色々と間違ってる異世界サムライ
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第31話:アリューシャの悲劇
セツナperspective
「ぎゃあぁーーーーー!?長老ぅーーーーー!」
「やーめーろぉーーーーー!」
「お願いです長老!この子だけは!」
おいおいおいおい!
グロブに操られた長老の死体に殺され過ぎだろ。
そりゃあさ、親友に殺される事を想定している奴なんて……ツキツバならやりかねんな……
って!そう言う事じゃない!
こいつら、早く割り切ってくれ!
そうしないと……長老が気の毒過ぎる!
……だと言うのに……
「まさかお前、長老を殺す気か!?」
アリューシャ!?何を寝ぼけてる!?
あの長老にこれ以上の罪を犯させる気か!?
親友だからこそ、親友の罪を止めるのが筋だろ!間違いを辞めさせるのが親友の義理だろ!
「何故止める?長老にこの里のエルフの皆殺しをやらせる気か!?」
だが、長老との突然の別れに耐えられないアリューシャのとんちんかんな言葉は停まらない。
「でも―――」
「その未練が!この里のエルフを殺して回っている長老を苦しめてるんだぞ」
しかも……
「さあ、亡者共。この死人使いグロブが今1度命を与えま―――」
あの野郎!
長老に殺されたスノーエルフまで操ろうとしているのか……
悪いが、これ以上は観ていられない。
2度と復活出来ない様にして……長老の苦しみを終わらせる!
……と、思いきや……
「そこまでだぐろぶ」
ツキツバが背後からグロブの頸を斬ったのだ。
そして、グロブは無言で静かに死亡した。
「おいおい。らしくないなツキツバ」
「某もそう思います。何も言わずに背後から斬るなど卑劣の極み」
「けどよ。こんな屑、お前の美学や信念に巻き込む価値も無いと思うぞ?」
私のこの言葉に、ツキツバは苦笑いをした。
「いや、いくら相手が下衆な外道であっても、だからこそ相手と同じ所まで堕ちてはならぬのです」
「固いなァ」
こんな屑がツキツバの美学や信念を理解するとは思えないけどね。
……問題は……
「……長老?」
だが……グロブに操られた長老の死体が……不気味な遠吠えをしてから再び暴れ出した。
「やっぱ駄目かよ!」
くそが!
死人使いグロブ……その最期の屁まで卑劣極まりないなんて……
アリューシャperspective
長老!
何故だ!?
洗脳していた死人使いグロブは既に死んだと言うのに!
「があぁーーーーー!」
「長老!眼をお覚まし下さい!」
私は必死に叫んで懇願するが、長老は里の者達の殺害を辞めてくれなかった……
何故だ!?
「割り切れ。奴はもうこの里の長老じゃない。里を滅ぼす敵だ」
敵だと!?
こいつら、この私に長老を殺させる気か!
なら……やる事は1つしかない!
「長老!」
私は、長老を必死に抱きしめた。
「あ!?馬鹿!」
セツナの奴が私の事を馬鹿にするが、これ以外に方法が無いなら、これを選択するしかないだろ!
「眼をお覚まし下さい。この里を襲う敵は既にこの世を去りました。もう、長老の本来の意思を邪魔する者―――」
「がうがぁーーーーー!」
私の腹に……強烈な鈍痛が襲い掛かった……
「ちょう……ろう……な……ぜ……」
駄目だ!
ここで手を放せば、こいつらが長老を殺してしまう。
手を放すな!
手を放すな!
手を……放す……な……
月鍔ギンコperspective
やはり、アリューシャ殿には親殺しは無理であったか?
「セツナ殿、この村の者にやはり親殺しは無理の様ですな」
某の言葉にセツナ殿が苦虫を噛み潰した顔をしておりました。
「何故割り切れない!?この里の長老に罪を重ね続けさせる気か?」
「その台詞、余所者である某達だから言える事ですぞ」
「だが!……この里の長老がこの里を滅ぼすなんて、どんな冗談だよ」
……所詮は生きる世界が違うと言う事であろうか?
