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色々と間違ってる異世界サムライ

作者:モッチー7
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第32話:勇者の計算外その7

セインperspective

城塞都市ラワナへと到着した。
ここは魔族と最も激しい戦いを繰り広げている街だ。
馬から下り、地に足を付ける。
街の入り口に立つ兵士に冒険者カードを見せた。
「おおおっ、勇者様でしたか! どうぞお通りください!」
「そうさせてもらう」
街の中では多くの兵士や騎士を見かける。
彼らは僕には目もくれず足早に通り過ぎて行く。
ここに勇者がいると知れば、彼らはどのような顔をするのだろう。
さぞ驚くに違いない。
慌てて跪き喜びに涙するはずだ。
だが、あえてそのようなことはしない。
自ら勇者だと名乗るのは愚であると気が付いたのだ。
やはりさりげなく正体がばれる方がいい。
もっと言えば、僕が勇者だと強調されるトラブルでも起きてくれれば最高だ。
「ねぇ、セイン。そろそろちゃんとした聖職者が欲しくない?」
「そうだなぁ。確かにソアラは足手まといになってきたかな」
「えぇ!? 二人とも何をおっしゃるのですか!?」
「実はね、新しい聖職者の目星を付けてるの。もちろん女よ」
「それはいいね。さすがリサだ」
リサの提案は良いタイミングだった。
僕のレベルはすでに70台、リサも50台。
未だ40台のソアラは少々成長が遅い。
それに保守的な性格が、度々足を引っ張ってきた。
そこそこ顔も体も良いが、世の中には聖職者はごまんといる。
わざわざこいつを使い続けるメリットは薄い。
第一、もう飽きたんだよ。
リサは僕の最高の女だから捨てる気はさらさらないが、ソアラはもうどうでもいいかな。
「でもセインの事を言いふらされるのは困るわよね」
「じゃあ奴隷商に売るか」
「それいいわね。そうしましょ」
「セイン、リサ……あなた方は何を……」
僕はソアラの腕を掴み引っ張って行く。
奴隷店を見つけるとそのまま中へと入った。
出迎える奴隷商にソアラを突き出す。
「こいつを買ってくれ」
「では少し見させていただきますね」
「セ、セイン!?」
ソアラは店の奥へ連れて行かれた。
数分してから奴隷商が、ソアラを連れて笑顔で戻ってくる。
「非常に良い品ですね。ところで、状態異常が出てますが……?」
「買い取り金額から四割引いてくれ」
「……なるほどなるほど、かしこまりました」
商人は腰を低くして気持ちの悪い笑みを浮かべる。
ソアラは奴隷としては価値の高い女だ。
金に意地汚い奴隷商がいちいち洗脳など気にするはずがない。
「セイン、どうか考え直してください」
「五月蠅いぞ。いい加減自分の運命を受け入れろ」
「――!?」
ソアラはうつむいて「はい」と力なく述べる。
そう、それでいいんだよ。
ウザい女は僕は嫌いだ。
勇者の隣に立てるのは最高の女だけだ。
僕と幼なじみってだけで特別になれるとでも思ったか。
笑わせてくれるよ。お前は最高のハーレムを作るまでのつなぎでしかないんだからさ。
カウンターに金の入った革袋が置かれる。
量でいえばそこそこありそうだ。
値段なんてどうでもいい。
奴隷になってどこかで壊れてくれればそれで満足さ。
「後のことはよろしく」
「ありがとうございました。またのお越しを」
リサを連れて店を出る。

セツナperspective

私達はフラウから貰った妖精の粉を使って城塞都市ラワナへと急いでいる!
……筈だった。
「ん?あれは?」
ツキツバが発見したのはただの馬車……
じゃない!
「あれはもしかして」
「奴隷商の馬車だ」
奴隷は2種類に分けられる。
罪を犯した者と売られた者だ。
基本的に犯罪者は一般市場には流れない。そう言う奴らは鉱山などに押し込まれ強制労働させられる。
で、もう1つが金に困って家族などを売り払うケースだ。
実はこっちの方が圧倒的に多い。
だが、実際は3つ目が存在する。
公然の秘密とも言うべき、攫った者達を裏で売買する手段だ。
これについては各国取り締まってはいるが、それは表向きだけである。
オークションなどをみればそれがよく解るだろう……

