラは言葉を詰まらせながら、小狼へ質問を投げかけようとする。
しかし、いざ言うと言いよどむ……。
暫し逡巡すると、サクラは意を決して口を開いた。
「しゃ、小狼君って好きな人、いるかな……」
「……!」
サクラの言葉を聞いて、小狼の口元がハッとなる。
見方を変えれば驚いているにも見える表情をしているであろう小狼はサクラの顔を見る。
少し頬を赤くして恥ずかしがっているサクラの顔が視界に映った。
「……いますよ、おれにも好きな人は」
「い、いるんだ……そっか、いたのね」
小狼の言葉を聞いてサクラは一瞬ビクッと身体を跳ね上がらせると、戸惑った様子を見せる。
しどろもどろになっていく様子の彼女を、ただ生暖かく見守る小狼は、何処か悲しいものを隠した笑顔で答える。
「でも、もう会えないんです」
「そ、それって玖楼国にいた人なの?」
「まあそうですね……おれの大切な人ですよ」
「そ、そうなんだ……」
サクラは肩を落とし、顔を下へ俯かせる。
それを見て、小狼は続きを語っていく。
「だけど、今は姫の事も大事な一人と思ってます」
「……ッ!!わ、私も!?」
「はい、姫も、ファイさんや黒鋼さんにモコナ、それにこの世界で出会った士さん達だって大切な仲間なんですから」
小狼はサクラに向けて暖かい笑みを向けながらそう口にした。
―――今まで旅してきた自分の旅の仲間達
―――自分達と同じく、様々な世界で旅を続ける人達
―――そしてこの世界で出会った人達
小狼にとっては、大事な人なのだ。
その言葉を聞いたサクラは少し考える仕草をした後に小狼へと言った。
「そっか、そうだよね。変な事聞いてごめんね?小狼君」
「こちらこそ満足できた答えができたのなら幸いです」
「うん!ありがとう!」
サクラは感謝の言葉を小狼へと告げる。
そうして二人が話をしているうちにアトラクションが終わる。
二人もベンチから立ち上がり、コーヒーカップから出ていく。
「おれ、飲み物買ってきます」
「私、ここで待っているね」
「はい、では行ってきます」
小狼はサクラの元から離れ、自販機の元へ向かった。
その間、小狼は心の中でサクラの事を思っていた。
(……けど、サクラはおれにとっての、一番の大切な人だ)
(それは今までもこれからも、変わりはしない……)
(この世界での戦いは今まで旅してきた世界とは違う……)
(もしかしたら、姫にも危ない目を遭わせるかもしれない)
(それでも、おれはサクラの羽根を……記憶を取り戻す)
……小狼が考えていたのは、サクラの事。
この世界にはネオライダーと怪人という驚異が潜んでおり、共に自分達にとっては危険な存在だ。
今でこそライダーの力で張り合えているが、サクラの羽根になる手がかりは未だに掴めていない。
この世界の誰かが悪用するために隠していあるのか、それとも……。
どちらにしろ、サクラの羽根を手に入れるためには戦い続けるしかない。
―――そんな時だった、見知らぬ人とぶつかったのは。
「おっと」
「すいません!」
「ふむ、初対面で口だしするのは失礼ながら言わせてもらう」
ぶつかった人物……フードを目深に被り、ところどころに傷が見られた服装を着用しているその青年は、小狼の眉間に指をさした。
「考え事をしながら走るなんてよくないぞ。眉間に皺が寄ってる」
「あっ……」
「とりあえずだ。考え事するなら喫茶店でお茶するなりして、止まって考えろよ。今後の参考にしな」
青年は小狼へそう言いながら、彼の元から去っていく。
小狼は呼び止めようとするがその青年は人混みの中へ姿を消えていった。
「なんだったんだ、あの人」
小狼はもうそこにはいない謎の青年の背中を見つめるしかなかった。
―――――
小狼とサクラが遊園地を楽しんでいく頃。
とある場所にて、一人の仮面の戦士の複数の怪人相手に戦っていた。
「ハッ!」
「ぐあああああっ!!」
仮面の戦士は飛び蹴りによる必殺の一撃を怪人達へと叩き込んだ。
怪人達は爆発し、その場から消えていく。
後に残ったのは、仮面の戦士……もとい、仮面ライダーただ一人。
その仮面ライダーは自分が手にしているものへ視線を落とす。
それは、【自分がいた世界】にて手に入れた謎の力……。
「……一体何なんだ?これは?」
―――その手には、記憶の羽根が握られていた。
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