なら……
「某が……お相手します」
その途端、やはり周りのえるふ達が某を説得しようとします。
「まさか!?長老を殺す気か!?」
「今はまだ、グロブの呪術の影響が残ってるだけだ!それさえなければ!」
「そうだ!捕縛して正気になるのを待つのだ!」
改めて、この村と某は生きる世界が違うな。
もしこの村の者達が、某が請けた父上からの最期の試練を越えねばならなくなった時、彼らは武器を持つ事が出来るのであろうか……
……無理だろうな……
それはつまり、自分の父親をこの手で殺める事を意味するのだから……
けど、セツナ殿の言い分である「これ以上この者に罪を犯させるな」の意味も、某は解ってしまう。
この者は、自らが手塩に掛けて育てたこの村を自らの手で滅ぼすのだ。
もし、本当にこの者を正気に戻す方法が在ったとしても、子殺しの罪とそれに伴う心の傷は癒えまい。
だから、子殺しの罪に圧し潰される前に楽にしてやれと?
「許せ!長老!」
その時、この村の長老に弓引く者が現れました。
「エドン!?何を!?」
「仕方あるまい!このままでは、俺の娘まで長老に殺される!」
「なら、その前に捕縛して―――」
「それに、正気に戻った長老がこの惨事を許すと思うか!?」
エドン殿のこの言葉は、某にこの村の長老を殺す為の最後の一線を越えさせました。
「……了解した」
そして……
某はすれ違い様にこの村の長老を斬り斃しておりました……
「ありがとう」
この村の長老の最期の言葉、某はしかと聴き取りましたが……
アリューシャperspective
私は、ベットの上で目を覚ました。
「ここ……」
そして、私は長老の事を思い出して慌てて飛び起きた。
「そうだ!長老は!?長老はどうした!?」
それに対し、エドンは神妙な面持ちで答えた。
「長老は……旅立った。取り返しがつかなくなる前に」
旅立った?
何処へ?
どう言う意味だ?
「仕方なかったのだ。長老にこれ以上罪を重ねさせない為にも」
仕方なかった……だと……
「まさか!殺したと言うのか!?」
私の問いに対し、エドンは怒った様に言い放った。
「他に方法が無かったのだ!」
だが、私は到底了承出来ない言葉だった。
「無かった……ですって……」
「あの時の長老は正気ではなかった……この里の子供まで殺していた―――」
「だから長老を殺したと言うの?」
エドンはサラッと禁忌の言葉を言い放った。
「そうだ。アレはもう長老ではない」
なんて事を……なんて事をしたんだ!
私は……無意識の内にエドンの胸倉を掴んでいた。
「何故……何故助けなかった!」
だが、エドンが言った言葉は、
「その言葉、そっくりそのまま返すよ。長老に殺された同胞を何故助けなかった?」
エドンは怒っていた。
あまりにも理不尽で、意味不明な理由で。
「それと……暴走した長老からこの里を守ってくれた恩人達なら、既にこの里を去ったよ」
「去った?長老を殺した連中に何の罰も与えずにか!」
「彼女達は『某達が来てしまったから奴らが里に来た』と言ってくれたが、正直、恩知らずな行為を強要された気分で腹ただしいよ」
「エドンが、恩知らず?」
「俺だけじゃない!この里全員がだ!」
すると、エドンは私の手を振り払い、
「俺も何時かこの里を出るよ。この事件が来るまでは、聖武具を護る事に誇りを持っていたが、所詮はただの引き籠りの自己自慢だったよ」
そう言うと、エドンは不機嫌そうに去って行った。
「……なんだよ……あんな言い方……」
ノノ・メイタperspective
僕は、今回の一件で確信した。
「ツキツバさん!」
「またかよ」
今はセツナと口喧嘩している場合じゃない!
「やはり急いでセイン様の許に往きましょう!」
そうだ!
今回のエルフの里の悲劇の様な事を一刻も早く終わらせる為にも、急ぎセイン様と共に魔王を倒さなきゃ!
だけど……
「申し訳ありません。今回ばかりはノノ殿を庇う事は出来ませぬ」
「え!?何で!?」
そんなツキツバさんの表情は、どこか怒っていて、僕は怖かった……
「本当に急ぎ魔王を倒さねばならぬのであれば、何故セイン殿はこれと言った動きを見せぬのです?」
……確かに、ツキツバさんの言い分にも一理あった。
その証拠に、魔王の手下はどれもツキツバさんばかり襲っている様に観える。
セインの言う通り、魔王はセイン様よりツキツバさんの方を危険視して……
「でも……魔王を倒せるのは勇者だけなんだ」
その事実を口にしてはみたが、だとすると、魔王の手下達の今までの行動が矛盾する。
魔王が危険視するのは勇者であるセイン様であって、悪く言えば部外者でしかないツキツバさんを警戒する理由が無い。
僕は……考えれば考える程、混乱してしまった。
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