で、私は結局、その馬車を襲い、奴隷商人を叩きのめしてしまった。
「どうして奴隷に……」
「セインに捨てられたのです。レベルの高い聖職者を見つけたので、お前はもう用済みだと売られてしまいました」
私が勝手に開放してしまった奴隷の口から出たあの忌々しい外道の名。
それを聞いて、ノノが即座に反論する。
「そんなの嘘だ!」
だが、そこに理論的な物は無く、ただの感情論に思えた。
それを知っていながら……ユーミルが彼女の頭にあの液体をかけた。
体がぼんやりとピンクに光った。
間違いない。彼女も洗脳されている。
「お前はセインに洗脳されている」
「……そうでしたか。薄々そんな気はしていたんです」
ネイと同じ反応だ。
彼女も違和感を覚えていたらしい。
懐から最上級解呪薬を取り出した。
「これで洗脳は解ける。飲むかは自分で―――」
目にも留まらぬ速さで小瓶をかすめ取り、男らしく親指で栓を開けると一気に飲み干す。
「うぎっ!? あがっ!??」
「大丈夫か!?」
「うぎゃあぁぁあああああっ!」
頭を抱え身をよじる。
ネイの時と同じだ。
が……
「せぃいいいいんんん、よくもこの聖職者である私に舐めた事してくれたわねぇええ」
あれ、なんか違うぞ?
目が据わってる。
めちゃくちゃ殺気がにじみ出ているんだが。
もしかしてずっと……本性隠してましたか?

セインperspective

「あれよ」
「……ふぅん」
酒場の隅に女がいた。
深くかぶったフードから覗く整った容姿。
体全体から色気を醸し出しており、露出した深い胸の谷間が目をひく。
まさに僕好みだ。
しかもレベルは60台。
正直、直接手に入れるより他人から奪う方が気分が良いが、この先の本格的な戦闘を考えれば贅沢は言っていられない。
さりげなく目の前の席に座った。
「やぁ、今は1人かな?」
「そうだ」
「見たところ聖職者の様だけど、もしよかったら僕らとパーティーを組まないか」
目を合わせ誘惑の魔眼を使用する。

「貴方名前は?」
「ミリム」
「へー、良い名前じゃない」
横からずいっとリサが出てきて視界が遮られる。
一瞬だったがそれでも魔眼の効果はあったはずだ。
焦る必要はない。
これから徐々に重ねがけをして洗脳して行けば良いんだ。
「返事だが、お前のパーティーに入ろう」
「うん、良い返事だね」
やはり効果はあった。
態度が少し軟化した気がする。
そこで彼女の右手にはまっている指輪に目がいった。
「綺麗な指輪だね」
「これは恋人にもらった物だ。もういないが」
「冒険者だったのかな」
「ああ、良い人だった」
それを聞いてゾクゾクする。
ああ、失った恋人を想い続けるその心、なんて綺麗なんだ。
それを僕の物にできるなんて最高じゃないか。
我慢するなんて思ったけど、この子以外に考えられないよ。
「じゃあ宿でこれからの話をしようか」
「ああ」
彼女は素直に応じる。
ふひっ。

轟く爆音と怒声。
兵士達が魔族の砦を落とそうと攻め続ける。
堅牢な城塞は魔法でもびくともせず、暗黒領域への道を塞ぎ続ける。
入り口を守るのは魔王軍幹部の1人デナス。
大曲刀を操り兵士をゴミ屑のように容易に切り飛ばす。
「うぉおおおおおおおっ!」
「!?」
僕の剣と大曲刀がぶつかり合った……
途端、〈フレイムソード〉がぽっきり折れた。
「なんでだあああ!? 売れば金貨八千枚は下らねえ〈マジックアイテム〉だぞお!?」
「ははは! 大方、模造品か粗悪品でもつかまされたのではないのかね?」
思わず折れた〈フレイムソード〉の根元を凝視し、デナスがその様が如何にも滑稽とばかりに大笑する。
「冗談じゃねえ!僕の目の前でやらせたんだ!しかも、勇者である僕が使う事を想定してだ!模造品でも粗悪品でもある訳がねえ!」
「ほう。ならば銘が刻まれている筈だな?なんと言うのだ?」
な……に……?
あの爺……まさか!?
「銘だよ。優れた匠は、己が精魂込めた造形物に必ず銘を刻むものだ。剣ならばちょうど、その根元辺りではないか?」
ひとまず今日のところは撤退だ。
数日中の内に必ず倒す。
覚えていろ。
「逃げるのか勇者よ」
「違う! 今日のところは見逃してやるだけだ!」
「くくく、そうか自分は見逃されるのか」
「笑うな! 次は必ず殺すからな!」
僕らは全力で後方へと下がった。

月鍔ギンコperspective

なんとか街の入り口まで到着すると、門を守る兵士に止められる。
「怪しい奴らめ!身分証明書を見せろ!」
身分証明書?
あれ、どこでしたっけか?
懐に手を入れて冒険者カードを探す。
そこで兵士の視線が某の腕輪に向いた。
「おい、ちょっと待てよ、その腕輪もしかして英雄の証か?」
指揮官らしき中年の男性は顔が青ざめていた。
「失礼いたしました!まさかアルマンの英雄だったとは!」
あるまんの?
それは、某の事か?
反応から見るに尾ひれの付いた碌でもない噂でしょう。
兵士に捕まり街の中へと連行される。
そんな中、セツナ殿が兵士達に質問します。
「なぁ、砦は落とせそうなのか」
「さぁな。守りが堅くて苦労してるらしいぜ」
「勇者は来てるのか?」
「あー、あの噂の勇者ね。どうだろ、最初はちやほやされてたが、活躍している話はまったく聞かないな」
つまりセイン達もここに来ていて、足止めを食っているという事なのでしょう。
ようやくはっきりと背中を捉えた様です。

セツナperspective

恐らく私達にとって今日は、この先の運命が決まる日だ。
なにせここにはアイツが来ている。
勇者を殺せば大きな罪となる。
相応の罰が与えられるのは当然だ。
どうなるかは判らない。
だが、たとえ情状酌量の余地があっても軽くはならないだろう。
最悪処刑されるかもしれない。
それでも!
……ノノには悪いが……

城塞都市ラワナからそう遠くない場所には、巨大な外壁がそびえ立っている。
これは魔族側とヒューマン側を隔てる壁だ。
そして、その先に最前線である戦場があった。
遙か地平線の先に、暗黒領域への入り口に城塞が立ち塞がる。
知名度があった事も幸いして、私達はあっさりと壁を通過。
ヒューマンの軍がいる野営地へと訪れる。
無数のテント群へと入ると、槍を持って駆けて行く兵士達を見かけた。
空気はぴりつき緊張が横たわっている。
正直あまり長居したいとは思えない雰囲気だ。
どんっ!と遠くで爆音が響く。
砦を落とす為に多くの魔法使いがかり出されているようだ。
「状況は?」
「芳しくありません。デナスが猛威を振るい、城塞の入り口を突破出来ない様です」
「勇者はどうしている!?その為に来たのだろうが!」
「デナス相手に連敗中です。現在も戦っているかと」
「くそっ!これではいたずらに犠牲を増やすだけだ!もっと力を持った者はいないのか!」
フルアーマーにマントをつけた男性が怒鳴っている。
察するに戦況はあまり良くないらしい。
彼は私達を見てムッとした顔をした。
「何だこいつら!?何で小娘共がこんな所にいるんだ!?」
おいおい……
気持ちは解るが―――
「某の名は月鍔ギンコ!これでも立派な侍です!」
「……サムライ?」
指揮官はツキツバの元へ駆け寄り右手を掴んだ。
「良い所に来てくれた!貴殿らの様な高名な英雄を待っていたのだ!いやぁ、これで戦況は大きく変わるぞ!」
あのツキツバがキョトンとしている……やけに新鮮だ。
「あの、それよりセイン殿をだな」
「勇者殿をお捜しならあの魔族の砦に行けば良い!ついでに攻め落としてくれても構わんぞ!だははははっ!」
なんなんだこの人、やけに調子が良いな。
だが、セイン達の居場所が分かったのならどうだっていい。
砦は……邪魔になるので言う通り落とすつもりだ。

さあ……決着を着けよう! 
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